123話B「私は人ではない」
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 赤いマフラーの機体と赤い悪魔が真っ向から衝突し、押し合い、せめぎ合う。
 その間隙を縫って、蒼いブレンパワードが駆け抜ける。
 大雷凰、真ゲッター、ネリー・ブレン、三機の機体が入り乱れていた。
 その内の一機――真ゲッターの中でジョナサン=グレーンは「まずいことになった」と一人ぼやく。
 ここで三つ巴の形になるということは予測していなかった事態だ。
 半壊した機体を落とし、敵対する参加者を一人減らす。それが目的だったはずだ。
 それが、クインシィが勇のブレンパワードを見つけたことで狂った。
 戦いの最中には時として思いがけなかったことが起こるものだ。三つ巴になったこと事態がその現われといっても良い。
 三つ巴になったことでそれが起こる可能性は飛躍的に高まった。
 一対一ではありえなかった事態が起こりうる。
 これを二対一の形に持っていけば危険性は格段に減るのだが、クインシィの気性はそれを受け入れないだろう。
 ならばやることは決まっている。

「クインシィ=イッサー」
「うるさい! 何だ!」

 戦闘中である。視線も合わせずに怒鳴り返された。
 が、ここで怯むわけにもいかない。不機嫌を買うことを承知で話を続ける。

「ここは引き上るぞ」
「な……に?」
「俺だって、引き上げ時ぐらい知っているつもりだ」
「正気かジョナサン? 勇のブレンパワードがいるのだぞ!」

 ここでクインシィを説得できるかどうかが一つの分かれ目だった。
 元々理屈の分からない女ではない。それを受け入れる余裕が有るか否か、そこが問題なのだ。
 そして、今はそれが有ると踏んでいた。
 先の読めない三つ巴の中にどっぷりと漬かってしまうわけにはいかない。

「あのブレンパワードに乗っているからといって、伊佐美勇と面識があるとは限らない。
 ここでは何のゆかりもない機体に乗っている奴が五万といる。それはご存知のはずだ。
 ならば、下手に潰し合いに混ざるよりは離脱したほうが得。そういうことだ」
「ブレンパワードはオルファンを傷つける」
「それの後始末も上手く行けば奴がやってくれる」
「だが……くっ!!」

 そこで会話が途切れた。
 踏み込み振るったゲッタートマホークが隻腕となった大雷凰に掴まれたのだ。

「悪いな。鎌より斧のほうが好きなんだ。こいつは貰っていくぜ」

 通信に割り込んできた男の声が鼓膜を揺らす。
 同時に衝撃が奔り、ゲッターが地面に背中から蹴り落とされる。

「クインシィ、体勢を立て直せ!」
「今、やっている!」

 大地に激突し、起き上がろうとしたゲッター。
 その腹の上でバイタルジャンプを示す鋭い異音が鳴った。
 途端に背筋にぞくりとした悪寒が走る。
 そこは僅か装甲一枚を隔てたコックピットの向う側。直線距離で言えば1mもない。
 画面一杯に映し出されているブレンよりも、直にコックピットに反響してくる音に恐怖を感じる。
 突きつけられたブレンバーにチャクラ光が灯るのが鮮やかに目に映っている。
 ゴトリ、とゲッターの装甲を足場として確保した音が直に響き、顔が蒼白になり、叫んだ。

「クインシィ!!!」

 が、次の瞬間、それは発射されることなく、異音と共にブレンの姿は掻き消える。
 そして、代わって視界を占めたのは唸りを上げて迫り来る大雷凰の蹴り。
 右手で近場に転がっていた百式の半身を掴み、横から叩き付け、そのまま横に転がるようにして蹴りをさけた。
 画面の向うで唇を噛み締めつつクインシィが叫び、判断を下す。

「ちっ! ゲッター2で地中に潜行。その後、離脱する。いいな!!」
「その言葉、待っていた!!」

 瞬間、分離。千に砕けた金色の破片が降り注ぐ中、ゲットマシンは上空を目指し、真ゲッター2へと姿を変えた。
 一転して、大雷凰直上からの垂直降下。

「そこにいると怪我するぜ。ドリルハリケエエェェェエエエエン!!!!」

 叫び、右腕のドリルを突き出し、速度を上げ、全速で突っ込む。
 サイドステップでさけた大雷凰を掠め、大地にまともに激突する。
 が、これでよかった。ゲッター2の右腕はいかなる岩盤をも打ち砕き大地に穴を穿つドリル。
 地中へとゲッターは潜行し、その姿を隠した。

 ◇

 岩盤を掘削する音が遠のいていく。ゲッターの放つ信号がレーダーの範囲外に抜けていく。
 途中で地上に出たのだろう。その速度は驚くほど速い。
 追いかけることは既に諦めていた。
 地上を疾駆するゲッター2に追いつける存在など在りはしない。

「また逃げやがったか……」

 口から漏れた言葉はゲッターにだけ向けた言葉ではない。あの蒼い小型機もまたいつの間にか消えていた。
 二機――否、隼人を落とした機体も合わせれば三機とも逃した。
 結局、この30分余りのいざこざが竜馬に残したものといえば、他には真っ二つに切り裂かれた機体の半身とゲッタートマホーク。
 代償は大雷凰の片腕とゲッターサイト。それに自身の体力の消耗だった。
 望んだ戦果には程遠い。

「ちっ! けちが付いてやがる」

 その付き始めはおそらくあの濃紺の可変機と相対したときからだろう。
 あの一戦で負った損傷が大雷凰の力を大きく削いだ。
 そして、その後戦闘を重ねるにつれて徐々に、しかし確実に大雷凰は力を落としていっている。
 決まると思った攻撃が決まらず紙一重でかわされる。
 機体の動きと体の動きの間に僅かな齟齬が生じてきている。
 一度調整が必要だった。

「このまま勝てれば楽なんだがな……」

 誰に言うともなく呟き、竜馬はサブモニターに地図を引き出した。
 現在地から東、あるいは西に四ブロック。そこに存在する基地に目が止まる。
 整備の為の設備ぐらいはあるだろう。部品の有無は分からないが、最悪この金ぴかの機体を使えば良い。
 規格はまず合わないだろうが、何一つ流用できないということも考えにくい。
 整備のことを考えるなら間違いなくそこだった。
 だが、そこは同時に他の参加者が集まりやすい場所でもある。
 だったらどうする――

「へっ! そんなことは関係ねぇ」

 蹴散らし、血祭りに上げる。ただそれだけだ。
 大雷凰もまだ二三戦は優に戦えるだけのタフさを持っている。
 頭部を?がれ、片腕を失った現在でさえ、あの見知らぬゲッター相手だろうと遅れを取るとは微塵も思っていない。
 ギラついた目で竜馬は笑う。
 あらゆる物に化け、何処からともなく無数に沸き、襲ってくるインベーダー。それを相手にした月面戦争。
 復活した早乙女博士を相手に、大地を覆い尽くすゲッタードラゴンの群に囲まれていたここに飛ばされる寸前の状況。
 それらに比べれば、この程度の状況はぬるま湯につかっているようなものだ。
 巨大な鉞を肩に担ぎ、百式の半身を引き摺り、大雷凰は再び動き出す。
 目指す先はG-6基地。その足取りはしっかりと大地を捉え、迷いなくゆるぎないものだった。

 ◆

 流竜馬から北にちょうど50km――C‐5地区の暗い森の中にネリー・ブレンは姿を隠していた。
 その中で、ラキは体をブレンに預け、ぼんやりと木々を眺めていた。
 戦場から離脱したのはラキの意志ではない。ブレンが独断で跳んだのだ。
 あのときのことは夢の中の出来事のようにしか覚えていなかった。
 醒めてしまえばそれは途切れ途切れの記憶の断片とでしか残らない。
 しかし、それでもおぼろげにどういうものだったのかは分かる。
 ギンガナムに立会いを申し込まれたときはこうではなかった。
 明らかにメリオルエッセとしての機能が修復していっている。本能が、欲望が増している。
 それが徐々に進んでいるのか、負の感情に当てられたときに一気に進行しているのかはわからなかった。

「くくく……フフ……ハハハハハハハハ……」

 ひとしきり笑い。そして、肩を震わせて泣いた。
 ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちる。

 今になって本当の意味で自覚する。
 私は人ではない。
 もしかしたら、もうメリオルエッセですらないのかもしれない。
 少なくともジョシュアに出会う前、純粋なメリオルエッセであった頃には、こんなに惑わされなかった。
 こんなにも自分の体を嫌だと思うことなんてなかった。
 ジョシュアの心と混ざり合うまでは感情が希薄だった。
 そのせいかも知れない。
 人と混ざり、メリオルエッセでもなく、人でもない――半端者。
 私は壊れているのだ。
 だからといって心を捨て去ることも出来ない。
 それは裏切りだ。
 ジョシュアに対する酷い裏切りだ。
 ジョシュアは言ってくれた。
 人でなくても関係ないと。
 でも私はやっぱり人になりたかった。
 ジョシュアと同じ人になりたかったんだ。
 だからいくら辛くてもこの心は捨てれない。捨てられない。
 もう人になることが叶わぬとしてもせめて……。
 せめてあの頃に戻りたいんだ。
 ジョシュアがこんな私でもいいと言ってくれた、あの頃の私に。



【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:疲労小
 機体状態:ダメージ蓄積
 現在位置:C-6
 第一行動方針:ジョナサンと共にキラのところへ
 第二行動方針:勇の撃破
 第三行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:良好
 機体状態:ダメージ蓄積
 現在位置:C-6
 第一行動方針:クインシィと共にキラと合流
 第二行動方針:キラが同行に値する人間か、品定めする
 第三行動方針:強集団を形成し、クインシィと自分の身の安全の確保
 最終行動方針:クインシィをオルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先)
 備考:バサラが生きていることに気付いていません。

【流 竜馬 搭乗機体:大雷鳳(バンプレストオリジナル)
 パイロット状態:怒り、衰弱
 機体状態:装甲表面に多数の微細な傷、頭部・右腕喪失、腹部装甲にヒビ、胸部装甲に凹み
 現在位置: C-6
 第一行動方針:G-6基地で機体の整備
 第二行動方針:クルツを殺す
 第三行動方針:サーチアンドデストロイ
 最終行動方針:ゲームで勝つ
 備考1:ゲッタートマホークを所持
 備考2:百式の半身を引き摺っている】

【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神不安定。放送の時刻が怖い
 機体状況:無傷、EN残量3/4
 現在位置:C-5
 第一行動方針:アイビスを探す
 最終行動方針:???
 備考1:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません
 備考2:負の感情の吸収は続いていますが放送直後以外なら直に自分に向けられない限り支障はありません】

【二日目0:30】


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