61話  「戦場の帰趨」  ◆ZimMbzaYEY


コックピットハッチを開き砂中に埋もれた機体から一人の男が顔を出す。周囲を見渡し敵がいないことを確認すると装甲の確認に入る。
いたるところに銃痕が散らばりあちらこちらにへこみが見えている。資材か何かあれば補強したほうがよさそうな感じではある。
だが先ほどチェックした内部システムと合わせてみて戦闘に問題はなさそうだった。
ただしEN残量には気を配る必要がありそうだ。
パチパチパチ・・・とスイッチが規則的に入り小気味いい音をたてていく。
「システム、異常なし。よし!ブラックゲッター、起動する」
黒いゲッターは再び起動する。その進路は東南東、目的地はG-6基地。
地中から姿をあらわしゲッターは行動を開始した。


「まったく補給ポイントってなどこにあるんだ?」
愚痴をこぼしながらモンシアは南下していた。
仮に補給ポイントを見つけられなくともG-6地区の基地には何かしらの資材がおいてあるだろうとの算段での南下だ。
補給ポイント見つからないこと以外は順調。既にG-5地区まで移動し目の前には大きな川が流れている。
近くには橋も見当たらない。
「やれやれ・・・浅いといいんだがな・・・」
ため息をつくとヘビーアームズは川に入っていった。


E-5地区の橋を渡りF-5地区南東から森林に足を踏み込んだバーニィは川を越えてくるヘビーアームズを目撃する。
背中にヒヤッとしたものを感じたが相手の動きに変化はない。
こちらのレーダーに反応がないことからおそらく相手のレーダーもこちらを捉えてないものと推し量れる。
大丈夫。まだ見つかってない。心を落ち着ける。
仕掛けるか?
先の戦闘と外見からさっするに相手は中・遠距離砲撃戦の機体。こちらは近距離格闘戦中心の機体。加えてさっきは近づくことすらできなかった。
ならばここはやりすごして逃げるか?
敵機の進路方向から推測するに目的地は一緒。おそらく目的も同じ補給だろう。戦闘痕も見て取れる。つまり相手も疲弊しているということだ。
ここでむざむざと相手に補給を譲って次に会うときこちらが不利になる必要はない。
仕掛けるべきか・・・仕掛けぬべきか・・・。仕掛けるべきだろうな―――
そう決めると川を渡り終えD-5地区へと向かっていく敵機の尾行を開始した。


ヘビーアームズが周囲の様子をうかがう。汗が頬を伝って滴り落ち、鼓動が早くなる。緊張が体を支配する。目標から・・・目が離せない。
(大丈夫、相手に不自然な動きはない・・・大丈夫)
(まだ見つかってない・・・平気だ・・・)
『大丈夫』『平気だ』と相手が周囲を気にするたびに何度も何度も自分に言い聞かせる。
尾行開始から約二十分。すでに森林は抜け二機はG-6基地内へ入り込んでいた。
建物の影に身を潜めレーダーに写らないように距離をとって目標を追っていく。
身をかがめつつ用心深く建物の角を曲がると左前方に開けた土地と小型の箱のような装置が目に入った。補給ポイントだ。
一瞬気を取られたが急いで視線を標的に戻す。しかし、そこにいるはずの標的は姿を消していた。


「あぶねえ。あぶねえ。なんつー索敵範囲の狭さだ」
無数にある建物の陰に身を隠したヘビーアームズの中、モンシアは一人愚痴っていた。いつの間にか後ろにつかれていたことがどうにも気に食わない。
まぁ、それも気づいたからよしとすることにしてモンシアは今後の方針を自問する。
(さてと・・・どうしますかねっと、モンシアさんよぉ・・・)
決まっている。危ないストーカーさんにはご退場いただくのみである。
一度こちらを襲ってきた相手。戦闘開始前に通信をつなげ降伏を促す必要も気もなかった。
一度残弾を確認し相手の様子をうかがう。こちらを見失って若干慌てている様子が見て取れた。
はじめるか――
そう腹をくくった瞬間にはもうホーミングを放っていた。そして、相手の回避行動を見極めてガトリングガンの掃射を浴びせる。
その後も絶えず射撃ポイントを変えこちらの位置を悟られないようにしながら建物の影に隠れた敵を炙りだし誘導していく。
絶え間なくゲッターの装甲は火花を散らす。しかし、そのことごとくは装甲の表面で弾かれていた。その様子を見てモンシアは憎々しげに呟く。
「チッ!予想通りやっかいな装甲だぜ」
遠距離射撃からは致命傷を与えられないことは半ば予想通りだった。
残弾が多ければ話は別だが(戦闘後補給をおこなうことを前提としても)、
いつまでも雨あられと打ち込めない現状相手にそれなりの損傷を与えるためには零距離射撃しかなかった。
そのための接近の手段はもう考えている。
あとは仕掛けるときを待ちつつ敵を追い込むだけだった。


断続的な銃撃にさらされゲッターは翻弄されていた。しかも絶え間なく移動しているのか発射位置の特定も難しい。
しかし、これでいい。敵機は補給ポイントを探していた。それはつまり残弾かENの残量が少ないことを意味している。
補給ポイントを確認した今惜しみなく撃ち込んできている現在なるべく相手の残弾は減らしておきたかった。
それに逃げ回ってりゃそうそう死ぬこともないだろう。
とはいえ相手の技量は高く、決して少なくない量の弾をすでに浴びせられている。いかに強固なゲッターの装甲といえど金属疲労が起こり始めていた。
もう敵の残弾はもう十分に減らしたはずだ。それに前回のガトリングの射線から大雑把に相手の位置も把握できた。
なによりこれ以上食らうのはゲッターといえど危ない。
仕掛ける―――
これまでの逃げの姿勢から一転、ゲッターのブーストをフル稼働させバーニィは突撃を開始した。
「ここで突撃だと・・・何考えて・・・。しまった!」
その動きから直感的に相手の意図を読み取ったモンシアもプランを短縮して勝負をかけることを決意する。
ここで出し惜しみしても意味はない。相手がうとうとしている手が決まる前に勝負をつける必要があった。
マイクロミサイルの残弾全てをゲッターの進路に広域散布しさらに残ったホーミング二基も撃ち込む。
ゲッターのレーダーが熱源反応に埋め尽くされる。
異常なほどの量のマイクロミサイルがゲッターとその周囲を破壊していくがゲッターはひるまず最大速度で駆け続けマイクロミサイルの雨を抜けた。
前方に標的を確認。あと200m・・・100m・・・・・・30、20、10、いまだ!
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
気合と共にトマホークを一閃。補給ポイントを破壊する。あとはこの戦域から一旦離脱するだけだ。
直後、警報がコックピット内に響き渡る。熱源反応が三つ、何かが背後から迫ってくる。
背中に悪寒が走る。ホーミングが爆煙を裂いてあらわれた。振り返りざま一基目をトマホークで切り払い続いて飛来する二基目を強引にかわす。
そして、その直後を狙って三基目の熱源―――ヘビーアームズの胸部ガトリングとダブルガトリングガンが至近距離で一斉に火を噴く。
その直撃を受けたゲッターは完全にバランスを崩され仰向けにひっくり返る形で地に崩れ落ちた。
「クソッ!まだ・・・」


「いや、チェックメイトだ。坊主、変な気起こすなよ。いくら固くてもコックピットを直に撃たれりゃ話は別だろ?」
オープンチャンネルをかいしてここで始めて通信が入る。
起き上がろうとしたゲッターの鼻先に銃口が突きつけられ、胸部からその姿を覗かせているガトリングはゲッターの胴体を狙っていた。
全身から嫌な汗が一斉に吹きだしてくる。動いたら撃たれる。その恐怖がかろうじて気が動転しそうになるのをおさえつけていた。
勝敗は決した。


今回、ベルナルド・モンシアがたてていた作戦は第一段階で敵を撒き姿を隠し、第二段階で敵を補給ポイントから離れるように誘導。
続く第三段階でマイクロミサイルを広域散布。第二段階の誘導はこのとき補給ポイントに損害を与えないためである。
そして最終段階で先ほどのマイクロミサイルと弾速を調整したホーミングの爆煙と熱源反応を隠れ蓑に接近、
至近距離からの射撃で相手をしとめるというものであった。
対してバーナード・ワイズマンの策は第一段階でなるべく相手の残弾を削り、第二段階で補給ポイントを破壊。
第三段階でそのまま一時離脱しその後交戦と離脱を繰り返し相手を消耗させるというものである。
結果的にはモンシアは補給ポイントに急速接近をし始めたバーニィを確認して第二段階を切り上げ最終段階に移行。
バーニィを取り押さえるも補給ポイントは破壊されていしまうということとなった。両者の思惑の完遂率は共に50%といったところだろうか・・・。
そして現在、モンシアはゲッターを片足で踏みつけ銃口を鼻先に突きつけている。その状態のまま残弾チェックをおこなっていた。
「クソッ!・・・まったく憎々しい小僧だぜ」
「・・・・・・どういうつもりだ?なぜ撃たない?」
「気は落ち着いたようだな・・・。何、ちょいと情報収集したいだけだ。遺言ぐらいは聞いてやるぜ」
ここからは情報収集の時間だった。
「そうだな・・・。まずは所属と姓名から名乗ってもらおうか・・・」
「・・・・・・」
「どうした?別に俺はこのままさようならでもいいんだがな・・・」
「・・・ジオン軍サイクロプス隊所属・・・バーナード・ワイズマン伍長」
(ジオン・・・デラーズ・フリートの連中か・・・)


「サイクロプス隊?聞いたことねぇな・・・ここに連れてこられた経緯は?」
「わからない。ガンダムとの交戦中から意識が途切れ・・・気づいたらここにいた」
その後、暫くの間ここで遭遇した他の機体の情報、首輪や主催者についてなどいくつかの質問をうけバーニィそれに答えていった。
「ハンマー持ちの赤い機体か・・・」
(わざわざこいつを生かしておくってことはゲームに乗った連中じゃなさそうだな・・・)
そして暫くの沈黙の後モンシアの口がひらく
「何か言い残すことはあるか?」
「・・・サイド6に・・・ジオンによる核攻撃があったかどうか教えてく・・・・・・」
「サイド6?おいおい、あそこは中立コロニーだろ?お前さんに何の関係が・・・」
「頼む・・・教えてくれ・・・」
相手の様子に眉をひそめるも自身の記憶を思い返してみる。そういえば一年戦争の末期にそんな作戦があったというのを軍のデータで見た気がする。
たしか―――
「俺の記憶に残っているかぎりだが、そのジオンの作戦は失敗に終わったはずだ」
通信機越しに相手が安堵のため息を吐くのが聞こえてきた。
「ありがとう・・・」
「さて、そろそろ・・・」
唐突に現実に引き戻され忘れかけていた自身の状況を思い出す。奥歯が噛み合わず音をたてる。
「さよならだ」
(これで終わりなのか?いや、まだだ。まだ俺は全てのカードを切ったわけじゃない!!)
最後の引き金がひかれる瞬間、バーニィは無我夢中でゲッターを動かす。そしてあらん限りの声を振り絞り叫んだ。
「ゲッタアアァァァビイイイィィィィィィム!!」
銃弾と閃光が交錯しあたりに爆音が響き渡る。
弾丸は障害物に当たり火花を散らし、ゲッタービームは進路を阻むもの全てを抉り取りまっすぐ大空へ伸びていった。


G-6基地の廃墟と化した一角に一機の人型機動兵器が別の一機を見下ろしただずんでいる。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハ・・・ハハ・・・やった。やったぞ!」
そのパイロットの息は荒く呼吸は落ち着かない。
一度相手の機体を確認する。右半身が吹き飛んでいる。動いていない。動くはずがない。
自然に笑いがこみあげてきた。強敵を打ち倒した充実感と高揚感に体が満たされる。
ついで機体のチェックを始める。山ほど撃ち込まれたせいか損傷がひどい。
なかでも頭部は最後の一撃で前面の右側にヒビが生じている。一度しっかりと整備をするべきだ。
ふと気づくと体の興奮は既に冷めていた。もう一度相手を見やる。
決意を固め参加者を殺すことに迷いはない。
しかし、いざ人を殺して見るとやはり心のどこかに割り切れないものがあるのを感じる。こればっかりは慣れるしかなかった。
「戦場なんだ・・仕方ないだろ・・・。誰だってやらなきゃならないと思ったことをするだけなんだ・・・」
言い訳をするように呟くとゲッターは沈黙した敵機からピエロの仮面を剥ぎ取りヒビの入った箇所にあてがうと背を向け整備可能な場所を探しに歩き出した。


「詰めが・・・甘いな・・・」
大破したヘビーアームズのコックピットの中モンシアは生きていた。
しかし、その体から血が溢れ出し滴り落ちシートを瞬く間に染め上げていく。
(不死身の第四小隊が・・聞いて・・・あきれるぜ・・・)
どれほどの傷なのか。だがまだ死んではいない。死んでいなければ闘えるということだ。
傷口の周辺を縛り上げ止血をおこなう。
(まったく・・詰めが甘い・・・やつも・・・・・俺も・・・な・・・)
ふっと、目の前の光景が遠のいていくような感じにモンシアは襲われた。


【バーナード・ワイズマン(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)
搭乗機体:ブラックゲッター(真(チェンジ!)ゲッターロボ 地球最後の日)
パイロット状況:頭部に軽い傷 
現在位置:G-6基地
機体状態:装甲に多数のへこみ 戦闘に若干の支障(整備をおこなえば問題はない)
     マント損失 、エネルギーを3/4程度消費
第一行動方針:機体の整備をおこなう
第二行動方針:ゲッターを使いこなす
最終行動方針:優勝する
備考:頭部に生じているヒビをヘビーアームズのピエロの仮面で隠している】

【ベルナルド・モンシア (機動戦士ガンダム0083 Stardust Memory)
搭乗機体:ガンダムヘビーアームズ改(新機動世紀ガンダムW〜Endless Waltz〜)
 パイロット状態:気絶中 
負傷(負傷の度合いに関しては次の書き手の方にお任せします)
現在位置:G-6基地
機体状態:大破(運用不能)
第一行動方針:傷口の手当て
第二行動方針:機体を手に入れる
最終行動方針:???】

【初日 17:40】


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