158話B「黄金の精神」
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ここにきてようやく追い風が吹いてきた、アムロはそう思った。
戦艦Jアークのブリッジにて邂逅したアイビス、キラ。
懸案だった少女と、自らと同じ志を持つ少年。心強い仲間だ。力は集いつつある。
自己紹介と言うべきものは先程終わっている。一通り情報交換を済ませ、アムロはようやく人心地ついた。
思えばここに来てから気の休まったときはないように感じた。
何故か核ミサイルに乗ったシャアとの出会い、バリアを持つ赤い機体との戦い、アイビスとの出会い。
殺戮者の駆るライオン型のメカとの戦い。それを振り切ったかと思えば唐突に感じた核の光、宿敵の喪失。
廃墟の町で狙撃者と戦い、ニュータイプを知る少年ガロードと出会い。
このF91に乗り換えてすぐ戦った男、ガウルン。思えば奴を仕留め損なったのはまずい。いずれ決着をつけねば。
……考えてみて。しかしよく生き残れたものだと逆に呆れる。どの戦いも、一手指し損なうだけで刻の涙を見る事態になっただろう。
だがやっと、勝ちの芽が出てきた。
己の力を最大限に出し切れるF91という機体。
新たな仲間キラ、彼の機体Jアークは強力なのが見てわかる。
アイビスもまた、迷いを吹っ切ったようだ。機体は変わっているが、彼女を守るという意志は前の機体と変わらないように思えた。
これで基地でブンドルと合流できれば、脱出は現実的なものとなる。できればカミーユとも合流したいが、今のところ手がかりはない。
彼がそう易々と死ぬとも思わないが、急ぐに越したことはないだろう。

「さて……大体話すべきことは話したな。俺は機体の整備をさせてもらうよ」

口いっぱいに菓子パンを頬張るアイビスと、それを笑いながら見ているキラに声をかけた。

「補給が済んだとはいえ、F91には随分無茶をさせた。ここらで一度しっかり手を入れておきたい。
 ああ、その後Jアークの設備を借りてもいいか、トモロ。やっておきたいこともある」

やっておきたいこととはもちろん首輪の解析のことだが、これは口には出さなかった。
盗聴を警戒してのことでもあるが、何故持っているのかと聞かれると説明するのは心苦しいからだ。

「あ、じゃあ僕も手伝います。ガンダムの整備は元々やってたし、慣れてますから」

既にキラも自分やガロードと同じくガンダム乗りだったことは聞いている。
とはいえニュータイプを知らないことから、アムロともガロードとも違う世界のガンダムだという話になったが。

「いや、こう見えても俺は技術者でね。それに整備をやっていたといっても、パイロットがするのはハード面のことだろう? 
 深刻なのがOS周りなんだ。こればかりは専門でないと分からんさ」
「あ、それならやっぱり力になれると思います。プログラミングは得意ですから」
『それは私も保証しよう。コーディネイターなる種の特性かはわからないが、キラのプログラミング能力は一般人のレベルを超えている。
 GGGに勤務していても遜色ないレベルだ』

とトモロが補足する。GGGなるものはよくわからないが、高性能であるのは疑いようもないAIが言うのだから間違いはないのだろう。

「ふむ……ならキラ、手伝ってくれ。F91にはどうも俺の世界の未来の技術が使われているようでな、正直なところ俺も完全に使いこなせるとは言えないんだ」

実際そんなに激しく変化しているわけではなかったが、ここからは聞かれるとまずい。話しつつもその手は取り出した紙に字を連ねていく。

『実は一つ首輪を入手している。死亡していた人物から拝借したものだが、君に解析を頼んでもいいか、キラ?』

紙を見せるとともに懐から首輪を取り出す。今だ血がこびりつくそれを出すのは抵抗があったが。
息を呑むアイビスとキラ、だが取り乱したりはしなかった。その程度には信用されているのだろう。

「わかりました。ただ、やっぱりアムロさんの世界のものですから、僕一人では……」

意図は理解してくれたようだ。首輪を受け取り、しっかりと頷くキラ。

「あ、あたしは何したらいいかな? プログラミングとかできないんだけど……!」

アイビスもただならぬ空気は察したのか、真剣な顔だ。とはいえ彼女には解析技能がない以上、取り立ててしてもらうこともない。

「そうだな……俺とキラが整備をしている間、警戒が疎かになるのも困る。ここで周辺の監視を頼む」
「うん、ついでにアイビスの機体も整備しておくからここはお願いするよ。
 ……そうだ、それでももし退屈ならトモロ、Jアークの操縦方法をレクチャーしてあげてよ。
 僕も戦艦の操縦なんて得意なわけじゃないから、他にできる人がいた方がいいし」
「わかった。よろしく、トモロ」
『了解した』

ブリッジを出て、キラと他愛もない話をしながら格納庫へと向かう。
本当に、風が吹いてきたようだ。戦力以上に解析のできるキラが仲間に入ったのは大きい。
ブンドルと合流するまで時間はある。少しでも首輪を解析するのは、主催者の手の内を知る大きな一歩となるだろう。

――ーそうだ、ここから俺達は反撃する。いつまでも俺達がフラスコの中でおとなしくしていると思うなよ……!

心中で吠える。
シャアを殺した者、ガウルン、主催者。敵は多いが、それ以上に心強い仲間がいる。
きっと、俺達は勝利する。楽観かもしれないと思いつつ、アムロはその気持ちを抑えられなかった。



【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)、満腹
 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN100%
       無数の微細な傷、装甲を損耗
 現在位置:D-3 北部
 第一行動方針:周辺の監視
 第二行動方針:Jアークの操縦を覚える
 最終行動方針:精一杯生き抜く
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)
 パイロット状態:健康、ジョナサンを心配(若干の申し訳ない気持ち)
 機体状態:ジェイダーへの変形は可能? 各部に損傷多数、EN・弾薬共に100%  反応弾を所持。
 現在位置:D-3 北部
 第一行動方針:F91、ネリー・ブレンの整備及び首輪の解析
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:ナデシコ組と和解する
 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】
 備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】

【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91)
 パイロット状況:健康、若干の疲労
 機体状態:EN100% ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ 
       頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾100%
 現在位置:D-3 北部
 第一行動方針:F91、ネリー・ブレンの整備及びJアークの設備を使い首輪の解析
 第二行動方針:基地に向かい首輪の解析
 第三行動方針:基地にてブンドルと合流
 第四行動方針:協力者の探索(カミーユ優先)
 第五行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している  ガウルンを危険人物として認識
    首輪(エイジ)を一個所持】

【二日目 9:00】


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