160話E「すべて、撃ち貫くのみ」
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通信を切る。宣言通り失神したらしい男から直前に譲渡された操縦権を用いて、ブラックゲッターにメディウス・ロクスを抱えさせる。
どうやら主催者は機体を支給する際手を加えたらしく、オートパイロット・自動操縦プログラムなどは使えないようだった。
先のローズセラヴィーにしても、直前で自動操縦プログラムにエラーが発生し、管制塔から慌てて走るはめになった。
あの場をキョウスケに目撃されていればまた違った結果になっていただろうと、冷や汗を拭う。
その制約がなければAI1を用いてブラックゲッターを操縦し、テンカワ・アキトを切り捨てることもできたのだが、ざっと調べた限り手の打ちようがなかった。
どうやら機械的な問題ではなく、異質な技術……アインストの力が用いられているようだ。未知の技術に策もなしに踏み込むのは躊躇われた。
まあ仕方ない。排除することができないのなら、利用することを考える。
この男、テンカワ・アキト。
先程の動きをみるに、腕は確か。そしてあの割り切った態度、道行きを共にするには申し分ない。
だが……失望した。この男は己を滅する敵たり得ない。
この男にはキョウスケ・ナンブほどの信念を感じない。おそらくは優勝すれば望みが叶うという口車を信じたのだろう。
だがその望みがかなう保証はどこにもない。己が主催者の立場なら、今頃さぞ口角を吊り上げているだろう―――哀れな道化。
自ら勝ち取る道を選ばず、ただ与えられるものを享受する……そんな輩に興味などない。
しばらくは協力するが、メディウス・ロクスが再生しAI1が問題なく稼働するようになればいつでも切り捨てる、仮面の魔人にとって黒き復讐者はその程度のものだった。
薬の供給量や成分に手を加えれば、手駒として操ることもできるが……後の楽しみだ。護衛が必要なことは事実であるし、今はこの同盟を切るわけにはいかない。
また、基地を放棄したのも些事だ。
大方の解析は済んでいて、そのデータはこの頭脳の中にある。あとはある程度の設備があれば首輪の解除は可能。
ベガは……惜しいことをした。彼女にはまだまだ有用性はあったのだが、まあ仕方ないことだ。
カミーユ・ビダン。これもまた、些事だ。賢しいだけの子供などいくらでもあしらえる。
当面はナデシコなる戦艦を探しつつ、首輪とバーニィが遺した戦闘データを解析する。
これでAI1はまた成長できる。あの半端者も、最後の最後で少しは役に立ってくれた。
それよりも、思考を占めるのはキョウスケ・ナンブのこと。
アキトの一撃はたしかにやつに致命傷を与えたはず。だが、この背筋に残る怖気は何なのだろうか。
死んではいない―――そんな予感が頭から離れない。
あの男の操縦技術、決断力はたしかに目を見張るものがあった。
しかしそれだけではこの状況を説明できない。撃墜し、沈黙したと判断したその瞬間、あの得体のしれない気配は生まれた。
念動能力者でもサイコドライバーでもないキョウスケ・ナンブとただのパーソナルトルーパーでは成し得ない事態。
要因として考えられるのは、メディウス・ロクスが仕掛けたヘブン・アクセレレイションだ。
あれは一瞬、確かに次元に穴を開いた。そしてあの向こうにはアインストの支配する空間があった。
バーニィ如き未熟者でなく自身が乗っていたなら正確に観測できていただろうが、是非もないことだ。
とにかくあの一瞬、アインストの空間から何かが「紛れ込んだ」のだ、この世界に。
キョウスケ・ナンブの話では、彼は主催者の化け物と浅からぬ因縁があるという。
主催者がキョウスケを死なせないために行動したということだろうか。
だが解せないのは何故時間をおいてあの気配は発現したのか。
キョウスケ・ナンブが何らかのアクションを起こした―――何を? だがその答えは現状では導き出せない。
ともかく、生死が確認できていないのなら、やつは生きているとして扱うべきだ。
そして生きているならあの男は今度こそ向かってくる、必滅の決意とともに。
ぶるり―――と、我知らず肌が泡立った。愛しき宿敵以外にこんな感情を持つのはいつ以来だ?
まったく、退屈しないな、この世界は―――哄笑を抑えきれず、身を反らす。
いいだろう、来るがいいキョウスケ・ナンブ。私は逃げも隠れもせん。
お前の牙がこの身に届くと信じているなら……喜んで相手をしてやろう。
己が映し身のように、彼に導かれたサンプル達のように。「力」を、更なる力でねじ伏せることで。
「その意志が、その熱が―――私を遥か超神の高みへと、押し上げるのだからなぁ―――!」
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「キョウスケ中尉! 応答して下さい、キョウスケ中尉!」
ニュータイプの感性に頼るまでもなく、わかる。
今、キョウスケ・ナンブという男は変わりつつある。
寡黙だが信頼できる男の発する気配は、時を追うごとに歪んだ何かへとすり替わっていく。
「……カ、ミ……ユ。き……える、か……」
「キョウスケ中尉! 無事なんですか!?」
「……いい、か、よく、聞け。ユー……ゼスは、危険だ……。奴と、もう、一人。テン、カワ……アキトという、男……こいつらは、危険だ……躊躇う、な、倒せ」
聞こえてきたのは己のことではなく、敵のこと。まるで、仲間に後を託して逝く戦士の声。
「あなたは……何を言ってるんです! すぐに救助します、もう喋らないで下さい!」
「聞け……ッ! 俺は、もう……長くは、持たん……。エクセレンの時と、同じことが……時間が、ない。不本意、だが……お前に、託す。聞くんだ……」
「そんな勝手なことを……!」
強引にでもコックピットから引きずり出して……そうしようとした瞬間、眼前の異常に目が奪われる。
ビルトファルケンの鋭角なシルエットが崩れる。下敷きとしていた蒼い機体と溶け合っていくように、一つになって。
真紅と、深蒼が、混じり合う。
「俺は、かつてあの、化け物……ノイ・レジセイア……を、撃破、した。やつが何故、蘇ったのかは……知らんが、決して、倒せ、ない存在では……ない」
何かが、生まれる。存在してはいけない何かが。
だがその渦中の男は構わず喋り続ける。かつてあった戦い、その結末を。
そしてこの世界であった、新たな戦いを。
「カミーユ……力を、集めろ。お前……だけでは、足りん……もっと多くの、強く、激しい力、で……今度こそ、やつの、存在……を、消し去る……ん、だ」
「中尉……ッ!」
「力が……集ったのなら、……カミーユ。まず、俺を……殺しに、来い。
他の誰でもない……お前が、だ。俺の声を聞いた、お前が……俺を、止めろ」
「何を、言ってるんです、中尉? どうして俺があなたを殺さなきゃならないんですか!?」
「俺は……やつらと、同じ……存在に……アインストに、なる。
だが、恐らく……ユーゼス・ゴッツォ、あの男……は、それ……さえも、利用……しようと、する、だろう。
だから、その前に、お前が……俺を殺せ。あの男の……良い様に、踊らされるなど……真っ平だから、な」
「俺に、あなたと同じことをしろって言うんですか!? ゼクスさんやカズイを殺した、あなたと……!」
「ゼクス……、そうか、やつも……こんな気分、だった……のかも、しれん、な……お前には、重いものを、背負わ、せる……すまん、な」
不意に、水音。大量の水をぶちまけたような。狭いコックピットで考えられるものなど、一つしかない―――血だ。
「もう……行け。そろそろ、限界……俺が、俺でいられるのは……ここまでの、ようだ……」
「中尉、俺は……俺は……ッ!」
「……行けッ! カミーユ・ビダンッ!」
もう口を開くことさえ辛いはずなのに、その一喝はカミーユを怯ませる。
「ま……待って下さい、俺はまだ、あなたに……ッ!」
「ベガはお前を守って……死んだのだろうッ! その命、もはやお前の勝手で容易く捨てられるものではないぞ!
生きろ……戦え、カミーユ! お前が生きて、やつらを討てば……それが、俺達の勝利だッ……!」
「……中尉」
と、もはや形も定かではないビルトファルケンの腕が伸びる。携えていたオクスタン・ライフルを、こちらに放り投げた。
「これを……使え。 ……勝て、カミーユ。お前には……力がある。想いを、強さへと変える、ことが……できる、力が。俺の……命。持って、行け……」
「あ……お、俺は……!」
「行け……カミーユ。死ぬな、よ……」
やがて、真紅が駆逐され、深蒼が湧き出でる。
二機の影は一つになった。
―――蒼い、アルトアイゼンに。
「……ッ、……う、あッ……あ、うぁぁあああああああああああァァッッ!」
ライフルを拾い上げ、ファイター形態へと変形。変わっていくビルトファルケン……否、もはや隼でも古い鉄でもない機体から、「逃げる」。全速で、振り返らず。
(俺は……俺は……ッ! 守ってもらうばかりで、あの人たちに何も……何も!)
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」
もう背中を守ってくれたキョウスケはいない。隣で支えてくれたベガも、前に立って導いてくれたクワトロも。
危険と、邪悪と知りながらユーゼスを放置した、その自らの甘さが招いた惨劇―――ベガと、キョウスケが代わりにそのツケを払った。
クワトロとは出会うことなく死に別れた。すべてが遅すぎたのだ。
後悔、怒り、悲しみ、憎しみ。そのすべてが混沌となり、だが皮肉にも身体を突き動かす力へと変わっていく。
貫くもの、「槍」を模したライフル。キョウスケから託されたこの力、この想いで。
「やってやるさ、やればいいんでしょうッ! ユーゼスも、アキトってやつも、あの化け物も……そしてキョウスケ中尉、あなたも!
俺が……俺が、全て倒すッ! あなたの望み通りに……あなたを、ベガさんを、クワトロ大尉を―――勝利させるために……ッ!」
身体の奥に、熱い―――熱い、炎が灯る。すべてを灼き尽くす、根源の力。
今、この荒ぶる熱とともに誓うべき言葉は、ただ一つ。そう―――
「すべて……撃ち貫いてみせる……!」
【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルU(マクロス7)
パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。精神が極度に不安定
機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾-残弾0 EN残量・火器群残弾ともに10%
現在位置:G-5
第一行動方針:対主催戦力と接触し、仲間を集める
第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
第三行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】
【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター
パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭、疲労状態 薬の副作用中・残り1時間
機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)
現在位置:F-7北東部
第一行動方針:ナデシコの捜索(とりあえず前回の接触地点であるD-7へ)
第二行動方針:ガウルンの首を取る
第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す
最終行動方針:ユリカを生き返らせる
備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
備考2:謎の薬を3錠所持
備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可
備考4:ゲッタートマホークを所持】
【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス
パイロット状態:若干の疲れ
機体状態:全身の装甲に損傷、両腕・両脚部欠落。EN残量20%。コックピット半壊、自己再生中
現在位置:F-7北東部
第一行動方針:ナデシコの捜索、AI1のデータ解析
第二行動方針:首輪の解除
第三行動方針:サイバスターとの接触
第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
第五行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?
最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
備考1:アインストに関する情報を手に入れました
備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)
備考3:DG細胞のサンプルを所持
備考4:機体の制御はAI1が行っているので、コックピットが完全に再生するまで戦闘不能】
【メリクリウス(新機動戦記ガンダムW)
機体状況:???
現在位置:G-6基地内部】
【月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)
機体状況:右半身大破、月の子全機大破、EN残量0
現在位置:G-6基地】
【バーナード・ワイズマン
搭乗機体:なし
パイロット状態:死亡】
【残り21人】
【二日目 7:55】
F-Part