113話B「火消しと狼」
◆7vhi1CrLM6
「すまんな、ゼクス。時間稼ぎ、礼を言っておく」
「必要ない。それよりも私を機械人形に囚われた道化にしてくれるなよ」
話しながらも機体各部の損傷を手早くチェックしていく。順調に起動をしているのを確認して一先ず問題はないと結論付け、正面に向き直った。
空中で静止しているメディウス・ロクスはまずは様子見といった感じでこちらに正対していた。
突然、視界の中のその姿が不意に歪み、意識が遠のきかける。崩れかけた体を気力で支え持ちこたえさせた。
――これは……きついな。
意識がはっきりしたり、歪んだりしている。そんな中でほんのわずかな間の逡巡。
――時間もあまりない。どの道、俺にやれることなどこれだけか……つくづく不器用な男だ。
『分の悪い賭けだ』と、自嘲気味に笑う。同時に、『悪くない』そう思った。
目を閉じて、大きく息を吸い、長くゆっくりと吐く。
心気を澄ませ、鋭い眼光で上空のメディウス・ロクスを睨み付けた。
「悪いが、もう一勝負付き合ってもらうぞ、カズイ=バスカーク!!」
「逃げてもいいですよ、キョウスケさん。逃げても無駄ですけどねぇ!!」
もはや返す言葉はない。返答の代わりに放ったのはスプリットミサイルの残弾全て。ミサイルの花が再び空に咲いた。
同時にビルトファルケンの背面ブースターを大きく展開。
――MODE:Twin Bird Strike Change:Single mode――
緑の燐光をその場に残し、傷ついた隼は夜気を裂いて雄々しく空に舞い上がる。
「無駄ですよ。その動きは一度見せてもらいました。AI1には通用しません」
ミサイルの花包まれていくその先で、ファルケンに照準を合わせ真っ直ぐに伸びた銃口から、重厚に迸る力の奔流が放たれ、道を作る。
「見せてもらったのはこちらも同じだ!」
間髪入れずにオクスタンライフルをぶつける。前回同様、行き場を無くしたエネルギーが一瞬だけ中間で燻り、爆発。
その中心に二つの機体は何の躊躇もなく飛び込んだ。肚に響く、獣のような咆哮をあげる。
ファルケンの振り回すブーストハンマーとメディウスの突き出すディバイデッド・ライフルがすれ違い、互いがそれをかわす。
凄まじい勢いで二機が真正面から激突し、金属同士が轟音を奏でた。
一瞬だけ中間でせめぎあい、そして隼は押し負け、徐々に後ろへ後ろへと押し流されていく。
キョウスケ=ナンブの踏み込みの鋭さ、ビルトファルケンの最高速。それは決してメディウス・ロクスに劣るものではない。
しかし、重量と装甲の厚さと馬力に如何ともしがたい差が存在していた。
「さぁ、メディウスの糧となれ!」
少年が勝者の余裕を持って終わりを告げる。それをキョウスケは跳ね除けた。
「悪いが、読みどおりだ!!」
「負け惜しみを!!」
「ハンマー、ブースト!!」
ハンマーに取り付けられたブースターに明かりが灯る。
メディウスの後ろでただ風に流されていたそれは軌道を変え、二機を中心に大きな円を描き始める。
そして、その半径を徐々に狭め、鎖が音を立てながら二機を雁字搦めに巻き上げた。
「待たせたな、ゼクス=マーキス」
「まったくだ、キョウスケ=ナンブ」
男が言い、男が答える。鎖に絡め取れた中、オクスタンライフルは正確にコックピットに突きつけられていた。
「躊躇をするな。あの化け物の蒔いた種を一つ潰せるのだ。私もろともメディウスを葬り去れ!」
「ああ――」
「ま、待て!!」
男は覚悟を述べ、少年は叫びを上げる。そして、もう一人の男は終わりを告げた。
「――今、終わりにしてやる!!」
引き金に指が係り、引かれる。立て続けに銃声が響き渡り、何発目かの弾丸がメディウス・ロクスを貫通した。
同時に二機に絡みついていた鎖が砕け、ブーストハンマーの残骸と穴の空いたメディウス・ロクスは、重力に身をまかせてゆっくりと落ちていく。
やがてそれは自らが空けた大穴に飲み込まれて見えなくなり、小さな爆発を一つ起こして消えた。
その過程を静かに見届けた後、隼は地に降り立つと比較的損傷の少なそうな格納庫を選んで潜り込む。
ファルケンの機体を停止し、体をシートに預け、ぼんやりとコックピットの天井を見上げる。
「22時、基地制圧完了。ユーゼス達の到着まであと二時間……か」
疲れた声の呟きが空間を濁して消えた。
【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ビルトファルケン(L) (スーパーロボット大戦 OG2)
パイロット状況:頭部に軽い裂傷、左肩に軽い打撲、軽度の脳震盪(一時間程度の休憩で回復)
機体状況:胸部装甲に大きなヒビ、機体全体に無数の傷(戦闘に異常なし)
背面ブースター軽微の損傷(戦闘に異常なし)、背面右上右下の翼に大きな歪み
EN60%、スプリットミサイル残弾ゼロ、オクスタンライフル残弾B2発W1発
現在位置:G-6基地格納庫
第一行動方針:機体状態の確認
第二行動方針:ユーゼスと合流まで休憩
第三行動方針:ネゴシエイターと接触する
第四行動方針:信頼できる仲間を集める
最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)
備考:アルトがリーゼじゃないことに少しの違和感を感じています】
【ゼクス・マーキス 搭乗機体:メディウス・ロクス(スーパーロボット大戦MX)
パイロット状況:死亡】
【カズイ・バスカーク 搭乗機体:メディウス・ロクス(スーパーロボット大戦MX)
パイロット状況:死亡】
【残り31人】
【初日 22:10】
もしもキョウスケの状態が万全であったならば、それに気づいたかもしれない。
基地が停電状態に陥っていたこと、最後の爆発がどこかおかしかったこと、どちらか一つでも気づいていれば、それの可能性に行き当たったのかもしれない。
しかし、キョウスケはそれに気づかなかった。
戦闘の最中、カズイ=バスカークはこう言った。
『AI1は学習し進化する』と、『次のステップに進むためのエネルギーを欲しがっている』と。
ゲッター線を取り込んだAI1はエネルギーを欲していた。それはエネルギーであれば何でもよかった。
ただ自身の形状を、質量を変えるほどの変化を遂げるにはブラックゲッターから奪ったエネルギーの総量は少なすぎたのだ。
ゆえにエネルギーを貪欲に欲していた。
そしてそれをビルトファルケンに求め、敗れ去った。
しかし、エネルギーは他にも存在する。
例えば広大なG-6基地のエネルギーを一手に引き受ける発電施設。
AI1は初めからそれを視野に入れていた。
それでもファルケンのエネルギーを求めたのは、行きがけの駄賃のようなものに過ぎなかったのだろう。
データを収集したいという欲も働いたのかもしれない。
その結果として痛手を被ったのだが、あくまでそれは結果論でしかない。
ゆえにパイロットが死亡したという一点を除いて、大筋に変化はなかった。
大穴の最深部でディバイデッド・ライフルを放ち、予定通り基地の発電施設への道を空けるとそこに巣くったのだった。
そして、AI1は学習し進化する。
本来の世界ではアルベロ=エストの操作技術を学び、TEエンジンを得ることで行った進化。
それをゼクス=マーキスの操作技術とゲッター線で代用し、AI1の進化は今ゆっくりと始まった。
【メディウス・ロクス(第二形態移行中) (スーパーロボット大戦 MX)
機体状況: コックピット前面から背面向けて貫通している穴。修復中。進化中。
備考1:基地の発電施設のエネルギーを取り込んでいます。発電施設は壊れたわけではないので、メディウス・ロクスの第二形態への移行が終われば、基地に電力は戻ります。
備考2:進化と修復は同時に行われていますが、現状だと完了まで四時間ほどの時間が必要です。
備考3:パイロット不在のままでは動きません。
備考4:なんかゲッター線とか取り込んでいますが、第二形態はMXに準拠します】
【初日 22:10】
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