1話「恋と呪い」
◆ZbL7QonnV.
支給された機体の中、テンカワ・アキトはこれからの事について考えを巡らせていた。
(殺し合いだと……? 馬鹿げている……だが、その馬鹿げたゲームに巻き込まれた事もまた確か……。
どうする……このゲーム、乗るべきか……?)
ラピス・ラズリのサポートを受ける事が出来ない現在、アキトの身体機能は著しく低下している。
だが、幸いにもと言うべきか。自分に支給された機体――
YF−21の操縦方法は、パイロット自身を制御系等に組み込むBDIシステムである。
このシステムのおかげで、アキトは不十分な肉体であっても機体を手足の延長として使う事が出来ていた。
いや、それだけではない。
センサーと接続された脳神経は、アキトにかつて失ったはずの感覚を取り戻させていた。
そう、見えるのだ。
はっきりと、目が見える。
ラピス・ラズリのサポートを受けていた時を遙かに上回る精度で、全天周360度の光景が見えるのだ。
YF−21のセンサーを通じて、アキトは失われたはずの視力を取り戻していた。
……戦える。
この機体があれば、自分は戦う事が出来る。
しかし――
「…………」
……自分には何を犠牲にしても生き残らなければならない理由があった。
それは、復讐。
妻と己の五感を奪い、自分の人生を狂わせた奴等――火星の後継者。
奴等を皆殺しにする為ならば、悪魔にも魂を売ると彼は誓った。
だが――何故なのか。
何故、このゲームに――“彼女”が――――!
「…………ユリカ」
あの会場で、確かに見た。
視力補助のバイザー越しに、自分は確かに確認したのだ。
同姓同名の別人ではない。
このゲームには、遺跡に取り込まれたはずの妻が――ミスマル・ユリカが参加している。
あの主催者に救い出され、そしてこの殺し合いに参加させられてしまったのか――?
いや、それともボソンジャンプのような時間干渉技術を使い、今ではない時代のユリカを連れて来たとでも言うのか?
……だが、どちらにしろ、あれはユリカだ。
このゲームに勝つと言う事は、彼女を殺さなければならないという事。
そしてこのゲームの勝利を諦める事は、復讐を諦めなければならないという事。
……どうする?
このゲームに勝つ事を諦めて、復讐を断念するのか……?
……無理だ。そんな事、出来る訳がない。
ならば、殺すのか?
彼女を――ユリカを、この手で――
殺せるのか?
自分は――彼女を――
――殺せるのか?
「…………殺せるわけが、ないだろうっ!」
……血を吐くような声で、言う。
復讐は諦められない――
だが、彼女は殺せない――
ならばどうしろと――
いったい、俺にどうしろとッッッッ!!
そして彼が迷いの中、今後の方針を決めかねているその時だった。
「あ、あの……すいません。あなたは、このゲームに乗っている人……なんですか……?」
「っ…………!」
……怯えを含んだ、聞き知った声。
通信機の画像に視線を向けると、そこには求めて止まない最愛の女性が――
【テンカワ・アキト 搭乗機体:YF−21(マクロスプラス)
パイロット状況:良好、苦悩
機体状況:良好
現在位置:D-7
第1行動方針:……ユリカと話す
最終行動方針:???】
【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
パイロット状況:良好、不安
機体状況:良好
現在位置:D-7
第1行動方針:戦闘機に乗った人(アキトとは気付いていない)と話をする
第1行動方針:仲間を集める
最終行動方針:ゲームから脱出】
【初日 12:40】
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