60話  「薄氷の同盟」  ◆T6.9oUERyk


どうしたものか。

蒼いMS(少なくともMSとよく似た)らしき人型機動兵器と対峙しながらヒイロ・ユイは考える。
背後を取っていながら奇襲を仕掛けなかったことから、相手に“今は”交戦の意思が無いことが分かる。
だが、相手は未だ何のアクションも仕掛けてこない。
対話の意思があるのか、値踏みでもしているのか、それとも単に戸惑っているだけなのか…

こちらから通信を開くべきか。
油断無く蒼い機体を見定めながら、そう考え始めた矢先。

「新手か」
レーダーに反応、南方から一機接近してくる。
見ると対峙する蒼い機体も気づいたようだ、機体の向きを南側へと僅かにずらす。


そのままじりじりと時間は流れ。


やがてあらわれたのは、2門の巨大な砲を担いだ重厚なMS(?)。
その長距離砲撃戦用らしき機体から通信が入る。
『こちらは九鬼正義。そちらの2機、聞こえるかね?』

『こちらはヒイロ・ユイだ。』
黒い機体からは即座に感情の感じられない平坦な声が返る。
ややあって蒼い機体からも反応が。
『こちらはアスラン・ザラ』
こちらは何かを押し殺すような、そんな声が。
どちらの声音もまだ若々しい、少年らしいもの。
「ふむ、ヒイロ君にアスラン君か。一つ提案があるのだが、ここはまず情報交換と行かないかね?」
しばし沈黙があり。
『『いいだろう』』
二人の声が重なった。


「MU戦争に東京ジュピター、か。」
『信じられないのも無理ないな、私でも実際に体験していなければ到底信じられんだろう。
もっとも、人型機動兵器が主力の宇宙戦争というのも十分信じがたいがね。』
九鬼と名乗る軍人はそう苦笑したが、科学技術の集大成であるコーディネーター・アスランにしてみれば、
MUだのドーレムだのといったオカルト話は正直受け入れがたい。
逆にヒイロの語るA.C.歴の世界は宇宙移民やMSの台頭、など自分たちC.E.の歴史とよく似ており受け入れやすかったのだが。
最も、二人には肝心のナチュラルとコーディネーターの対立やコーディネーターの存在そのものを教えてはいない。
当然、自分がコーディネーターであることもだ。
自分と親友を引き裂いたナチュラルたちへの不信感はアスランの中で拭い難いものへとなっていた。

『MUとやらは俺たちをここに集めたあの怪物と関係があるのか?』
そのヒイロからの質問に、はっ、と我に返る。
そうだ、オカルトじみた存在ならこのゲームに巻き込まれた時点で嫌と言うほど思い知らされている。
『残念ながら、私もあのノイ=レジセイアとやらは見たことも聞いたことも無いな。』

『残念ながら、私もあのノイ=レジセイアとやらは見たことも聞いたことも無いな。』
「そうか。」
落胆はなかった。
元々、さほど期待していたわけでもなく。
九鬼が真実を述べているとも限らないのだ。

(リリーナ…)
九鬼はリリーナ・ピースクラフトと名乗る少女とその仲間に襲撃された、と言った。
武器を捨て話し合いましょう、と言われ信用して近づいた所で奇襲を喰らい、ほうほうの呈で逃げ出したと。
その話を無表情に聞きながら、ヒイロはこの男は信用できないと確信した。
同時に思うのはリリーナの安否。
九鬼の話し方から彼女がまだ無事らしいのことは分かったが、行動をともにする輩が信用できるとは限らない。
リリーナを誰かに殺させる訳にはいかない。彼女は自分が殺さなければならないのだから。

ヒイロ・ユイの行動方針は定まった。
リリーナ・ピースクラフトを探し出す、いかなる手段を使ってでも。

情報交換は順調に進み、頃合を見計らって九鬼は提案する。
「それでだ、身を守るためにも私たちでチームを組まないかね?」
しばし沈黙があり
『いいだろう』『分かりました』
少年たちからは承諾の返事が。

その返事を聞き、九鬼は内心狂喜する。有力な手ごまが二人、手に入ったのだ。
アスラン・ザラはザフトという軍隊の、ヒイロ・ユイはOZという私設軍でそれぞれエリートパイロットだったらしい、
軍人らしく武器を捨てて話し合うなどと言った腑抜けた考えは持っていない。
さらに二人の機体は高機動中距離・近距離戦用で、自機は長距離支援用。
二人を前衛に立たせ、自分は火力支援に徹すれば身の安全は確保される。
ようやく、自分にもつきが回ってきたようだ。

こうして仮初の同盟は成立した。


【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:レイダーガンダム(機動戦士ガンダムSEED)
パイロット状況:冷静、疲労、体中に軽い痛み
機体状況:EN切れ寸前
現在位置:F-6
第一行動方針:何とかして補給する
第二行動方針:リリーナの捜索
最終行動方針:???】

【アスラン・ザラ 搭乗機体:ファルゲンマッフ(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:冷静
機体状況:良好
第一行動方針:生きて返る、それ以外は未定
最終行動方針:未決定】

【九鬼正義 搭乗機体:ドラグナー2型カスタム(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:上機嫌
機体状況:良好、弾薬を多少消費
第一行動方針:手ごま二人の信用を得る
第二行動方針:確実に勝てる相手以外との戦闘を避ける
最終行動方針:ゲームに乗って優勝】

備考:ヒイロは経歴を詐称しています(OZのパイロットと偽る)
   また九鬼に不信を抱いています。
   アスランもコーディネーターのことを伏せています

【初日 16:00】


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