85話「依頼主死すとも依頼は死なず」
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補給を済ませ、連れ去られたリリーナ・ドーリアンを救出するため、
テッカマンエビルの追跡を始めた矢先に、その放送は始まった。

『アー、アー、ただいまマイクのテスト中ですの。…こほん…最初の定時連絡の時間となったので放送を
 始めますの。まずは死んでしまった人たちの報告からですの…』

…エクセレン=ブロウニング
…メルア=メルナ=メイア
…グ=ランドン・ゴーツ
…ラクス=クライン
…木戸 丈太郎
…神名 綾人
…カティア=グリニャール
…リリーナ=ドーリアン


「馬鹿な………」

予想されうる最悪の状況。救うべき依頼主は殺された。

何故、もっと早く彼女を救えなかった。

いや、それは違う。あの危険極まりない男に身柄を拘束された時点で
全て終わっていた。あの凶暴な男が彼女の言葉に耳を貸すとは到底思えない。

責めるべきは、あの男を倒せなかった自分の不甲斐無さ。

それを自覚すればするほどに、握り締めた拳と噛み締めた唇から血が流れる。

開始前に殺された女性を除いても、リリーナ嬢を含め9名が死んだ。

その事実は、このような状況で平和を訴えるなど無駄だ。
無意味だと残酷なまでに突きつけているようにも思える。更には

『以上、10名ですの。…なかなか順調ですの。でも、乗らない方もいますのでやる気を出してもらうために
 ご褒美のことを説明いたしますの。ご褒美は、死んでしまった方を生き返らすことから世界の改変まで
 望むがままですの。なので、みなさんちゃきちゃき頑張って欲しいですの』

諦めろ。自分以外の全ての参加者を殺せ。そうすればお前の思うがままだ 

と心の隙を突こうとするかのような甘い誘惑がそこにはある。

「馬鹿げた話だ」

正に、言語道断の戯言だ。リリーナ嬢はきっと、最後まで
心を折る事はしなかっただろう。あのような男が相手でも、
怯む事無く堂々と、我を通した。待っているのが死であると
判っていようがどうだろうが、自分を貫き通した筈だ。

確かに彼女は死んだ。殺された。だが、それで依頼は無効か?この馬鹿げたゲームに乗るか?
答えはNOだ。彼女のこの胸の内に残っている。

耳を傾けようとしない者もいる。真摯に耳を傾けた上で、それを良しとしない者もいる。
だが、それでも信じたい。彼女の言葉を受け入れる者もいると。
そして、そんな者のために自分の出来る事は何だ?

「話を聞こうともしない者の排除……か」

ネゴシエイトに値しない者には拳を以って応え、排除する。
だが、限界まで交渉はしよう。碌に話もせずに相手を排除するようではあの男となんら変わりがない。
彼女の意思には背くだろう。だが、やはりこのゲームに乗った者はいる。
更に、嘆かわしい事ではあるが、先ほどの放送によって乗る者も現れる事は容易に想像が付く。

「さて、まずは貴女の仇を討つ事から始めさせてもらうよ。リリーナ嬢」

もっとも、君がそれを喜ぶとは到底思えないがね


自嘲めいた笑みを浮かべると、彼は騎士鳳牙を走らせる。
交渉が無理と判りきっている危険な人物を拳で排除する為に……


【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
パイロット状態:若干体力消耗 
機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)、EN満タン
現在位置:D-8市街地北部
第一行動方針:テッカマンエビルを倒す。
第二行動方針:ネゴシエイトの相手を探しつつ、マーダーを排除。
最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯
備考3:ドスハードの槍も携帯】



【初日 18:05】


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