104話A「獅子身中の虫」
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基地内の医務室。ここでモンシアは包帯の交換をしていた。
べっとりと血が染み付いた包帯代わりのシャツを引っぺがす。
腹部の傷は塞がるどころかおびただしい鮮血を流し続けている。
大量の酒を摂取したお陰で、血行は良くなり先程よりも酷い有様だ。
「ちいっ……ぼうっとしてきやがった」
目の前がぼんやりとし、激しい頭痛が続く。
酒にまだ酔っているというわけでもないだろう。先程、粗方吐き出したばかりだ。
これは純粋な出血多量によるもの。
人は体内の三分の一ほどの血液を出血すると死に至るというが、自分は今どれだけの血を流したのだろうか。
朦朧とする意識の中、外からは金属と金属がぶつかり合うような鈍い音が聞こえてくる。
「また、どっかの馬鹿がおっぱじめやがったか。ヒビくんだよっ!ちったあ静かにしやがれっ!」
そう悪態を吐く自分自身の言葉が頭の中に響く。
モンシアは右手で頭を支えながら、今後について考える。
外でやりあってる連中が何を考えているかはわからない。
がこの基地は先程の戦闘で補給ポイントはダメになったとはいえ整備、篭城の点で一つの拠点となりうる場所だ。
ならば戦闘を行っている限りはここを傷つけたくはないというのが本音だろう。
このまま外に出ればもしかすれば戦闘に巻き込まれてお陀仏ということもなりかねない。
せめて戦闘が収まるまではここに居た方が安全なはずだ。
そうしてモンシアは薬品棚へと足を向けた。
自分と同じ血液型のパックを見つけ出し無造作に左腕に突き刺す。
そんな時、一つの薬瓶が目に留まった。
「へへっ、どうやら今日は悪運だけは強えらしいな。」
死と隣り合わせの状況ながら口元は緩む。
なぜか原液のままの狭心病の薬を恐る恐る手に取りながら懐に忍ばせた。
赤と黒、二つの機体は進む。
それらを操縦する両者の間に長らく言葉は交わされていない。
だが、二人は恐らく同じような虚無感を、この殺し合いに巻き込まれ、知ったのだろう。
先にそれを知った男は後にそれを知った男に、必要以上の言葉を掛けることはなかった。
キョウスケはゼクスがそれを乗り越えられる男だと、知り合って間もないながら悟っていた。
沈黙を少年が遮る。
といっても、それは沈黙に耐え切れなかったというわけではない。
未だ虚無感に囚われ、集中力が切れやすい状態にあるゼクスを補佐する形でカズイはレーダーなどの確認をしている。
そのレーダーに目的地、G-6基地で戦闘が起きている事を伝えたのだ。
それにキョウスケが答える。
「先程の爆発と関係があると考えて良いだろうな。」
一機のMS、しかも全身火薬庫のような機体の爆発はこちらにも微弱ながら伝わってきていた。
「こちらの目的は基地の奪取だ。致命的な被害が出る前に急行し、ただちに戦闘を停止させる。」
それに答える形でゼクスが今後の方針を唱える。
「すまないな、カズイ。出来る事なら君を巻き込みたくなかったんだが。」
「いえ、大丈夫ですよ。こうなることはここへ向かう段階で覚悟しなきゃならなかったわけですし。」
カズイは努めて元気があるように振舞う。
以前の彼なら恐れるだけで、気丈にも振舞う事すら見せなかっただろう。
彼を変えたAI-1。この力が訴えている。この先で争う2機の機体の力が欲しいと。
あの力を手にすればこの殺し合いの中で何者にも負けない力を持つ事になると。
だから、戦場に赴く事も恐れない。
虚無を知らない少年は暴走する。
――あと一撃だ!一撃加えられえれば、どうにかなるって言うのに!
バーニィは焦る。ぶんぶんと煩い蝿のようにレプラカーンはブラックゲッターの周りを飛び交う。
少しずつ、着実にオーラキャノンによる銃撃がブラックゲッターの装甲を削る。
小柄であるABの中でもレプラカーンは火力を売りにした機体である。
装甲の厚いゲッターといえど、確実にダメージは受けていた。
身長差を考えれば、相手に攻撃を与える事でこの攻勢も一発で逆転できる。
はずなのだが、小柄な上に機動力の高いレプラカーンには当たらない。
「ちょこまかとぉ!うっとおしいんだよぉぉっ!」
ゲッタートマホークが弧を描きながらレプラカーンに向かっていく。
だが、レプラカーンには当たる事無く、風を切っていくだけだった。
「フフッ、焦ったところでレプラカーンに攻撃を当てることは出来ないよ!」
光龍は、余裕の表情をちらつかせながらバーニィを挑発する。
だが彼自身気づいてはいなかった。念動力の暴走が徐々に始まっているということに。
「機体はなかなかのようだが、君みたいなのが操縦者じゃあね!」
一気にレプラカーンは間合いを詰める。
その手に握られたオーラソードに念が注がれる。
「くそっ!こうなったら!」
レプラカーンが近づいてくる。
小さな刀身に不似合いなほどの強力なプレッシャーが剣自体を包み込んでいる事にバーニィも気づいていた。
バーニィも近づいてくるレプラカーンに急接近し、両拳からスパイクブレードを突き出す。
オーラソードがゲッターの左拳をスパイクブレードごと切断する。
「これが骨を切らせて肉を断つってやつだ!」
しかしバーニィは臆する事無く右手でレプラカーンを横殴りにする。
だがオーラバリアが展開され、致命的なダメージはレプラカーンに与えられない。
「なっ……まだ動けるって言うのか!」
「――ふふっ、ふふはははっ!なかなかやるじゃないか!こっちも本気を出してあげないと失礼ってやつかな!」
「なんだよ……嘘だろっ!」
その光景に目を疑う。目の前の機体が巨大化している光景に。
自分より小柄だった機体がゲッターと同身長、そしてそれ以上の大きさに膨れ上がる。
「ははっ!どうだい……驚いただろう?」
口ではおどけた態度をとる光龍だがその表情も身体も無理が来ている。
「文字通り化物ってやつかよ、畜生」
絶望を噛み締めている暇はなかった。
「これで終わりだよっ!」
レプラカーンは巨大な剣を振り上げ、そのままゲッターへと力任せに振り下ろす。
その剣は先程のか細い物とは文字通り大きく違う。
喰らえばゲッターといえどただでは済まされない。
相手は大きくなった代わりに動きは鈍重になっている。
が、それでもゲッターと同程度の動きはできるようだ。
ただただ回避行動を取り続ける他はない。
大きさは逆転したものの形勢は不利なまま。
ゲッタートマホークで応戦するもハイパー化により強度を増した装甲はその刃を通す事を許さない。
「的は大きくなってるっていうのに!」
攻撃は通らず、回避行動を取っているだけでもENは減少し、こちらは疲労していく。
だが相手も先程の様子ではあの状態を保つのが精一杯なようだ。
どちらかが倒れるまで続く消耗戦……それは避けたい。
自分で補給ポイントを破壊したことが悔やまれる。
「なら、この一発で――」
ゲッタービーム。ENの残量を考えれば使いたくは無いが形勢を逆転するにはここで使うしかない。
が、その寸前でレーダーが二つの反応を示す。
「ははっ!2機も僕の力を見せ付けられる参加者が出てくるなんて!」
レプラカーンの中、光龍は狂気の笑みを浮かべる。
先程までの思考と打って変わって好戦的な態度を取る。
彼もまた、自分の念の力に――ハイパー化の力に溺れていた。
「くそっ!こんな所で!」
バーニィにとってまずい状況になった。
ゲッタービームの一撃でレプラカーンに勝ったとしても
二つの機体を相手にするのは今のゲッターの状況と自分の力量を考えても分が悪い。
ここは是が非でもこちら側につけ、レプラカーンを倒したい。
二機の機体が目視できるところまで近づく。
「あの機体……まさかっ!」
二機の片方、真紅の方はバーニィが以前襲った相手である。
これでは味方としてこちら側につくのは望みは薄い。
(くそっ!これじゃあこちら側にはついてはくれないか)
自分の運の無さに落胆するが、なんとかこの状況を打破する考えを模索する。
(冷静になれ……バーナード・ワイズマン――
あの2機がこのG-6基地に戦闘が起きているというのに近づいたのは何故だ?
おそらく本来は補給、整備が目的、だからこそここが戦闘により破壊されるのを阻止する為に近づいているのか……?
なら、一か八か、言ってみるか!)
数秒、いやそれは一秒にも満たない思考の後バーニィはオープンチャンネルを開き、大声で叫ぶ。
「そこの2機、こちら側に手を貸すんだ!従わない場合はこの補給ポイントを破壊する!」
B-Part