51話 「核ミサイルより強い武器」 ◆w4z2Zc6V4M
「見つけた…!」
眼下の草原には、白い機体が一機駆けている。
それを見下ろすこの機体も、白い。
コックピットには、真っ赤な髪の少女が一人。
フェステニア・ミューズは、地上を移動するRX-78-2ガンダムを捉えていた。
まだ、向こうには発見されていないようだ。
テニアの目的は、このゲームでの優勝。
そのためにはほかの参加者を殺さなければならない。
だが、このまま戦闘をするのははばかられた。
もし相手が強かったら、返り討ちにあう危険性がある。それは避けたい。
遠距離からの狙撃も却下。これはカティアの得意分野だ。
「ピピッ」
迷っているうちに、気付かれてしまったらしい。あの機体から通信が入る。
『おい、そこのロボットのパイロット。あんたはこのゲームに乗ってるのか?』
武蔵の質問からしばらく間が空いて、答えが返ってきた。
『…ううん』
目の前にロボットが降下する。
女の声だ。モニターに赤毛の少女の姿が映った。
「君はあのときの…」
そう、あのとき最初にあの化け物に文句を言っていた少女だ。確か黒髪の子や金髪の子と一緒にいたはず。
「ほかの仲間はいないのか?」
『ほかの…仲間は……』
そこで返答が切れた。
「?」
『…く…ぅう…』
聞こえてきたのはすすり泣く声。
『…メ…ルアが…メルアが……あいつに…ころ…された…』
しまった。武蔵は後悔した。酷なことを聞いてしまった。
そして、同時に驚いた。
やはり、少なからずゲームに乗っている参加者もいる。
無敵戦艦ダイがそういった連中に使われるのは避けなければならない。
そのためにも、早く行動を開始すべきだが…
『…うぅっ…ぐすっ…』
この場合、なんと慰めるべきなんだ?
「ご愁傷様」? いやダメだ。いつ自分たちが死ぬかもしれないのに、言える訳が無い。
「元気出せ」? これもこの状況下では無意味だろう。
いくら考えても適当な答えが浮かばない…
「えっと…そうだ、ほ、他に仲間はいないのか?」
言った後で激しく後悔した。もし殺されていたら、それこそ一巻の終わりだ。
『…2人いる』
「2人?」
予想外の答えに驚きながら、額の冷や汗をぬぐう。地雷を踏まずにすんだようだ。
「よ、よし。じゃあこうしよう」
『え?』
「君の仲間を探そう。そのほうが心強いだろ?こっちも協力してくれる仲間がほしいんだ。
だから、もう泣かないでくれ」
正直、女の子に泣かれるのは男として辛い。
また少し間があって、答えが聞こえた。
『…うん、分かった』
テニアは涙をぬぐった。
通信機からため息の音が聞こえてくる。よほど気をもんでいたようだ。
ただ、今はあの2人に会いたくは無かった。
優勝するためとはいえ、統夜たちとは戦いたくない。
『じゃあとりあえず…北に行ってみよう。
このまま見通しの利く所にいれば、急に襲われたりもしないだろう』
そういって機体を旋回させ、こちらに背を向けた。
テニアは、この状況に少し驚いた。あまりにもあっさり信用されたからだ。
相手は特に警戒する様子も無く、移動を始めている。
今なら、簡単に撃ち殺せる――
マシンナリーライフルを構えようとして、テニアは手を止めた。
いつでも殺せるからこそ、利用できるかもしれない。
2人で行動すれば、危険性は半減するし、強い参加者に襲われても戦いやすい。
いざとなったら、切り捨てて逃げればいい。
『どうした?』
白い機体が、振り返ってこっちを見ている。
「な、なんでもないよ!」
テニアは笑顔を作って答え、追いかけた。確かな殺意を胸に秘め、いつか聞いた言葉を思い出しながら…
―女の涙は最強の武器―
【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:武蔵との会話で若干安定
機体状況:良好
現在位置:F−8
第一行動方針:とりあえず白い機体についていく
第二行動方針:参加者の殺害
最終行動方針:優勝
備考:さっきの涙は嘘泣きではありません
武蔵もいずれ殺す気でいます】
【巴武蔵 搭乗機体:RX-78ガンダム(機動戦士ガンダム)
パイロット状態:良好 泣き止んでくれて一安心
機体状況:良好 オプションとしてハイパーハンマーを装備
現在位置:F-8
第一行動方針:赤毛の少女の仲間を見つける
第二行動方針:赤毛の少女の仲間に協力してもらう
第三行動方針:無敵戦艦ダイ打倒の為に信頼できる仲間を集める
最終行動方針:主催者を倒しゲームを止める
備考:テニアのことはほとんど警戒していません】
【初日
15:00】
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