56話 「殺意は昏き火が如く」 ◆ZbL7QonnV.
「ち……さっきの奴は逃しちまったか……」
流竜馬は苛立っていた。自分が現在置かれている今の状況に、激しく怒りを憶えていた。
何もかもが気に喰わなかった。
このクソッタレなゲームの事も、こんな馬鹿げたゲームを企てたあの化け物も、そしてそれに巻き込まれてしまった事も、全てが苛立ちの対象だった。
生きる為に他人を蹴落とす。これは、まだいい。これまでに繰り広げた戦いの中でも、そういった局面には何度も出くわしてきた。
他人の為に自分を犠牲にしてやるなど、甘ったれたガキの考えだ。名前も知らない他人の為に、自分の命を譲ってやる道理は無い。
だが……それでも、この状況は気に喰わなかった。
あんな得体の知れない化け物に従わされている事が、無性に腹立たしかった。
そして、なにより――永らく待ち望み続けていた復讐の機会が奪われた事が、なによりも我慢ならなかった。
「さっきのジジイみてえに、俺以外の全員が殺る気になってるって言うんなら、面倒臭え事は考えずに済むんだがな……」
獰猛な殺気を隠そうともせずに、竜馬は冷たい声で言う。言葉の内容とは裏腹に、男の声に情容赦など微塵も無かった。
……以前の自分ならば、こんなゲームに乗ろうとは思わなかったのかもしれない。
ここから抜け出す方法を、必死に探し出そうとしたのかもしれない。
だが……長い獄中の生活は、彼を変えてしまっていた。
自分を裏切ったあの男……神隼人。
かつては戦友でありながら、自分を裏切り獄中に貶めた神隼人!!
奴に対する激しい憎悪が胸の奥に積み重なり、このドス黒い復讐心以外には何も残らなくなってしまった。
そしてその復讐心は、今この瞬間も自分を燃やし続けている……。
「待ってろよ、早乙女のジジイ……それに、隼人……! このゲームから抜け出して、てめえらを必ず血祭りに上げてやる……!」
……思い出す。
復活の早乙女、空を覆い尽くさんばかりのゲッタードラゴン、それに単身立ち向かう自分。
そして……ゲッターG軍団との戦闘中、のうのうと自分の前に姿を現した裏切り者の神隼人。
もう少しだ……もう少しで、あの裏切り者をブチ殺してやれたものを……!!
「俺が戻るまで……絶対に死んだりするんじゃねぇぞ……!」
憎悪に目をギラつかせながら、流竜馬は拳を握る。
迷いは無かった。この手で隼人を地獄に叩き落してやれるのならば、他など知った事ではない。
このふざけたゲームで勝ち上がらなければならないのなら、そうしてやるまでの事だった。
かつての愛機――ゲッター1のマントさながらに、大雷鳳のマフラーは吹き抜ける風に棚引いていた。
【流
竜馬 搭乗機体:大雷鳳(バンプレストオリジナル)
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在位置:C-8
第一行動方針:サーチアンドデストロイ
最終行動方針:ゲームで勝つ】
【初日
13:30】
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