54話「淡い記憶と、現実」
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コンビニの自動ドアが開き、少年が1人出てきた。
手に、食料品などが入ったビニール袋を提げている。
そこからスポーツドリンクのペットボトルを取り出して、飲む。
さして変わった事の無い光景だ。
ただ一点、店の前に巨大なロボットが鎮座していることを除けば。


その数十分前。
真紅のマントを翻し、ヴァイサーガは大地に降り立った。
コクピットの中で、その騎士を駆る少年―紫雲統夜は、目の前の光景に驚いていた。
光の壁。こう形容するのが一番妥当だろう。
白く輝く壁のようなものが、自分の前に存在している。
「地図の端と端とはつながってるとは言ってたけど…通れるのか?」
思わず呟きがもれた。何とかこの先にある(らしい)都市部に行きたいのだが…
(まずは実験だな)
近くにあった岩を放り投げてみる。
岩は、まるで水面に触れたときのように消えていった。
どうやら、通り抜けることは可能らしい。
次に、ヴァイサーガの頭を突っ込んでみる。
計器に異常は見られない。カメラは壁の向こう側の様子を映しているようだ。
それほど遠くない距離で、ビルが立ち並んでいるのが見える。
「よし…!」
意を決して、統夜は一歩を踏み出した。


マップの境界を抜けたヴァイサーガは、今度は市街地の上空を飛んでいた。
「まさにゴーストタウンだな…」
その街は、全てが止まっていた。
機体のカメラに映るものでは、時折風に揺れる木立ぐらいしか動かない。
降下して辺りを探索しても、人影らしきものは見つからなかった。

その途中、見つけたコンビニで食料などの調達をすることにした。
無論、店内にも人の姿は無い。
かといって代金を払わずに店を出るつもりは無かったが、財布を持っていないことに気付き諦めた。
レジ裏から取り出したビニール袋に、水や保存の利く食べ物を入れていく。
機体と一緒に支給されたものもあるが、このふざけたゲームがいつまで続くか分からない今の状況下では、
食料があるに越したことは無いだろう。


必要なものはある程度詰め終わり、店を出ようとしたとき、棚に並んだチョコレートが目に入った。
それは統夜に、あの3人のことを思い出させた。

手にいっぱい甘いお菓子を抱えてチョコレートをほおばるメルア。
メルアがコクピットにお菓子を持ち込んだことを叱るテニア。
そんな二人の言い争いを止めに入るカティア。

(…あいつら…無事なのか…)
なぜか、言いようの無い不安にとらわれた。
その不安を打ち消すように、棚のチョコレートをひとつ袋に入れる。
いずれ3人のうちの誰かに渡してやれるかもしれない。
「きっと無事…だよな」
そう言わせたのは、確信ではなく願望だと、統夜は自覚していた。


店の前で、簡単に食事を取った。
ゴミをひとまとめにしてゴミ箱に放り込む。
「ふぅ……」
大きなため息をついた。
いつ誰に襲われるか分からない。常に警戒を要する今の状況は、精神的にこたえる。
息抜きもかねて、軽く体を動かす。
気分転換の後、コクピットに乗り込んで、もう一度自分の置かれた状況を考え直してみた。

殺し合い。生きて帰る方法は、ほかの参加者を皆殺しにすること。

「くそっ…」
やり場の無い怒りがこみ上げる。
いや、正確にはこの感情を向けるべき相手はいる。しかし、あの化け物に刃向かえば自分は殺されるだろう。
それこそあの女性のように、あっさりと。
死への恐怖が、統夜を駆り立てる。
生きて帰るために必要なら――やるしかない。
確実に勝ち残っていくには、戦いやすい相手、地形を見つけるべきだろう。
ヴァイサーガは大きな機体だ。ビルの立て込んだここでは戦いにくい。
「…とにかく行くか」
統夜は操縦桿を握り締めた。


【紫雲 統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ (スーパーロボット大戦A)
 パイロット状況:良好
 機体状況:無傷
 現在位置:A-1
 第一行動方針:戦いやすい相手、または地形を見つける
 第二行動方針:敵を殺す
 最終行動方針:ゲームに優勝する】


【時刻:15:30】


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