2話  「DARK KNIGHT」  ◆T0SWefbzRc


「…なんなんだよ」
薄く明るい、計器の立ち並ぶコックピットの中で、少年はポツリと漏らした。
「またかよ」
ボソボソとした声で、言葉を続ける。突然に立たされた舞台。巻き込まれた自分。
「戦争の次は殺し合いかよ」
少年は過去に似た経験をしていた。落ちてきたロボット、出会った少女達。崩れた日常。学園生活。
「でも、同じ事だ。あの時と」
ただ、流されるままにロボットに乗り、流されるままに戦った。そう、ただ流されるままだった。
自分の力が及ばない、運命という流れの下に自分は戦わされている。
「そうだ、あいつら」
ふ、と自分を巻き込んだ、三人の少女の事を頭に浮かべる。
「あの、怒ってた奴。テニアだよな。他の二人も居た…」
訳の分からない実験のために、素性の知れない組織に監禁されていた少女達。
自分と同じ、ただ訳も分からないままに巻き込まれ続けた少女達。
彼女達も、あの部屋に居た。そして確かに彼と同じ舞台に立たされている。
「震えてたな、テニア」
赤い髪の小柄な女の子。フェステニア・ミューズ。彼女は確かに怯えていた。
化け物の幻影を見て。そしてその後の出来事を見て、なお一層に。
「恨むなよ、俺のせいじゃない。俺のせいじゃ…」
その姿を頭から振り払い、少年は目の前のモニターを見据えた。


岩山の間を縫うように青い影が疾駆する。
その姿はまるで風。音も無く、流れるように進んで行く。
乗りこんで、マニュアルに目を通して間もないと言うのに少年は与えられた機体を実に良く動かしていた。
「ダイレクトフィードバックシステムか…。運が良かったのかな、分かりやすい操縦法の機体で」
その機体の持つ、特殊な操作系。パイロットの考えを直機体の動きにに反映させるという代物だ。
しかし、だからといって本来ただの学生でしかなかった少年が初めて乗ったロボットの運動性能を、
ここまで引き出せるものだろうか。
「武器は剣、見た目は甲冑でマントまで着いてる。まるで騎士だな」
それは、少年の資質故だった。
少年の元々居た世界の、少年が乗っていた、いや、乗らされていた機体。
その機体の持つ未知の力、サイトロンによって引き出されていた少年の騎士としての資質。
「ヴァイサーガ」
この世界で与えられた、新しい力。
「ヴァイサーガ、か」
もう一度だけ名前を呟く。
そうして少年は、ようやくはっきりと自分が何に乗っているのか自覚出来た気がした。
「くそ、殺し合いか…」
少年は日本で教育を受け、それに考えを合わせて育ってきた。
当然、突然殺し合え、と言われて納得出来る様な倫理観は持ち合わせてはいない。
だが。無機質な、冷たい首輪に手を当てる。
「死んだんだ。そして、殺されるかもしれないんだ」
首から上が無くなった女。逆らえば、殺される。そうでなくても…。
嫌な考えが頭を横切る。この殺し合いに乗る人間。自分の命が掛っているのだ。当然居るだろう。
もしかして、こんな場所に集められた人間だ、生粋の殺人鬼も紛れているのかもしれない。
「しかたない」
知らない人間ばかりのことだ、いや、知った人間でも相手が殺し合いに乗ってるかどうかは分からない。
誰だって死にたくはない。この状況だ、確かに仕方のない事だ。
もしかして、乗ってない振りをして油断を誘うような輩もいるかもしれない。
「そうだ、しかたないだろ」
だが、殺される前に殺してしまえば決して殺されない。しかも全員殺せば帰れるのだ。
「やれっていうなら、やってやるさ…!!」
少年は、『紫雲統夜』は、はっきりとした口調で言い放った。


【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 現在位置:A-8、北東
 第一行動方針:岩山を抜ける
 第二行動方針:敵を殺す
 最終行動方針:ゲームで優勝し、無事に帰る
 備考:スパロボJ開始近辺の、まだヒステリックだった時期から来ています】

【初日 12:45】

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