101話「青い翼、白い羽根 」
◆vBGK6VSBWM
未だ殺し合いを知らない純白の機体が夕暮れの空を進む。
そのパイロット、カテジナ・ルースは狂気を含むような笑みを見せていた。
「どうやら、うまく逃げられたようだね。」
純白の機体―ラーゼフォン―は本来、熱気バサラに支給された機体。
カテジナに支給されたガーランドやともに行動していたコスモやギャリソンの機体とは
明らかに格が違うことは、ラーゼフォンが発するプレッシャーから想像できうることだった。
だからこそ、あの歌で殺し合いを止めると馬鹿げたことを言っている男よりも
自分が扱うに足りる機体だとカテジナは感じ、隙を突いて奪った。
そしてラーゼフォンはカテジナの期待にその機動性能で答えた。
見るからに鈍そうなジガンスクード、入り組んだ森林では性能が発揮できないガーランド。
相手の分が悪すぎるとはいえ、この二機からの追跡を十分もかからずに引き離したのだ。
機動性の他、ラーゼフォンは操縦もそう難しいものではなかった。
しかし奏者の資格を持たないカテジナにはその真価を発揮させることは難しく
その戦闘性能も幸か不幸か判ってはいなかった。
―さっきの3人で試してみるのも悪くはなかったかも・・・ね。
そう考えては見るが実際は3機をこの機体の力で捻じ伏せられるかは判断し難く、結局のところ逃げる事を選択したのだが。
そして第一回放送が流れ始めた。
「死んだんだ、あの爺さん。」
追いかけてきたあの二人がギャリソンを殺している余裕はない。
そもそも二人がギャリソンを殺すこともないのだが。
大方、他の参加者にやられたのが関の山といった所か。
「まあ敵をひきつけてくれた事には感謝しておくわ。」
そういうと彼女はそのまま東へと進んだ。
アスランが別行動を取り始めてから、10分ほど経過していた。
――ラクスを殺した相手が誰なのか――
余りにも漠然としたその行動理由に明確な目的地などなく、アスランはただ北上していた。
操縦桿を握る手に汗が滲む。
目は外部カメラの映し出す外の映像、EN残量、レーダー等各種計器類を順繰りに見ている。
ミノフスキー粒子というものでレーダーは殆ど役に立たず、
接近してくる機体に気づいたのは既に目視できる距離にあった。
「あの機体は・・・」
見覚えのある非機械的なフォルムの機体。
ラーゼフォン、乗っていた男はニコルの為に葬送曲を歌った男。
こんな状況下で顔も知らないアスランの友人に歌を歌った馬鹿げた男。
だからこそ、そんなぶっきらぼうな優しさを持った男。
そして、男の―殺したから殺して、殺されたから殺して―という言葉がリフレインする。
――あいつは今の俺を見て、また歌いだすんだろうな。あの時のように。
そう思うとなぜか自分の決意が揺らぎそうで逃げようとしていた。
自然とフォルグ・ユニットの出力は上がった。
追われていたときよりも出力を下げ、東へ向かうラーゼフォンは朱く染まっていた。
F-5に入りしばらく経った頃、蒼い機体が目に飛び込んできた。
見たことの無い機体ではあった。が背格好、武装等から見てMSもしくはそれと同等の性能を持っていることが予測できた。
――へえ、この子の力試しにはなかなか良さそうな相手じゃないか。
考えるが早いか、蒼い機体は出力を上げようとしていた。
「逃がしはしないよっ!」
叫ぶと同時にラーゼフォンの拳部分から数十発の拡散光を放つ。
突然の背後からの攻撃に回避行動を取るも数発がファルゲンに被弾する。
いきなりの被弾にアスランは驚き、ラーゼフォンへ向きを変える。
「くっ!どういうことなんだ!
バサラッ!お前がさっき言っていたことは嘘だったって言うのか!」
アスランが回線を開いて、乗っているはずのバサラに呼びかける
――なんだ。あの男とは知り合いだったって言うのかい。
「ハハッ、面白くなってきたじゃないか。」
カテジナはわざとその呼びかけに応じることなく、貫通光を放ちながら近づいていく。
しかし貫通光は拡散光のように広い範囲をカバーする事ができない為、ファルゲンは用意に避ける事が出来た。
「どうして応答しないんだっ!」
アスランは諦めず応答を続ける。
ラーゼフォンは無言のままに攻撃を繰り返す。
「そうか。結局お前も殺し合いに乗るって言うことか。なら!」
三連マルチディスチャージャーを放ち、ラーゼフォンに近づく。
至近距離からの攻撃にラーゼフォンは避けられない。
音障壁も破られ、胸部へ直に被弾する。
「なかなかやるじゃないか!」
ファルゲンのレーザーブレードでの攻撃に右腕の光の剣で応戦。
そのまま、左腕から伸びた光の剣を左下から右上へ振り上げる。
アスランは回避行動を取るが間に合わず、ファルゲンの左脚部の膝から下がが切り取られる。
―バサラ・・・お前本当にやるつもりなのか・・・
回避するまま、アスランはラーゼフォンとの距離を的確に離す。
―ニコルへの歌も、お前の思いも全部嘘だったって言うのか!
そのとき、アスランの中の何かが弾けた。
―遠距離からの攻撃はあの妙なシールドで塞がれる。
マルチディスチャージャーなら破る事も出来るが残弾数は残り一発。
レーザーブレードでもダメージを与える事が出来る。だが、相手は近距離でも威力はある・・・どうする。
アスランはレーザーブレードを左手に持ち替え、レールガンを右手に構える。
ラーゼフォンに高速で接近しながら、レールガンを発射し続ける。
高速接近でレールガンの威力を上げ、的確に同じ部分へと撃ち続け障壁を破る。
破る事が出来なくとも、至近距離でのマルチディスチャージャーで確実にダメージを与える。
発声する爆風もファルゲンの機動性をフルに引き出す事が出来れば、回避できるはずである。
アスランはこの計算を一瞬でやり遂げた。流石はコーディネーターと言ったところか。
「うおおおおっ!」
ファルゲンがラーゼフォンへと急接近するし、距離が縮まっていく。
200………120……
弾丸の霰がラーゼフォンを包む。
しかし、音障壁を破ることはなく、肉迫する。
「はっ!効かないよ!」
「なら、これで!」
ラーゼフォンの頭部へ、マルチディスチャージャーが発射される。
的確に命中したそれは爆発を起こし、ファルゲンは緊急回避を取る。
急激な角度の変更にフォルグユニットが大きな悲鳴をあげる。
「やったか……」
これで恐らくはラーゼフォンも行動が不可能になるはずだろう。
アスランが安堵しかけたとき、爆煙から光った。
それは同時に矢となり、ファルゲンの胴の部分へと突き刺さる。
ファルゲンは上半身と下半身が離れ離れとなり、エンジン部分が爆発。
そのまま、地上へと落下していった。
爆煙が晴れ、ラーゼフォンは顔の両側に付いた羽根が焼け焦げた状態で姿を現す。
マルチディスチャージャーの攻撃をとっさの判断で防御し、なんとか致命的なダメージを避けたのだった。
「期待通りだったよ、坊や。聞こえてるかはわからないけどね。」
カテジナは狂気を含んだ笑みを浮かべ、天使のような姿の死神を飛翔させた。
アスランは、まだ生きていた。虫の息という状態で。
コクピットはひしゃげて、身動きも取れない。
ただただ、思いを巡らせ近寄る死を待ち続けていた。
「ニコル……ラクス………す…ない」
元の世界で起きた死を、この理不尽な殺し合いの場で起きた死をなんら解決することも出来なかった。
「……キ…ラ…」
アスランは思いを親友に託し最後にその名を呼んでいった。
【カテジナ・ルース 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
パイロット状況:精神不安定(強化の副作用出始めてます)
機体状況:胸部に軽傷・頭部の両側の羽根が焼け焦げている・EN残量1/5
現在位置:F-5
第一行動方針:自分が利用できそうな存在を探す
第二行動方針:利用価値の出来ない人間は排除
第三行動方針:利用価値が無くても大所帯はあまり相手にしない
最終行動方針:生き残る
備考:カテジナはラーゼフォンの奏者として適性が無いため
真実の眼が開眼せずボイスも使えない】
【アスラン・ザラ 搭乗機体:ファルゲンマッフ(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:死亡
機体状況:大破(胴から上と下が別れてます。)】
【残り41人】
【18:50】
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