Scenario IF 12話(42話 another side)  「貫く、意地」  ◆a1WpzCXC9g


木々をなぎ倒しがら森を駆け抜ける黒い竜巻の姿があった。
その名はブラックゲッター、幾多ものゲッター線の可能性の中から生まれた攻撃力に特化した機体である。
その能力は1対1の戦いならこのロワイアルの中でも五指に入るだろう。
無論、パイロットが使いこなしていればの話だが。

そしてそのパイロット、バーナード・ワイズマンは酷く焦っていた。
先程攻撃を仕掛けたガンダムがあれほどまでの攻撃力を有していたことは計算違いだった。
端から新兵同然の自分にあのガンダムが倒せるとは思ってはいなかったが、手傷一つ負わせることすらできないとは。
それどころか防御の要であるマントを失ってしっぽを巻いて逃げる始末だ。
きっとあのガンダムはすぐに自分を追ってくるだろう。
何をしに。勿論、とどめを刺しに、だ。
未だブラックゲッターを使いこなせていない今、自分に勝てる見込みはあまりに少なすぎる。
ミサイルの群れに爆散するブラックゲッターと自分の姿を想像して、バーニィは汗の滲む手で操縦桿を握りなおした。

「ちくしょう!ちくしょう!」

恐怖、そして強力な力を得ながらも、それを使いこなせない自分への歯がゆさにバーニィは更に機体を加速させた。
最大速度のゲッターは音の壁すら越える。
並みのMSなら到底追いつくことも叶わないのだが、今のバーニィにそのことに気づける余裕はなかった。
そしてその焦りなど無視するかのように、センサーが新たな敵機を捉えた。
アラームに一瞬びくりとしたバーニィだったが、すぐに気を引き締めてセンサーが敵機を示す位置へと方向転換する。

「やってやる!やるんだ!このブラックゲッターで!」


そして森を抜けてしばらく、ついに敵機を肉眼で捕らえられる距離まで接近した。

「……なんだ、こいつ……?」

ずんぐりとした黒い体にまるで蛙のようなヘッドライト。
一応人型ではあるが、恐らく三頭身もないだろう。
それはまるで出来損ないのモビルアーマーか、初期型モビルスーツ、いわゆるモビルワーカーのようにも見えた。
背中に羽のようなものがついているが、果たしてまともな戦闘などできるのだろうか?もしかしてこれ、単なる作業用ロボなんじゃないか……?

「は……ははっ!」

様々な疑問が頭をかけめぐるが、あのガンダムと違って強力な武装を施している様子もない。
何にせよツイてる。

「悪く思うなよ……!」

言う終わるより早くブラックゲッターの腹部から無数のゲッタービームが走り大地を焦がす。
蛙のような機体はそれを辛くも回避したようだが、スピードは圧倒的にこちらの方が上回っている。
現に続くこちらの攻撃からも逃げ回っているばかりで、反撃する気配はまったく感じられない。
今度こそ勝てる、バーニィは勝利を確信した。




「ええい!この!このぉ!」

そして戦闘が始まって数十分もしただろうか、バーニィは再び焦りを感じていた。
こちらの攻撃が全く当たらない。

「いい加減にぃ!落ちろよぉぉぉ!」

速度はこちらの方が上回っているというのに、全て紙一重で回避されているのだ。
それはまるで無駄のないダンスのように。

これ以上はエネルギーの無駄使いだと判断し、トマホークを両手に携えて接近戦を試みる。
が、まるで嵐のように振り回される二つの斧もまるで踊るように回避されてしまう。
観客のいない舞踏場で鋼鉄のダンスパーティーはまだまだ続く。



新兵のダンスだな。まるでなっちゃいない。

覚醒人一号のパイロット、キョウスケ・ナンブは敵パイロットを心の中で酷評した。
動きが直線的すぎる上に、機体がパイロットを操っている感すらある。
あれでは折角の機体が泣くというものだろう。
いきなり攻撃をしかけてきたときはどんな血に飢えた獣かと警戒したのだが、正直拍子抜けしてしまった。
だがまあ、

(折角の機会だ。試運転に付き合ってもらうぞ)

そう判断し、決して反撃することなく、回避運動のみに徹している。
戦闘開始から20分は経っただろうか。
フル稼働で機体を動かしているお陰で大まかなコツはマスターした。
操縦方法はシンプルに自分の意識が投影されるフィードバックシステムのようなものを使っているらしい。
付属していたマニュアルにはもっと細かな詳細が載っていたのだが、専門用語が多すぎたので途中で投げ出してしまった。
そして最大の特徴といえば、背中に装備されたブースターである。
これは飛行能力を与えてくれるだけではなく、エネルギーの精製装置も兼ねているそうだ。
つまり、移動だけなら無限に稼動することも可能ということである。
しかし、流石に連続フル稼働には耐えられないのか、エネルギーゲージはイエローゾーンに入ろうとしていた。
キョウスケとしてもこのまま逃げ終わっているつもりはない。

「……そろそろ仕掛けるか……。ブレイク・シンセサイズ!」

キーワード『ブレイク・シンセサイズ』により覚醒人一号は周囲の環境および敵機をスキャニング、その場に最適な化学物質を合成する。
覚醒人一号は敵機を覆う金属が特殊なものであることを理解した。
瞬時に大気中の物質を吸収し、強酸性物質を合成する。
常にベターな選択で戦う、これが覚醒人一号をニューロノイドたらしめている特徴でもある。
そしてそれらの情報はすべてキョウスケ自身にも伝わっていた。

(いけるか……!?)

そう判断したキョウスケは更にブーストして一気に黒い機体に迫る。
ブラックゲッターがトマホークをブーメランのように投擲するが、両足のローラーを逆回転させて回るように回避。

「な!?」

「Gセット!」

そしてキーワード『Gセット』により弾丸は右腕に装填された。
パイロットは状況が把握できていないのか間抜けな声をあげた。
キョウスケはそれに構うことなく右腕を腹部へとぴたりと寄せる。

「貫け。シナプス弾撃……!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

凄まじい衝撃がバーニィを襲う。
そして、目の前が真っ暗になって、彼の意識はここで途絶えた。




「……俺を甘いと笑うか、エクセレン」

キョウスケの前には右腕が溶けたようになくなっているブラックゲッターが鎮座している。
あの時、咄嗟に狙いをわずかに外し、右腕を狙ったのだ。
どうやらパイロットは衝撃で気絶しているのか、こちらの通信に応じる気配はない。
だが生きていることには間違いなさそうだ。

(念のために殺しておこうか)

そんな考えが脳裏を過ぎるが、そのまま放置していくことにした。
どのみち、この腕で生き残ることは難しいだろう。
ひとまずブラックゲッターは犬のマーキングの後始末よろしく、四つん這いになって後ろ足で土を跳ね上げ、地中に隠していくことにした。
ここまでしてやる義理はないのだが、まあいいだろう。

キョウスケはこのゲームを戦い抜くと決めた。
だがそれは、優勝するために殺戮者になるという意味ではない。
優勝してエクセレンを生き返らせる、そのことを考えなかった訳ではないが、考える価値もない。
ゲームに乗った連中には悪いが死んでもらうが、飽くまでも狙いは主催者打倒ただ一点。まずは仲間を集めよう。
特にあの男―――ネゴシエイターと呼ばれていたあの黒づくめの男だ。
彼がこんな馬鹿げたゲームに乗るような人間でないことは、あの場にいた誰もが知っているだろう。
あのネゴシエイターと接触しよう、そう決めたキョウスケは戦場の跡地から離れることにした。

アルフィミィ、もしお前がまた元の操り人形に戻ってしまったというなら、全力で止めてみせる。

それはきっとエクセレンの意思でもある。
今はなき彼女の意思が、彼女と最も一緒にいたキョウスケにはわかる気がした。

だが安心してくれエクセレン、全てが終わったら俺はお前の所へいく。
だから、それまで待っていてほしい。

「貫かせてもらうぞ、俺の意地を」

本当にキョウスケってば不器用ねえ。
そんな風に傍らでエクセレンが笑っていてくれる気がした。


【キョウスケ・ナンブ (スーパーロボット大戦IMPACT)
 搭乗機体:覚醒人一号 (グリアノイド装備) (ベターマン)
 パイロット状況:良好
 機体状況:EN残存量少、徐々に回復中
 現在位置:E-5から移動
 第一行動方針:ネゴシエイターと接触する
 第二行動方針:信頼できる仲間を集める
 最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)】


【バーナード・ワイズマン(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)
 搭乗機体:ブラックゲッター(真(チェンジ!)ゲッターロボ 地球最後の日)
 パイロット状況:気絶
 現在位置:E-5(地中に埋もれている。起動していないのでセンサーでも発見しにくい)
 機体状態:右腕融解、マント損失
 第一行動方針:ブラックゲッターを使いこなす
 最終行動方針:優勝する】


【初日 15:30】