89話 「騎士の美学」 ◆C0vluWr0so
マサキたち一行と別れた後、ブンドルは東へ進路をとっていた。
「この地図……おおまかな地形は合っているようだな。やはりこれは殺し合いを円滑に行わせるための小道具と見て間違いないだろう」
ブンドルはこれからの目的地について思案していた。
地図を見る限りでは参加者が集まりそうなポイントは三つ。
A-1とC-8、D-8の市街地二つにG-6の基地だ。
市街地ならば建物など障害も多く、食料品なども手に入るだろう。それを考えれば非力な参加者が生き残るために集まってくることは想像に難くない。特に二つのエリアにまたがる南の市街地はその傾向が強いに違いない。
基地は言うまでも無い。この――首元に手を伸ばす――忌々しい首輪。これを解除出来る可能性が最も高いのは十分な設備があるだろう基地だ。高台にあるため、立てこもりにも有利。
――だがそれゆえに激戦地となることも予想される。出来れば早い段階で確保し、首輪の解析を進めたい。
「……やはり問題は技術者か」
そう、首輪を解析するにしてもそのとき必要になるのは解析スキルを持った技術者。首輪の解除もなしに主催者に歯向かうのは、あまりに分の悪い賭けだ。
基地の確保、技術者の捜索、どちらを優先させるべきか。ブンドルは思案していた。
そのとき、ゲームの進行を告げる放送が会場に響き渡る――
…ラクス=クライン
…リリーナ=ドーリアン
『ご褒美は、死んでしまった方を生き返らすことから世界の改変まで望むがままですの』
ブンドルは憤慨していた。自然と声にも怒気がこもる。
「ふん、放送によって狂気を煽るか。……実に美しくない」
しかし、事態は想像以上に進行している。
放送の中に、二つ知った名があった。ラクス=クライン、リリーナ=ドーリアン。
カズイにゼクスだったか、あの二人は。ゼクスは大丈夫だろう。あの青年からは大局を見据える目と、折れない意志を感じた。だがカズイはどうだろうか?
ブンドルは知っている。このような極限状態に陥ったとき、もっとも怖いのは彼のような一般人だ。脆い彼らは、簡単に壊れる。
他の八人の死も、狂気の加速を促すに十分だ。
そして、『褒美』の存在。死者の蘇生、世界の改変。本来ならば一笑に付したところだ。
だが今の状況を見てみろ。自分たちは訳も分からずにこんなくだらないゲームに乗せられている。しかも複数の世界の人間がだ。認めたくはないが、あの主催者の力は異常だ。
だが――だからこそ、私はあえて歯向かおう。その力をこんなふざけたことにしか使わないあの怪物に。
さしあたって私がすべきことはなんだ? 基地の確保か? いや、違う。
だいたいにして、人の尊ぶべき美しい命とくだらんゲームのための設備とを比べていたことが間違いだった。
「私はこのゲームの騎士(ナイト)となろう。これ以上命の花を無駄に散らせるわけにはいかん」
基地の確保は後回しだ。人の命は容易く消えるここでも、設備はそうそう消えまい。幸いにもまだ基地は禁止エリアの指定はされていない。先に市街地へ行き、より多くの弱き者たちを守る。それが騎士たる私の使命だ。
再び地図に目をやる。北西と南、どちらへ向かうか。南の市街地の近くで遭遇した二機。あまりにも美しさに欠ける機体だったため接触はしなかったが、向こうには明らかな交渉の意志があった。彼らなら南の市街地に集まる参加者をまとめることが出来るかもしれない。
ならば私が向かうのはA-1に位置する市街地。ここで私は騎士としての使命を果たそう――
青き翼で風を切り飛んでいくその様は、さながら竜騎士か。
ブンドルは再度誓う。必ずやこのゲームを止めてみせると。
【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE
LORD OF ELEMENTAL)
パイロット状態:良好、主催者に対する怒り
機体状態:サイバード状態、ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能
現在位置:G-5
第一行動方針:A-1に向かい、技術者をはじめとする一般人を保護する
第二行動方針:基地の確保のち首輪の解除
最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ】
【初日 18:20】
NEXT「追う鬼、追われる鬼」
BACK「類(仮面)は友(仮面)を呼ぶ」
一覧へ