Scenario IF 10話  「流星の決意」  136


 アイビスは目の前の青年について思考していた。この状況下でよくこんな冷静になれるものだと感心し、見習うべきだなぁと一人苦笑する。
(だから私はダメなんだな…)
 過去…もう取り戻せないかも知れない生活。辛いこともたくさんあったけれどそれ以上に充足していた。ツグミ…スレイ…そして…
「フィリオ…」
 思わず口にしてしまったことの気恥ずかしさからかうつむいてしまう。もう、あの人はいないというのに。聞こえ…ちゃった?
「フィリオ?…そっか、アイビスさんにもいるんだよな、大事な人が」
 ばっちり聞かれていた。照れのためか少し棘のある口調。
「…あんたには関係ないよ。そんなんじゃないんだからね、あの人は。それから”さん”はいらないよ。ジョシュアさんのが年上でしょ?多分」
「いや、俺は老けて見えるらしいからね。」
 実際の年齢を聞いてみたところ。
 驚いた。まさか年下なんて…!この青年は一体どんな生活をしてきたのだ?
「まあ人より苦労はしてきたって自覚はあるかな。それでもこの性格は生まれつきだろうけどね」
 そういって笑うその顔には、なるほど少年の面影も残っている。
「それより俺はさっきの人のことが気になるな。話しちゃくれないのかい?」
「え…そんないきなり蒸し返さないでよ。」
 相手が年下とわかったからか幾分物腰が柔らかくなった。だからといっていきなりこんなに突っ込んだ質問をされても答えようがないだろう。その旨を伝える。
「まぁそれもそうだな。いきなり聞いて悪かったよ。すまなかったな」
 沈黙が二人を包む。両方とも無言のまま食事を口へ運ぶ。
(うーん…なんか気まずくなっちゃったなぁ…)
 年長者なのだから、という思いから会話のネタを探すアイビス。
(ツグミ達とは何話してたっけ?…甘いもの…とか食べそうに見えないしぃ…うむむ)


 あっそうだ!
「「あのさ…」」
 タイミングばっちり…あっちゃー。

「そっちからどうぞ。俺のはあとでいい」
「あ…んじゃ。さっきあんなこと言っちゃったけど…その、ジョシュアにはさ、いたりする?…大切な、人ってのはさ」
 うーん、先を譲ってもらったのにイマイチすぎるよう…えーん。
「…うん、実は俺もそれを話そうと思ってたんだ」
 …へ?意外な答えにこけちゃいそうになったんだけど?
「早めに言っておこうと考えてたんだけどな。…その、俺の大切な人ってのが、ここにいる。プレイヤーとして」
「ちょ、ちょっと待ってよ、それって…そんなことって、ない…」
「でも事実だ。そしておれはラキを助ける。それは知っててほしかった。だから話した。
 ラキ…グラキエースっていうんだ。水色の髪をしていてな、多少…うん多少ずれた性格を…」
「ちょっと待ってよ!なんでそんな冷静にあたしに話せるの!?」
 アイビスには信じられなかった。もしこの場にツグミ達も呼ばれていたらと考えると…ぞっとする。
「今話しておかないといつになるか分からなかった。すぐに探しに行くつもりだったからな。アイビスにも付き合ってもらうつもりだ」
「そんなのあたしなんかが聞いていい話じゃないよ。ジョシュアには付き合うけどさ」
「聞いてくれ。このゲーム…やる気になっている者も少なくないだろう。
 そうじゃなくてもさっきのアイビスみたいに襲われる前にやってしまえば、なんてのもいるさ」
「あ…ごめん。あたし…なんてこと…」
「ん…過ぎたことだ。気にするなよ。それよりこれからだ、大事なのは。
 これから先、どうしても他のプレイヤーと接触する必要がある。もしやる気の奴等に会えば無傷ではすまないだろう。
 …最悪、ってのもある。だから俺に何かあったとき、ラキに伝えて欲しい。俺は…」
「はいストーップ、そこから先は、ジョシュアが自分で、だよ」
「…ありがとう。そうだよな、いきなりこんなこと頼むなんて俺もどうかしてたよ。それじゃあ早いところ探しに行きたいんだけど?」
「OK。行きましょうか。あのさ最後に一つだけ聞いていい?その人との馴れ初め…とか」
「それは話すと長くなるんだけどな。ふふ、最初はな、敵同士だったんだ。だけどまぁ色々あって…そういうこと。んじゃ今度こそ行くか」
 そう言うとジョシュアは立ち上がり機体の方へ歩いていった。
「敵同士…だった…でも今は…」
 脳裏に浮かぶかつての仲間、現在の…敵?
(ううん違う。やっぱり今でも私の仲間だよ、スレイ…)
 ナンバー1。超えるべき壁。…あの人の、妹…彼女、スレイ・プレスティ。
(必ず帰る。だからもう一度一緒に夢を見よう?)
 彼女ならこのゲーム、何をしてでも勝ち抜こうとするだろう。
 しかしアイビスはそんな風に割り切ることは出来なかった。
 ジョシュア達と共に…このゲームから、脱出する。まだ方法も何もわからない。だけどこれだけはわかる。
 あたしは人を犠牲にして生き残るなんて、そんなことは出来ない。
(スレイ…きっと馬鹿にするだろうな。やはりお前は甘いな、負け犬め!…なんて)
 それでもあたしはいい。きっと生きて帰って誤解を解いてみせる。
 アイビスは新たな決意を胸に立ち上がった。



【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:良好
 機体状況:ブレンバー等武装未所持。手ぶら。機体は無傷。
 現在位置:B-3
 第一行動方針:ラキを探す
 最終行動方針:ゲームから脱出】


【アイビス・ダグラス 搭乗機体:クインシィ・グランチャー (ブレンパワード)
 パイロット状況:良好
 機体状況:無傷。
 現在位置:B-3
 第一行動方針:ジョシュアについていく
 最終行動方針:元の世界へ帰る】

【時刻:13:50】