14話  「アンチボディ、二体」  ◆f3zMLtBTIk


『当たれ…当たれ当たれ当たれ、当たれえッ!』
相対している真紅の人型が持つ銃剣のようなものから、エネルギーの奔流が次々と放たれる。
それらを必死に避けつつ、ジョシュアは相手のパイロットに呼びかけた。
「止めてくれ!俺は君と殺しあうつもりなんてないんだ!」
『うるさいうるさいうるさいッ!あんただって聞いただろ、この殺し合いのルールを!
あんただって見たんだろ、あの女の人が…あの人が…うっ、うわぁぁぁぁぁっ!』
駄目だ。相手はかなり錯乱しているらしく、こちらの言う事に耳を傾けてくれない。
しかし、それも仕方のない事だとジョシュアは思った。
外見と声の感じからして、まだ二十歳にも満たない女の子だろう。
そんな存在が殺し合いに参加しろと強制され、人の死ぬ様を間近で見させられたのだ。平静を保っていられるわけがない。
『あたしだって殺したくない!だけど、この殺し合いから生きて帰るには他の全員を殺すしかないんだ!
だから…あたしは、あんたを殺さないといけないんだぁぁぁっ!』
思った以上に形勢はこちらが不利だ。この「ブレンパワード」という機体―そう呼ぶにはいささか生物的すぎるが―が自分に支給されたとき、
このブレンはまだ生まれたての赤ん坊だったのだ。
コックピットの内壁を通じて流れ込んできた情報によるとブレンも目の前の真紅の機体のような銃剣状の武器を扱えるらしいのだが、
生憎それらしいものは辺りになかった。
(くそ…こうしている間にも、ラキが襲われてるかもしれないのに…!)
あの空間で見た少女の事を思い出し、焦りが募る。
ここに着てからすぐに探しに行こうと思ったのだが、いきなりこの機体に襲われたのだ。
幸い傷は負っていないが、これ以上避け続ける自信はそうはない。
(分の悪い賭けはあまり好きじゃないが…やるしか!)
本当は出来るだけ無傷で戦闘を止めさせたかったが、この状況ではそうも言ってられない。
意を決して、真っ直ぐに真紅の機体を見据える。
「よし…行くぞ、ブレン!」
ジョシュアの掛け声に応じるかのように、ヒメ・ブレンも顔を上げて真紅の機体へと向かっていく。
『く…来るな、来るなッ!』
放たれたエネルギー波を障壁で受け止め、そのまま勢いを落とさずに零距離まで近づいていき拳を振り上げる!
『う…うわぁぁぁぁぁっ!?』
「行けぇぇぇぇぇっ!」




「…なんとか、なったか…お疲れ様、ブレン」
額の汗をぬぐい、ブレンを労わるように内壁を撫でてやる。
あの時、正面から殴りつけると見せかけて「バイタル・ジャンプ」…瞬間移動で背後を取り、思いっきり体当たりを仕掛けたのだ。
思わぬ不意打ちを受けた相手は当然対応できずにもろに攻撃を受け…水面に叩きつけられた。
水中から機体を引きずり出してコックピットを開けると、そこには短い赤い髪をした女の子がぐったりとしていた。
口元に手をかざすと、微かに風を感じる。自分の策はどうにか成功したようだ。
(どうにか、気絶させるだけですんだか…よかった)
とりあえずその子を機体から降ろし、自分もその近くに腰を下ろす。
彼女の意識が戻ったら、まずは手荒に扱ったことを詫びよう。
その上でもう一度説得すれば、あるいは彼女も信用してくれるかもしれない。
とにかく、それまでは待つしかない。
(ラキ…どうか、無事でいてくれ…!)
手を組み、額を押し当てて目を瞑りながら、ジョシュアは切に願った。


【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:健康
 機体状況:少しEN減少、損傷ほぼ皆無
 現在位置:B-3
 第一行動方針:アイビスが目覚めるまで待機
 第二行動方針:グラキエースを探す
 最終行動方針:未決定
 備考:ブレンブレード・ブレンバー共に未所持。よって攻撃手段はブレードヒルト・チャクラフラッシュ・格闘のみ】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:クインシィ・グランチャー(ブレンパワード)
 パイロット状況:気絶中
 機体状況:少しEN減少、損傷ほぼ皆無
 現在位置:B-3
 第一行動方針:…
 最終行動方針:未決定
 備考:第二次α開始時ら辺の、いわゆる「鬱ビス」状態です】


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