76話 「血に飢えた獣達の晩餐」 ◆Nr7qwL8XuU
手足をもがれ瓦礫に埋もれたドスハードの中、ソシエは瞬く間に変わっていった自身の状況を整理しようとつとめていた。
さっきまで交戦してたあの赤マフラーは間違いなく敵だ。
それにとどめを刺されかけたところを助けてくれた腹ペコのちっちゃいのは多分味方。
ということはそれと交戦してる赤いのは多分敵で、赤マフラーと戦ってる小型機と残りの航空機は・・・・・・あっ、ダメ。こんがらかってきた・・・。
通信機がまともに動けば状況把握も楽なのだろうが、どうも壊れてしまったらしくノイズ音の他に流れてくる音はなかった。
まっ、どうせ動けないんだから考えても仕方ないか・・・。
敵味方の認識をあきらめたソシエはどうにかなるさと気軽に考え、若干投げやりな様子で支給品の袋に手を伸ばした。
中からドンキーのパンとドロシーのコーヒーなる缶コーヒーが出てきた。
一口飲んでその甘さに咳き込んだソシエはそれを無視するとパンを頬張った。
横薙ぎにはらわれる円の動きと真っ直ぐに突き出す線の動き。一瞬早く相手を捕らえたアキトの拳が大雷凰の腹に叩き込まれる。
大雷凰の装甲が軋み、わずかに遅れて直撃した竜馬の脚にアキトはその拳を振り抜ききる前に大きく弾き飛ばされた。
「まだまだぁ!」
直後、大雷凰のブースターはフル稼働しYF-21を追って空を駆ける。アキトが機体を立て直せばその瞬間に、立て直さなければ追いついたその瞬間に一撃を叩き込むべく一度は開いた二者の間を急速に縮めていく。
そして、大雷凰がYF-21に追いつき、その蹴りが襲い掛かる。
「もらったぁ!なっ!!」
がその瞬間、YF-21はファイターモードに変形、吹き飛ばされていたその方向にそのまま加速して攻撃をかわすと135度までロール。
そして、速度を上げながら操縦桿を引き起し、スライスターンで大雷凰を正面に捉えるとすれ違いざまにガンポッドを撃ち込んだ。
「チッ!逃がすかよぉ!!」
放たれたガンポッドは大雷凰の装甲に吸い込まれ火花を散らす。だが意にも介さずといった風で振り向いた竜馬はアキトの追撃に移った。
「いつまでそうやって逃げ回る気だい?」
テッカマン・エビルが間を詰める。
「そうだな・・・。君が私の話を聞く気になるまでかな?」
凰牙が間合いを広げる。そんなやり取りが続けられていた。
全長28.5mの凰牙に対してわずか2.36mのテッカマン。にもかかわらず踏み込まれるたびに後ずさっていく凰牙の姿はもはや滑稽という他ない。
憶測ではあるがロジャーの間合いで戦えば勝機はあるだろう。しかし、懐にもぐりこまれるとおそろしくやり難い。加えて依頼の内容的に手を出すわけにはいかない。
その自覚がロジャーに現在の行動を取らせていた。
「残念だけど、お前と話し合いする必要なんかないね!」
これまで緩やかな動きから一転、テッカマンは高速で駆け出す。
「消えただと!」
それまでとの速度差、こちらの1/10以下というサイズ差、そして予想外の高速、それらの要因が絡み合いロジャーはテッカマンを見失う。
次に気づいたときには文字通り凰牙の眼前にテッカマンはいた。
攻撃を受け流す暇もなく、とっさに首を捻ってランサーをかわす。しかし、完全には避けきれず凰牙の右の角が音をたてて地面に落ちていった。
「今のをかわすなんて意外にやるね」
テックランサーを悠然と旋回させテッカマンが構えなおす。
「君は何か勘違いをしている」
背後に着地したテッカマンを追って向き直り凰牙も構えなおす。
「何をだい?」
「これは話し合いではない。取引だ」
大雷凰が市街地に身を隠したYF-21を追って大地に降り立った。
「どこに逃げやがった」
油断なく背をビルに預け周囲を警戒する。
右に敵影はない・・・。左も・・・。
空に目を移す。やはりそこにも姿はなかった。が、次の瞬間敵機の接近を告げるアラームが鳴り響く。
「クソッ!どこから・・・後ろかぁ!!」
その声とほぼ同時に背後のビルは崩れそこから姿を現したアキトの拳が竜馬を捉える。
金属がつぶれる音が響き大雷凰の胸部装甲が凹んだ。
だがそこでYF-21の拳はつかまれ
「へっ!やっと捕まえた・・・覚悟しやがれぇ!!!」
一転、二転、三転、大きく振り回される。そしてついた遠心力をそのまま利用して大空高くYF-21が投げ飛ばされる。
「貴様にも味あわせてやる!大雷凰の恐ろしさをなっ!!」
きりもみ回転で制御を失った機体の中アキトが必死で機体を立て直す。
「ラアアァァァイジングメテオ!!」
そんなアキトに構わず、大雷凰は高速で迫り
「インフェルノオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!」
周囲に爆音が轟いた。
震えた空気の振動にモニターが揺れる。
そんな中、目の前の達磨となったドスハードにリリーナは通信を続けていた。
しかし、応答はない。
それはドスハードの通信機が壊れてしまった為なのだがそのことを知るすべはリリーナにはなかった。
ふと交渉をおこなっているはずの凰牙のほうに目を移す。角が落とされ大地に落ちていく姿が遠目に確認できた。
そして交戦しているのか時折赤い火花が散っている。
「ロジャー・・・」
信じていますと繋げたその声は直後の轟音にかき消された。
慌てて音のほうを振り向く。離れた空域に巨大な爆煙が渦巻いているのが見えた。
そして、ヴァルハラの巨体が揺れる。
次の瞬間、その制御は失われ、巨大な力にヴァルハラが引き寄せられる。
その中でリリーナは一人絶叫した。
小さな人影が地を蹴って信じられない高さまで跳躍すると槍を薙ぐ。
「取引だって?面白い。お前が僕に何を与えてくれるというのだい?」
サイドステップで避けた凰牙の装甲に槍の先端がわずかにかすり火花が散る。
「ゲーム内における君の安全と君が望んでいるであろう現実世界への帰還だ。取引に応じた場合、君の安全は私が全力をかけて守ろう。そのかわりに我々に協力してもらいたい」
その一言がテッカマンエビルの、相羽シンヤのプライドに触れた。
「お前ごときがこの僕を守るだって?フッ・・・ハハ・・・ハァーハッハッハッハ・・・」
突如、シンヤの笑い声が木霊した。その様子にロジャーは肩を竦める。
「何か可笑しいかね?」
「いいや。笑えないね」
テックランサーをロジャーに向かって投げ飛ばす。
「お前ごときが」
唸りをあげて迫るテックランサーがロジャーの脇をすり抜けいった。
「この僕を」
ランサーの先につけていたのか手元の鋼線を勢いよく引き戻す。
「守るだと?」
黒い大きな影が日光をさえぎった。
「ふざけるのもたいがいにしろよ!人間風情があああぁぁぁぁぁぁ!!」
テックランサーが突き刺さり、ワイヤーに絡め取られ、そして制御を失い強引に力ずくで引き寄せられたヴァルハラが上下逆さまに凰牙を押しつぶしてくる。
辛うじてそれをかわしたロジャーからヴァルハラに通信が飛ぶ。
「リリーナ嬢!リリーナ嬢!!応答したまえ!!!」
だがその間にも差し迫ってきたテッカマンが猛威を振るう。
その攻撃を薄皮一枚――-装甲の表面をかすらせる程度で回避したと思った瞬間、体当たりをくらい凰牙は仰向けにビルに沈み込んでいった。
一向に返ってこない通信に苛立ちを募らせつつ身を起こすロジャー。その目にヴァルハラを刻み、槍を回収するテッカマンの姿が飛び込んできた。
体勢を整えるのもそこそこに凰牙の豪腕が唸りをあげてテッカマンに放たれる。それをひらりと回避したエビルは凰牙に対峙した。
「やれやれ、もう少し話せる相手だと思っていたのだが・・・・・・。ネゴシエイションはプロとプロがかわすもの、君もプロたるべきだとは思わないか?」
「はっ!ネゴシエイターは交渉場所に武器を持ち込まないのが鉄則ではなかったのかい?」
「ネゴシエイションに値しない相手には鉄の拳をお見舞いするのが私の主義だ」
「どこまでもふざけた男だね。ハッ!虫唾がはしるんだよおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
今しがた起こった爆発の中心にその機体は長いマフラーをたなびかせていた。
そしてわずかに離れたところを濃紺の小型機が旋回している。
ライジングメテオ・インフェルノが直撃する瞬間、機体の制御を取り戻したアキトはかろうじてそれをかわし、攻撃直後の隙を突いてビームガンとマイクロミサイルを大雷凰に撃ち込んだ。
しかし、直撃したはずの大雷凰に目立った傷跡はついていない。
だが、ここまでで相手の強固な装甲を確認しているアキトに驚きはなかった。おそらくこちらの武装で相手の装甲を抜けるのはバリアを収束させた拳か反応弾ぐらいだろう。
後者はなるべく使いたくはなかった。ここで使うとユリカまで巻き込む危険性がある。前者は最初の交錯時のように馬鹿正直に使えば当たり負けするのは明白だった。
ならば馬鹿正直には使わないだけだと腹をくくる。
YF-21はファイター形態に変形。最大出力で大雷凰に急加速突撃を開始した。
「出し惜しみは・・・無しだっ!」
構えた竜馬に向かってほぼ残弾すべてに相当する大量のガンポッドとマイクロミサイルを散布する。補給ポイントを押さえているからこそ多少の無茶も目をつぶれる。
「ちっ!なんて数だ」
最初の数発を回避するも後続につかまった大雷凰が次々と被弾していく。厚い装甲に阻まれて損傷自体はたいしたことはなくとも爆発の衝撃に翻弄され機体の安定が保たれない。
それによって流れていく先をBDIシステムが予測、アキトは懐に飛び込んだ。
YF-21がバトロイド形態に変形、右拳にピンポイントバリアが収束されていく。
「ここだ・・・・・・」
そして、速度を半減させながらも音速を遥かに超えた速度を保ったまま、その右拳は大雷凰に叩き付けられた。
とっさに軸をずらした大雷凰の頭部が砕け、破片が宙を舞う。その光景を背後に既にYF-21はその場にいない。
「なにっ!」
だが、安全圏まで距離をとったはずのアキトを奇妙な減速感が襲った。
「プラズマビュート!逃がすかああぁぁぁぁ!!」
頭部の砕けた大雷凰の腕が大きく弧を描き、YF-21が強引に引き寄せられる。
「喰らえ!カウンタアアアァァァァァァァァッスパイクッ!!!!」
そして砂嵐に埋め尽くされたモニターの中、竜馬はタイミングをはかってその蹴りを繰り出した。
足に感じる確かな手ごたえと共に地面に何かが叩きつけられる轟音が聞こえてきた。
「くそっ!」
軽く舌打ちをしたリョウは次々にモニターをサブカメラに切り替えていく。
受けた損傷の大きさに苛立ちを隠せない。
だがそんな暇もなく回復させたモニターに異常なほど巨大な砲弾が映し出された。
背中に冷たいものを感じ、反射的に機体を捻る。砲弾はわずかにかすった肩のアーマーを易々と砕いて大雷凰の遥か後方に巨大な噴煙を高々とあげた。
「おいおいおい・・・、冗談じゃねぇ・・・」
だが、竜馬はその噴煙には見向きもしない。見上げたその先には無敵戦艦の姿があった。
全長53.8mの大雷凰に対して420mのダイ。そのあまりの巨大さに圧倒される。
その圧力はあなたの眼前に全長約13〜16mの世界最大の肉食生物マッコウクジラが突然姿を現し迫ってきたと考えていただくと多少は伝わりやすいだろうか・・・。
とにもかくにも、その巨体が放つ圧力は並々のものではない。
何かに呑まれたように竜馬の体は動かず。その肌には冷たい汗が吹き出てきていた。
だが、銛を持った漁師はクジラにも立ち向かいしとめる。やがて凶暴な光が竜馬の双眸に宿る。
そして、大雷凰の脇をすり抜けて伸びていった光線を追って竜馬は空を駆けていった。
凰牙とテッカマンが互いの拳を、武器を数合交え飛び退く。
「本当に思っていたよりもやるじゃないか」
「これでも軍警察にいたこともあるのでね。あまり甘く見ないでいただこうか」
「それは無理ってものだよ」
目の前のテッカマンの装甲が細く変わっていく。
不意にテッカマンが眼前から消え、凰牙は吹っ飛んだ。
「だって、その程度では僕の相手にはならな」
軽口を叩いていた口が不意に止まりその上体がゆらゆらと揺れる。
その様子を不審に思いつつロジャーは立ち上がる。
「おやおや、どうやらスタミナ切れかな・・・・・・」
シンヤの視界は歪み揺れていた。ただでさえ極限の空腹状態にあった彼である。そのうえ装甲を変形させて見せることすらやってみせた。
こうなることは必然といえば必然であった。
「なに、心配はいらないさ。お前は自分の身の心配だけをしてればい」
そこで再び言葉が途切れる。揺れる視界の中、その瞳は突如戦場に姿を現した無敵戦艦の巨体を捉えていた。
「まったく次から次へと・・・」
憎々しげに呟くと凰牙と距離をとったまま右に跳躍する。
無敵戦艦ダイと凰牙とテッカマン、三つの点が線を結ぶ。
(もつか?)
(いや、もたせてみせるさ)
一瞬、そんな自問をすると彼は一つの賭けに出た。
「ボルテッカアアアアァァァァァァァ!!!!」
モニターが光に埋め尽くされ、耳を劈くような轟音が鳴り響いた。
「え?なになに??何がおこってるの?」
このロワ最大の巨体を誇る無敵戦艦の膝が崩れ、その内部にあるブリッジも傾いていく。
慌てて慣れない手つきでモニターにかじりつき敵機の姿を探す。ここにはいつものように索敵をおこなってくれる仲間はいない。
映し出されるモニターの映像とレーダーに目を走らせている間にも突然襲ってくる振動とその度に傾いていく床に足を取られて何度もこけた。
やっとの思いで艦後方に大型機を確認したと思ったその瞬間、ダイは横倒しに倒れユリカは床に叩きつけられる。
モニターに映し出されているのはいつの間に接近してきたのか赤いマフラーが印象的な一つの大型機。
その大型機が追撃を加えようとして不意に飛び下がり、ダイとの間に損傷の激しい小型機が上空から割り込んでくる姿が見えた。
「チッ!邪魔が入りやがったか」
「ユリカに手は出させない」
飛び下がった大雷凰を追って残りわずかなマイクロミサイルの残弾全てがYF-21から散布される。それを次々と蹴り砕きながら大雷凰は上空に舞い上がる。
最後の一基を蹴り砕いたとき、動きを予測し先回りしていたYF‐21が差し迫ってきていた。
「勝負だ」
迫る小型機が拳にフィールドを収束させる。
瞬時に体勢を立て直した大型機の両脚が紫の雷光を発する。
再び交錯する拳と脚。大気が震えた。
直に大雷凰の脚と激突したYF-21の拳が砕け散る。
だが、構わずに両腕を失ったYF-21は大雷凰の懐に飛び込み、両腕部の残骸と両脚部をパージ、ファイターモードに移行して―――
―――リミッターを解除した。
YF-21は機首が大雷凰の腹に突き刺さり加速していく。
激しい振動が竜馬を襲う。すぐにそれは耐え難いGにかわった。
なおも加速を続ける二機は恐ろしい速度で無敵戦艦ダイから離れていった。
視界がドロドロに歪み、目の前の光景が一瞬遠のきかける。そんな状態ながらもシンヤは踏みこたえ意識を手放さなかった。
PSYボルテッカを放った直後、かろうじてかわす凰牙が見えた。まったくもっていまいましい。
そんなことに気を取られたのも一瞬、シンヤは巻き上げられた粉塵の中に姿を消した。
「まさかこんな武器を持っていようとは・・・」
油断なく周囲を警戒しつつもロジャーは驚きを隠せずにいた。
(この威力・・・サドンインパクトの比ではない・・・。しかし・・・彼はどこへ?)
巻き上げられた粉塵にロジャーはシンヤを見失っている。
最初は姿を紛らせて接近。不意打ちをかけてくるかと思ったがその気配はなく。どうやら違うようであった。
ならば奴は何を考えて・・・まさか引いたわけでもあるまい―――
不意に粉塵の煙幕が裂け、慌ててロジャーが身構える。
その眼前を悠々とテッカマンとばらされコックピットブロックのみを残したヴァルハラが横切った。
「貴様ああぁぁぁぁぁ!!!」
ロジャーが叫び、凰牙が全速でそれを追おうとして崩れ落ちた。
凰牙の計器が燃料切れをロジャーに告げる。
「くそっ!!こんなときに!!!」
拳を計器に叩きつける。
ガン!!
凰牙のコックピットに無機質な音が響き、血が固く握りこまれた拳から滴り落ちた。
そんなロジャーを尻目に二機はビルの谷間に消えていった。
D-7地区で行われた激しい戦闘がひとまずの終局を迎えてから約十分後、そこに佇む巨大な戦艦と一つの人型機動兵器の姿があった。
「すまない。手伝わせてしまって・・・」
補給を終えた凰牙を起動させながらロジャーはユリカに礼を言う。
「いえ。このくらいのことは当然です。残りのデンドー電池は私のほうで預かっておきますので」
「感謝する、ユリカ嬢。それで君はこれからどうするつもりかね?」
「ひとまずは補給ポイントでア・・・・・・ガイさんの帰還を待ちます。ロジャーさんはやっぱり・・・」
「あぁ・・・、奴を追う。放送時間が迫っている今ならば追いつきクライアントと助けるチャンスもあるはずだ」
そういってサングラスをかけ、その表情を隠した。そこに存在するもう一つの―――リリーナの死の可能性にはあえて触れなかった。
「では時間もない。私は行かせていただこう。また会えるときを楽しみにしているよ」
そういって予備のデンドー電池を手に取り、付近刺さっていた巨大な槍を持ち上げる。
そして、眼前を睨みすえるとテッカマンが消えた方向に向かって去っていった。
まだ太陽が空に残る夕方、大気との摩擦で青白く光る二機の機体は、さながら蒼い流星の如くD-7市街地上空から西北西に伸びっていった。
「馬・・・鹿な・・・貴様、死ぬ気・・・かぁあ゛」
その凄まじいGのかかるコックピットの中で竜馬がやっとの思いで声を振り絞る。
例え機体は無事でもすでに人体が耐えることのできる速度ではなかった。
それはゲッターのパイロットとして鍛えられた竜馬とて例外ではない。そして、無論アキトも無事ではいられない。
二人の腹は想像を絶するGで窪み、皮膚は波打ちその表面には血管がくっきりと浮かび上がっている。
そして、答えを返そうとしたアキトの口から鮮血が飛び散り、彼の意識は閉ざされた。
そのアキトの様子にいずれ自分もと判断した竜馬は、重くなった両手を動かすとYF-21の機首を掴む。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そして果てしなく重くなったそれから逃れようと力を振り絞り、抜け出した。
蒼い流星が二つに分裂し、大きい欠片は木々をなぎ倒し森林に堕ち、小さい欠片はその光をたたえたまま大空に舞い上がり雲の狭間に消えていった。
コックピットのハッチに指がかかり、力が加わる。そして金属が悲鳴を上げて引きちぎられ強引に抉じ開けられた。その力が明らかに目の前の者が人ではないことを物語っていた。
嫌な汗が背を伝って落ちる。体が小刻みに震えてとまらない。悲鳴は喉を鳴らし、口をついて出て行こうとする。
しかし、気丈にもその悲鳴を喉元で押し殺し、強い意志の光をその瞳にたたえ、リリーナは目の前の参加者に毅然と向かい合った。
「私は地球圏統一国家外務次官リリーナ・ドーリアンです。あなたとの話し合いをの――」
そこで言葉は途切れ、その続きが紡がれることは二度となかった。
ゴトリ
音をたてて胴から切り離された頭が床に落ちる。続けて残った胴体も崩れ落ちた。血が床に撒き散らされ赤い花が咲いた。
だが、その様子にまったく気をとめる様子もなく彼――相羽シンヤは目的の食料を見つけると冷たい笑みをこぼす。そして、テックセットを解くと食料を貪り始めた。
【相羽 シンヤ(テッカマンエビル) 搭乗機体:無し
パイロット状況:テッカマン形態、PSYボルテッカ使用により疲労、空腹解消
機体状況:機体なし
現在位置:D-8市街地
第一行動方針:竜馬を殺す
第二行動方針:ロジャーを殺す
第三行動方針:機体の確保
第四行動方針:十分な食料の確保
第五行動方針:他の参加者を全滅させる
最終行動方針:元の世界に帰る
備考:テックシステムの使用はカロリーを大量に消費】
【ロジャー・スミス 登場機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
パイロット状態:若干体力消耗
機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)、EN満タン
現在位置:D-7市街地
第一行動方針:リリーナの救出
第二行動方針:リリーナを護りながら、参加者へ彼女の完全平和主義を説く
最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯
備考3:ドスハードの槍も携帯】
【流
竜馬 搭乗機体:大雷鳳(バンプレストオリジナル)
パイロット状態:衰弱
機体状態:装甲表面に多数の微細な傷、頭部喪失、右肩外部装甲損壊
、腹部装甲にヒビ、胸部装甲に凹み
現在位置:B-6森林
第一行動方針:サーチアンドデストロイ
最終行動方針:ゲームで勝つ】
【ミスマル・ユリカ 登場機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
パイロット状態:良好
機体状態:大砲一門破損、左前足損傷、腹部装甲損壊、大砲を一発消費
現在位置:D-7補給施設
第一行動方針:ガイ(アキト)を補給施設で待つ
第二行動方針:補給施設を占拠して仲間を集める
第三行動方針:ガイの顔を見たい
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考1:YF-21のパイロットがアキトだと知りませんが、もしかしたらとは思っています
アキトの名前はガイだと思っていますが若干の疑問もあります
備考2:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)回収】
【リリーナ・ドーリアン 登場機体:セルブースターヴァルハラ(GEAR戦士電童)
パイロット状態:死亡(頭部切断)
機体状態:バラバラ。コックピットのみ 】
【初日 17:40】
高高度に摩擦熱で焼け焦げた戦闘機の姿があった。そして、その焼け焦げたYF-21の中、アキトは生きていた。
大雷凰という大質量の重りがついていたことでYF-21のハイ・マニューバ・モードはその本来の速度まで達することができなかった。
そして、アキトが意識を失った時点からBDIシステムはダウン。機体は失速をはじめ、やがてエンジンは停止し、風に乗って高高度に舞い上がったのだった。
うっすらとその瞼が開く。アキトの目には眼下に大きく広がる雲海とそこに傾いていく太陽が映し出されていた。
そしてほぼ同時刻、すでに人の去ったD-7の戦場後の瓦礫が動き一つの人影がひょっこりと姿を現した。
「まったく。そろいもそろって私を忘れて行くなんて一体どういうつもりなのよーーーーーーーー!!!」
一人寂しく廃墟にその叫びは木霊していった。
【テンカワ・アキト 登場機体:YF-21(マクロスプラス)
パイロット状態:衰弱(大)
機体状態:両手両足喪失、全身に損傷、マイクロミサイル残弾0、ガトリンクガンポッド残りわずか、EN残り20%
現在位置:A-6東部高高度
第一行動方針:機体の補給
第二行動方針:無敵戦艦ダイに帰還
第三行動方針:ユリカを護る(そのためには自分が犠牲になってもかまわない)
最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない)
備考:脚部はD-7市街地に落ちているので回収できたらつけられるかも(?)】
【ソシエ・ハイム 搭乗機体:機鋼戦士ドスハード(戦国魔神ゴーショーグン)
パイロット状況:なんでみんな私を忘れていくのよーーーーー!!(機体がガンダム系だと勘違いしています)
機体状況:だるま(両腕両足損失)(AIは取り外され、コクピットが設置されています)
現在位置:D-7市街地
第一行動方針:新しい機体が欲しい
第二行動方針:仲間を集める
最終行動方針:主催者を倒す】
【残り45人】
【初日 17:55】
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