143話B「戦いの矢」
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「―――っ!」

統夜は、地面を異常な速度で疾走する影を見つけ、ビルの陰に隠れる。

銀色のマシンだ。かなり大きい。ヴァイサーガと同じくらい……60mはある。
だが、その巨体の割に、線があまりにも細い。
スレンダーな騎士タイプのヴァイサーガを、さらに細く絞ったようなマシンで、腕にはドリルが付いている。

「やっと……また見つけた」

そう言ってコクピットで統夜では息を吐く。
見つけられたことを安堵しているのか、それとも見つからなかったことを安堵しているのか。
どちらともつかない微妙な溜息。

時刻は約一時間ほど前だったろうか。
統夜は、当初の目的通り、C-7にまで来ていた。……順調とは程遠かったが。
街中に入った途端、別方向――北のほう――から、前述のマシンが現れたのだ。

自分から不意打ちを仕掛け、相手に致命傷を与えてから戦おう、とは決めていても、
咄嗟にそれが実行できるほど統夜の心も技量も追い付いていない。
突然全力疾走でこちらに向かってくるマシンを見て、統夜は姿を隠したのだ。
正面から戦うことを避けるのもあったし、純粋に統夜が見せた一般人的な反応でもあった。

とにかく、細かい理屈はいい。
統夜は、とにかく向こうが全力疾走していたのやらビル街で視界が悪いのやらこの一帯のミノフスキー粒子が濃かったやら、
もろもろの条件で統夜は接触を避けることができた。

それでも、一歩間違えれば正面から戦うはめになっただろう。
統夜も胸をなでおろしながらも、ここにきてからを思い返して背筋が冷たくなった。

そう言えば、自分が切り伏せたあの天使のようなマシンも、まともに考えれば交戦域だったのに気付かなかった。
青い重装なマシンに関しても、ある程度を通り越してかなりそばでやっと気付いたものだった。
そして、今自分も向こうの接近を目視できる辺りまで気付かなかった。

……どうも、ここはレーダーがあまり役に立たないらしい。
ある程度高性能なレーダー――戦艦や電子戦用――はともかく、普通の戦闘用のマシンのそういった機能は低下しているとしか思えない。

つまり、予想外からの一撃、その一瞬で終わる可能性だってある。……もちろん、命が。

「逆に考えるんだ、こっちだって奇襲しやすい。こっちに有利だと思うんだ」

これは人と出会って行こうと考えている人間ほど、不利に働く。
出会うチャンスを見失うことも多いのだから。
では、逆に一番この恩恵を受けるのはどんな人間だ?

――他でもない、自分のように極力見つからないように身を隠し、不意討ちを仕掛けようとするような人間だ。

とことん、この会場は人を殺す側に有利にできてるんだな、と乾いた笑みを浮かべるのが限界だった。


その成果、とでも言うべきか。
さっきの放送では、21人もの名前が呼ばれていた。
ゴールが縮まった実感はまるでない。それどころか、まるで今やっとスタートラインに立ったような気がする。

統夜は、コクピットの壁に小さく頭を打ち付けた。

「こんな時に、なに迷ってるんだよ……」

今更ながら……放送に、自分とテニアの名前が呼ばれなかったことにほっとした自分に嫌悪感を覚える。
自分は死んでないのだから、呼ばれるはずがないと頭では分かっていても、
挙された名前に自分と自分の知り合いが含まれていないことを感じて心底自分は安堵していたのだ。

あれほどさっき心に決めたはずなのに、放送一つでまた悩んでしまう自分の弱さが疎ましかった。

「どうせ、みんな死ぬんだ。いまさら悩んだって仕方ない」

そう自分を鼓舞する統夜。
ゆらりと、真っ赤な目を輝かせ幽鬼ごとくヴァイサーガが立ち上がる。
こっそりと、通信を合わせてタイミングを取ろうとして……やめた。
相手の会話を聞いたって、なんになるだろうか。
まして、相手は「一人」なのだ。仲間の機影も見えないのに、一機でぶつぶつ何かを言うことはないだろう。

とにかく、相手が一瞬でも隙が見せたら、そこに光刃閃を叩き込む。

それ以外、ない。

ビルの暗がりで、暗い決意を胸に少年が立ち上がる。
銀の背中を追いかけて。


―    ―    ―     ―


「遅い! ……ガロードはいったいこのエリアのどこで待っている!?」

今にも癇癪玉を破裂させそうなクインシィに、肩をすくめるジョナサン。
その動きがまた更に癇に障ったのか、クインシィは声を張り上げた。

「なにか文句があるか、ジョナサン=グレーン! 放送は聞いたろう、ガロード生きている。
 なら、必ずこの周辺にいるはずだ!」
「オーケイ、クインシィ。今回ばかりはあんたと同意だ。ガロードと合流することは、すべてに優先される」

やれやれと思う気持ちをぐっと押し隠して、ジョナサンは真・ゲッター2を走らせる。

確かに、放送を聞く限り、確かにガロードは死んでいない。
だが、これは死んでいないだけでここに来られない可能性も、十分にあるはずだが……
第一その合流する予定だった相手も信用できるのか。そいつに、後ろからドカン、と放送後にされたかもしれない。
ともかく生きている以上、ガロードはここに来ると信じているというわけか。

放送前には二人はC-8エリアに侵入していたわけだが、ガロードと合流相手はまだ来ていないのだろうと待っていた。
放送を聞いて20分。生きていることが分かり、さすがに遅いという話になったため、こうやって真・ゲッター2で探索しているのだ。
さすがに、人間に例えれば100mを4秒台で走りける真・ゲッター2。
それでも、1エリアが50km四方となれば、60m級の機械でも1,5km四方には相当するだろう。
こうやって駆け回って探し出して5分。地を走るゲッター2では効率が悪い。

「ジョナサン、私に変われ」

――空から探すのか? 逆に、襲撃者がいれば格好の的だろうな。

そんな言葉が喉までせりあがったが、さらに飲み込む。
今断れば、分離してでも探しに行きかけない気配がクインシィからは発散されている。
まったく、病気が過ぎる。だが、どちらも危険となればまだ自分が同伴しているほうが安全は高まる。

「……そちらも分かった。 チェェェエエンジッ!」
「真・ゲッター1!」

音声入力とは言え、毎回こうやって叫ぶのかと喉を首輪の上から小さく触る。
瞬間、3機の戦闘機に分離して、ゲットマシンが空に舞い上がる。

それでも、一応不審なモノはいないかと地上のビル群をカメラで睥睨したとき―――

ジョナサンの視界の端、闇に隠れて見にくいが、確かに濃紺の影がよぎる。
しかも、確実に、こっちに向かってきている――!

「クインシィ、敵だ! 的になる前に避けろ!」

とっさの判断。今ここで、重要なのは見えた影が敵か味方かにあらず。
自分が、無防備な姿をさらしていることこそなによりも気にすべきことだ。
だから、ひとまず敵と決め付けて、危機感をあおる。

「どちらからだ!? このままわたしに操縦をよこせ!」
「そのまえによけるんだよ! ぐううああっ!?」

真・イーグル号を強引に追い抜いたため、強烈なGが体を締め付ける。
それでも、真・ベアー号に誘導信号を送り、急に絵の前現れた真・ジャガー号のため、
ふらついたイーグル号にドッキングさせる。
間一髪、真・ゲッター2は光の刃が届くよりも早く変形を完了させる。

「何をする、ジョナサン。私に変われ!」
「その返事はNO以外ない!」

そのまま、敵も確認せず安定もとらず真・マッハスペシャルを使用。
本来は、完全に分かれて3つになるはずの分身は、時間不足により半端に重なり合った形で現れる。

だが、相手は減速の様子を見せず、全速で突っ込んでくる。
そのまま光の速度で駆けあがる一刀は、空高く打ち上げられ……
次の瞬間、3重の真・ゲッター2のうち、右端の一機の頭から股下まで切り飛ばした。
しかし、それはフェイク。本物は、中央の真・ゲッター2だ。
青騎士の撃ち出した一撃は、真・ゲッター2の右胸を大きく切り裂いただけで、撃墜には至らない。


6時30分。まだ暗く、空の果てがやっと白む世界で、光の矢が大地から空を貫くように飛んだ。
明けの明星のように輝くこの斬撃が、人を呼び寄せることになるとは……少年は気付かなかった。

刀を振り切ったまま切り抜け、急慣性で動きを変えることもできず、さらに空へ舞い上がる青騎士。
一方、それを尻目に大地へと落下していく真・ゲッター2。
この隙に、ジョナサンは地面に着地すると一目散に、青騎士から離れるように駆けだした。

「なぜだ!? なぜ逃げるジョナサン!」

クインシィの声。操縦に意識を割いていたため、無意識に声を大きくしながらジョナサンは答える。
必死に、集中のすきまでひたすら自分に冷静になることを意識させる。

「今は、ガロードと合流することが優先だ」
「目の前に現れたモノを投げ出してか!? あれは私たちを傷つける!」

「……俺は、ガロード・ランを信じていない」
「何をこんな時に言っている!?」

息を大きく吸って、一息に言い放つ。

「俺を信じ、従えと言うつもりはない。
『クインシィ・イッサーが信じているガロード・ラン』を信じろと言っている。
あんたの信じた男は、約束を破っていると決めつけて裏切れるほどの男か?」

「うっ―――」

言葉に詰まるクインシィに、さらにジョナサンは追い打ち同然の言葉をかける。

「もう一度言う。俺は、ガロード・ランを信じていない。だが、クィーンであるあんたの判断は信用する。
 だから、俺は『ガロード・ランを信じているクインシィ・イッサー』の、ガロード・ランを信用する」

――恨みもするが、今回は感謝もするぜ、ガロード・ラン。

真・ゲッター2がビルをドリルで掘り進みながら、ヴァイサーガから距離を取ろうとする。
しかし、ヴァイサーガもスラスターを全開にした高速移動で空を駆け、追走してくる。

「やるんだ……、今ならできる」

通信から漏れる相手パイロットの焦った声。
いいぞ、と内心笑みを噛み殺した後に、すぐに表情を引き締める。

相手は、こちらが合流しようとしていることを知らない。
いや、気づいていたのかもしれないが、相手を逃がすかもしれないという焦りでそれを忘れている。
ならば、このまま危険を覚悟で振り切るために建造物を破壊しながら走れば、ガロードたちは物音に気付く。
そうなれば、2対1……いやガロードと合流した相手もいれば、3対1の状況を作れる。
クインシィに危険が及ばないように真・ゲッターをひかせ気味に戦っても、盾になる駒がいれば問題ない。
一歩引いて、逆にこっちがガロードの合流相手を撃てる位置を維持できれば、さらに安全だ。

(問題は、本当にガロードが来るかどうかだが……)

あれほどクインシィに大きく啖呵は切ったものの、本当はガロードのことをジョナサンは信じていない。
むしろ、キラのように来ない割合のほうが高いとも思っている。

時間を、ちらりと見る。

時刻 6:33分

――30分だ。
同じエリア内にいるのであれば、どれだけビルのような障害物があっても、駆け付けられるはず。
30分たって合流できない場合、このエリアに来なかったと思っていいだろう。

ガロードとこのまま30分合流できない。
かつ、30分こいつを振り切ることができないのであれば……

「自分がバロンとしてやるしかないということか」

ジョナサンの思考も、奇しくもだがアムロやブンドル……そして同時にテニアとほぼ同じ思考をたどっていた。
この場は、殺し合いに乗った連中のほうが、圧倒的に強い。そうでなければ、ここまで急激に減ることはないはずだ。
つまり、多少強いマシンでも、1機というのは危険すぎる。

だから、戦闘でき、かついざ自分が後ろから漏らさず撃ち殺すこともできるような……
自分とクインシィを含み4,5名のグループを作る必要がある。

そのためには、結成の要因となるガロードの存在は必須だ。
彼女の病気が悪化する恐れもあるとしても、これは絶対。
クインシィが自分の制止を振り切り、単独で動き回る危険があるのは今さらな話だろう。
止めるのも難しい。

その行動に付きまとう危険は想像以上に高い。
はっきり言って、むき身の体でグランチャーやブレンパワードに戦うにも等しい。
それが、あの放送で知りえた情報だ。

クィーンたる女は、周囲の働き蜂のそばから離れてはいけない。仮に女王がそれを望んだとしても、だ。
だが、女王はだれの意にも従わず、自分の意思を通すだろう。
それが、女王なのだから。

(だからこそ、ガロードがいる。やつは勇と俺の身代わりになってもらう)

ジョナサンは、考える。
ガロードはクインシィの抑制剤になりえる。
依存し始めた今ではその効果は中々といったところだが、これからさらに行動を共にすれば効果はぐんと上がるだろう。
女王を、自然と安全な方向に誘導する。
依存が加速することと、生死の危険を抑えること。
さっきまでは、前者の天秤のほうに傾いていると思ったが、実情逆だった以上迷いはない。
意地でも、ガロードにはクインシィを抑え、守ってもらう必要がある。
それが、ガロードに与える勇の身代わりとしての役目。


ジョナサンは、考える。
ガロードといれば、クインシィの暴走はひとまず抑えられる。
戦う力もある以上、クィーンのためのルークにもなりえる存在。
ならば、自分が何をすべきか。ジョナサンの目的は、女王をオルファンに帰還させること。
そのためには、クインシィを最後の一人にする必要がある。

反抗者を集って脱出する? あの化け物と戦う? 

その発想は、あまりにも甘ちゃんの発想だったと今のジョナサンは理解している。
放送を聞けば、一目瞭然。自然と、化け物と戦えるだけの力を持つ人間も倒れていくだろう。

ジョナサンの出した結論。
次の第3回放送ののち、グループを離れて参加者を狩る。
そして、最後に自分たちのいたグループ――ガロード含む――を殺す。
これから12時間で、クインシィの依存は完成するはずだ。
そうなれば、自分が目を切ることに問題はなくなる。
ジョナサンがいない間、クインシィを守る……それが、ガロードに与えるジョナサン=グレーンの身代わりとしての役目。


「女王のルークをやらせてやれる程には信用しよう、ガロード・ラン……!」


ジョナサンが、真・ゲッター2で駆ける。
ただ、ひたすら朝の街で他者信じて。



【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:微妙に焦り、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、若干のEN消費、烈火刃一発消費
 現在位置:C-8端(C-7の市街地視認可)
 第一行動方針:真・ゲッターを落とす。
 最終行動方針:優勝と生還】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:疲労小
 機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中
 現在位置:C-8
 第一行動方針:ガロードとの合流
 第二行動方針:勇の捜索と撃破
 第三行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
 第四行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:良好
 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中
 現在位置:C-8
 第一行動方針:ガロードとの合流
 第二行動方針:強集団を形成し、クインシィと自分の身の安全の確保
 第三行動方針:第3回放送後は、参加者を狩る。
 最終行動方針:どのような手を使ってでもクインシィを守り、オルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先)
 備考:バサラが生きていることに気付いていません。


C-Part