86話「キラ」
◆vQm.UvVUE.
どこからともなく殺し合いの場に似つかわしくない声が聞こえてきた。
『アー、アー、ただいまマイクのテスト中ですの。…こほん…最初の定時連絡の時間となったので放送を
始めますの。まずは死んでしまった人たちの報告からですの…』
…エクセレン=ブロウニング
…メルア=メルナ=メイア
…グ=ランドン・ゴーツ
…ラクス=クライン
気絶したジョナサンをつれて、
なんとか補給ポイントに辿り着き一息ついたキラに待っていたのは信じたくない現実だった。
ラクス=クライン、彼がよく知る少女。
恋人、そう言える関係だったかもしれない少女。
無論、考えられる事ではあった。
こんなところで死んでいい人じゃなかった。
彼女はここでは明らかに無力だ。
最初に会った人間がもしもゲームに乗っていたなら、彼女は格好の的だっただろう。
分かっていたはずだった。
(分かっていながら!僕は何をしてたっ!)
「うっぁぁぁぁっぁぁぁぁ・・・・・・」
乗らない方もいますのでやる気を出してもらうために
ご褒美のことを説明いたしますの。ご褒美は、死んでしまった方を生き返らすことから世界の改変まで
望むがままですの。なので、みなさんちゃきちゃき頑張って欲しいですの』
「え?」
今の放送はなんと言ったか。
死んでしまった者を生き返らせる。世界の改変?
ラクスを、そしてフレイを思い出す。
もしも自分が優勝したのなら・・・・・・
ラクスやフレイを生き返らせ・・・そして彼女達に戦争の無い平和な世界を見せてあげられる。
彼女達の父親だって生き返らせてあげられる、ついでにトールも。
「・・・・・・でも」
だからといって、自分がこのゲームに乗ってラクスのような力のない人達を殺して、
それでラクスが生き返っても彼女は喜ぶだろうか。
そんなやり方で生き返ったとしても彼女は喜ばない。
罪の無い人たちの屍の上に築かれた平和や生なんて・・・・・・
(なら、僕はどうするべきなんだ)
今まではずっと、ラクスに導かれていた気がする。
アスランとの戦いの後道を見失った時を思い出す。
(・・・・・・いつも君が僕を助けてくれたんだ)
「僕は、僕はどうすればいいんだ・・・・・・」
ラクスならどうしただろうか。
彼女にもし闘う力があったのなら、きっとこのゲームを正しく終わらせようとしただろう。
あの怪物を説得、または撃破して皆が無事で帰れるようにと。
それをするのが正しいのかもしれない。
だが、あのノイ=レジセイアと名乗った怪物はラクスを生き返らせる可能性を持った唯一の存在だ。
ラクスだけじゃない、フレイも、トールも・・・アスランの母親や友達だって・・・・・・
思い出す、これまでの自分を。
ストライクガンダムでアークエンジェルに乗った時。
(闘えるのが僕しかいなかったからしかたなく僕は戦った)
フリーダムに乗った時。
(ラクス、君の言葉があったから僕は戦えた)
そのどれも、自分では何も決めてなかった。
ここにはもう、フレイも、ラクスもマリューさん達もいない。
自分の意思で決めなければならない。
ゲームにのって闘うのか、それとも別の道を取るのか。
すぐに決めなければならない。
奴等の言葉に乗って優勝を目指すのか。
ラクスの死を嘆き悲しんで泣きつづけるのか。
ラクスが選んだであろう道を選ぶのか。
取るべき道は決まっていた。
涙を拭く。もはや泣いてなどはいられないのだ。
(ラクス、ごめん、君を生き返らせることは出来ないかもしれないけど・・・・・・それでも僕は!)
元凶がいる、この悲劇を造り出したものが。
あれを放って置いたらいくつもの世界が不幸になるだろう。
許せなかった、このゲームに乗りラクスや、力ない人を殺した者達が。
そして、
「ノイ=レジセイア!僕は!・・・・・・お前の存在が許せない!」
だからこそ奴の思う通りには動かない。
起こってしまった事は戻せない。
もしレジセイアの力でもってラクスが生き返ったとしても、世界が変わったとしても。
それは違った、何か歪なもののような気がする。
気絶しているジョナサンを見る。
(ジョナサンが起きたら今の放送の話を伝えよう)
そして、このゲームに異を唱える人達を集めてノイ=レジセイアを倒す。
それがラクスの遺志を継ぐことにもなるだろう。
「ラクス、僕は戦うよ、今はそれが一番正しいと思うから」
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ガンダムF−91( 機動戦士ガンダムF−91)
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在位置:C-5
第一行動方針:ジョナサンに放送の内容を伝える
第二行動方針:このゲームに乗っていない人たちを集める
最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】
【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)
パイロット状態:気絶中
機体状態:キングジェイダーへの変形は不可、左舷損傷軽微
現在位置:C-5
第一行動方針:クインシィの捜索
第二行動方針:キラが同行に値する人間か、品定めする
最終行動方針:クインシィをオルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先)】
【初日18:15】
NEXT「巨虫、岩を打ち抜いて」
BACK「依頼主死すとも依頼は死なず」
一覧へ