90話  「追う鬼、追われる鬼」  ◆caxMcNfNrg



「ふう・・・」
死者を告げる少女の声を聞き終えて。
ユリカは安堵の溜息をつき、直後にその自身の行為に嫌悪感を覚えた。
確かにガイの名は―密かに案じていた思い人の名も―読み上げられなかったものの・・・
ここに来てからの知人である、リリーナ=ドーリアンの名が羅列の中にあった。
つい一時間程前には、この場で顔を合わせて話していたというのに。
先程までは確実に生きていたはずの彼女は、もう、この世から消えてしまったのだ。
少女の顔を思い出し、ユリカの胸中は悲しみと不安に顔を俯かせる。
そして・・・偶然目に入ったモニターに、ある物を見つけた。


「まったく、なんだっていうのよ!」
荒れ果てた舗装道で、聞く者も居ない文句が繰り返される。
足元の小石を蹴飛ばしながらソシエは一人、進軍していた。
ちなみに、彼女の怒りの原因は先程聞こえた放送・・・では無く、
彼女に気づかずにどこかに行ってしまった、参加者達にたいするものだったりする。
(10名もの死者が出たことに対する、主催者への怒りも無いわけではないが)
「だいたい・・・助けに来たはずなのに、なんで助けた相手を忘れてくのよ」
そんな事をぼやきながら、再び小石を蹴飛ばす。
足元から勢いよく放たれたそれは綺麗な弧を描きながら、近くに出来た大きな穴の中へと消えた。
「ああ、もう!」
小石にすら馬鹿にされている。
そんな思いにかられたソシエは、肩をいからせながら石の消えた大穴へと近づき・・・
慌てて元の場所、すなわちビルの影へと戻った。
「な、なんなのよ、あれは・・・」
十字路の中心に大きく開いた亀裂。
そこから右の方、歩いて数百メートルも行かない場所に、信じられないほど巨大なトカゲが居たのだ。
「まったく・・・なんだっていうのよ」
何度目になるかもわからない文句を繰り返しながら、ソシエは溜息を吐いた。


同じ頃、無敵戦艦の艦橋ではモニターの一点を、じっと見つめるユリカの姿があった。
ダイの左側面付近にある亀裂のあたりで、小さな人影らしき物を見つけたからだ。
一瞬で物影に消えてしまったので背格好などはわからなかった。
だが、この付近で活動している生身同然の姿をした者には、心当たりがある。
もちろん、ガイが機体を乗り捨てて帰ってきた可能性も考えたが・・・それなら、隠れる必要性も無い。
やはりあれは、リリーナ=ドーリアンを殺した人物なのだ。
ならばどうするか?相手は倍以上の大きさの機体と、互角以上に戦える力や機動力の持ち主だ。
ただでさえ鈍重で死角の多いこの機体では、まともに戦って勝てるかどうか・・・
こちらの利点を挙げるとすれば、ダイの保有している都市一つを破壊するほどの火力。
加えて補給ポイントの真上という地の利。そして、先手を取れるという有利。
おそらく・・・相手はまだ、こちらが存在を感知している事に気づいては居ないだろう。
そう考えると、こちらが取れる戦術は限られてくる。
ユリカはミニミサイル全基の照準をビルに合わせ・・・一斉に発射する。
それと同時にダイの首を補給装置のスイッチへと伸ばした。


どれくらいの時間がたったのだろうか・・・その場所にはある一点を基点とした焼け野原が広がっていた。
その中心、補給装置を覆うように佇む戦艦の艦橋で・・・ユリカは床に座り込み、震えている。
すでに暗くなった周囲には、何者の反応も感じることはできなかった。
およそ一時間以上もの間、爆風に晒され続けたのだ・・・おそらくは仕留めたのだろう。
しかし、敵を倒した喜びは無い。ユリカの胸中にあるのは不安と恐怖だけだった。
「ガイさん、はやく帰ってきてください・・・アキト・・・」
ユリカの小さな呟きが、暗い艦橋の中で消えた。



【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
 パイロット状態:不安
 機体状態:大砲一門破損、左前足損傷、腹部装甲損壊
 現在位置:D-7補給施設
 第一行動方針:ガイ(アキト)を補給施設で待つ
 第二行動方針:補給施設を占拠して仲間を集める
 第三行動方針:ガイの顔を見たい
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考1:YF-21のパイロットがアキトだと知りませんが、もしかしたらとは思っています
     アキトの名前はガイだと思っていますが若干の疑問もあります
 備考2:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)回収
 備考3:リリーナを殺した人物(シンヤ)を仕留めたと思っています】

【初日 19:20】



焼け野原と化した市街地の直下。
真っ暗な下水道をふらつきながら歩く人影があった。
折れた右足を引きずりながらソシエは一人、進軍している。
ミサイルがビルに着弾した瞬間、彼女は爆風により大きく吹き飛ばされ、
そのまま、近くにあった亀裂の中へと落ちていたのだった。
幸い水の中に落ちたので、右足の骨折程度で済んだものの・・・
その痛みと、蓄積された疲労で彼女の体力は既に限界だった。

コンクリートの壁に背を預け、少女は気絶するように座り込む。
目を瞑り荒い息を吐く少女の手には、小さな石が一つ、握り締められていた。



【ソシエ・ハイム 搭乗機体:なし
 パイロット状況:右足を骨折、疲労大
 機体状況:なし
 現在位置:D-7地下下水道
 第一行動方針:休息をとる
 第二行動方針:新しい機体が欲しい
 第三行動方針:仲間を集める
 最終行動方針:主催者を倒す】

【初日 19:30】


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