130話G「Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―」
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 赤い戦車のような人型機動兵器が投げ飛ばされ、瓦礫の海に埋没した
 ラキとアイビスが離脱を開始して数分。ずぶずぶと上下逆さに埋没していく機体の中、クルツは一人ぼやく。

「やれやれ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。こういうのを親心って言うのかね」

 本当に初めて会ったときから世話のかかる奴だった。意見は食い違うわ、一度決めたら梃子でも動かねぇわ、自分勝手に動き回るわで、本当に面倒ばかり掛けやがる。
 でも気持ちのいい奴らだった。
 にしてもついてねぇな。こんなとこに呼び出されてまでして、俺、何やってるんだろうな……。

「……まぁいいさ。悪かぁねぇ」

 がばっと起き上がり、コンクリートの破片を跳ね除けながら呟いた。
 ああ、そうさ。悪かぁねぇ。女を守って死ぬ。男として最高の死に様じゃあねぇか。あんたもそんな気分だったんだろ? ジュシュア=ラドクリフ。
 ふぅ〜っと長い息を吐く。横目でちろりとこれから命を賭ける相手を見やり、リニアミサイルランチャーを突きつける。

「悪いな、大将。俺の我侭に付き合ってもらってよ」
「貴様がその半壊した機体で何をするのか興味があってな。だが、空の銃では小生は倒せぬ。そこのところは分かっているのか?」

 クルツが最も懸念していたこと、それは無視をされ二人の後を追われることだったが、どうやらその心配はなさそうだった。人知れず胸を撫で下ろす。
 敵さんは、こちらの手札に興味津々なご様子。ならどうすればいい? 簡単だ。挑発して好奇心を呷ってやればいい。そうすればもう少し時間を稼ぐことが出来る。

「知ってるか? プロってのは、弾を撃ち尽くしても最後の一発ってのは取っておくもんだ。本当にどうしようもなくなっちまったときに自分の頭を撃ち抜く為にな」
「下らんな。己の頭を自ら撃ち抜くぐらいなら、その一発で相手を倒すことを考えるべきだ。
 最後まで相手の喉下に喰らいついて初めて一人前の兵士と言える。貴様もそうだろう……違うか?」
「そういう考え方もありっちゃありなんだが……。勿体つけといて悪りぃんだけど、実は弾なんか残っちゃいねぇんだな、これが」

 リニアミサイルランチャーを手放す。瓦礫で跳ねたそれが乾いた音を立てた。
 からかわれたとでも感じたのかモニター越しの表情が怒り、睨みつけてくる。想像以上に単純な奴だ、とほくそえんだ。話術では負ける気がしない。

「短気は損気。そう怒りなさんなって……。代わりにギンガナム、あんたには別のもんをぶつけてやるよ」
「ふんっ! 貴様のごとき雑兵の命一つで小生を止められると本当に思っておるのか?」

 完全に臍を曲げたらしい男を前に急にクルツの目つきが変わった。

「馬鹿言っちゃいけねぇな。あんたに生き残られちゃ、せっかくのお涙頂戴シーンが台無しだ。
 それになぁ、お前さん自分のこと買いかぶり過ぎだ。こちとら戦争屋。弾なんざなかろうが、手前を倒す手段なんざいくらでも思いつくんだよ。塵一つ残さねぇから覚悟しろい」
「吠えたな」
「吠えたさ」

 売り言葉に買い言葉。睨み合い。互いの鼻が白み。直ぐに二つの哄笑が廃墟に木霊し始めた。カラッとした笑い声が大地を包む。

「面白い! ならばきっちり殺してみせろよ!!」
「上等だ! そろそろ行くぜ!!」

 時間は十分とは言えないが稼いだ。もう巻き込む心配も多分ない。あとは俺が上手くやれば万事オッケー、全ては上手く収まる。
 シザースナイフを抜き放ち、握り締める。
 接近戦の不利は百も承知。格闘戦における技量の低さは自覚していた。だがそれでもラーズアングリフに残された武器はそれしかない。

「来いっ!!!」

 腰を低く落とし、ギンガナムの声を合図に猛然と突進を開始する。敢行したのは命がけの接近戦。
 だが、それは余りにも馬鹿げた行為だった。ただでさえ鈍重なラーズアングリフである。脚部を損傷した現在、ギンガナムと比べるまでもなく動きは鈍重を極めている。
 動きは鈍く、勢いも無ければ、切れも伸びも無い。ギンガナムから見れば凡庸も凡庸。ただ愚鈍なだけの特攻としか映らなかった。
 ゆえにギンガナムは激昂した。軽んじられた。甘く見られた。そういう思いが有り、自尊心についた傷が感情を刺激したのだ。

「どんな隠し玉があるのかと思えば、ただの特攻とは……実に下らん!!」

 ギンガナムが動く。ラーズアングリフの鈍重さに比べ、その動きは遥かに素早い。

「小生を愚弄した罰だ!! DNAの一片までも破壊しつくしいいぃぃぃいいいい、鉄屑にしてやるっ!!!」

 間合いが瞬時に潰れる。ギンガナムが放った手刀は、頑強な装甲の継ぎ目を狙う一突き。
 右胸を貫かれるその寸前、クルツはシザースナイフを投げ捨てた。右腕で逃さぬようシャイニングガンダムを抱きしめる。

「野郎に抱きつくなんざ趣味じゃねぇが……この時を待っていたんだよ!」
「何だこれは! この馬鹿げた熱量は!! 貴様ぁ、一体何をした!!!」

 キーボードに指を滑らせ、一つの文字列を叩き込んだ。それは祈祷書の『埋葬の儀式』の一節を捩ったシャドウミラーの自爆コード。
 その真髄は機密保持の為、後には何も残さない絶対の破壊。文字通り全てを無に帰す力。
 即ちコード名――
                 ――Ash To Ash――

「別に大したことなんざしてねぇよ。ただ土に還るだけさ。俺もお前もなっ!!」

 勝利を確信し、誇らしげに笑ったクルツを光の海が包み込んだ。

 ◆

 火花が散る。数合剣戟を交え、剣刃が乱れ飛ぶ。灼熱する斧を弾き飛ばし、横に薙ぎ払う。押した。押して押し捲った。
 隙はない。防御も厚い。しかし、破れる。突き破り、この男を避わすことが出来る。それが見えた。が、同時に側面を衝かれ、手痛い被害を受ける自身の姿も見えていた。
 一瞬の躊躇。それで機を失う。攻めあぐね、跳び下がり距離を取る。五度目だった。突き破れる手ごたえを感じながらも、全て跳ね返された。
 目の前の男は待っている。それは確実だった。薄ら笑いを浮かべながら、強引に突破を図る瞬間を待ちわびているのだ。それに乗る事は出来ない。
 ブンドルは唇を噛んだ。すでに相当の時間が経過している。死者が出ていても不思議ではないだけの時間だ。それだけの時間を費やして突破も出来ない。それがプライドに傷をつけた。
 互いの損傷は皆無。僅かに斧を弾き飛ばした点だけ、相手に被害を与えた。ただそれだけだ。
 無傷では切り抜けられない。崩せない。手負う覚悟があって初めて傷を負わせられる。この男を突き崩せる。そう思った。
 だがそれは許されないのだ。ラプラスコンピューターに損害を与えることは避けねばならない。やはり無傷で切り抜けるしかないのだ。それには切っ掛けがいる。あの男の注意を逸らすだけの切っ掛けが。

 ◇

「つまらねぇな……」

 小さく呟いた。この敵はつまらない。技術技量は驚くほど高い。動きも目を見張るほどで、無駄がなく隙もない。攻めは苛烈。守りは堅固。しかし、つまらない。
 恐さがないのだ。堅実で、大きく賭けに出てくるような動きを取ろうとしない。機会は何度もあったはずだ。賭けに出れば突破できる程度には、何度も崩された。
 しかし、それに乗ってこない。そういう敵は手強くても恐ろしくはないものだ。つまりは、つまらない相手ということになる。
 面白味という点では、アキトやテニアとか言う嬢ちゃんの方が遥かに勝っている。興味も半ば失せて来ていた。
 その時だ。彼方に巨大な光輪の華が咲いた。咄嗟に背後を振り返る。その動作はモビルトレースシステムを伝わり、正確に機体に反映された。同時にゾッとした悪寒が体を包み込む。

「チィッ!!」

 正面に向き直った。既に白銀の機体は驚くほど近い。無駄のない剣閃が襲ってくる。辛うじて防いだ。
 そのまま二合三合と切り結ぶ。しかし、押されている。このままでは押し切られる。
 思わず笑みが漏れた。

「ククク……やりゃぁ出来るじゃねぇか。なぁ!! おいッ!!!」

 守りを捨て踏み込む。自らの身が傷つくことも厭わない。頭を断ち割るビームナイフの一撃。しかし、それは空を斬ることとなる。
 眼前で白銀の機体の姿が変わる。人型から鳥のような姿へ。交錯。瞬く間に脇をすり抜けて背後へ。踏み込んだ分動きの遅れたガウルンは、その変化について行くことは叶わない。
 振り返ったときにはその姿は既に小さくなっていた。とてもじゃないが追いつけない。

「やれやれ……やられたねぇ」

 突如巻き起こった巨大な爆発。
 おそらくは何らかの決着が着いたのだろう。だとすれば思ったほどの混戦にはならなかったということだ。それにあの爆発では生き残りがいるのかどうかも怪しい。いてもくたばり損ないだろう。
 となれば、いまいち面白味に欠ける戦場だ。興味が急速に失われていくのを感じていた。

「骨折り損のくたびれ儲けってやつか……。まったくお寒いねぇ」

 地に落ちたヒートアックスを拾い上げたガウルンは、思わずそうぼやかずにはいられなかった。



【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:良好、主催者に対する怒り、焦り
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊
 現在位置:D-3
 第一行動方針:ギンガナムとの合流
 第二行動方針:協力者を捜索
 第三行動方針:三四人の小集団を形成させる
 第四行動方針:基地の確保のち首輪の解除
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
        DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-3
 第一行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第二行動方針:アキト、テニアを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 第四行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神不安定。放送の時刻が怖い
 機体状況:無数の微細な傷、装甲を損耗、EN残量1/2、ブレンバーにヒビ
 ENの減少により長距離バイタルジャンプの使用不可
 現在位置:D-3
 第一行動方針:アイビスと共に離脱
 第二行動方針:クルツの代わりにノイ=レジセイアを一発ぶん殴る
 最終行動方針:???
 備考1:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません
 備考2:負の感情の吸収は続いていますが放送直後以外なら直に自分に向けられない限り支障はありません】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:気力回復、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:頭部損失(実質大破)ソードエクステンション装備。
 現在位置:D-3
 第一行動方針:ラキを問い詰める
 第二行動方針:寝るのが少しだけ怖い
 最終行動方針:どうしよう・・・・・・
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:大破】

【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態―――――



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