66話C「アンチボディー ―半機半生の機体―」
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豪腕がうなりをあげて迫ってくる。それをソードエクステンションの腹で受け止めたグランチャーの両腕は上方へはじかれ、体が宙に浮き上がった。
やばいと思った瞬間、閃光を発したシャイニングの右手が襲い掛かってくる。
それをバイタルジャンプでかわして後方に回り込むも俊敏に反応し振り向きざまに繰り出された裏拳に阻まれて牽制の射撃をおこないながらあえなく距離をとる。
が、次の瞬間ギンガナムの視界を埋めたのは距離を置いたはずのグランチャーの姿だった。ソードエクステンションが袈裟懸けに振るいおろされる。
それを一歩踏み込んでグランチャーの腕を掴んで止め、そして投げ飛ばした。
一拍置いて決定打をかわされたギンガナムはまたかと自らの拳を眺める。かわされたのはこれで何回目だろうか?まったくといっていいほど決定打が当たらない―――
唇の端がつりあがり、だからこそ面白いとギンガナムは結論付ける。だからこそ倒しがいがあるのだと・・・。
この短時間の間にバイタルジャンプに順応し始めているギンガナムを感じ、汗がジョシュアの頬を伝って落ちていった。
瞬間移動といっても過言でない移動法を誇るこの機体相手にこうも攻撃を捌ききることができるものなのだろうか?
ジョシュアが不慣れなのではない。瞬間移動を高速に置き換えると兵器としてのグランチャーの特性は高速近接戦闘を得意とするエール・シュヴァリアーのそれに最も近い。
ソードエクステンションとサイファーソードのコンセプトも通じるものがある。
いっそ逃げようかと考えて気絶したアイビスを思い出し、敵を退けるしかないかと思い直す。
「何故、ブレンを守る。ブレンはオルファンの敵だぞ!お前はオルファンの抗体に選ばれたものではないのか!?」
出し抜けに女の声がコクピットに響き渡った。ぎょっとして周囲を見渡すと通信可能距離ギリギリという遠方に二機の戦闘機(のようなもの)の姿が確認できる。
通信を返そうとしたその瞬間、いつの間にか接近していたシャイニングの拳が肩をかすめていった。まるで気を抜いてもらっては困るとでも言うように・・・。
そして再び二機の攻防は始まる。
心なしグランの動きが鈍ったように思えた。まるで混乱でもしているかのように・・・。
依然として通信を介し女の声はコクピットに響き渡っている。が、ジョシュアはそれに答えず。一瞬後には通信が入っているという事実すら忘れ去る。余裕がないのだ。
他のことに気を取られている暇などない。ほんのわずかな時間でも気を抜けばこの相手は自分を屠り殺してみせるだろう。
気の抜けない戦いにジョシュアの意識は呑まれていった。
「ふははははは・・・もっとだ!もっと小生を楽しませてくれぃ!!」
通信から流れてくる野太い声にアイビスは起こされた。最悪な目覚め方だとふやけた頭で考えると周囲の景色が飛び込んできて我に返った。
あの時、紫雲統夜の奇襲を不意をつかれつもどうにか受け止めたブレンはそのまま相手のパワーに押し切られビルに埋没した。
その際、あまりの振動にコクピット内部に体を激しくうちつけたアイビスは気を失っていたのだった。
「小生の積年の鬱屈、見事晴らしてみせよ!」
通信の声とほぼ同時に轟音が響き渡り、わずかに遅れて舞い上げられた砂がパラパラと降り注いでくる。
・・・誰かが・・・・・・まだ戦ってる?
一体、誰が?
不意にジョシュアのことが思い浮かび周囲を見渡した。グランチャーの姿は見当たらない。
戦っているのはジョシュアらしいと思い至ったとき、助けに行かなきゃという思いよりも暗澹とした思いがアイビスの胸を満たす。
ジョシュアがこの付近から離れたのが私を巻き込まないためなら、今なお逃げずに戦っているのも私を守るために他ならない。
全ては自分のせいだ。自分が足をひっぱったためにジョシュアは・・・。
『負け犬が!』聞き覚えのある声が耳をうつ。
そう、私は負け犬だ・・・ならどうする?負け犬は負け犬らしく尻尾を巻いてまた逃げだすのか・・・。
・・・・・・違う。私は負け犬なんかじゃない。
ほんのわずかばかりの気概が沸いたが心の中を埋めるには程遠かった。
力なく鈍く光る瞳でそれでもブレンを起こしたアイビスはせめて盾にでもなろうと、半ば自棄にも似た気持ちでブレンの足を戦場へと向けた。
光り輝く腕が安々とチャクラシールドを突破してくる。
ギム・ギンガナムが操るシャイニングガンダムの渾身の一撃がグランチャーを捕らえたと思ったその刹那、右手は虚しく空を掴む。
バイタルジャンプによって再び距離を置いて二機は対峙する。
傍目には一進一退の攻防を続けているようでいて、その実ジョシュアのほうが遥かに分が悪かった。
互いに互いを捉えられない以上、一撃の重さは重要なファクターだった。そしてそれが圧倒的に違っていた。そして、グランの調子も落ちてきている。
ならば次の攻防に勝負を賭けるしかないとジョシュアは思い定めた。
(いけるか?グラン・・・)
(・・・・・・・・・)
(・・・・・・よし!)
決意を固めるや否やジョシュアとグランは突撃する。そして、ソードエクステンションから光線が放たれ膨大な砂塵がギンガナムの周辺を満たした。
そして、そのまま砂塵に突込み真っ向からギンガナムを斬りつける。
「甘いわ!!」
防がれた。が、もとより相手の動きを止めるための斬撃。牽制の意味合いが強く直撃を期待してはいない。
その瞬間、ギンガナムの反撃を待たずしてグランチャーの姿が掻き消え四方八方から光線がギンガナムを襲った。
バイタルジャンプを駆使して全方位あらゆる方角からの射撃、時折それにまぎれて位置を確認するように繰り出される斬撃。
砂塵に視界を奪われた状態でかわそうと思ってもかわしきれるものではなくシャイニングは負傷していく。
しかし、かわしきれないと悟ったギンガナムはその瞬間から射撃を無視し繰り出される斬撃を待った。
そして、グランチャーが周囲に姿を現したその刹那殴り飛ばすとその方角に向かって最大戦速で突貫していった。
砂塵を裂いて吹き飛ばされたグランチャーは体勢を立て直して砂漠に着地した。
そして、前方にソードエクステンションを突きつけギンガナムが追ってくるときを待つ。
ここで朽ち果てるわけにはいかない理由がジョシュアにはあった。
その思いを確認するように胸に手を当てて見る。いつしか自分の中に落ち着いてしまったもの――自分の中のラキが熱を帯びてくる気がした。
その熱がジョシュアとラキ、二人分のオーガニックエナジーをグランチャーに与え、つきつけた銃口はそれまでにない光をたたえていた。
砂塵の中に突撃してくるシャイニングの影が映る。
この一撃に全てを賭けてジョシュアは最後の引き金を引き絞った。
シャイニングガンダムを貫くはずだった光が霧散する。
そして、それは意外にも二人の脳裏から忘れ去られた一人の少女がもたらした。
ジョシュアが引き金を引き絞ったあの瞬間、グランチャーに通信を続けわめき続けていた少女の声色が不意に変わった。
「そうか・・・お前は・・・お前は違うのだな。オルファンの抗体となるべきものではないのだな!何故だ!グランチャー、何故こんな奴を乗せている。お前は私の子だろ!!」
グランチャーに激しい動揺が走り―――
「なっ、動かない!」
―――本来の主を目の前にしてジョシュアを拒絶する。
「シャアアアアアァァァァァァァァイニングッッッッッッッッッ!!!!!!!」
焦るジョシュアの心情とは裏腹に無情にもコックピットから映し出されている外の情景、その中の一つ光り輝く手のひらが見る間に大きくなっていく。
「フィンガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・!!!!!!!!」
やがてそれが視界いっぱいに広がりジョシュアはグランチャーの頭部がこの手に捕まったということを悟る。そして、同時に急速に迫ってくる死を身近に感じた。
シャイニングガンダムの光り輝く右腕のエネルギーが収縮しグランチャーの頭部を破壊する。その過程の最後の数瞬、
瞼の裏に映ったのはラキの笑顔―――
胸の内を占めたのはラキへの想い―――
負けられないっ―――
「動け!動いてくれグラン!!」
ジョシュアはあがいた。相手の声も、通信から流れる少女の声も耳には届かず一人コックピットでなおもあがき続ける。
そして次の瞬間、グランチャーは自らを掴んでいる右腕の肘から先を斬りおとした。
吊り上げられていた状態から自由になったグランチャーはその場に崩れ落ちる。
本体から切り離されたシャイニングの右腕はそれでもしぶとくグランチャーの頭部をつかみ続けていたが今のグランチャーにそれを振りほどく余力はなかった。
しかし、ヒットエンド直前までエネルギーを溜め込んだ腕は帯電している。
再び動いてはくれなくなったグランチャーの中、ジョシュアは自分でも驚くほど冷静な目でその腕を観察していた。逃げられないという判断を頭が下す。
心はあきらめるなと叫び体はあがき続けていたが頭野中はとても冷めたく静かだった。
それならばと思い。残された時間、ジョシュアはラキの中にある自分の想いが彼女の行く道を助けてくれること願った。
「ラキ・・・」
言葉にしようとしてそれも許さず、行き場をなくしたエネルギーが膨張して爆散し、同時にジョシュアの意識は途絶えた。
唐突にH-2地区に爆音が響き渡った。その地区の北東の端の一角に大破した赤い機体と薄桃色の機体がただずんでいる。
戦場に到達したアイビスが目にしたのは光り輝く右腕に吊り上げられ力なく垂れ下がるグランチャーの姿だった。
その瞬間、自棄にも似た気持ちは霧散し助けなきゃという気持ちがアイビスの全てを満たした。その思いが誰かの同じ思いと重なりブレンは跳躍する。
「グランチャー、その腕を切り落とせ!」
オープンチャンネルを介して知らない少女の声が聞こえてきたが気にもならなかった。が、次の瞬間シャイニングの右腕を切り落とすグランチャーが目に入った。
ほっとするのもつかの間、追撃をかけようとするシャイニングの目の前にブレンはジャンプアウトすると体当たりを仕掛ける。不意をつかれたシャイニングはあっけなく弾き飛ばされた。
そして、ただひたすら遠くへとだけ願ってグランチャーの腕を掴みブレンパワードは再び跳躍したのだった。
そして現在、大破したグランチャーを前に四肢に力なくへたり込んだアイビスは呆けていた。真っ白な頭は何も考えることができなければ、涙もわいてこなかった。
『ラキ・・・』
ただ最後に耳にした言葉、その言葉が脳内に残りただひたすらにその場から逃げ出したい思いに駆られているだけだった。
【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:クインシィ・グランチャー
(ブレンパワード)
パイロット状況:爆死
機体状況:大破(上半身が消失している)。右手のソードエクステンションは無事
現在位置:H-2北東部
備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】
【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
パイロット状況:茫然自失
機体状況:ブレンバー等武装未所持。手ぶら。機体は表面に微細な傷。バイタルジャンプによってEN1/4減少
現在位置:H-2北東部
第一行動方針:その場から逃げ出したい
最終行動方針:……どうしよう
備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】
【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
パイロット状態:良好
機体状態:無傷
現在位置:H-1
第一行動方針:戦いやすい相手・地形を探す
第二行動方針:敵を殺す
最終行動方針:ゲームに優勝】
【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真イーグル号(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:興奮、困惑、やや疲労
機体状態:ダメージ蓄積、
現在位置:B-1市街地上空
第一行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
第二行動方針:ガロードを問い詰める。場合によってはお仕置き
第三行動方針:勇の撃破(ユウはネリーブレンに乗っていると思っている)
最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】
【ガロード・ラン 搭乗機体:真ジャガー号(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
機体状態:ダメージ蓄積
現在位置:B-1市街地上空
第一行動方針:お姉さんを止める
第二行動方針:お姉さんに言い訳をする
最終行動方針:ティファの元に生還】
【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状態:気分高揚、絶好調である!(気力135)
機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、全身に軽度の損傷、ENほとんど空
現在位置:A-2北東部砂地
第一行動方針:倒すに値する武人を探す
最終行動方針:ゲームに優勝】
【神 隼人 搭乗機体:YF-19(マクロスプラス)
パイロット状況:良好(但し、激しい運動は危険)
機体状況:良好
現在位置:B-1市街地上空
第一行動方針:真ベアー号の確認
第二行動方針:クインシィとガロードの援護
第三行動方針:高高度からの、地上偵察。
第四行動方針:二人以上の組との合流(相手が一人の場合、少なくとも自分から接触する気はない)
最終行動方針:主催者を殺す
備考:まだ完全にクインシィとガロードを信用しているわけではありません】
【残り47人】
【時刻:17:45】
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