37話「始まりの葬送曲」
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「遠くから見てもすぐに分かるあの服装は確かにラクス・クラインだった・・・。
そしてその隣に居たのはやはり・・・間違いない。」
ザフト軍のエースパイロット、アスラン・ザラはあの部屋に居た人物を思い返していた。
一人は自分の許嫁であるラクス・クライン。
そしてもう一人は親友であるキラ・ヤマト。──そして彼の怨敵でもある。
「どうして・・・キラが生きてるんだ・・・!」
ザフト軍のエースパイロット、アスラン・ザラは一人つぶやく。
彼は、部下であるニコルを亡くしたばかりであり、
ニコルを殺したストライクガンダムのパイロットを道連れに自爆したはずだった。
ストライクガンダムのパイロットであるキラ・ヤマト──親友を殺したはずであった。
目を覚ますと、いつもとは違う光景が広がり、
エクセレンと呼ばれた女性のナマナマしい死を見せ付けられ、いつの間にかこの殺し合いに参加させられることとなっていた。
アスランに与えられた機体はファルゲンマッフ。
自分の愛機である深紅のイージスガンダムとは対照的な蒼い機体。
細部までチューンアップされた機体は惚れ惚れするほどであった。
「かなりハイスペックな機体だな・・・。コーディーネーターの俺だからこの機体の性能をなんとか引き出せそうだが・・・。
ナチュラルならエースパイロットクラスでないとこの機体は扱えそうにないな。」
試しに動かしてみようと操縦桿を握る。
蒼き機体はふわりと浮き、そして風を切って見事に飛んだ。
「いい感じだ。どうやらこの機体は俺と相性がいいみたいだな」
その後、数分間のテスト飛行を終えて機体構造をほぼ全て理解し終えようとしたとき、レーダーに一つの光点が映った。
その光点はあっという間に中心、つまりアスランのいる位置に近づいてきた。
森が揺れる、何か大きなものが近づいてくるのが肌で感じられた。
そして肉眼で見えたその機体はどこか神々しく、そして非機械的であった。
ラーゼフォン、聖なる歌を奏でる機械の神。
その機体から通信が入った。
「おい、そこの機体。お前はゲームに乗ってるのかい?」
唐突な質問であり、どこか教養の無さも伺える声であった。
少しだけ間をおいて、その通信に答える。
「俺はゲームには乗っていない。だが、俺は殺さなければならないやつがいる。」
思いもよらない返事が返ってきて、少しバサラは戸惑ったが、
「おいおい、ぶっそうなこと言ってんじゃねえよ。なんで殺したり殺されたりしなきゃいけねえんだよ」
理由──キラを・・・親友を殺さなければならない理由。
「それは・・・俺がザフト軍のパイロットだからだ!
キラは・・・俺の親友なんだ・・・だけど!!ニコルは優しいやつだった!ピアノを愛し、静寂を愛し、平和を愛していた!!そのニコルを・・・キラは!!」
アスランの顔はほんの少しだけ泣きそうになっていたようにも見えた。
「俺は・・・俺は・・・キラを許すことはできない!!」
次に顔を上げたとき、アスランの目にはもはや涙は見えなくなっていた。
「ゲームに乗ることも、脱出することも今はどうでもいい、ただニコルの仇だけは討つ」
確かな決意を秘めた顔がそこにはあった。
そんなアスランの叫びを一蹴して、
「けっ!くだらねえな。殺したから殺して、殺されたから殺して、それで争いが・・・憎しみが終わるのかよ!!」
その言葉にアスランは怒りを覚えた。
「お前に何がわかる!?」
「へっ、わかんねえよ!だから、俺は俺のやり方で争いを終わらせる。
俺の『歌』でな。いっくぜぇぇぇ!」
そういうと、バサラは歌を歌い始めた。
そして、その歌に共鳴するかのようにラーゼフォンからも音が発せられていた。
「へっ。俺とデュエットしてくれるのかい?お前は最高の相棒だぜ。」
機械の神の声はとうてい音楽と呼ばれるようなものではなかったのに、不思議にも確かにそこには歌が生まれ、デュエットができあがっていた。
「ふざけるなぁぁ!!!」
アスランの怒りは考えるよりも先に行動に移らせた。
放たれたビーム、そしてデュアルミサイルの波状攻撃。
回避不可能な至近距離からの攻撃。
しかし、その攻撃はラーゼフォンへと届くことなく突如現れた音障壁に阻まれることになった。
「くっ、なんだあの機体!?PS装甲よりも堅い!?・・・ならば!!」
二本のレーザーソードを取り出し、爆破による砂埃が晴れるまでもなくファルゲンマッフを急速接近しようとする。
「やめろおぉぉぉぉ」
バサラの叫びにラーゼフォンが呼応し赤い目が額に隠れ“真実の目”が現れる。
『ラーーーーーーーーーーーーーーーーー』
その幻想的な声は地を抉り、森の木を倒す。
ファルゲンマッフに直接的な被害はなかったが、急停止させられざるをえなかった。
「へっ。俺を守ってくれてるのかよ。ラーゼフォンか、お前は最高の相棒だぜ!
おい!そこの蒼い機体!!俺の話を聞け。
そのニコルってやつは優しかったんだろ?そんなやつが殺すことを望むと思ってんのか?
違うだろ!」
その言葉はアスランの胸を深くえぐった。
「だけど・・・俺は・・・」
「・・・だったら、歌って送ってやるしかねえだろおぉぉ!
俺の歌を聴けえぇぇぇぇ!!!!」
『ラーーーーーーーーーーーーーー』
機械の神の声はとても優しく、そして哀しい響きをしていた。
そして森の中にはラーゼフォンとバサラのデュエットが木霊する。
「この歌は・・・葬送曲?」
多少は歌の知識があったアスランはそれが葬送曲であるというのがわかった。
木霊する歌の中で蒼き機体はただ立ち尽くしていた。
【アスラン・ザラ 搭乗機体:ファルゲンマッフ(装甲騎兵ドラグナー)
パイロット状況:動揺
機体状況:良好
現在位置:B-6
第一行動方針:未決定(改心したかどうかは次の作者に任せます)
最終行動方針:未決定】
【熱気バサラ 搭乗機体 ラーゼフォン:(ラーゼフォン)
パイロット状況:絶好調
機体状況:損傷無し
現在位置:B-6
第一行動方針:歌でニコルを送る
最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる】
【初日
14:45】
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