98話「もしも、その時は」
◆vBGK6VSBWM
くそぅ……なんて情けないんだろうなあ。
本当ならおいらがテニアを慰めなきゃならないって言うのに逆に慰められちまった。
こんなことじゃあいけねえ!
俺がしっかりしなけりゃあ、本当はあいつだって泣きたいのを我慢してるはずなんだ!
おいらはほっぺたをガツンと殴って気合を入れた。
そしてテニアの友達に黙祷して
たとえおいらが死んだってテニアと統夜を会わせてみえると約束したんだ。
その時、ふとカティアの乗っていた機体が目に入った。
戦闘機だ。
おいらはテニアに通信を開き、出発する旨を伝えることにした。
「わかった…」
力の無い返答で、鈍感なおいらでもテニアが疲れている事はわかった。
当たり前だよな。親友が二人も殺されて行方知れずの統夜って奴はテニアの――
色々と焦りすぎて、テニアの事を全然考えていなかったな。
こういうのはハヤトの方が……いや単純に元気付けるならリョウの方が……
どっちにしろ、おいらには向いてないって事だ。
「やっぱり、もうちょっと休んでから行こうか。」
そんなことを精一杯考えて言ったんだけどよ。
「アタシは元気だから大丈夫だよ!」
テニアは心配しないでと言わんばかりに、精一杯の笑顔で元気に返事をしてくれた。
統夜って奴に会うまで絶対にこの子を死なせるわけにはいかないって気持ちが強くなった。
こんなこというのは、おいらの柄じゃ無いけどよ。
やっぱり恋人同士が出会えないまま死んじまうって言うのは可愛そうだからな。
みなさん。お久しぶり。
アタシの迫真の演技は見てくれた?
最初の通信は不意を衝かれた拍子に素の自分が出てしまうって演技。
その後にいつも通りの自分を見せて、健気さを演出したの。
これだけの演技ができたら、もう大人の女って感じなのかな?
無駄話はこれくらいにして、と。
結局アタシ達は統夜を探す為に出発したんだ。
それともったいないからカティアの乗ってた機体の銃を持っていった。
流石にムサシにそんな理由で持っていくなんて言えないから、形見にしたいの――とかなんとか理由つけて。
そのとき、ムサシも機体からなにか持って行ったようだけどアレはなんだったんだろ?
なんだか妙に慌てていたようだったけど・・・
さあて、これから出発だけど他の参加者と会うんだったら、ムサシみたいな単純で使いやすい奴が良いかな。
アタシの演技力なら、ああいう単純な奴って簡単に騙せるでしょ。
逆に会いたくないのは強くて味方になりそうな奴や頭の良い奴。
強いと不意討ちしたとき、逆に返り討ちになったらヤだし、頭がよかったらアタシの演技も見破られそうじゃない?
下手にゲームに乗ってる奴と当たるよりもそっちの方が怖いかも。
そういうのはムサシに任せてアタシは逃げちゃえば良いんだもん。
あ、ごめんね。また話がそれちゃった。
そんなことを考えてたら、出会っちゃった。
多分、あたしの出会いたくなかったタイプの奴らに――
僕――キラ・ヤマトはトモロから、操艦レクチャーを受けてから三十分である程度の使い方をマスターできた。
フュージョンという特殊な搭乗形式も理解することができた。
でも、実際にフュージョンを行ってはいない。
トモロが言うには二つほど危惧していることがあるというんだ。
ジョナサンには話していないが――という前置きを置いてトモロがそのことを話し始めた。
まず、一つ。トモロ自身がこのJアークのスペックを把握できていないということ。
妙な話に聞こえるかもしれない。でも、トモロの説明を聞けばそれはもっともかもしれないと僕は思った。
Jアークの性能は僕の想像を超える性能で本気を出せば、この会場なんて簡単に吹き飛ばせる代物らしい。
その説明を聞くだけでもクラクラとしたけど、実際にそれだけの力を出せるようなら、殺し合いなんて開く必要すらない。
それなりの制限はかかっていているのは明白だということらしい
意地の悪い事に制限がどれだけのものかは、この戦艦を制御しているトモロにも把握できないようにしてあるらしい。
それでも、さっきのジョナサンさんとの知り合いの戦闘である程度、現在の武器の威力はわかった。
問題は二つ目。キングジェイダーというJアークの戦闘形態への変形が可能であるかということ。
本当はJジュエルっていう宝石や体を機械で強化していないと変形は不可能(というより大幅な負荷が搭乗者にかかる)らしい。
しかし、さっき言ったようにこのJアークには制限が掛かっている。
もしかしたら僕にも変形は可能であるかもしれないとトモロは言っていた。
でも、トモロはジェイダーへのフュージョンは可能だろうという計算だ。
それでもキングジェイダーへのメガフュージョンは危険だということだった。
そんな会話をしていると、トモロが熱源反応が二つこちらに近づいてくると教えてくれた。
その内の一体が姿を現した。シンプルな白い機体。手には鎖の付いているハンマーを持っている。
これは僕の知っているMSによく似ている――ガンダムなのかな?
テニアがカティアの機体から銃を持っていくと言い出した。
特に反対することも無いだろうし、理由ももっともだ。
ただ、その時カティアから機体に装備されていた反応弾の話を思い出したんだ。
反応弾と言われてもピンと来なかったが、カティアがいうには核兵器だそうだ。
――核兵器――
実際に経験した事はないけどよ、それがどれだけ恐ろしいものかって事は俺だって知っているつもりだ。
誰かに悪用されて使わせるわけにはいかないんだ。
だから持って行く事にしたんだ。でもガンダムには収納する場所が無い。
おいらは仕方ないからそいつを小脇に抱えた。
落としたらどうなるのか、それを考えるだけで麻痺するような緊張感が全身を駆け巡った。
おいらたちはその白い超ド級戦艦の巨大さに度肝を抜かれた。
少なくとも、おいらたちの機体の五倍の大きさはある。
それを操る戦艦の操縦者がゲームに乗っている奴とは限らない。
しかし、なんでこんな奴の接近がわからなかったんだろう。レーダーもミノなんとか粒子って奴のおかげで頼りにゃなんないしなあ。
おいらは一旦、テニアを下がらせてその戦艦と話し合ってみる事にした。
もし、相手が殺し合いに乗っていやがるようだったら、おいらが相手をしているうちにテニアを逃がす。
そういう作戦だ。おいらの発案にしちゃ、頭を使った作戦だろう?
まあ、結局そんな心配も無駄だったけどな。
乗っていたのは見た目はひょろっちい男。テニアより少し年上ぐらいかな。キラって言う奴だ。
だが、人は見かけで判断しちゃいけないよなあ。
あいつは俺の目(まあ、本当は通信回線越しなんだけどな)を見てこう言った。
「僕はこのゲームを止めようと思っています。協力していただけませんか?」
ってな。俺はそれだけでキラを信用することに決めた。
どっかの誰かさんが居たら、もう少し疑ってみたらどうなんだ?とでも言うんだろうが
こいつの目は俺が知ってるゲッターチームの仲間の目と似たような目をしていた。
そう。それだけでこのキラって奴は信用できる。少なくとも、リョウも信じるはずだ。
おいらが抱えているこの反応弾も、この戦艦に搭載したほうが良いかもしんないなあ。
おいらはテニアを呼んで、情報交換をすることにした。
テニアは今までのことは話したくないだろうなと
おいらなりに気を使って、テニアの代わりにカティアから聞いた話も交えて今までの話を伝える事にした。
その時は、まさかテニアと統夜の関係を説明している所であんな素っ頓狂な声を上げるとは思っちゃいなかったよ。
「はあっ!?」
まずいっ!と思った。
だって、いくら驚いたからって、傷心している女の子がこんな驚き方したのはおかしいでしょ?
でも、それも仕方ないよね。なんだってムサシはこんなでたらめを言ったんだろう。
「――で、その統夜って奴とテニアは恋人同士なんだ。」
統夜が好きなのはカティアでアタシなんかじゃない。
カティアがムサシにそんな嘘を吹き込んで意味があるとも思えないし・・・
結局、アタシの反応でムサシもキラも黙ってこっちを見たから、とりあえず事情を説明した。
ここで嘘をついたところで、疑われてしまうだけだ。
でも、事情を説明したことで、疑問はJアークに積んであるコンピューターのトモロって奴が答えてくれた。
そしてその疑問を答えてくれた事でアタシはここでの目標をよりはっきり持てるようになったんだ。
確かにキラやトモロはアタシの出会いたくないタイプの代表みたいな感じだったけど、
そんなこともどうでも良くなるくらい素晴らしい目標なの。
ちなみにトモロの説明って言うのが
『気づいてはいると思うが、このロワイアルに集められた人間たちはその殆どが別の世界からの住人だ。
キラのように同じ世界から連れてこられたものもいるが、テニア達の場合は少々複雑なようだ。
まず、この殺し合いに呼ばれたテニアがいた世界をA、カティアがいた世界をBと仮定する。
その両方の世界は極めて近くとても似ているが統夜と結ばれた女性がそれぞれ違っていた。
その女性というのはAではカティア、Bではテニアということだ。』
こんな感じ。そのあと、
『主催者がそんな面倒なことをしたのかわからないが人間の男女関係のもつれは危ないらしいからな。
そこから憎悪が生まれることを狙ったんだろう。』
なんてことをトモロは取ってつけたようにいってた。
なんでコンピューターの癖にそんなことを・・・・・・と思ったら、キラが苦笑いをしていた。
ハハーン、どうやら心当たりがあるみたいね。
ま、そんなことはどうでも良くて、アタシはこの殺し合いに何の気兼ねもなく参加できるようになったの。
今なら、統夜に出会ってもアタシは躊躇無く殺せるかもね。
だって、ムサシがカティアから聞いた話じゃ、統夜はまだ戦ったことが無かった頃みたいだったって言ってたじゃない?
っていうことは、ここに呼ばれた統夜はアタシとカティアが住む世界が違ったように住む世界の違う統夜じゃないかってこと。
それにアタシが優勝したら、叶えてもらう御褒美も決まった。
――アタシと統夜が結ばれた世界にアタシを飛ばしてください――
って。ね、素敵でしょ?
なんか、その後もキラにはまだ仲間が居るとか話してたんだけど、アタシはもうどうでも良くなっちゃった。
とりあえず絶対に優勝したい。
だからアタシは二人(トモロも居るし三人かな?)の話を聞く振りをしながら
どうしたらこの三人をうまく騙していけるかとか考えてたから、今後の方針を聞きそびれちゃった。
最初、僕はムサシさん達と目的がほとんど同じなことに喜んだ。
でも、彼らには彼らで会わなきゃならない人が居る。
僕はジョナサンさんの帰りを待たなきゃならない。残念だけど、ここでお別れか・・・
と思った矢先、ムサシさんが一時間くらいなら待つと言ってくれた。
テニアがどう言うか――と思ったが、返事はOKだった。
これでは、二人に申し訳ないと思い、僕とトモロも一時間経って
ジョナサンさんが戻ってこなかったらムサシさん達と行動する事に決めた。
トモロは言っていた。『奴は奴なりに腕は良い。心配する必要は無い。』と
そして、三人でその場で待機しているとトモロが二人に悟られぬように話しかけてきたんだ。
『キラ、これを見てくれ。』
画面に映し出されたのはテニアの乗っている機体のマニピュレーターが大写しにされていた。
「これは、血・・・・・・?」
かすかだが、血が付いている。
信じたくは無かった。でも、こういうことになる状況というのはは――
『確証はない。ただ、もしかしたら彼女は我々に牙を向けるかもしれないということを警告しておきたかった。
もしもそんなことが起きたときにどうするかの判断は君に任せる。
心の片隅にでも置いておいてくれ。』
返事は返せなかった。
殺し合いに乗っていることを堂々と宣言し襲い掛かってくる相手なら僕も躊躇無く戦えただろう。
テニアのような女の子がゲームに乗っているなんて信じたくも無い。
だが、もし彼女が殺し合いに乗っていたら――信じたくないでは許されない。
もしかしたらそれはジョナサンさんにも言えることなのかもしれない・・・
もしもそのときが来たら――
僕は彼らを撃つ事は出きるだろうか。
【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:非常に不安定
機体状況:良好・マニピュレーターに血が微かについている
現在位置:C-6
第一行動方針:どのように行動を取ればうまく周りを騙せるか考察中
第二行動方針:とりあえずキラとムサシについていく
第三行動方針:参加者の殺害
最終行動方針:優勝
備考1:武蔵・キラ、どちらもいずれ殺す気です
備考2:首輪を所持】
【巴武蔵 搭乗機体:RX-78ガンダム(機動戦士ガンダム)
パイロット状態:カラ元気でも元気
機体状況:良好 オプションとしてハイパーハンマーを装備
現在位置:C-6
第一行動方針:キラの仲間を待つ
第一行動方針:統夜を探しテニアを守る
第二行動方針:無敵戦艦ダイ打倒の為に信頼できる仲間を集める
最終行動方針:主催者を倒しゲームを止める
備考:テニアのことはほとんど警戒していません】
【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)
パイロット状態:良好・ジョナサンへの不信
機体状態:ジェイダーへの変形は可能?・左舷損傷軽微良好(補給修復開始)
現在位置:C-6
第一行動方針:ジョナサンを待つ
第二行動方針:テニアがもしもゲームに乗っていた場合、彼女への処遇
第三行動方針:このゲームに乗っていない人たちを集める
最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】
備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。
【初日 19:50】
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