69話  「コーヒーブレイク」  ◆ZbL7QonnV.


「……まあ、焦っても仕方ないか」
 大岩で塞がれた穴の出入り口。それを困った目で見ながら、孫光龍は肩を竦める。
 先程の戦いから約一時間、なんとか穴から出る事は出来ないかと、光龍は様々な手段を用いてはみていた。
 だが、結果は見ての通り。レプラカーンのパワーでは、この穴を抜け出す事が出来ないと言うのが結論だった。
 もっとも、全く打つ手が無い訳ではない。切り札を使えば、今の状況を打破する事は難しくないだろう。
 ハイパー化――
 レプラカーンを念動力で巨大化させれば、この穴を塞ぐ大岩を吹き飛ばす事も出来るはずだ。
 だが、外の状況が分からない状況で、迂闊な行動を取る事は出来ない。
 ハイパー化を引き起こして巨大化すれば、嫌が応にも注目を集めてしまう事になる。
 そうなれば、その様子を見た参加者が、不意打ちを仕掛けて来る可能性も考えられるだろう。
 そうでなくとも、ハイパー化した状態の機体を制御する事は非常に難しい。
 ハイパー化に頼るのは、あくまでも最後の手段だった。
 ……最終的な行動方針は、このゲームを無事に生き延びる事だ。
 あえてリスクを犯す様な真似は、出来れば避けておきたい所だった。

「ギンガナム、だっけ。あの男と違って、無駄な戦いをする気は無いしね。
 参加者同士が潰し合ってくれるなら、それに越した事は無い。今の所は、現状維持でも問題は無いかな」
 穴の入口を大岩で塞がれて外に出られないと言う事は、裏を返せば外の人間が自分を発見する事は出来ないと言う事だ。
 無駄な戦いを繰り返し、機体を消耗させる気は無い。
 戦いを避ける為に身を隠すと言うのであれば、今の状況は決して悪いものではなかった。
 今居る場所が禁止エリアに指定されない限り、この場から無理に動く必要もあるまい。
 今の内に休息を取って、先の戦いで消耗した念を回復させるのも良いだろう。
 ……あの男との、再戦に備えて。

「ふぅ……」
 ざわつく心を落ち着かせる為に、エスプレッソの香りを楽しむ。
 今この瞬間、光龍は平穏の中に居た。


【孫光龍 搭乗機体:レプラカーン(聖戦士ダンバイン)
 パイロット状態:コーヒーブレイク
 機体状態:オーラキャノン一発消費、グレネード二発消費、ハイパー化の兆し在り、顔の牙消滅、左脚部切断
 現在位置:A-8
 第一行動方針:コーヒーブレイク
 第二行動方針:山から脱出する(大岩が出口をふさいでいる)
 第三行動方針:ギンガナムに打ち勝つ
 第四行動方針:己の力を上回る主を見つける
 最終行動方針:生き残る】

【初日 17:00】


NEXT「悪運」
BACK「引き合う風」
一覧へ