70話 「悪運」
◆ZbL7QonnV.
どうやら、私の悪運も捨てたものではないらしいな――
キョウスケ・ナンブ。そう名乗った男と会い見えながら、ユーゼス・ゴッツォは仮面の下で薄い笑みを浮かべていた。
ゲームの会場に降り立ってから、どうあっても接触する必要があると思っていた参加者の一人。
それと都合良く接触が持てた事に、ユーゼスは自身の悪運を感じずにはいられなかった。
あのノイ・レジセイアと名乗った化け物の僕、蒼の少女アルフィミィ――
この男と、そして彼の恋人らしき女は、あの少女に対して面識を持っているようだった。
それはつまり、主催側に対する情報を握っている事を意味する。
……あの化け物に関しては、不明な点が多過ぎる。少しでも多くの情報を集めなければ、この箱庭を抜け出す事は困難だろう。
この男から主催者に関する情報を引き出す事は、対主催を試みる上で非常に重要な前提条件でもあった。
「我々は、あくまで自分達の身を守る為、そして元の世界に戻る為に行動するつもりです。
このゲームに乗せられて、殺し合いを始めるつもりはありません」
他参加者との交渉は、彼女の方が適任だろう。
お世辞にも“善良”と言う事の出来ない自分とは違って、彼女の誠実性は疑うまでもない。
短い付き合いの中ではあったが、ベガが自分とは正反対の世界に生きる人間である事は容易に知れた。
だからこそ、彼女は自分を信頼した。この狂った状況で、他人を信頼する事が出来た。
他人を利用する事しか知らない自分には、出来る筈も無い事だ。
だが、そういった人間の方が、他者の信頼を得られ易い事もまた事実である。
自分には、理解し難い次元の話だが。
「そう、か……」
こちらの目的と、そして当面の行動方針。それらの事を話し終え、キョウスケの反応を通信機越しに窺って見る。
落ち着いた反応を見る限り、戦闘に発展する可能性は低いだろう。
この男と接触するにあたって、最も警戒した事は、レジセイアに対する憎悪で心を曇らせてはいないかであった。
復讐心に囚われた人間は、まともな判断力と理性を失う。
自暴自棄になったまま、無差別に攻撃を繰り広げられる可能性も考えられなくはなかった。
だが、この男には、それが無い。
ならば、その心中を推し量る事は可能であった。
恋人を殺され、その復讐を誓う男。彼の憎悪が行き着く先には、果たして何が待ち受ける?
……決まっている。恋人の命を奪う原因となった、あの少女と化け物だ。
奴等に対して反抗を企てるのであれば、ゲームに乗ると言う選択肢はあるまい。
「成る程……ならば、その男には注意を払った方が良さそうだな……」
ゲーム開始から今までの間に、お互いが出会った参加者――
ゲームに乗った危険人物の情報を提示し合った所で、交渉は一つの段落を迎える。
それまでの間、自分は口を開こうとしなかった。
だが、その沈黙も今終わる。
「キョウスケ・ナンブ、君に聞きたい」
「聞きたい……何をだ?」
「レジセイア、そしてアルフィミィに関する情報を」
「…………」
ほんの微かに、表情が翳る。
……この反応、知っている。それも、かなり深い所まで。
「あの得体の知れない化け物に関して、我々が知っている事は少な過ぎる。
少しでも多くの情報を得ておかなければ、対抗する手段を見付け出す事すら出来ないだろう。
……もし君が戦いの中で命を落としてしまったら、奴の事を知る者が居なくなってしまう。
そうなれば、このゲームを破壊出来る可能性は低くなってしまうだろう。
我々の事を少しでも信じてもらえるのならば、君の知っている事を教えてもらえるとありがたいのだが……」
「……いいだろう。俺の知っている事は、全て話そう」
そして、彼は話し出す。
ノイ・レジセイア、アインスト、アルフィミィ――
人ならざる者達との、遙かなる戦いを。
かつて繰り広げた戦いの顛末を話す事に、胸の痛みを感じないと言えば嘘になった。
(エクセレン――)
共に死線を潜り抜け、一度は自分の手から離れ、それでもこの手に取り戻し――
そして、今はもう、永遠に会う事が出来なくなった、最愛の存在。
(お前の運命を弄んだ報いは、必ず奴らに受けさせてやる――)
あの戦いは、彼女との思い出が多過ぎた。
……いや、違う。あの戦いは、まだ終わってはいなかった。
(だから――少しだけ、待っていろ――)
アインストとの因縁は、まだ断ち切れてはいなかったのだ。
ならば、その因縁は今こそこの手で断ち切ろう。
このバトルロワイアルを破壊して、奴等の首に牙を突き立て、そして――
「それが、俺と奴等の因縁だ」
握り締めた拳からは、いつの間にか血が滴っていた。
「……まるで、神だな」
仮面の上からでも表情を見て取る事が出来るほどの、明らかな不機嫌声でユーゼスは言う。
「だが、その神も一度は倒す事が出来た。ならば、二度目の敗北を与える事も不可能ではないはずだ」
「しかし、この箱庭は奴にとっては掌の中だ。わざわざ反抗の手段を与えて、我が身に危険を及ぼす真似を許すとでも?」
「そう、かもな。だが……」
「…………?」
「分の悪い賭けは、嫌いじゃない」
そう。このゲーム、あまりにも分の悪い賭けだった。
だが、それがどうした。分の悪い賭けは、いつもの事だ――
「……成る程。ならばその賭け、我々も一口乗らせてもらおう」
仮面の下、冷たい笑みを浮かべながら、ユーゼス・ゴッツォは口を開く。
ゲームの破壊、もしくは優勝。どちらの結末に状況が転ぶとしても、戦力の増強は不可欠である。
ベガ、キョウスケ、アインストに関する情報。
自らの元に手駒が着々と増え出して来ている事に満足を憶え、ユーゼスは笑みを浮かべていた……。
【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ビルトファルケン(L) (スーパーロボット大戦 OG2)
パイロット状況:良好
機体状況:ブーストハンマー所持
スプリットミサイル数発消費、オクスタンライフルを半分程消費
現在位置:D-4廃墟、補給施設付近
第一行動方針:エネルギー及び弾薬の補給
第二行動方針:ネゴシエイターと接触する
第三行動方針:信頼できる仲間を集める
最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)
備考:アルトがリーゼじゃないことに少しの違和感を感じています】
【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦INPACT)
パイロット状態:良好(修理できなくて困ってるのも私だ)
機体状態:左腕損失、ダメージ蓄積
現在位置:D-4廃墟、補給施設付近
第一行動方針:首輪の解除
最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
備考:アインストに関する情報を手に入れました】
【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)
パイロット状態:良好(ユーゼスを信頼)
機体状態:良好
現在位置:D-4廃墟、補給施設付近
第一行動方針:首輪の解析
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考:月の子は必要に迫られるまで使用しません
備考:アインストに関する情報を手に入れました】
【初日 16:30】
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