Scenario IF
――Opening――



どの世界でもない、どの時空でもない空間の果て……
あらゆる可能性を秘めた世界。あらゆるIFを持つ世界。
「新たな世界……失敗」「やり直しを……完全なる生命体……」「人間は……混沌」
「混沌ゆえに……完全なる命の源」「可能性」「やはり、人間は……」

「彼」の生み出した、限りなく地球に近い宇宙のフラスコで……

「彼」しか存在しえなかった世界に亀裂が音もなく走る。
純粋な世界に傾れ込む混沌の種。裂け目より現れるのは、50人のサンプル……いや生贄達。
彼らは、あるものは驚き、あるものは脅え、あるものはを押し黙っていた。
「ここはどこなんだ!?」
「なんだよ!?これ!」
「これは……アクシズ周辺ではないのか?」
「人の意思がまるで感じられない……」
「空気がある?宇宙には空気がないと聞いていたが……それにあの赤い結晶は?」
まるで統一性のない生贄達の動きを眺めていた「彼」は、それ以上監視の意味がないことを確認し、
存在を世界に顕現させた。
「混沌故に、純粋なる存在の可能性を……全能なる可能性を持つ……人間」
荘厳な、そして圧倒的な威圧感を持ち、声が響き渡る。
何もなかったはずの空間が白く圧縮され、円環より人知を嘲笑う、存在しえないような生物が顕現する。
顕現した「彼」……「アインスト・レジセイア」を見て、少なからず驚愕する生贄達。
植物のような触腕をもち、無機物のような光沢を持ち、骨格のような外皮を纏い、動物のような爪を携え
……人のように話す。
あらゆる生物の可能性を寄り合わせたような究極の生命体であり、
同時に、その進化の不均衡さにより膨張する体はどこまでも不完全で、「出来そこない」であった。
数百mの、あらゆる生物の進化を内包した巨躯が空間を震わせる。
「故に……」
――人間は、完全なる生命のアーキタイプ。
「故に……」
――でも、力は不安定で、脆くて……でも、時に「彼」をもしのぐ。
「故に!」
――そんな人間により、混沌の中生み出される力を知るために。
「混沌こそ法の世界……閉鎖世界で……ただ一人になるまで……」

水を打ったように沈黙する生贄達。
「次からは、こちらが説明しますの」
不意に、その場にそぐわない幼い声がした。
「今から、皆さんには、殺し合いをしてもらいますの」
どこからかわからないが、突然青い髪をした少女が「レジセイア」の前にいた。
「ルールは……これを……」
少女が指揮者のように腕を上げる。すると、空間の片隅にあった真紅の色をしたストーンサークルが砕け散った。
ぼんやりと蛍のように赤く光る細かい石が、少女の腕に合わせて、上下のない世界で踊る。
そして……
『!!』
一度、また一箇所に集まったかと思うと、生贄達全員の首に向かって拡散、ぶつかった。
しかし、彼らに怪我はない。代わりに、首には真紅の首輪がはめられていた。
同時に、生贄達に膨大な知識が流れ込んでいく。
「マシンの操縦方法から、殺し合いのルールまで、全て圧縮しておきました……ですから、分かると思いますの。マシンは……」
「ちょっと待ってお嬢ちゃん!いったいどうしたって言うの!?」
金髪の女性が、少女に話し掛けた。他の者は静寂を保っている。
「エクセレン……それにキョウスケ。お久しぶりですの」
「答えになってないぞ、アルフィミィ。女王蜂は、俺たちが倒したはずだ。それに、お前は何ををしている?」
続いて、おそらく察するに「キョウスケ」と呼ばれた男が呼びかけた。
「私たちは……思念体の一部。思念体のそのものはこちら側にありますので……」
「『私たち』、か。お前はもう操り人形じゃなくなったはずだ。違ったのか……!?」
語気を強くして、「キョウスケ」は「アルフィミィ」に言う。
「私は……不完全で、ペルゼインの一部。でも今は違う。独立して存在できるようになりましたですの」
「答えろ!アルフィミィ!」
「お嬢ちゃん!」
2人が呼びかけるが、もうアルフィミィは何も言わない。
彼女が空に円を書くと、今度は大小違う赤い球が生贄の前に現れる。
「その球に触れてくださいですの。中には渡すものが全て入っています」
しかし、誰も入ろうとしない。疑って用心するもの、まだ戸惑っているもの、様々だ。


「だから答えて!お嬢ちゃん!」
相変わらず「エクセレン」が呼ぶ。すると、少し目を伏せてポツリと、
「もう、レジセイアは貴方達を必要としていない。ですから、終わりです。もう赤い球に入ってください」
「そんな!そんな理由わかるわけないじゃない!だってあなたは……」
「お願いです……」
小声で「エクセレン」の声を遮るようにこぼすが、彼女は話しつづけた。
「『もう一人の私』なんだから!そっちにいないでこっちにきて……」
「レジセイア」の手が急に輝くいた。すると
ポン
軽い音と共に、首輪がはじけた。煙も上げず、音だけのような爆発を残し……彼女は首を永遠に失った。
もう、何も喋ることはない。
「エクセ……レン?」
うわごとのようにキョウスケが言った。
「これ以上、手間はかけたく……ありませんので……レジセイアが……手を下しました……急いで球に入ってください……」
震えるような声でアルフィミィが言うと、彼女は指を動かした。すると、キョウスケの体は赤い球にぶつかり、
吸い込まれていく。
「他の人も……早く……」
その声に促され、次々と触れては中に入り、どこかへと転移していく。
残されるのは……誰かの泣きじゃくる声だけだった。