Scenario IF 13話 「狩」 ◆T0SWefbzRc
獲物は二匹。共に機体の動きがぎこちなく、如何にも馴れてないのが目に取れる。
機体の性能は未知数だが、中の人間があれならば問題はないだろう。しかし。
「何の冗談だ。あの小さいのは兎も角、あんなもんが空から降りてくるってのは」
立ち並ぶ岩山の梺に立つ巨大な白い機体。その影に隠れるように青い戦闘機。二機の機体が、そこには停留していた。
「移動しながら話せれば良かったんだろうけど、私、操縦に不馴れで。
機体の性能が良すぎて逆に手に負えないんです」
「ううん。私だって空を飛ぶ乗り物なんて動かしたことなかったし。それより良かった」
「何がですか?」
「最初に会った人が優しそうな人で」
最初に会った人。私が『ここ』に来て最初に会った人は…。
頭に浮かんだその姿を、黒髪の少女、カティア・グリニャールは胸の奥にしまいこんだ。
「私も良かった。ここであなたのような子に会えて」
死んだ人間の事を持ち出しても徒に不安を煽るだけ。
ましてやそれが自分達と同じくらいの少女というなら、尚更に。
注意を促す為にはいつかは話した方がいいんだろうけど、それは今じゃない。
出来る限り相手の少女を安心させてあげられるように笑顔を作り、カティアは言葉を続けた。
「ソシエさん、でいいんですよね」
「ソシエ、って呼び捨てでいいわ。アナタの方が年上みたいなのに、何か変だもの。その敬語も」
「じゃあ、ソシエ」
「うん。カティア」
こんな簡単な事でも、モニターの向こうの栗毛のショートカットの少女は嬉しそうに笑っている。
あの少女も、生きていればきっと。
「本当は機体から降りて話しが出来ればいいんだけど」
「しょうがないよ。他に誰かいるならいいけど、私達だけじゃ降りちゃったらもしもの時心許ないし」
「そうね」
「そんな顔しないでよ」
言われて気付く。相手を安心させようと笑いかけたのに、こんな些細なことでそれを崩してしまっている自分に。
「ほら、建物も近いんだし。きっと、あそこに行けば他にも人がいるよ」
それどころか、逆にソシエに励まされていた。
「ふふ、ありがと。私の方がお姉さんなのにね」
「え、何?」
「貴方に会えて良かったってコト。」
「それ、さっきも聞いたよ」
「ええ、そうね」
どうやら、動くらしい。何故かここでは索敵機器が碌に働いていない。
自分の仕事くらいキチッとしろってんだ。機械に言っても仕方の無い事だが。
うまく岩山に隠れればあんな連中やりすごすのは訳ないが…。
「それじゃあ面白くねぇな。一丁仕掛けるか」
言いながら、このゲームの中の殺戮者、ガウルンは岩山から飛び出した。
『チッ、ウマくねぇな』
辛うじて繋げた通信の向こうで、下打ちが聞こえた。
「いきなり、なんで!」
なんで?そんな事は解っている。
モニターに映る男の、心肝が冷えるようなドス黒い眼。
『なんでって、そんなモン』
男の乗っている、黒い機体の足が地面をえぐる。
まるで消えたように見える程の突進。
「クッ!」
カティアは相手の姿を確認するより早く、機体を変形させる。
『みりゃあ分かるだろうがぁぁ!!』
叫びとともに暗い影を引き連れ現れた悪魔は、ボーゲルの背後から手刀を振り下ろした。
「きゃっ!?」
『おっ!?』
しかし、それは空を切っただけだった。
戦闘機から手足が生え、奇妙に足間接が逆向きになっている状態、ガウォークモード。
カティアが変形させたその形態がホバー機能で地面を滑るように急発進しため、ガウルンの攻撃を運良く避けられたのだ。
「うっ、く…!」
なんとか変形は出来たが、それを操縦出来るかは別の話だ。
ましてや彼女は単独で機動兵器を動かした事は無い。
訳の分からないまま、フラフラと岩山から離れていく。
『なんだそりゃ、面白れぇな』
薄ら寒く笑うその姿を見て、これ以上無意味とカティアは男との通信を切った。
『カティア?』
刹那、ソシエとの通信が繋がった。
「ソシエ!大丈夫!?」
なんとか機体の操縦を持ち直し、大きく旋回させながら話を続ける。
『分からない、何なの!?』
少し前、岩山か突然飛来した黒い弾丸(言うまでもなく、跳躍しブースターを全開に噴かしたマスターガンダムである)が、ソシエのドスハードを貫いた。
そして、そのままボーゲルの方に向き直り、先の通信に入ったのだった。
「落ち着いて、大丈夫だから…」
視界の端に映る黒い影。カティアは操縦竿をデタラメに動かし、機体を無理矢理方向転換させる。
巨大な足が、尾翼をかすめて空を切った。
『カティア!!』
「大丈夫よ、心配しないで」
ソシエとの距離も稼げた。
このまま、機体を戦闘機形態、ファイターモードに移行させれば離脱出来るはず…!
カティアはそう考え、操縦系に手を掛けた。
「おいおい、そう何度も外すと思ってんのか…」
男の声が聞こえた。通信は切ってあるから、おそらくオープンチャンネルで拡声しているのだろう。
「よォ!!」
「きゃあ!?」
耳障りな金属音が鳴り響き、機体が激しく揺れる。
「クク、つーかまーえ…」
「カティアァァーッッ!」
突然、地面に陰が落ちた。
「ソシエ!!」
「わあぁぁ!!」
ホワイトドールが上方から急降下し、ドスサーベルを突き下ろす。
「ちぃっ…!!」
ただのサーベルとはいえ、機体の体長差が二倍以上あるので当たれば致命傷は免れない。
男の機体は手を離し、大きく後ろに飛び退いた。
「今っ!」
カティアはそのままホワイトドールの急上昇に転じるのを確認するとともに、ガウォークを発進させた。
「よし!」
速度は充分。後はファイターモードに移行して…。
「きゃあっ!?」
機体が、突然ガクンと揺れた。
「捕まえたって、言ったろォ?」
機体後部を見ると、巨大な手が有った。
指の先端の、尖った爪のような部分が食い込み、ガッチリと掴まれている。
「ディスタントォ!クラッシャー、てかあぁぁぁ!!!」
男は腕から伸びる紐状のビームを思い切り引っ張り、ボーゲルをたぐり寄せる。
「カティア!」
それを見て、ソシエは再び降下しようとした。が。
『駄目っ!!逃げて!!』
それをカティアが制した。
『大丈夫、逃げるくらいなら私だってなんとか出来るから、行って!!』
「そんなこと…」
話す間に、黒い機体にボーゲルは引っ張られて行く。
どうしよう?どうしよう?どうする?どうしよう?どうしようどうしようどうしようどうしよう?
『逃げなさい、ソシエ!!』
夢中でホワイトドールを飛ばしていた。
気が付いた頃には太陽が地平に飲み込まれそうなくらいに沈んでた。
「なんで…」
なんで逃げてしまったのだろう。カティアを置いて。
立ち並ぶ建物、きれいに伸びた、石の道。
最初の予定通りの場所には辿り着けた。
「カティア?カティア…?」
当然、返事など返ってこない。
「ロラン?お姉様、ギャバン?」
そもそも居るはずもない。
「ねえ、誰か…」
暗くなってきた市街地を、片腕が欠けた白い巨人はただただうろつき続けるだけだった。
【カティア・グリニャール 搭乗機体:VF22S・Sボーゲル2F(マクロス7)
パイロット状況:不明
機体状況:不明
現在位置:D-6
第一行動方針:ガウルンからの逃走
第二行動方針:仲間を集める
第三行動方針:統夜、テニア、メルアを見つける
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソシエ・ハイム 搭乗機体:機鋼戦士ドスハード(戦国魔神ゴーショーグン)
パイロット状況:茫然
機体状況:左腕を欠損、運用には支障なし
現在位置:D-7
第一行動方針:カティアの救出
第二行動方針:仲間を集める
最終行動方針:主催者を倒す】
【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状況:癌によりかなりの体調不良。やる気は十分。病状はなんとか戦闘可能な程度には落ち着いている。
機体状況:全身に弾痕あり。装甲がへこんだ程度なので戦闘は支障無し。DG細胞があるかは不明だが、現在は活動していない様子。
現在位置:D-6
第一行動方針:カティアをどうするか決める
第二行動方針:近くにいる敵機を攻撃
最終行動方針:皆殺し】
※カティアがどうなったのかは次の作者さんお願いします。