55話 「迷いの行く先」 ◆vQm.UvVUE.
ニコルのために葬送曲。
(だけど、それがどうしたって言うんだ!)
ニコルの死を悼んで、悲しんで、それでニコルが生き返るわけでもない。
だからといってキラを殺す事にも意味はない。
一体なにが悪かったのか。
ニコルを殺したキラが悪かったのか。
キラにやられそうになった自分の弱さが悪かったのか。
自分を助けようとしたニコルの優しさが悪かったのか。
戦争という状況が悪かったのか。
その全てなのだろう。
ニコルは優しかったから死んだ。
戦場でその優しさが正しくないのだったら、ここでも同じ論理が通ずるはずだ。
目の前で馬鹿みたいに歌ってる奴をまず殺せばいい。
簡単な事だ。
「だからって!だからってニコルのために歌ってくれてる奴を殺すなんてできるかよ!」
だからアスランは逃げた。
ラーゼフォンに背を向けて。
追ってくる悼みの歌から逃げだした。
戦場でなら殺す事に躊躇は不要だ。
しかしここは違う。
ここは戦場ではなく誰かが作ったゲーム盤だ。
戦場なら、そこにいるのは戦う意志をもった兵士だけだ。
しかしここには、あんな奴や戦う力のない女子供もいる。
「だったらどうしろっていうんだよ・・・・・・」
分からない、生きて帰りたい、心からそう思う。
だが、殺したくない。
全てを保留してアスランは蒼き鷹を走らせる。
目的も目標もなく、ただ歪に真っ直ぐと。
ヘビーアームズとの戦いを爆風にまぎれて離脱したヒイロは焦っていた。
(うかつだった、俺のミスだ)
コンソールを見るとレイダーのエネルギー残量は極小になっていた。
無理もない、開始早々の二連戦、しかも二人目はかなり戦い慣れした相手だった。
ここに来てから自分はどうもおかしい、それはヒイロ自身自覚している事だ。
そもそも、このゲーム、生き残りを目指すなら序盤はステルスに徹するべきだ。
そして残り少ない人数になってから勝負をかける。
これが正しいやり方だ。
序盤からの無差別殺戮など自殺志願者のやる事だ。
(いや、おかしくなったのはここに来る前からか)
サンクキングダムの崩壊。
そしてロームフェラの傀儡になったリリーナ。
その二つに失望したのだ。
そして自暴自棄になった、そういうことか。
一人目に殺した女。
以前の自分、ノベンタを殺してしまった後の自分なら殺す事も戦う事もなかっただろう。
「答えろレイダー!どうすればいい!俺は!」
ヒイロの問いかけに、しかしレイダーが答えるわけがない。
エネルギーは刻一刻と減っていく。
TP装甲はすでにカットしてあるがそれもでも何処まで持つか怪しいものだった。
そして蒼い鷹は力なく飛ぶ黒鴉を見つける。
いや、正確には見つけてしまった。
(どうする!相手は気付いてない、攻撃を仕掛けるなら今のうちだ)
しかし、行動には移せない。
アスランはここにきて、今だに迷っていた。
(もし戦う意思のない相手だったらどうする、そんな相手を殺して生き残り、それでキラを殺してもニコルは・・・・・・)
やがて黒鴉も蒼い鷹に気付く。
(クッ!後ろに付かれたか、今戦うわけにはいかないが)
ヒイロは冷静に相手を見てファルゲンに向き合うよう。
だが、攻撃は出来ない。
一撃でしとめなければもはや戦う力はレイダーに残ってはいないだろう。
かといって逃げるだけのエネルギーももはや残ってはいまい。
(相手の出方次第だが・・・・・・)
奇妙な均衡を保ったままお互い動くことなく睨みあい続ける。
動くきっかけも、迷いの答えも見つけられぬまま。
【アスラン・ザラ 搭乗機体:ファルゲンマッフ(装甲騎兵ドラグナー)
パイロット状況:動揺
機体状況:良好
現在位置:F-6
第一行動方針:生きて帰る、それ以外は保留
最終行動方針:未決定】
【ヒイロ=ユイ 搭乗機体:レイダーガンダム(機動戦士ガンダムSEED)
パイロット状態:疲労、体中に軽い痛み
機体状態:EN残量僅か
現在位置:F-6
第一行動方針:なんとか補給する
第二行動方針:参加者の殺害(多少迷いが出てきた)
最終行動方針:元の世界に戻ってリリーナを殺すため、優勝する(リリーナが参加していることは知らない)】
【時刻:15:50】
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