114話  「爆熱! ゴッド晩ごはん!!」   ◆ZbL7QonnV.



「くっ……くくっ、はぁーっはっはっはぁ!
 よもや、黒歴史に名高い伝説のニュータイプ、アムロ・レイと一戦交える機会を与えられようとは……!
 いや、それだけではない! 小生と互角に渡り合ったアイビス・ブレン!
 先程の獅子に、巨大化する赤い虫! そして紫雲統夜にクインシィ・イッサー!
 黒歴史に名を刻まぬ未知の兵どもに、モビルスーツならざる未知の機体!
 心が震える! 血が煮え滾る! 小生の闘志が真っ赤に燃えるぅぅぅぅぅぅぅッッ!」

 歓喜。いや、それとも感動と言うべきだろうか。
 ともあれギム・ギンガナムは溢れ出る激しい興奮を抑えようともせず、叫ぶような哄笑を上げ続けていた。

「アムロ・レイもいたのだ。もしかしたら、ドモン・カッシュやマスターアジアも、この戦に招待されておるのやもしれん!
 もしそうであれば、望む所よ! このシャイニングフィンガーを以ってして、キング・オブ・ハートに土を付けてくれる!
 うむ、実に楽しみだ! ハハ、ハハハ……!!」

 そういえばと、思い出す。
 これまでは気にも留めていなかったが、先の放送が流れた時にも知った名前は幾つかあった。
 リリーナ・ドーリアンに、ラクス・クライン。黒歴史の中で平和を唱えた、惰弱極まる女ども。
 この二人が真っ先に死んだと言う事は、それ即ち平和などと言うものが何の意味も為さない事を意味している、という事に他ならない。
 彼女達の唱える平和など、やはり小娘の奇麗事に過ぎんのだ。
 きっと、この殺し合いの場ですら奇麗事を貫こうとして、聞く耳持たずに殺されたのだろう。
 愚かな事だ。戦いに身を委ねさえしていれば、死なずに済んだかもしれないものを。
 だが、彼女達は死を以って、平和を説く事の無意味さを証明してくれたのだ。
 そう、自分は間違っていなかった。戦いこそが、人の性なのだ……!

「さて。アムロ・レイは逃したが、他にも手馴れの戦士が近くにいるやもしれん。
 まずは探索を……と」
 次なる強敵を求めて移動しようとするギンガナム。だが、興奮が若干落ち着いてきた事によって、ようやく彼は気が付いた。
 ぐぅ……。
 腹の虫が、鳴っている。
「ふむ……これは小生とした事が迂闊であったな……」
 戦いに身を入れ込むあまり、自分の身体に注意が回っていなかった。
 これまで多くの激戦を続け様に行ってきた事により、ギンガナムの身体は本人が思っている以上に消耗していた。
 これまでは気力で保たせていた所もあったが、それも永久に続くわけではない。
 ただでさえ、モビルファイターの操縦には体力を使うのだ。これからも激戦が続く事を考えれば、少しは身体を休めるべきかも知れない。
 消耗した状態で戦を挑むなど、強敵に対して無礼というものだろう。
「よし、腹が減ってはなんとやらだ。ここらで何か腹に入れておくのも良いだろう」
 モビルトレースシステムをカットして、ギンガナムはどっかりと腰を下した。
 そしてノイ・レジセイアに支給された食料品の中から適当に一つ――
 ビニールで包装されたパンを取り出して、包装から取り出したそれを何の気無しに口の中に放り込む。




 ――その瞬間、盛大に噴出した。




「ぐわぁぁぁぁぁぁッッッッ!?
 な、なんだこれは! 唇が熱い! 舌が痛い! 小生の喉が真っ赤に燃える、水が欲しいと轟き叫ぶぅぅぅぅぅぅぅっぅッッッッ!!」
 それは、激痛すら伴う超絶的な辛味だった。
「お、おのれ、レジセイア! よくも小生にこのような……と、何ィ!?」
 あまりの辛さにのた打ち回りながら、パンの包装に目を向けてみると、そこには“爆熱ゴッドカレーパン”の文字。
 そう、つまりこれは……このパンは……。
「…………はっ。ははっ、はははははっ!
 そうか……なるほど、そういう事か…………!」
 黒歴史の中で語られてきた、人類の果て無き闘争の記録。
 それを飽く事無く読み解き続けてきたギンガナムであればこそ……
 ガンダムファイターと呼ばれる強者達の戦いを知るギンガナムであればこそ、それが何を意味するのか、理解する事が出来ていた。
 そう……“爆熱”で“ゴッド”と言えば、あの男に関係する物以外に考えられない……!
「流石なり、ドモン・カッシュ! この小生に対する挑戦状……しかと受け取った!」
 もはや“殺人的”と呼べるほどまでに昇華された、激辛カレーパンの破壊力。
 だが、それもキング・オブ・ハートの必殺技に例えられるほどのものと考えれば、むしろ闘志が湧き立つというものだ。
「だが、小生は負けん! 断じて、負けはせんのだぁぁぁぁぁッッッッ!」
 こんなカレーパン如きに屈する無様を晒すようなら、ドモン・カッシュを打ち破ろうなど夢のまた夢である。
 決意も新たに、ギンガナムはパンに齧り付く。
 そう……その殺人的な威力を込めたカレーパンを、水の助けを借りず食い尽くす為に……!



 ……だが、彼がこの事実を知ったら、どんな顔をするのだろうか。
 そのパンがドモン・カッシュとは全く何の関係も無い……と言うか、それ以前に未来世紀で作られた物ですらないという事実を……。



【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態:テンション最高潮(気力150)
 機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、全身に軽度の損傷
 現在位置:H-1
 第一行動方針:倒すに値する武人を探す
 第二行動方針:アムロ・レイ、アイビス・ブレンを探し出して再戦する
 最終行動方針:ゲームに優勝
 備考:ジョシュアの名前をアイビス・ブレンだと思い込んでいる
    爆熱ゴッドカレーパンをドモン・カッシュに縁の食べ物と思い込んでいる】

【初日 22:00】


NEXT「鍵を握る者 噛合わない歯車」
BACK「火消しと狼」
一覧へ