44話「狂宴」
◆T6.9oUERyk
「ひゃーはははっ!!ブロォォォクン…
獅子を胸に宿した鋼の勇者が大きく右腕を振りかぶり、
ファァァァアントォォォムッ!!」
光のリングを纏った鉄拳が撃ち出される。
すさまじい勢いで迫る鉄拳は赤い巨人を掠め、
ズウウウゥゥゥン
巨人の背後にあったビルを打砕いた。
「いかんな」
紙一重で恐るべき鉄拳を回避した赤い巨人の操者・ユーゼス=ゴッツォは酷く冷静に状況を分析する。
敵の戦術は極めて単純、パワーと装甲を頼りにした力押し一辺倒。
しかし、敵パイロットは単純ではあっても無能では無いらしい。確実に間合いを詰め、的確な攻撃を繰り出してくる。
敵機のスペックはこちらを遥かに凌駕いている、現状では打開は極めて困難。
「ひゃーははは!死ねぇ!死ねぇい!!」
姿勢を崩した赤い巨人に向かって一気に踏み込んでくる敵機だが、
「むぅぅぅ!?プロテクト・シェェェェェド!!」
急速停止し、左手を眼前に掲げて…
後方から飛来した多数のビームが掲げられた左手に、正確には左手前面に展開された障壁に突き刺さる。
「やはり効果なし、ね。」
そう言って月の巨人を操るベガは唇を噛み締める。
事前の話し合いの結果、小回りが効き近接戦闘に特化したユーゼス機が前衛、的が大きく射撃武器の豊富な自機が後衛、と役割分担は決めてある。
二人の技量故か、即席のコンビネーションとしてはかなり上手くいっている。
それでもこの敵相手には絶対的に火力が足りていない。
月の巨人の放つ無数の光も、赤い巨人の繰り出す一撃も、獅子の勇者を貫くことは出来ない。
このままではジリ貧である。危険を冒してでも接近戦に打って出るか?
ベガがそう考えていると、突然ユーゼスから通信が入る。
『一つ提案があるのだが?』
「何かしら。」
『やつは私が引き付けよう、君はその間に逃げたまえ。』
「…!!」
まさかの提案に息を呑む
「何を言っているの、あなた一人ではなぶり殺しにされるわよ!」
『現状でもそれは変わるまい。現に今の我々の火力ではやつの障壁を貫けんからな。ならば分が悪くとも可能性のある方に賭けるべきだ。』
ズズンッ
前方では新たな衝撃が
『レディーファーストだ。君の機体では大きすぎるから逃げるのも難しいが、私のアルトアイゼンなら多少の無茶は出来る。』
頑丈さが取り得の機体だからな、と。
その言葉の意味を違わず捉え、ベガは問う。
「…あなたの言う通りね。それで、単機でどのくらい耐えられるかしら?」
『よくもって五分というとこだな。』
5分あれば十分。
「判ったわ。あなたの意思は絶対に無駄にしない。」
そう告げると同時に、こちらに向かってきた鉄拳を回避し敵機へと牽制のビームを放ち…
背を翻したローズセラヴィーは北の市街地へと急速に離脱した。
やはり聡明な女性だな、とユーゼスは改めて実感する。
こちらの意図を正しく読み取り、躊躇無く実行してのけた。
あとは、賭けの結果を待つだけ。
「とは言え、寝て待つだけでは果報は得られんな。」
『ひゃはは!お別れの挨拶はすんだか?』
言いながらタックルを繰り出す敵機をサイドステップで回避しマシンキャノンを撃つ。
「済ませた。ひと時の別れの挨拶はな。」
厚い装甲に弾かれるが、気にすることも無く射撃を継続。
『そうだよなぁ、すぐに天国で再会できるからなぁ!!』
やがて、怒涛の連続攻撃をことごとく首皮一枚で回避するユーゼスに苛立ちが募ったのか
『ちょろちょろちょろちょろと、テメーはゴキブリかぁ!?』
言うなり獅子の勇者は動きを止める。
『こいつは取っておきたかったんだがなぁ、特別に食らわしてやる!ゲェェルギィィムガァァン…』
両腕が組み合わされ、その機体から強烈なエネルギー場が放出される。
大技を使うのかとユーゼスは判断し、回避しようとして
「ぬぅ!動かん!」
アルトアイゼンは空間に固定されたかのごとく動きを止める
『おおおぉぉぉッ!!ウィィィィィィィイタァァァァァァァアァァァァ!!』
地を砕き、大気を打ち破り、組み合わせた拳を前に怒涛の勢いで突進してくる鋼の勇者王
「ひゃははは!やるじゃねえか。」
嘲笑するゴステロ。彼の視線の先には左腕を失い、力尽きたように倒れる赤い巨人。
「今の一撃を避けるなんて大したもんだぜぇ!」
「そうでもない。」
苦笑するように呟くユーゼス。
謎のエネルギー場によって動きを止められ、必殺の一撃を受けそうになったユーゼスは
とっさに左肩のスクエア・クレイモアをハッチを閉じたまま撃つことで暴発させ、その爆発で敵の一撃を回避したのだ。
もっともスクエア・クレイモア暴発の衝撃はすさまじく、
敵の突進の衝撃波と相まってアルトアイゼンは機能停止寸前まで追い込まれているが…
「でも、これでお終いだなぁ!!もうちょろちょろ動けないかななぁ!」
そういって拳を掲げ狙いを定めるゴステロに対し、ユーゼスは仮面の下で嘲笑を浮かべた。
「そう、お終いだ。それも私ではなく、貴様がな。」
「ああん?頭打っておかしくなったのかぁ!?」
「丁度5分だ。」
ユーゼスが告げると、鋼の勇者王に巨大な閃光が降り注いだ…
「…すごい威力ね、電童のファイナルアタック並みだわ。」
ローズセラヴィーの最大最強の一撃・Jカイザー。その凄まじい威力にベガは戦慄すら覚えていた。
先ほどの戦闘で並大抵の火力では通用しないと判断したユーゼス。彼は自分たちの持ちうる最大の火力であるJカイザーを使わせるべく、
それを敵に悟らせぬよう囮となってベガを逃がしたのだ。
やがて通信が回復
『Jカイザー、素晴らしい威力だな。』
「ユーゼスさん、無事ですか?」
『機体の損傷は激しいが命に別状は無い。やつと多少距離があったのが幸いしたな。』
「よかった。それで、敵は?」
『なかなか勘のいいパイロットだったようだな、逃げられた。さすがに完全回避は出来なかったようだが、
機体の左半身が大きく損傷していたから、今後下手には動けまい。』
「そうですか・・・」
思わず声が沈んでしまう。あの凶悪な機体を取り逃がしたのだ多少の落胆はある。
通信機からユーゼスの声
『我々は勝利した。今はそのことを祝おうではないか。』
ベガはその一言に力づけられる。
彼の言う通りだ、と彼女は思う。
この理不尽なゲームは始まったばかりで、あの様なゲームに乗った輩はまだまだいるのだ。
ここで落ち込んでいる暇などない、今はただ前を見るのみ。
「そうですね、今はこの勝利を喜びましょう。」
(北斗、あなた、待っていて下さい。私は必ず、この殺人ゲームを止め家に帰ります。)
「我々は勝利した。今はそのことを祝おうではないか。」
いいながら、ユーゼスは仮面の下に冷笑を浮かべる。
そう、確かにユーゼスは勝利した。
敵機を取り逃がしたことは問題ではない。
深手は負わせたし、何よりあれほど凶暴なパイロットだ、遠からず他の参加者と戦い自滅するだろう。
アルトアイゼンの損傷は手痛いが、その代償としてベガの信用を得た。
強力な機体に乗った有能な手駒、機体の左腕一つの対価としては十分すぎる。
元々、ユーゼスは他人を動かして事を成すことが本分である。
『そうですね、今はこの勝利を喜びましょう。』
通信機から、幾分晴れやかな声が伝わってくる。
そう、今はこの“勝利”を祝おうではないか。
「ちくしょう、殺してやる!!」
傷ついた巨人が地を駆ける。すでにその身を守護する左腕は失われ、左半身は砕け、溶け、ぼろぼろである。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
脳だけでなく全身を襲う激痛に身を焦がしながら、狂人は呪詛をはき続ける。
「殺してやるぞぉぉぉぉぉぉお!!ぶぅっっっっ殺してやるぅぅぅぅぅう!!」
【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦INPACT)
パイロット状態:やや疲労(上機嫌なのも私だ)
機体状態:左腕損失、ダメージ蓄積、3連マシンキャノン少々消費
現在位置:D-4 南の平原
第一行動方針:首輪の解除
最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る】
【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状態:良好(ユーゼスを信頼)
機体状態:Jカイザーを撃ってENスッカラカン。移動には支障なし。
現在位置:D-4 南部市街地
第一行動方針:首輪の解析
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出】
【ゴステロ 搭乗機体:スターガオガイガー(勇者王ガオガイガー)
パイロット状態:全身と脳に激痛、怒りと興奮
機体状態:左腕損失(プロテクトウォール不可)、左半身にダメージ、EN大幅に消費
現在位置:E-4へ逃亡
第一行動方針:エイジ・カミーユ・ゼクス・ユーゼス・ベガを殺す
最終行動方針:生き残り優勝】
【初日 14:30】
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