97話A「ゲスト集いて宴は始まる」
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G-6基地の端にあつらえられた補給ポイント周辺に物言わぬ巨人が崩れ落ちていた。
そのコックピットの中、巨人の主が目を覚ます。
「うっ・・・ここは・・・いけねぇいけねぇ。寝ちまったのか・・・」
うっすらと目を開けたモンシアはぼんやりとコックピットを見回す。
ぐちゃぐちゃに潰れた内部が目に飛び込んできて、小さく舌打ちをした。
機体の状態を把握しようとコンソールに手を伸ばす。右手がやけに重かった。
だがそれを無視してその右腕を動かし続ける。血で重く湿った包帯がわりのシャツが見るからに痛々しい。
尺骨が折れていたが、橈骨が折れてないのがまだしもの救いだった。
腕が使い物にならなくなったわけじゃない。痛いなんてもんじゃないが指は動く。
「システムは正常。動力は・・・・・・生きてやがる。動けるのか?」
通常の手順で機体を起動させようと試みる。
だが断線した回路がショートしパチパチと音をたてるのみで無駄だった。
機体の駆動部の8割は修復不能。エネルギーバイパスもほとんどが機能不全。
「無事なのは・・・動力部とレーダに通信機くらいのものか・・・」
この状況では動力が無事でも意味はない。
修理するより一から機体を作り直したほうがはやい。
今のこいつはガラクタ。それが確認の末モンシアの下した判断だった。
暗澹とした気持ちがのしかかり重い体がさらに重くなる。
気を紛らわそうと時刻を確認した。
「クソッ!放送まで聞き逃しちまった・・・・・・」
どれもこれも応急処置は済ませてはいるが、尺骨・肋骨合わせて数箇所の骨折、右腕と右わき腹には突き出してきた鉄材が空けた穴。
小さな擦り傷・きり傷・打ち身などは数えてたら日が暮れちまう。
おまけに機体は運用不能。放送まで聞き逃したときたもんだ。

こりゃ、厄日だぜ。さてどうしますかねぇっと、モンシアさんよぉ……

ため息を一つした後、胸元からタバコを取り出し銜えた。
タバコと一緒に取り出したライターで火をつけ、煙の流れていく先をぼんやりと眺める。

でも、まぁ…バニング大尉……
どうにかなるんじゃないですかい。このくらいなら……



転げ落ちるように機体から出たモンシアはヘビーアームズの残された左腕に噛り付いた。
そして、ガトリングガンから巨大な弾を抜き取り、ばらして火薬を回収した。
腕部の怪我は特に問題なかった。腕を貫いた鉄材は幸いにも大事な血管を避けて通ったのか既に血は止まっている。ちょっとした銃創と思えばわけはない。
折れた骨も抜いた鉄材を添え木の代わりにして固定は済ませていた。
だが、腹部の穴がどうにもヤバイ。血でぬれた包帯代わりのシャツをどけてみる。
傷口を拭うとゴボッと音をたてて新しい血が際限もなく湧いてきた。視界がわずかに霞む。
「ちっ、一思いにやってくれてりゃぁよぉ。こんなことせずにすんだんだがな・・・・・・。ヒヨッコが半端なことしやがって・・・」
量を調節した火薬を血で湿気らないようにビニールの袋に入れ、腹部にあてがう。
手荒でも何でも腹の傷をふさぐ必要があった。
「・・・・・・うらむぜ・・・バーナード・ワイズマン」
適当な長さの木の枝を口に咥え、モンシアは短くなったタバコを火薬に向かって投げ捨てる。戦闘のそれに比べれば遥かに小さな炸裂音が周囲に響いた。



「どうだ?」
壊れたヘビーアームズからそう遠くない建物の影に隠れる二つの機体の姿があった。
二機は遠めに敵機を確認した瞬間から地上を慎重に移動、確認を繰り返しつつジリジリとその距離を詰め続けていた。
「目標から熱源反応は確認できない。ここからでは断定できないが、どうやら撃墜されているらしい」
「そうか・・・。もう少し接近はできないか?」
「無理だ。奴と交戦した者も近くにいる可能性がある。下手に姿は晒せない」
姿を隠しつつ距離を詰めるのもここが限界。ここから先は瓦礫の山があるのみで姿を隠せるような大きな遮蔽物は見当たらなかった。
「そちらの相手は私がどうにかしよう。仲間にできれば心強い」
「下手な希望は抱かないことだな、九鬼正義。そいつが俺達を襲ってこない理屈などどこにもない」
「それは重々承知だよ。だが、君をてこずらせたほどの相手。それをあそこまで痛めつける者だ。やはり放っておくには惜しい」
モニター越しに二人の視線が絡み合う。
「・・・・・・好きにしろ。今は奴だ。生きているのかどうかは知らないが、念のためとどめを刺しておく。異論はないか?」
九鬼は静かに頷き言葉を返す。
「その機体のエネルギーを考えるとあまり時間もない・・・仕掛けるか?」
「ああ、レイダーが突撃。接近戦に持ち込み仕留める。お前の仕事は接近までのフォローだ」
ヘビーアームズを無視した迂回行動は不可能だった。それほど標的と補給ポイントの位置は近い。
「いくぞ」
レイダーが物陰から飛び出し、D−2が補給ポイントに気を配りつつ牽制の弾幕をはる。
「目標捕捉。これより破壊する」
一瞬で接近したレイダーのミョルニルがヘビーアームズのコックピットを完全に潰した。
「やったか?」
ミョルニルをどけ、グチャグチャに圧壊されたコックピットを確認する。
「目標の破壊を確認。九鬼正義、これから補給に移る。念のため周囲の警戒を頼む」
しばしの思考の後、答えが返ってくる。
「わかった。ではついでに基地の設備の確認もかねて哨戒をおこなってこよう」
そういい残すと九鬼は飛び去っていった。



バーナード・ワイズマンは一人ゲッターのコックピットで息を潜めていた。
整備は既に完了している。
基地に接近してくる二機は早い段階に基地のレーダーが教えてくれた。
そして、整備の完了するまではと思って息を潜めた。
整備が終わる頃には敵機は二手に分かれていた。そして、今はすぐ目と鼻の先に片割れがいることをレーダーが指し示していた。手を伸ばせば届くほど近くに・・・。

逃げ出すべきか?やり過ごすべきか?それとも戦うべきか?

戦うべきだ。答えは出ている。ここで逃げ出すと自分は戦えないそういう気がした。
戦う腹は決めた。だが交戦は最低限に抑える。
相手の虚をついて迫り自分の間合いで戦いきる。距離を開けられたら躊躇せずに撤退。
それがゲッターの損傷度を見る限り現実的な判断だった。
あとはきっかけだけ。ゲッターの炉に火を入れ動き出して先手を撃つまで生じるタイムラグ。それをチャラにするだけの敵の気を引く何か・・・。
その答えは出ないままゲッターは身を潜めている。
潜めているうちに大破したヘビーアームズの姿がふっと脳裏をよぎった。とたんに臆病が体を支配する。

俺に倒せるのか?攻撃を仕掛けて逃げられないか?
まてまて、それ以前に相手は二機だぞ!それで俺は無事でいられるのか?大丈夫なのか?

一度勢いを失った思考は渦を巻いて体の動きを鈍らせ、いたずらに時間が過ぎていく。
心臓が高鳴る。汗が吹き出る。歯の根は合わず、ガチガチと音をたてる。

大丈夫・・・大丈夫だ
ゲッターを使いこなすんだ
戦って、生き残って、そして帰るんだ

強気と弱気が交錯する。その精神の波に翻弄されながらもバーナード・ワイズマンは身を潜め、たた機会を待ち続けていた。


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