5話  「月の戦神と黄金の指」  ◆IA.LhiwF3Aさん


 A−8。球体のように端と端が密接しあうこの世界の地形にとっては不適切な表現かもしれないが、地図上では最南西に位置するその場所。
 幾重にも連なる荒涼の山並み。その中において、一際高く聳え立つ山の頂に、その機体は堂々たる様子で腕を組み佇んでいた。
 モビルトレースシステムと呼ばれる、操縦者の動きをダイレクトに機体へと伝えるという特殊な操縦方法によって動かされるその機体の名は、
 ガンダムファイト第13回大会におけるネオジャパン代表MF、大会登録番号GF13-017NJ――シャイニングガンダム。
「ふん、中々面白い乗り物じゃあないか。『地に足が着いている』とはよく言ったものだな?」
 漆黒のファイティングスーツに身を包んだギム=ギンガナムは、コックピットの中、組んでいた腕を解き軽々と跳躍した。機体もそれに倣う。
 山から山へ、一切のバランスを崩すことなく飛び移る機体。着地のたびに、重力を乗せた両足が山脈を震わせ、間接部分が撓る。
 が、熾烈な格闘戦を想定して設計された機体は、この程度の移動で悲鳴を上げはしない。
 武人と呼ばれた男、ギンガナムにおいてもそれは同様である。2500年もの時を渡り演習を繰り返してきた部門の家柄は、伊達ではない。
 やがて連峰は途切れ、広がるのは雄大に生い茂った草野原。A−7へと移行したことになる。
 跳び上がった機体の勢いをブースターなりで殺すこともせず、ギンガナムの駆るシャイニングガンダムはそこに降り立った。
 大地が一層荒々しく揺れを起こし、急降下によって生じた突風が機体の周囲を吹き荒れて、繁茂する緑を大きく靡かせる。
 機械の巨人は着地の際に折り曲げていた膝を上げて、仁王立ちの格好でその場に停止した。
 当然コックピットの中のギンガナムも、シャイニングガンダムと寸分違わぬ仁王立ちの状態である。そのままの体勢で、彼は高笑いを上げた。
「ふはははははっ! こいつはいい、黒歴史の中で拝見させてもらった時から目に掛けてはいたが、このマシンは小生によく馴染んでくれる!」
 黒歴史。人々が闘争本能の赴くままに繰り返した戦乱の歴史において登場したこの機械人形のことを、ギンガナムはよく知っている。
 何しろ、自身の愛機であるターンXの武装、溶断破砕マニピュレーターに対して、
 元々はシャイニングガンダムの必殺技である『シャイニングフィンガー』の愛称を与えたのは、他でもない彼自身なのだから。
 実際のところ、ギンガナムの身体能力は本来のMFを駆るパイロット、ガンダムファイター達のそれと比べれば明らかに劣ってはいたが――
 侍の気骨を持つ男とネオジャパン製MF。その二つは、能力や適正を取り払った何らかの領域において、惹かれあうところがあったのだろう。
「ノイ=レジセイアとかいったか、あの声は。要は戦をやれと言うのだろう?
 その要求に応じてやるのも、よかろう――闘争によって人は突き動かされるのだからな!
 シャイニングガンダムとギム=ギンガナムが、黒歴史に代わり万人に示してくれる! 人のあるべき姿というものをなぁ!!」
 我が世の春――戦乱に満ちた情景を待ち望んでいたギンガナムにとって、このゲームは願ってもない絶好の機会。
 真のシャイニングフィンガーをも手に入れて、至極満ち足りた戦闘神が今、動き出す。


【ギム=ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:絶好調である。
 機体状況:異常なし
 現在位置:A-7
 第一行動方針:参加者を見つけ次第闘いを挑む】

【時刻:14:00】


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