46話「一応スゴい人達」
◆30UKBYJFE.


見渡す限りの一面に広がる緑の平原。吹き抜ける風、そよぐ草花。抜けるような青空の下。
その風景にはあまりにも似つかわしくない、ド派手な色をした一機の戦闘機と一基のミサイルが停まっている。
そして、その間で二人の人間が話し合いをしていた。
「全く、ヘルメット(とパイロットスーツ)が無ければ即死だった」
憔悴しきり、青い顔でぼやいたのはしっかりとしたパイロットスーツに身を包み、珍妙なヘルメットを付けた男、シャア・アズナブル。
何度も書かれるが一応ネオジオンの総帥である。
「それは、お前が姑息な真似ををするから!……自業自得だろう」
あのまま放っておけば離れられたものを、怒りに任せて――
そうちょっと後悔しながら返すのは、アムロ・レイ。
連邦軍髄一のMSの操縦技術を持つエースパイロットだ。
「全く、何もこんな場所で休む事はあるまい」
「散々降ろせと喚いて、そこで大量に嘔吐していた男が言うことか」
呆れるように言うシャアに、アムロは明確な苛立ちを持って返す。
それを落ち着けと手で制し、シャアは続ける。
「そうではない。
 何故このような目に付く場所で場所で今後の方策の会議をするのか、という話だ。
 それでなくとも我々の機体は目立つというのに。
 地図によればもう少し進んだ所に都市か何かの施設がある筈だろう。
 ――地図の端と端が繋がっているという話を鵜呑みにすれば、だが。
 落ち着いて話すならばそこの方が良かろう。」
「自覚があったのか!?目立っているって!」
「……は?何を驚いて……?」
「いや、すまない、忘れてくれ」
「いや、まあ、良いのだが」
アムロの奇妙な反応にシャアは少しヘルメットに隠れた首を傾げたが、正直今はどうでも良かった。
それより現状である。


遮蔽物の無い平原は、レーダーの効かず、目視で情報を確認せざるこの世界では非常に敵に発見されやすい。
「道理が分からないお前でもあるまい」
アムロに筋立った答えを求めてそう問掛ける。
「さっき交戦した赤い機体だが、奴も市街地に向かった恐れがある」
答えを聴き、シャアは成程と軽く頷いた。と、同時に、突然アムロがシャアの体を捕まえた。
「おい、納得する振りをしてこちらの機体に近付くな」
どさくさに紛れて機体を盗られては堪ったものではない。
残されるのは核ミサイルなのだ。――しかもピンクの。
鬼の形相でアムロは拳を振りかざす。
「待て。誤解だ。まだ気分が良くなくてな。些かふらつくのだ」
「いいからそっちへ下がれ。修正するぞ」
「わ、分かったから拳を引け!全く、そんな事だから貴様は……」
ぶつくさと文句を言いながらあっさりとシャアは後ろに下がる。
アムロにはそれが少しだけ妙に感じられたが、それで問題が出るわけでも無いので気に留めなかった。
「……話を続けるぞ」
油断ならないシャアのことだ。っていうかあんなもん支給されたら誰だってそうする。
俺だってそうする。内心、自分に支給された機体に安堵しながらアムロは言葉を続ける。


「オーラバリアと言ったか。
 分かっていると思うが、さっきの戦闘でこちらの攻撃を無効化した、実弾兵器にも影響を及ぼすバリアの事だ。
 バルキリーの武装では、おそらくアレを抜く事は不可能に近い。
 もう一度離脱出来るかと言われれば、それは可能だと思う。だが――
 キ サ マ を 逃 が す た め に ! !
 ……時間を稼がなければならない。
 イタズラに消耗するのは出来る限り避けたい」
わざわざ語気を強めて、大業にシャアに向け体を突き出しながらアムロは言う。
「ふむ。そうか」
しかし、それに対して悪びれる様子はシャアには全く無い。
本当にコイツは……。
アムロは心の中で舌打ちをした。
「それに、お前がそうしようとしたように、最初に一旦市街地に集まろうという人間も少なくはないだろう」
「……つまり、それを狙う輩も、か。」
「そういうことだ。
 話の途中で戦闘に巻き込まれて機体に乗る暇も無く死んだ、なんて事になっては目も当てられないだろう」
「比べれば目視で近付く機影をを発見しやすいここならば、幾分かマシ、か」
互いが互いを確認出来るのだ。
NTとしての直感を生かして索敵すれば、先手を取ることは出来ないが後手に回ることもない。
また、地上に居れば先のレプラカーンのように高高度を飛んでいる機体からは補足されない。
それは高高度を移動できるバルキリー、核ミサイルが離脱する上では非常に有利な条件だ。
「それで、これからの方針だが――」



 しばらくの間、アムロ達は自分達の所持品のチェックを行った。
「食糧は……充分とは言えないが数日持つ程度にはあるな」
「何故貴様はレーションで私は乾パンなのだ」
「いや、そんな事を聞かれても困るんだが……ほら、その分缶詰があるじゃないか」
「……缶切りが無いのだが」
「石でも使え」
「こ、これは……!」
「どうした、シャア!」
「核ミサイルのトランクからマニュアル、食糧だけではなくこんな物が……!」
「これは……ブライト?樹脂のマスクか?」
「ソロモンの悪夢、ガトー小佐のもある。こっちの金髪は……誰だ?」
「俺も見たことは無いな」
「……。」
「お、おい被るのか!?。」
「弾幕薄いぞ!と、何!?」
「う、うわ!ブライトの声に!?」
そして、大体それぞれが互いの物も含め持ち物のチェックを終えた頃、それぞれのマニュアルの最初の方のページにあった余白は少なくなっていた。



 ――首輪が爆破される条件がゲームからの逃走だけとは考えられない。
筆談は、この文で始められた。
アムロはパイロットであると同時にMSの設計者でもある。
日常、上着のポケットにペンの一本も挿していることもあるのだ。
そして、ガンダムの設計の他にもハロを作り、電子機器やコンピューターについてもそれなりの知識を持っている。
『当然だな。君のような人種が呼ばれているのだ。
 解析される可能性も考慮されているだろう。
 となると盗聴機能の一つも付けて未然に防ごうとしている恐れもある。』
『その前にそもそも設備関係で詰まれている可能性もあるがな。』
『設備さえあれば外すことはできそうか?』
『そもそも首輪そのものを見てみなければなんとも言えない。
 それに、首輪に使われている爆薬の事もある。
 そちらの関係に詳しい人間も居た方が良い。』
『首輪と人材の確保が必要か。』
「できれば殺し合いに乗っていない人間とは協力関係を結びたい所だな」
「うむ。戦力は有るに越したことはない」
『つまり首輪は殺し合いに乗った人物から奪うか、やられた機体の残骸を当たるかという事になるな。』


【アムロ・レイ 搭乗機体:VF-1Jバルキリー(ミリア機)(マクロス7)
 パイロット状況:頭が冷えて至って冷静
 機体状況:ガンポッド、ホーミングミサイル共に若干消費
 現在位置:H-2、草原側、地上
 第一行動方針:首輪を確保する
 第二行動方針:協力者の探索
 第三行動方針:首輪を解析できる施設、道具の発見
 第四行動方針:核ミサイルの破棄
最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している】







 貴様は気が付いていないようだが――
話し合いを終え、アムロ・レイが自機に戻っていく後ろ姿を見ながらシャア・アズナブルは心の中で呟いた。
私は貴様の機体を奪おうと思えば奪えたのだ。
遥か高空に吹き付ける暴風。高速で飛ぶミサイルと空気による摩擦熱。
そして、バルキリーによる振り回しの遠心力からも我が身を守ったパイロットスーツ。
これさえあればたかが生身の人間一人、いや、例え刃物や銃を持っていたとしても――
振り切る事は容易い。
だが。貴様自身が言っていたのだ。戦いになったら私の核ミサイルを逃がさねばならんと。
そして、それは先の赤い機体との戦闘で証明されている。
これに乗ってさえいればアムロという知る限りの兵器の乗り手中で最強の手駒を従える事が出来る。
いや、それどころか他の参加者を仲間に引き入れれば引き入れるほど壁は厚くなるだろう。
強力な機体が無いのならば、しばらくは核ミサイルで粘ってみるのも悪くはないかもしれんな……。
「チャンスは最大限に生かす。それが私の主義だ」
シャアは呟く。
随分と地平に近くなった太陽に照らされ、そのピンク色の角が怪しく光る核ミサイルのコックピットシートに身を預けながら。


【シャア・アズナブル 搭乗機体?:核ミサイル(スーパーロボット大戦α外伝)
 パイロット状況:嘔吐によりやつれ気味
 機体状況:真っピンク
 現在位置:H-2、草原側、地上
 第一行動方針:核ミサイルをダシにアムロに身の安全を確保させる
 第二行動方針:仲間を増やし自分(と核ミサイル)を守らせる
 第三行動方針:強力な機体の入手
 第四行動方針:首輪を確保する
 第五行動方針:缶切りを手に入れる
最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:核ミサイルの荷物収納箱からブライト、ガトー、アズラエルのマスクを発見、所持。
 ボイスチェンジャー機能付き。
 H-2の何処かにシャアの吐瀉物あり】


【初日 16:00】


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