153話A「適材適所」
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目前の二人が不穏な空気を撒き散らしていることに関して、兜甲児は頭を悩ませる。
どうやらここに連れてこられる前からの知人ではあるらしいのだが、その関係は良好というにはほど遠いようなものだったらしい。
ガロード=ランという少年はシャギア=フロストという人物に対して大きな思い違いをしているのではないか、というのが甲児の正直な考えだった。
年上の人間に対してこんな感想を持つのは失礼ではあるのだろうが、シャギアは、その……
頼りにはなる。ノリも良く、親しみやすい。親戚にこんな兄ちゃんがいれば、さぞ楽しかったことだろう。
だが……どう見たって悪役というキャラではない、むしろ三枚m(ry と、甲児はそう思う。
実はガロードが勝手にライバル認定しちゃって追っ駆け回しちゃってるんじゃないかしらんとまで思っているのも甲児だ。

まぁ、そんな邪推はどこかに置いておいてだ。
この険悪な空気は甲児も好むところではない。出来れば和やかな雰囲気の中ガロードとも仲良くやっていきたいのだが……
と、そのとき甲児の頭上で電球が輝いた。
ポン、と手を打ちながら二人にこう話しかける。

「まぁまぁ二人とも、あんまり喧嘩腰になるのも良くないって。
 こんなときはやっぱり……」
「やっぱり?」
「レッツゴー・ゲキ・ガンガー3!」



  夢が明日を呼んでいる

        魂の叫びさレッツゴーパッション



「うおおおおおおお! ゲキ・ガンガー!」
「いいのかね甲児君? 確かもう13話まで視聴完了していたはずだが……」
「何言ってるんだよシャギアさん、名作ってのは何度見ても俺達の心を震わせてくれるんだ!
 それに、最初から見ないとガロードだって話についていけなくなっちゃうじゃないか」
「フフ、それもそうだな。……というわけだガロード=ラン。なに、気にすることはない。
 ゲキガンガーの熱いパッションが私たちの間の些細な問題など吹き飛ばしてk(ry

ダン! と、ちゃぶ台が揺れた。
湯飲みからこぼれた茶が手を濡らしたことにも気付かず、物凄い形相でシャギアを睨みつけるガロードがそこにいた。
「……別に、あんたたちのやり方に反対するわけじゃない。いや、俺だって本当ならその輪に入ってたと思うよ。
 でも……! やっぱり俺は、あんたを信用できない。あんた達兄弟を信用できないんだ」
まっすぐ見つめてくるガロードの視線をそのまま受け止め、シャギアは先ほどまでのテンションとは打って変わって真剣な表情で言葉を返した。
「君の言い分はよく分かる。……私も、少々羽目を外しすぎたようだな。
 ここからの私はシリアスモードだ。それでは……積極的情報交換、といこうか」

甲児が一人、気まずい思いをしていたのは言うまでもない。

 ◇

改めてちゃぶ台に座りなおし、二人は茶をすすりながら話の切り口を探していく。
まず動いたのはガロードだ。

「まずはじめに確認しておきたいのは、あんた達兄弟がどう動くつもりなのか、ってことだ。
 これを聞かないことには情報交換をするわけにもいかないからな」
「ふむ、それについてだが……少なくとも、今のところは君が邪推しているような物騒な考えは持ち合わせていない。
 私は……いや、私たちは生きて帰ることが出来ればそれ以上を望むつもりはない。
 少なくともこの点に関しては君とも協力できると思うのだが……どうかね?」
「……確かに一人しか生き残れないっていうんなら、あんた達がこの殺し合いに乗るという選択はないのかもしれない」
「分かってくれたのなら何よりだ。さて、早速情報交換と……」
「でも、だ」

と、ガロードはそこで一旦言葉を切り、甲児のほうをチラリと見た。
ガロードの懸念は、甲児の存在だ。
甲児は今のところ、フロスト兄弟のことを全面的に信用し、微塵も疑っていないようだ。
もし本当にフロスト兄弟がおとなしく協力するというのならば、これ以上シャギアの本質に踏み込み、甲児に要らぬ悪印象を与える必要はない。

「いや……やっぱりいい。先に話を進めよう」
「ああ。それではまず、クインシィのことについて教えてもらおうか。私としても見ず知らずの人間を艦に乗せておきたくないのでね」
「でもシャギアさん、あの人は比瑪さんの知り合いらしいぜ? 気を失ってるあのお姉さんの看護を自分から申し出るくらいだ、全く信用できないということはないと思うけどな」
「確かにそれはそうだが……こんな場所だ。ストレスの過負荷は精神の異常を引き起こす。ここは現在のクインシィについても聞いておく必要があるだろう」

戦闘の終了後もクインシィは目を覚まさなかった。今は格納庫から発見された身元不明の男と共に、医務室で寝ている。
二人の看護は比瑪がやると申し出、二人が起きてきた場合危険が伴うとの反対意見も出されたが、ペガスを緊急時の備えとすることで話は決着した。

「お姉さんは……確かに短気なところもあって、気難しいところもあるけど……大丈夫だ。俺が保証する」
「どちらにしろ、私がこの目で確かめるつもりではあったが……いいだろう。彼女が意識を取り戻すまで、ナデシコで保護することを約束する」
「ってわけだ。だからそんなに心配するなよガロード。このナデシコの中にいればどんな奴が襲ってきたって平気だって!」

ひとまずクインシィと自分の身の安全を確保し、ほっと一息つくガロードであった。
しかしまだ気は抜けない。相手はさんざフリーデンを苦しめ、ティファを付け狙ってきたフロスト兄弟の片割れ。
この非常事態のさなかで何かしらの行動を起こすかと言われれば、決して否定出来ないのもシャギア=フロストだ。
元の世界に戻る算段さえあれば、混乱に乗じガロードの殺害を目論む……ということも十分に考えられる。
シャギアが身の安全のためにクインシィの安全性を確かめるように、ガロードもまたフロスト兄弟の危険性について再度知る必要があった。

「それでシャギア……今、オルバはどうしてるんだ? さっきの口ぶりだとオルバとも合流してたみたいだけど……?」
「……フフ、弟の心配をしてくれているのか? あれでなかなか可愛げのある弟だ。そう思ってくれたことに対して悪い気はしないな。
 オルバには今、フェステニア=ミューズという少女と共に別行動を取ってもらっている。別行動の理由については後々の情報交換の際に教えるつもりだ。
 一つヒントを出しておくと、はぁとまぁくな話題……といったところか。いや、これではヒントではなく殆ど答えになってしまっている……なぁ、甲児君?」
「ちょっとちょっとシャギアさん、この手の話はもっと引っ張っておかなくちゃ!w ガロードには秘密にして二人でニヤニヤしたかったのにさ!」

……甲児と和やかに笑い合うシャギアの姿を、ガロードはどことなく白けた目で見ていた。
ここには、厄介な敵だったフロスト兄弟はいない。……もしかして、これがヘイコン世界ってヤツなのか?
いやいや、そんなことはないはずだ。きっとこれも周りを騙すための演技のはず……多分。

「ま、まぁオルバが無事だってんならそれでいいさ。それじゃようやくだけど、情報交換といこうか」
「共有しておきたい情報は、それぞれの接触者の情報と、ここまでの道程だ。それと……“これ”についても、何か知っていること、気づいたことがあれば教えてもらいたい」

そう言ってシャギアは自分の首筋を指さす。“これ”とは首輪を示す代名詞。
首輪がここからの脱出の一番のネックになるということは、ガロードだって気づいている。
軽く頷くと、まずはシャギアの言葉の前半部について話し始める。

「俺が最初に会ったのはお姉さんだ。お姉さんは俺の前にも誰かと会ってたみたいだけど……これはお姉さんが起きてから聞いてくれ。
 場所はB-1で、その後周囲の探索をしている途中で、ギンガナムが乗ってるガンダムが……」
「ギム=ギンガナムのことか? 二回目の放送でその名前が呼ばれていた」
「ああ、それだ。んで、そいつがいきなり襲いかかってきて戦闘になって……あっ! あいつ……! どこかで見たことがあると思ったら、あの時仕掛けてきた機体か!
 ついさっき戦闘した、剣を使うあの機体、あれが戦闘に割り込んできたんだ」
「やっぱりさっきの奴は、この殺し合いをやる気なヤツってことなのか?」
「……それは分からない。あいつは、なんというか……確かにやる気なのかもしれないけど、決してそれを望んでない。どこか諦めてる感じがする」
「それは仕方のない選択とも言えるだろう。あのような超常の力を持つ異形に歯向かうというのは、一歩間違えればただの無謀にしか過ぎない」
「確かにそうかもしれないけど……でもさ、俺は分かってほしいよ。無理だと諦めてちゃ出来ないことは世の中にはいっぱいあるけど、やろうと思って出来ないことは、俺たちが思っているよりもずっと少ないってことをさ」

二度の戦闘を交わした相手に対して、ガロードは何かを期待していた。もしかしたら、あの少年はまだやり直せるかもしれないと。
人は変われる――成長することが出来るということを、ガロードはフリーデンでの長い旅路の中で知った。
例えば自分の殻を破り、外へ向かって歩き出した少女のように、或いは自らの過ちを知り、その贖罪のために街に残った少年のように。

「……現実的ではないn「教えてやれるさ! やろうと思って出来ないことは少ない、なんだろ?」

シャギアの否定の言葉を、甲児の陽気な声がかき消した。
甲児の能天気な言葉に内心苦笑するシャギアだったが、太陽のような、と形容するのが相応しい甲児の人柄は人を集める船の艦長としては最適である、とも考えている。
だからここは強く言い下がらずに、甲児に賛同しておくことにした。
ただでさえガロードとの内輪話についていけてなかった印象もある。無下に扱うことで甲児の発言力を奪っているとガロードに勘違いされては要らぬ誤解の種になりかねない。
シャギアはそう考え、甲児の言葉にガロードが強く頷き、話の続きを始めるまで沈黙する。

「次に会ったのが神隼人さん。お姉さんが乗ってたゲッターロボと同じ世界から連れてこられた人で、俺たちにゲッターの扱い方を教えてくれた。
 だけど……青い機体が接近してきた途端、お姉さんが急に暴れ出して、そのままなし崩し的に戦闘になっちまった。
 その途中で竜馬とかいう隼人さんの知り合いも混じってきて、俺とお姉さんはその場を神さんに任せて戦線離脱」

神隼人――それもまた、二回目の放送で呼ばれた名前だ。ガロードの顔を見れば、何があったのかそれなりには推測できた。

「そして逃げている途中で、今度はジョナサン――さっきお姉さんを守って死んだ、あの男――と会ったんだ。
 その後、俺はジョナサンが乗ってたガンダムに乗り換えて、隼人さんを助けにB-1へと再び向かった。
 今度はギンガナムとブンドルってお兄さんが戦ってるのに出くわして、まぁその場はブンドルが丸く収めたんだけどね」
「ギンガナムを殺した――のか?」
「いや、違う。なんと……説得でギンガナムを味方に引き込んだんだ。で、俺は二人と別れて、ようやくB-1に到着。
 そこでブンドルの仲間のアムロさんと会って、機体をアムロさんと交換して、アムロさんはマシントラブルでその場に残って俺だけお姉さんの救援に向かって……その後は知ってのとおりさ」

ガロードの話を聞き、シャギアは冷静に戦力を計上する。
こちらの仲間となってくれそうな人物はブンドルとアムロの二人。
同行しているはずのギンガナムが死亡していることからブンドルの安否が気遣われるが、ガロード曰く相当の戦闘狂であるらしいギンガナムの説得に成功したという手腕から判断するに、相当に能力の高い人物であるらしい。
ブンドルに関してはあまり心配する必要もないだろうとシャギアは考える。
アムロについては、合流も容易であるようだし、合流後に詳しい話を聞くつもりだ。
そして、敵対者。先程戦闘となった剣を使う青い機体は、今後もナデシコの敵になる可能性が高い。
戦闘力ならばナデシコの敵ではないが、ガロードと甲児はなんとか味方にしたいと考えているようだ。ナデシコの大火力で戦うのは難しいだろう。


B-Part