66話 「アンチボディー ―半機半生の機体―」 ◆Nr7qwL8XuU
水面を二つの赤いしみがゆっくりと移動していく。その像は徐々に大きくしっかりとした輪郭を伴ってゆき、間もなくその像の主は水中から姿をあらわした。
姿をあらわしたのはブレンパワードとグランチャーと呼ばれる二機のアンチボディー。半機半生の機体である。
その二機のうち赤い機体は陸にあがると周囲を一度グルッと見わたした。
視界いっぱいに映ったのは砂の海。目測で前方30〜40kmはこの光景が続いている。
砂浜というには広すぎる。砂漠とか砂丘とかいう類のものだろう。
視界をさえぎるものがないためか見通しはよく、立ち並ぶビル群を遠目に確認することができた。自分達以外に機影もない。
時刻を確認する。時計の針は午後4時を指していた。
水中の移動は思ったよりも時間をくったなと思ったジョシュアは
「アイビス、ここから先は身を隠す場所がない。なるべくはやくに市街地まで突っ切る」
と声をかける。了解と返してきたアイビスの声を確認するとジョシュアは先にたって進み始めた。
ジョシュアとアイビスが市街地に入ったのは市街地を確認した20分後のことであった。
周辺に敵機がいないことを確認した二人は市街地の入り口付近、A-1・A-2・B-1・B-2という四つの地区の境目、A-1側の一角に陣取った。
姿を隠しつつ南から市街地を目指してくる機体を発見しやすいというのと禁止エリアに指定された場合他のエリアに動きやすいというがその場所を選んだ主な理由である。
『傭兵か・・・さすがに手慣れているな』とへんに感心しつつ、先に降りて休憩しているはずのジョシュアに習い休むことにアイビスは決めた。
機体を降りるとジョシュアが「お疲れ」と声をかけてきた。続けてブレンにも「お疲れ」と声をかけ二三度軽く撫でていく。
「お疲れ。・・・何してるの?」
「こうしてやるとブレンもグランも喜ぶんだ。アイビスにも喜んでるブレンの声が聞こえるだろ?」
「う、うん」
『ブレンの声?何を言っているんだ』と思うも返事を返す。
ブレンを見上げてみた。そこにはいつもと変わらない小型の巨人がただずんでいるだけであって声はおろかそこに感情が潜んでいるなどとはアイビスには到底思えなかった。
「先に休んでる」
とジョシュアに一声かけるとアイビスはその場を後にした。
「わが名はギム・ギンガナム。そこのパイロット、名乗りを上げい!」
我に返ったギンガナムの武骨な声があたりに響き渡った。分離し一部を置き去りに飛び去った相手にもはや興味はなく、新たな相手を前にギンガナムは胸を弾ませた。
その名乗りで我にかえった統夜はゲッターの変形機構から思考を目の前の相手に向ける。
先ほどの戦闘から分かるのは小型機らしい俊敏な機動性と(自機とは比にならない重さを有しているであろう)50m級の機体をも投げ飛ばし殴り飛ばす怪力。
装甲の厚さは不明だが武器というものは当たらなければ須く意味がない。ヴァイサーガの装甲がそうそう破られるとも思えなかったが、攻撃を当てれるかというとどうだろう・・・。
そう簡単に攻撃を受けてくれる相手とも思えない。
とにもかくにも極力戦いたくない相手には違いなかった。
そこまで思考をまとめた統夜は策を決め腹をすえた。そして羞恥心を押し殺し柄にもなく大声を張り上げ名乗りをあげる。
「紫雲統夜!参る!!」
名乗りと同時に刀を抜き打ち、地面を滑るような衝撃波を繰り出す。
そしてそれはギンガナムの手前100mというところで周囲のビルを薙ぎ払い、大量の瓦礫を舞い上げる。ギンガナムの周囲に粉塵が立ち込めた。
「見事な先手!小生の視覚を潰しおったか・・・!!」
周囲を見渡せない状況がかえってギンガナムのテンションをあげる。
レーダーの利かないこの世界において視覚を潰されるということは索敵能力を潰されるに等しい。しかし、逆に取るとこの状況下では相手もこちらの正確な位置は捕らえられない。
ゆえに遠距離攻撃は考えられず、この粉塵にまぎれて近距離戦を仕掛けてくるはずであるとギンガナムは読む。
その予想される相手の攻撃にカウンターを合わせるべくギンガナムは相手の一撃を待った。
やがて視界が晴れたころ、ギンガナムは遥か彼方に遠ざかっていく巨体を見つける。
このとき統夜の取っていた策は実は逃げの一手であった。
眉間にしわがより、鬼の形相を呈したギンガナムは
「小生を謀りおったな・・・だが!!逃がしはせぬぞおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
その声にドップラー効果がかかるほどの勢いで統夜を追いかけ始めた。
ほぼ同時刻、戦場から離脱し北に向かって遠ざかりつつある二機のコマンドマシンがあった。
「ガロード、引き返すぞ」
後方に遠ざかっていく戦場の様子を注意深く観察していたクインシィはガロードに通信を入れる。
「へっ?さっきは離脱するって・・・な、なんでまた・・・」
「戦場が動いた。この隙にベアー号かお前の機体を回収したい。コマンドマシンでは心もとないだろ?」
言うが早いか大きく弧を描いて真イーグル号を反転させたクインシィに大慌てでガロードも続く。
なるほどさき程離脱した戦場から離れていくヴァイサーガの巨体がどうにか見て取れる。
小型機のほうはここからではさすがに見えないがお姉さんのほうからは見えているのだろうか?そんな疑問が浮かび口を開く。
「お、お姉さん!」
「どうした?」
「さっきの小さいほうの機体は?」
「なんだ。そのことか・・・」
予想よりも冷静な言葉が返ってきて取り越し苦労かと胸をなでおろした。
きっと、策か何かあるのだろうと思い続きを待つ、そこに
「姿は確認できないが、あれほど好戦的な奴だ。大きいほうを追いかけていったに決まっている」
と的を射ているような射てないような返事がガロードに返ってきた。
ガロードが先行きに感じる言いようのない不安などお構いなしに二機のコマンドマシンは僚機を回収すべく駆け続けていった。
「ふははははっ!待てええええぇぇぇぇぇいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
通信から楽しそうな大音量の声が流れてきて思わず統夜は顔をしかめた。
えらい変態さんに目をつけられてしまったもんだと暗たんとした思いが胸をよぎり、絶っ対に逃げ切ってやるという思いを強くする。
しかし、不幸にもヴァイサーガの巨体はビルの密集するここの地形に適しておらず、逃走開始時にかなり広げたはずの距離はずいぶんと縮められていた。
そのことを確認すると焦りが生じてきた統夜は周囲を見渡す。
そして、目ざとくも左前方に他の参加者を発見する。口元に笑みがこぼれる。
一度後方との距離を確認して距離的にもちょうどいいと踏んだ統夜は全速で機体を走らせた。哀れな贄の元へと・・・。
休憩を終えたアイビスは再びブレンを見上げていた。
そうする気になったのはバルマー戦役時に活躍したある兵士が超機人とかいう生きた機体に乗っていたという話を休憩中に思い出したからではない。
その手の話は兵士が自分で箔をつけようと流したものかあるいは驚異的な働きをした兵士に神がかり的なものを感じた敵味方に流れるものとして別段珍しくはなかった。
だからそういった尾ひれのついた話に流されたわけではない。
ブレンの声が聞こえるというジョシュアの言に何かひっかかるものを感じたからこそこうして再び見上げてみる気になったのだった。
しかし、依然としてその表情からは何も読み取れなかった。ジョシュアがしてたように撫でてもみたが結果は同じだった。
しばらくの思案の後、への字にしていた口元を緩ませると
『バカバカしい・・・気にするのは止めよう。どうせ私には・・・関係ない・・・』
とアイビスは結論付けた。そこには自嘲の色が見え隠れする。
そのとき、アイビスは地響きのようなものを耳にする。体に緊張が走り周囲を見渡す。
砂漠に敵影は見えない。ビルの隙間からも見えない。
気のせいかと思ったが今度は先ほどよりも大きな地響きを耳にする。同時に大地が震える。
瞬間、転がり込むようにブレンに乗り込む。少し遅れてジョシュアもグランチャーに乗り込むのが見えた。
―――間違いない。巨大な何かが接近してくる。
その予感はまもなく確信にかわった。ビルの谷間から50mはあろうかという巨体が姿を現しこちらに迫ってくるのを見つけたからだ。
「アイビス!」
同時に確認したらしいジョジュアから通信が入る。
「な、何っ」
「万が一戦闘になったら離脱しろ」
反論を口に出そうとした瞬間、ジョシュアが言葉を続ける。
「ブレンには武装がない!危険すぎる」
「い、言われなくてもわかってる・・・・・・ジョシュアはどうするのさ?」
「大丈夫だ。危ない橋を渡るつもりはない・・・適当に時間を稼いだら離脱する・・・」
そして程よく接近中の機体から通信が入る。
「応答を。こちら紫雲統夜。そこの二機答えてください」
その機体の大きさに若干距離感を崩されながらも、通信に答えようとするアイビスを制してジョシュアは通信に答えた。
「通信聞こえている。こちらに交戦の意思はない。こちらから一定の距離で静止してくれないか」
「無理です!ゲームにのった凶悪な奴に追われています。助けてください・・・」
何か違和感を覚えたジョシュアは追われていることだけでは追っ手がゲームに乗っているものとは判断できないと、そう反論を口にしようとして突如入った通信に遮られた。
「わが名はギム・ギンガナム。そこの二機のパイロット、名乗りを上げい!」
その唐突な小型機の名乗りにジョシュアとアイビスは面くらった
「名乗りをあげろ・・・?」
「何・・・・・・あいつ・・・」
奇妙な雰囲気が場を占め、巨大な機体の接近以来張り詰めていた空気が弛緩する。
その隙に紫雲統夜と名乗った男はこちらに機体を近づけてくる。
ぞくり――
その行動に背筋の凍りつくような感覚を感じたジョシュアは我知らず一歩退く。その鼻先を音もなく巨大な切先が通過していった。
同時に目の前に傷一つない綺麗なボディーが横切っていった。襲われたにもかかわらず損傷のまったくない機体・・・先ほどの違和感の正体はこれかと気づく。
結果としてすれ違いざまの抜き打ちをかわしたことになったジョシュアはヴァイサーガを追って機体を反転させ振り返る。
そこで目に飛び込んできたのは、自機よりも数倍の大きさを誇る機体に叩き潰されビルに沈み込むブレンと、そのまま止まらずに離脱していくヴァイサーガの後姿であった。
「アイビス!ブレン!!」
とっさに駆け寄ろうとしたその時
「むぅ・・・実に見事な名乗り!アイビス・ブレンよ・・・いざ参る!!」
「待てくれ!こちらに戦う気は」
「問答無用!!」
相手の言を完全に無視して、盛大な勘違いをしたギンガナムがジョシュアに襲い掛かった。
四機の機体が入り乱れる様を遥か上空から目撃した神隼人その場で機体を一回だけ旋回させ、今しがた起こった出来事をフライトレコードの映像に収めていた。
その四機のうち一機は既に離脱し、一機は沈黙、そして残る二機は戦闘を繰り広げている。
しかし、既にその上空に隼人はいなかった。YF-19のモニターに拡大表示されているのは三機のコマンドマシン。
同系機とおぼしき外観を持つ三機のうち二機が残る一機に接近していっている。
三機という機数、赤・白・黄色という配色の二つがゲッターを隼人に思い起こさせていた。
ただしその形状は隼人のよく見慣れたものよりもより洗練されたシャープな線を描いている。
ゆえに隼人はそれをゲッターと断定することはできなかったが、確かめずにいることも当然できない。万が一ということも十分にありうる・・・。
どちらにしろコクピットを覗けばその答えは出るはずだ。ゲッターならば合体変形機構が必ず盛り込まれているはずである。機体の動力を見極める手もある。
それを見落とさないだけの自信が隼人にはあった。
眼下で襲われている参加者と地に横たわるベアー号らしき機体を隼人は天秤にかける。
「・・・悪く思うなよ」
ゲッターの巨大な力を知る彼は眼下の光景を後回しに機体を加速させていった。
「お姉さん、あれ!」
先に気づいたのはガロードだった。右前方に一つの機影。その向かう先にあるのはベアー号、あきらかに目的は一致している。
「確認した・・・」
通信を返しクインシィは思案を練る。ここで相手に先を越されるわけにはいかない。もし戦闘になった場合、二機のコマンドマシンでは心もとなかった。
マジンガーの存在もあったがあれはだいぶ東。ここからだとベアー号よりも遠方であった。
やはりベアー号を押さえて合体するしかない。
もう一度相手を確認する。タイミング的にギリギリと踏んだクインシィは「急ぐぞ」とガロードに声をかけようしたところに先にガロードから通信が入る。
「お姉さん、話し合いしなよ。ちゃんと忘れてない?」
「うるさい!覚えてる!!」
実際は忘れていた。
「とにかく今は急ぐぞ!」
というや否や機体を加速させた。その後姿を見ながらガロードは逃げ出したい思いに駆られたその瞬間
「逃げるんじゃないぞ!一段落したらそれと言いたいことは山ほどあるんだ・・・」
釘を刺された。そのぞんざいな物言いの中に優しさもみた気がしたが先延ばしになってる折檻の光景が頭に思い浮かんだ。
「うへぇ・・・でも、お姉さん、本当に話し合」
「くどい!」
首をすくませたガロードはおとなしくクインシィに続いて行った。
周囲に轟音が鳴り響き、ビルの残骸と共にグランチャーは砂漠に投げ出された。
「くそっ!なんて力だ!!」
すばやく体勢を立て直しながらジョシュアは一人愚痴る。
気絶したアイビスを乗せるブレンから相手を放そうと応戦しながら誘導し、最後のビルを迂回して砂漠に出ようとしたとき、動きを読まれギンガナムの拳を浴びた。
とっさにガードしたものの背後のビルを巻き込んで砂漠まで殴り飛ばされたのがここまでの経過だった。
思惑通りブレンからは引き離した。ひとまずここまでは上出来とグランを励ます。
小競り合いによって破壊されたビルの影にシャイニングの両目が浮かび上がり、次の瞬間
「ぬるい!まったくもってぬるいぞ!!貴様ああぁぁぁぁぁ!!!!!」
気迫と同時にブレンに肉薄するとその右拳が振り下ろされた。
それをジョシュアはグランチャーに必要最低限のバックステップでかわさせると攻撃直後の隙を狙って間髪要れずに踏み込む。
ソードエクステンションの斬撃が唸りをあげてシャイニングに差し迫る。
「甘いわ!!!」
ギンガナムは返す右手で捌き、相手の体勢を崩すと左拳をまっすぐに突き出した。
次の瞬間、拳は空を切り、背後から衝撃がギンガナムを襲う。振り返ったギンガナムの視界は間近に迫った光線に埋め尽くされる。
それはシャイニングの胸部装甲を擦過して後方の砂漠に着弾。大量の砂を巻き上げた。
瞬時に反撃に出ようとしたギンガナムだが、牽制の弾幕を撒き一定の距離まで後退したグランチャーを確認してひとまずは追撃をあきらめる。
こちらの動きを読みきった熟練を思わせるパイロットの腕――
一瞬にしてこちらの死角に回り込んでみせた黒歴史にも載ってない未知の移動法――
確実に直撃させたはずの二撃目を皮一枚でかわした反応速度――
小型機に似つかわしくないにも程がある攻撃力と機械とは思えないほど柔軟な追従性――
―――なまじの敵ではない―――
距離を置いて対峙した二人のパイロットが互いに抱いた感想であった。
「ふ・・・ふははははは・・・・・・面白い。実に面白い」
前言を撤回したギンガナムは肉体が歓喜の声を上げ、武人の血が沸き立つのを感じた。
そして、それに答えるかのようにシャイニングガンダムはフェイスガードをオープンさせスーパーモードを発動させる。
その様子を眼前にジョシュアは簡単にはいかないことを覚悟せざる得なかった。
あともう少しでベアー号を回収できるというところでクインシィとガロードは神隼人と接触した。相手は眼前を悠々と旋回している。
「お姉さん、どうしたのさ?はやく通信しないと・・・あっ、しにくいのなら俺が・・・」
キッ!と通信機越しに睨みつけられてガロードは沈黙した。
が、いつまでもこうしててもしかたないと思い通信機に手を伸ばしたその瞬間
「こちらは神隼人。交戦の意思はない」
相手から先に通信が入ってきた。モニターのむこうでガロードが安心するのが見える。
「こちらはクインシィ・イッサーとガロード・ラン。こちらも交戦するつもりはない。できれば情報の交換を望む」
「了解した」
あっけないほどすんなりと交渉は成立し三機は情報交換を開始した。
そして、情報交換開始から十分弱のあいだに主催者や他の参加者・互いの世界観などについてなど知っていることについて情報が交換されていくが互いにたいした成果はなかった。
ネリー・ブレンについての情報も交換されたがやはり成果はなかった。
成果のない一因は隼人がゲッターについて黙っていたせいかもしれない。まだ二人を見極めてない隼人にとって、ゲッターの情報は一枚のカードとして伏せておく必要があった。
そしてそれはクインシィ側にとっても同じである。二人は万が一に備えマジンガーの情報を隠していた。
自分達の機体は最初から二機のコマンドマシン。そう思わせておいたほうが現状では二人にとって都合がいいのだ。
互いに札を伏せていようとも成果がなくとも貪欲に情報は交換されていく。
そして、話題はヴァイサーガとシャイニングガンダム・ギンガナムに及ぶ。その二機の特徴を聞いた隼人は先ほど上空から撮った映像データを二機に送信した。
「ついさっき撮ったものだが・・・この二機で間違いないか?」
「そうそう。この二機・・・」
ガロードが映像を確認して答えを返す。
その傍らでクインシィは無言で映像をみつめていた。
(これは私のグランチャーではないか・・・)
その赤いボディーを見間違えるはずもなく、自分のグランチャーだと気づく。そして、そのグランチャーが桃色のブレンパワードを守るように行動している。
(何故だ!何故・・・・・・)
「隼人、場所はどこだ?」
「南西方向、A-1・A-2・B-1・B-2の四つのブロックの境目あたりだ」
クインシィの目が据わり、次の瞬間真イーグル号は急発進で飛び去っていった。
「ちょっと待ってよ、お姉さん!」
とガロードがそれに続く。
残された隼人はその様子を不審に思いつつもあとを追おうとして近場に横たわるベアー号らしき機体が気になり足を止めた。
このままYF-19で二機を追うにしろ、ベアー号らしきこいつに乗り換えて追うにしろ、ひとまずこいつをどうにかする必要があった。
なぜならば隼人の知るかぎり敵にまわせばゲッターほど厄介な機体はないのだから…。
豪腕がうなりをあげて迫ってくる。それをソードエクステンションの腹で受け止めたグランチャーの両腕は上方へはじかれ、体が宙に浮き上がった。
やばいと思った瞬間、閃光を発したシャイニングの右手が襲い掛かってくる。
それをバイタルジャンプでかわして後方に回り込むも俊敏に反応し振り向きざまに繰り出された裏拳に阻まれて牽制の射撃をおこないながらあえなく距離をとる。
が、次の瞬間ギンガナムの視界を埋めたのは距離を置いたはずのグランチャーの姿だった。ソードエクステンションが袈裟懸けに振るいおろされる。
それを一歩踏み込んでグランチャーの腕を掴んで止め、そして投げ飛ばした。
一拍置いて決定打をかわされたギンガナムはまたかと自らの拳を眺める。かわされたのはこれで何回目だろうか?まったくといっていいほど決定打が当たらない―――
唇の端がつりあがり、だからこそ面白いとギンガナムは結論付ける。だからこそ倒しがいがあるのだと・・・。
この短時間の間にバイタルジャンプに順応し始めているギンガナムを感じ、汗がジョシュアの頬を伝って落ちていった。
瞬間移動といっても過言でない移動法を誇るこの機体相手に、こうも攻撃を捌ききることができるものなのだろうか?
ジョシュアが不慣れなのではない。瞬間移動を高速に置き換えると兵器としてのグランチャーの特性は高速近接戦闘を得意とするエール・シュヴァリアーのそれに最も近い。
ソードエクステンションとサイファーソードのコンセプトも通じるものがある。
いっそ逃げようかと考えて気絶したアイビスを思い出し、敵を退けるしかないかと思い直す。
「何故、ブレンを守る。ブレンはオルファンの敵だぞ!お前はオルファンの抗体に選ばれたものではないのか!?」
出し抜けに女の声がコクピットに響き渡った。ぎょっとして周囲を見渡すと通信可能距離ギリギリという遠方に二機の戦闘機(のようなもの)の姿が確認できる。
通信を返そうとしたその瞬間、いつの間にか接近していたシャイニングの拳が肩をかすめていった。まるで気を抜いてもらっては困るとでも言うように・・・。
そして再び二機の攻防は始まる。
心なしグランの動きが鈍ったように思えた。まるで混乱でもしているかのように・・・。
依然として通信を介し女の声はコクピットに響き渡っている。が、ジョシュアはそれに答えず。一瞬後には通信が入っているという事実すら忘れ去る。余裕がないのだ。
他のことに気を取られている暇などない。ほんのわずかな時間でも気を抜けばこの相手は自分を屠り殺してみせるだろう。
気の抜けない戦いにジョシュアの意識は呑まれていった。
「ふははははは・・・もっとだ!もっと小生を楽しませてくれぃ!!」
通信から流れてくる野太い声にアイビスは起こされた。最悪な目覚め方だとふやけた頭で考えると周囲の景色が飛び込んできて我に返った。
あの時、紫雲統夜の奇襲を不意をつかれつもどうにか受け止めたブレンはそのまま相手のパワーに押し切られビルに埋没した。
その際、あまりの振動にコクピット内部に体を激しくうちつけたアイビスは気を失っていたのだった。
「小生の積年の鬱屈、見事晴らしてみせよ!」
通信の声とほぼ同時に轟音が響き渡り、わずかに遅れて舞い上げられた砂がパラパラと降り注いでくる。
・・・誰かが・・・・・・まだ戦ってる?
一体、誰が?
不意にジョシュアのことが思い浮かび周囲を見渡した。グランチャーの姿は見当たらない。
戦っているのはジョシュアらしいと思い至ったとき、助けに行かなきゃという思いよりも暗澹とした思いがアイビスの胸を満たす。
ジョシュアがこの付近から離れたのが私を巻き込まないためなら、今なお逃げずに戦っているのも私を守るために他ならない。
全ては自分のせいだ。自分が足をひっぱったためにジョシュアは・・・。
『負け犬が!』聞き覚えのある声が耳をうつ。
そう、私は負け犬だ・・・ならどうする?負け犬は負け犬らしく尻尾を巻いてまた逃げだすのか・・・。
・・・・・・違う。私は負け犬なんかじゃない。
ほんのわずかばかりの気概が沸いたが心の中を埋めるには程遠かった。
力なく鈍く光る瞳でそれでもブレンを起こしたアイビスはせめて盾にでもなろうと、半ば自棄にも似た気持ちでブレンの足を戦場へと向けた。
光り輝く腕が安々とチャクラシールドを突破してくる。
ギム・ギンガナムが操るシャイニングガンダムの渾身の一撃がグランチャーを捕らえたと思ったその刹那、右手は虚しく空を掴む。
バイタルジャンプによって再び距離を置いて二機は対峙する。
傍目には一進一退の攻防を続けているようでいて、その実ジョシュアのほうが遥かに分が悪かった。
互いに互いを捉えられない以上、一撃の重さは重要なファクターだった。そしてそれが圧倒的に違っていた。しかも、グランの調子も落ちてきている。
ならば次の攻防に勝負を賭けるしかないとジョシュアは思い定めた。
(いけるか?グラン・・・)
(・・・・・・・・・)
(・・・・・・よし!)
決意を固めるや否やジョシュアとグランは突撃する。そして、ソードエクステンションから光線が放たれ、膨大な砂塵がギンガナムの周辺を満たした。
そして、そのまま砂塵に突込み真っ向からギンガナムを斬りつける。
「甘いわ!!」
防がれた。が、もとより相手の動きを止めるための斬撃。牽制の意味合いが強く、直撃を期待してはいない。
その瞬間、ギンガナムの反撃を待たずしてグランチャーの姿が掻き消え、四方八方から光線がギンガナムを襲った。
バイタルジャンプを駆使して全方位あらゆる方角からの射撃、時折それにまぎれて位置を確認するように繰り出される斬撃。
砂塵に視界を奪われた状態でかわそうと思ってもかわしきれるものではなくシャイニングは負傷していく。
しかし、かわしきれないと悟ったギンガナムはその瞬間から射撃を無視し繰り出される斬撃を待った。
そして、グランチャーが周囲に姿を現したその刹那殴り飛ばすとその方角に向かって最大戦速で突貫していった。
砂塵を裂いて吹き飛ばされたグランチャーは体勢を立て直して砂漠に着地した。
そして、前方にソードエクステンションを突きつけギンガナムが追ってくるときを待つ。
ここで朽ち果てるわけにはいかない理由がジョシュアにはあった。
その思いを確認するように胸に手を当てて見る。いつしか自分の中に落ち着いてしまったもの――自分の中のラキが熱を帯びてくる気がした。
その熱がジョシュアとラキ、二人分のオーガニックエナジーをグランチャーに与え、つきつけた銃口はそれまでにない光をたたえていた。
砂塵の中に突撃してくるシャイニングの影が映る。
この一撃に全てを賭けてジョシュアは最後の引き金を引き絞った。
シャイニングガンダムを貫くはずだった光が霧散する。
そして、それは意外にも二人の脳裏から忘れ去られた一人の少女がもたらした。
ジョシュアが引き金を引き絞ったあの瞬間、グランチャーに通信を続けわめき続けていた少女の声色が不意に変わった。
「そうか・・・お前は・・・お前は違うのだな。オルファンの抗体となるべきものではないのだな!何故だ!グランチャー、何故こんな奴を乗せている。お前は私の子だろ!!」
グランチャーに激しい動揺が走り―――
「なっ、動かない!」
―――本来の主を目の前にしてジョシュアを拒絶する。
「シャアアアアアァァァァァァァァイニングッッッッッッッッッ!!!!!!!」
焦るジョシュアの心情とは裏腹に無情にもコックピットから映し出されている外の情景、その中の一つ光り輝く手のひらが見る間に大きくなっていく。
「フィンガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・!!!!!!!!」
やがてそれが視界いっぱいに広がりジョシュアはグランチャーの頭部がこの手に捕まったということを悟る。そして、同時に急速に迫ってくる死を身近に感じた。
シャイニングガンダムの光り輝く右腕のエネルギーが収縮しグランチャーの頭部を破壊する。その過程の最後の数瞬、
瞼の裏に映ったのはラキの笑顔―――
胸の内を占めたのはラキへの想い―――
負けられないっ―――
「動け!動いてくれグラン!!」
ジョシュアはあがいた。相手の声も、通信から流れる少女の声も耳には届かず一人コックピットでなおもあがき続ける。
そして次の瞬間、グランチャーは自らを掴んでいる右腕の肘から先を斬りおとした。
吊り上げられていた状態から自由になったグランチャーはその場に崩れ落ちる。
本体から切り離されたシャイニングの右腕はそれでもしぶとくグランチャーの頭部をつかみ続けていたが今のグランチャーにそれを振りほどく余力はなかった。
しかし、ヒットエンド直前までエネルギーを溜め込んだ腕は帯電している。
再び動いてはくれなくなったグランチャーの中、ジョシュアは自分でも驚くほど冷静な目でその腕を観察していた。逃げられないという判断を頭が下す。
心はあきらめるなと叫び体はあがき続けていたが頭野中はとても冷めたく静かだった。
それならばと思い。残された時間、ジョシュアはラキの中にある自分の想いが彼女の行く道を助けてくれること願った。
「ラキ・・・」
言葉にしようとしてそれも許さず、行き場をなくしたエネルギーが膨張して爆散し、同時にジョシュアの意識は途絶えた。
唐突にH-2地区に爆音が響き渡った。その地区の北東の端の一角に大破した赤い機体と薄桃色の機体がただずんでいる。
戦場に到達したアイビスが目にしたのは光り輝く右腕に吊り上げられ力なく垂れ下がるグランチャーの姿だった。
その瞬間、自棄にも似た気持ちは霧散し助けなきゃという気持ちがアイビスの全てを満たした。その思いが誰かの同じ思いと重なりブレンは跳躍する。
「グランチャー、その腕を切り落とせ!」
オープンチャンネルを介して知らない少女の声が聞こえてきたが気にもならなかった。が、次の瞬間シャイニングの右腕を切り落とすグランチャーが目に入った。
ほっとするのもつかの間、追撃をかけようとするシャイニングの目の前にブレンはジャンプアウトすると体当たりを仕掛ける。不意をつかれたシャイニングはあっけなく弾き飛ばされた。
そして、ただひたすら遠くへとだけ願ってグランチャーの腕を掴みブレンパワードは再び跳躍したのだった。
そして現在、大破したグランチャーを前に四肢に力なくへたり込んだアイビスは呆けていた。真っ白な頭は何も考えることができなければ、涙もわいてこなかった。
『ラキ・・・』
ただ最後に耳にした言葉、その言葉が脳内に残りただひたすらにその場から逃げ出したい思いに駆られているだけだった。
【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:クインシィ・グランチャー
(ブレンパワード)
パイロット状況:爆死
機体状況:大破(上半身が消失している)。右手のソードエクステンションは無事
現在位置:H-2北東部
備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】
【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
パイロット状況:茫然自失
機体状況:ブレンバー等武装未所持。手ぶら。機体は表面に微細な傷。バイタルジャンプによってEN1/4減少
現在位置:H-2北東部
第一行動方針:その場から逃げ出したい
最終行動方針:……どうしよう
備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】
【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
パイロット状態:良好
機体状態:無傷
現在位置:H-1
第一行動方針:戦いやすい相手・地形を探す
第二行動方針:敵を殺す
最終行動方針:ゲームに優勝】
【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真イーグル号(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:興奮、困惑、やや疲労
機体状態:ダメージ蓄積、
現在位置:B-1市街地上空
第一行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
第二行動方針:ガロードを問い詰める。場合によってはお仕置き
第三行動方針:勇の撃破(ユウはネリーブレンに乗っていると思っている)
最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】
【ガロード・ラン 搭乗機体:真ジャガー号(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
機体状態:ダメージ蓄積
現在位置:B-1市街地上空
第一行動方針:お姉さんを止める
第二行動方針:お姉さんに言い訳をする
最終行動方針:ティファの元に生還】
【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状態:気分高揚、絶好調である!(気力135)
機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、全身に軽度の損傷、ENほとんど空
現在位置:A-2北東部砂地
第一行動方針:倒すに値する武人を探す
最終行動方針:ゲームに優勝】
【神 隼人 搭乗機体:YF-19(マクロスプラス)
パイロット状況:良好(但し、激しい運動は危険)
機体状況:良好
現在位置:B-1市街地上空
第一行動方針:真ベアー号の確認
第二行動方針:クインシィとガロードの援護
第三行動方針:高高度からの、地上偵察。
第四行動方針:二人以上の組との合流(相手が一人の場合、少なくとも自分から接触する気はない)
最終行動方針:主催者を殺す
備考:まだ完全にクインシィとガロードを信用しているわけではありません】
【残り47人】
【時刻:17:45】
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