Scenario IF 26話  「白刃演武 」  ◆7vhi1CrLM6



 殺し合いの為にあつらえられた会場、その南東の端H-8の小島で一つの機体が落ち込んでいた。
 膝を屈し手を付くそのさまは分かりやすく説明するとちょうど『orz』こんな感じである。
 モビルトレースシステムを採用しているその機体にとって機体の姿勢は搭乗者の姿勢を現す。
 つまり獲物を逃したギム=ギンガナムは、くどいようだが今現在まさしく『orz』な感じであった。
 そのような玩具を取り上げられた子供のような状態のギンガナムであったが、レーダーに光点が灯るや否や跳ね起き、目を純真無垢な子供のように輝かせる。
 テンションが急上昇していくその様は例えるならば『遠足の朝の子供』といったところか。
 そして、はやる心を抑えきれないかの如く上空の機体に通信を繋げた。
「我が名はギム=ギンガナム、一つ手合わせ願おうか」
 剥き出しのある意味純真な敵意を向け、大きく飛び上がり航路に侵入。挑むように腰からビームソードを引き抜き構えた。
「名乗られたからには答えよう。私の名はレオナルド=メディル=ブンドル。だがあいにく君に構っている暇は持ち合わせてはいない。悪いが押し通らせていただく」
 高速で迫る影が人型に転じ、西洋風の剣を抜き放つ。
 振りあげられた刃が煌き、高速で叩きつけられた刃を受けて火花が舞う。百舌鳥の鳴き声のような音が散った。
 剣と刀の鍔迫り合い。最大戦速で突撃してきた強烈な一撃を受けて機体は南へ南へと強く押し流されていく。
「クク……」
 笑いが込み上げてくる。躊躇のない踏み込み、太刀筋の鋭さ、撃ちこみの激しさ、どれ一つをとっても並の兵ではない。
 ――愉快だ。心の底から愉快だ。
 シャイニングのブースターが唸りを上げる。出力が上昇していく。
 荒獅子の如く展開される冷却装置。さらに出力があがり、二機の南下が止まった。
 せめぎ合い。互いのブースターの起こす燐光が闇夜に青白く浮かび上がる。
 増大していく出力。あおりを受けた湖面が飛沫をあげすり鉢状にへこんでいく。
 唐突にサイバスターの腕が動きを変え受け流された。支えを失った体が崩れ、凄まじい勢いで前に流れる。
 減速し体勢を整えようとした瞬間、背中にヒヤリとしたものを感じて逆に加速した。
 切っ先が装甲に触れてガリガリと耳障りな音を立て、肌の薄皮一枚切られたような僅かな痛みが走った。
「ハハハハハ!! それでいい。もっと貴様の力を見せてみろ」


 息に乱れはない。
 僅か数合の立ち合いで理解したのは敵機の異常なまでの柔軟性。その動きは起動兵器の基本フレーム、及び操縦性に制限されたものとは異なる。
 普通ではほとんど獲得できないような人体の動きを手に入れている。同時に微細な再現する必要のない動き――ちょっとした癖やしぐさのようなものまで表現しきっている。
 そこから導き出されるのは、体の動きをそのままトレースするシステム、もしくは脳波から直接信号を受信し体を動かす感覚で機体を制御するシステムが使われているということ。
 とすれば、これは生身の人間と立ち会っていると考えたほうがしっくりとくる。
 切っ先が動き、頭を狙って放たれた一太刀を難なく受け止める。
 巨細漏らさず搭乗者の動きを再現する機体。呼吸の動きまで見てとれるそれを相手に拍子を読むことなど実に他安い。
 相手の技量が低いわけではないが、剣の腕に格段の差があった。
 だが、一撃が予想外に重い。相手を遙かに上回る大きさのサイバスターが力に押され徐々に沈んでいく。
 耐えかねて刃を反らして受け流し、ぱっと退いた。退き際に籠手を打つ早業。だが浅い。
 一つ大きく長く息を継ぎ、心を落ち着ける。

 『剣術に許さぬ所三つあり、一は向うの起こり頭――』

 判明したことが一つ。正眼から太刀を振り上げ振り下ろすときにわずかに体が開くということ。
 ――先を抑え、そこを狙う。
 ギンガナムの切っ先が動き跳ね上がる。
 振りかぶった白刃が振り下ろされるその懐に一陣の風の如く踏み込む。
 その踏み込みはまさに一刀一足、いささかの猜疑心も持ち合わせていない突き。
 伝わってくるのは敵の装甲を貫く感触、耳にするのは金属のこすれあう音。

 ――しくじった。

 深々と突き刺した刃は狙った胸部の僅かに左、貫いたのは右肩。慣れない機体と直感的に動かせる機体、その差が現れた結果である。
 抉るように動かし刃の向きを変え切っ先に力を込める。

 『二は向うの受け留めたる所――』

 耳に獣のような咆哮が届き、重い衝撃が伝わり、装甲が悲鳴をあげる。肩で弾かれ体が崩れる。
 透かさずに繰り出された太刀が迫ってくる。ブースターを最大稼働。身をさがらせることによって回避を試みる。
 ギンガナムが踏み込み。腕の腱が伸びる。

 『三は向うの尽きたる所なり、この三つはいずれも遁すべからず』

 そして、腱が伸び切る。踏み込みもこれ以上は体を損ね意味はない。ビームソードの出力も想定済み。
 それを統べて見極め再度踏み込み、攻勢に転じようとして目を疑った。

 ――馬鹿な!

 切っ先が伸び、差し迫ってくる。あり得ることではなかった。
「ハハハハハハハ、見事だ。貴様を我が敵と認めよう。最大の敬意を払い、全力を尽くし、その首をいただく」
 中ほどまで刀身が突き刺さる。コックピットの桃色の粒子が差し込まれ、まるでオーブンの中に閉じ込められているかのような高温に晒される。
 咄嗟に相手の太刀を跳ね上げ蒸発は免れたが、焼け焦げた肉の匂いがコックピットに充満し吐き気を覚えた。焼き蒸された体から汗がとめどなく流れ、視界が霞む。
 その視界でブンドルは確認した相手の刀身は伸びていた。いや、輝く左手に握られたそれは刀というには余りに粗暴な姿に変わっている――実に美しくない。
「どうした? 先を急いでいるのではなかったのかな?」
 厭味の利いた上から人を圧するような物言い――実に美しくない。
 しかし、その純粋に戦いを欲する精神。求道者のそれに近いその心だけは美しいと評価しよう。
 だが、いかに洗練され完結した美しさもった芸術品でも場を違え、調和を乱せばその美しさを損ねる。
 目の前の男はまさにそれであった。この場にこの男は危険すぎる。
「君の如き危険人物を野放しておくわけにもゆくまい」
 かくして二機は再び相対し、互いの存在を賭けてぶつかりあう。


【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状態:テンション上昇中(気力130)
機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、右肩に穴、全身に軽度の損傷
現在位置:H-8
第一行動方針:ブンドルを倒す
第二行動方針:倒すに値する武人を探す
第三行動方針:アイビス=ブレンを探し出して再戦する
最終行動方針:ゲームに優勝
備考:ジョシュアの名前をアイビス=ブレンだと思い込んでいる】

【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
パイロット状態:火傷、主催者に対する怒り
機体状態:コックピットに周辺に損傷、ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能
現在位置:H-8
第一行動方針:ギンガナムを倒す
第二行動方針:A-1に向かい、技術者をはじめとする一般人を保護する
第三行動方針:基地の確保のち首輪の解除
最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ】

【初日20:40】