170話C「Lonely Soldier Boys &girls」
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比瑪が。


【宇都宮比瑪    死亡】


一瞬の出来事だった。テニアの咆哮の直後、ナデシコにいない人間の声が届いた。
「テニアぁぁああああああ!!!」というテニアの名を呼ぶ、彼女の声に負けないほどの咆哮が。
同時に、ナデシコが揺れる。外部の一撃で、格納庫が傾いた。テニアも、ガロードも、比瑪も、宙に体が浮き上がる。
テニアは、ベルゲルミルの前へ。そして、テニアへ走っていた比瑪は……銃口の前へ。
ペガスにも止める暇はなかった。放たれた光は、比瑪を撃った。

ただ、それだけのことで少女の命は失われた。

「あ……」

魂すら虚脱したかのようなシャギアの声を無視し、テニアはベルゲルミルへと乗り込んだ。
かつてないほどの心臓の高鳴りが、彼女を突き動かす。彼女は知っている。自分の名を呼ぶ声が誰のものか。

統夜だ。
他でもない、誰でもない。統夜だ。
統夜は、まさしく騎士(ナイト)のように自分の声に応えたのだ。

ベルゲルミルの腕が、ナデシコのシャッターを突き破る。
外には、統夜によく似合う青い騎士の姿の機体がビルの上に立っていた。


 ◇


「ナデシコか……」
「ほー、やっぱり寄り道はするもんじゃないな」

統夜が、遠くに映る戦艦を眺め、どこか暗い声で言った。
それに対して空の彼方を見上げ、ガウルンは楽しげな声で肩をならしている。
結局、基地へ向かうことをやめ、一度会談会場をより楽しむため他の連中が来る前に地形などを下見するつもりだったガウルン。
その言葉に統夜は頷き、二人はまず南下して光の壁を抜けて廃虚へ向かったのだ。
そして、ナデシコを発見するに至る。

「とりあえず、どうする? 花火は全て集まるまで待つか? 前夜祭と行くか?
 そっちもやられっぱなしはシャクだろう?」

ガウルンの弾むような声が、よけいに陰鬱な気分にさせてくれる。
彼としては、どちらでもよかった。あのナデシコには、テニアがいない。
最後の一人になるのに、自分が全員殺す必要などない。
ガウルンと手を組む、というか組まされているのもそこが大きい。
だから、どこで誰がどんなかたちで死のうと興味がなかった。――ただ一人を除いては。

そう、テニアだけはこの手で殺す。それさえできれば何でもいい。

他のことには無関心な統夜は、虚ろに空を見ていた。
そんな統夜の様子を見て、ガウルンは目を細めた。

「いい目をするようになったじゃねぇか。そんなお前へのご褒美かもなぁ」

ガウルンが、顎でしゃくる。
興味のない視線を統夜はそっちに向けた。
そこには、20mより少々小さい機動兵器。ナデシコへそれは向かっていた。

「……それで?」
「おいおい、いいのかい? あのまま見逃して」

含みのある言葉に統夜が眉を広める。
ガウルンの目が、妖しく光ったように統夜には見えた。

「あれに乗ってるのは、お前の目当てのテニアちゃんなわけだが……なあ?」

テニアが!? テニアがあれに乗ってる!?

目を剥く統夜。ガウルンは堪えきれなくなったかのか噴出したあと、笑い出した。
酷くその笑い声が統夜は不快だった。

「頼む! 行かせてくれ……俺にやらせてくれッ!」

逸る統夜へ、ガウルンは相変わらずの笑みで、値踏みする視線を送る。
しばらく顎をなで何か考えていたが、ガウルンは笑みをいっそう深めると、指を立てた。
いたずら好きな子供が虫の足をもぐときの、嗜虐的な顔で、ガウルンは言う。

「オーケー統夜、お前の言うことを飲む。お前は好きにナデシコに仕掛ければいい。
 俺はお前が仕掛けるまで何もしない。それまでは……せいぜい姿を隠しておく」
「本当なんだな!?」
「がっつくな、がっつくな。ただし、条件を一つだけつけさせてもらうぜ」

ガウルンは歌うように告げる。

「最初の一発まで、だ。それが終わったら俺も好きにやらしてもらう。
 仕留めそこなった獲物を俺に取られないよう、せいぜい頑張りな」

そういうと、マスターガンダムは軽やかな足取りでビルの合間に消えていく。

ガウルンがいなくなったことを統夜は見届けると、ヴァイサーガのエネルギーを上げていく。
待機モードから、戦闘モードへ。
ヴァイサーガの脳波観測機能により、統夜の意識をフィードバックしリミットが外された。
統夜が狙うは、これまでも何度もやってきた戦法による瞬殺。

すなわち、リミッターブレイクによる光刃閃の一撃必殺。

ガウルンは、一発目までは仕掛けないといった。
だが、それで十分だ。たった、一発であの天使に似たロボットを叩き切ったこの一撃なら。
あの戦艦の格納庫を真っ二つに出来る。二撃など、最初から必要ない。

ガウルンに少し待たされたため、余計に貯まった殺意が捌け口を求めて自分の中で暴れるのが分かる。
今までのように迷いながら、悩みながらではない。絶対に絶命させるという覇気を湛え、光刃閃が放たれようとしている。

向こうは、こちらに気付いていない。
なにか取り込んでいるのか、見張りをしてないのか、役に立ちもしないレーダーに頼っているか。
どっちのみち好都合だ。このまま、このまま一気に行く。

光刃閃の最大有効射程まで、身を隠し近付く。――相手は気付かない。

さらに、近付く。――相手は気付かない。

さらに、近付く。――オープンチャンネルで通信しているのか、声が聞こえる。
             ミノフスキー粒子のせいでひどい雑音が混じっていた。

さらに、近付く。――徐々にクリアになる音質。意味が聞き取れるようになる。
             だが、同時に光刃閃の最大有効射程へナデシコが入った。

必倒の秘剣が、鞘から抜き放たれた。
ヴァイサーガの身体が、矢へと変わる。その超加速の最中、声が耳へ届く。


「こんなんで死ぬもんかっ! 私は! 統夜と幸せになるんだぁぁああああああっっっ!!」


――え?
極度の集中で、引き伸ばされた時間の中、統夜はその声を聞いた。

どういうことだ? テニアは自分を殺そうとしているのではなかったのか?
利用しようとしているだけではなかったのか? なのに、何故危機に自分の名を呼ぶのか?
自分がここにいるのを知っている? そんなはずがない。 なのにどうして?
ガウルンは、そう言って――ガウルン? あいつの言葉は信用できるのか?
もしかして、全部ガウルンの嘘だったのか? 何がどうなっているんだ?

もしかして――ガウルンがこうして機会を譲ったのは?

不意をつく声。
統夜は、一瞬自分が殺し合いに生き残り、最後の一人になろうとしていたことを忘れていた。
それを覚えていれば、彼は結局どっちであろうとも関係ないと切り捨てることが出来たろう。
しかし、その判断を咄嗟にできるほど、彼は老成してないかった。

若者特有の激情、テニアへの憎悪、その根本が揺らぎ、気迫が抜けた僅かな間。

しかし、その間も事態は進行する。
剣は、モーションに会わせてナデシコを切り裂かんと進む。

「テニアぁぁああああああ!!!」

自分でも気がつかないうちに、彼はそう叫んでいた。
最後の、ギリギリの地点で、停止の脳波が送られ、剣の軌跡が、格納庫からそれる。
その一撃は、ナデシコの表面を大きく切り裂きはしたが、けして致命傷にはならなかった。

ヴァイサーガは、そのままどこかのビルの上へ着地する。



振り返った先には……テニアの乗るマシンがこちらへ向かってきていた。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:呆然、虚脱。
 機体状態:EN55%、各部に損傷
 現在位置:F-1市街地(ヴァイクラン内部)
 第一行動方針:???
 第二行動方針:首輪の解析を試みる
 第三行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第四行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:???
 備考1:首輪を所持】

【ガロード・ラン 搭乗機体:なし
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:なし
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ格納庫)
 第一行動方針:???
 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】


【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声に多大の影響あり。
      ナデシコの機能でナデシコ内でのみ会話可能。
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ格納庫)
 第一行動方針:???
 最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことに気付きました】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:気絶中
 機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ医務室)
 第一行動方針:勇の捜索と撃破
 第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている。現在起動中
 現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】

【旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好
 現在位置:F-1(ナデシコ甲板) 】

【マジンガーZ(マジンガーZ)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:装甲にダメージ蓄積・ドリルミサイル10数ほど消費・ルストハリケーン一発分EN消費
 備考:飛ばした腕も回収して、今はあります】

【ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:下部に大きく裂傷が出来ていますが、機能に問題はありません。EN100%、ミサイル90%消耗
 現在位置:F-1市街地
 備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガス、マジンガーZを収容
 備考2:ナデシコ甲板に旧ザク、真ゲッター、ヴァイクラン(起動中)を係留中】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部破損、左腕消失、マント消失
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備
      右拳部損傷中、全身の装甲にダメージ EN90%
 現在位置:F-1 市街地(隠れて今のやり取りを見ているかもしれません)
 第一行動方針:統夜の今からに興味深々。テンションあがってきた。
 第二行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労中、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN80%
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:どうする!? どうする俺!? 
 最終行動方針:優勝と生還】

【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:激しく高揚、助かったことへの安堵
 機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、シックス・スレイヴ損失(修復中、2,3個は直ってるかも)
        EN60%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
 現在位置:F-1 市街地
 第一行動方針:統夜との接触、利用の後殺害
 第二行動方針:参加者の殺害(自分に害をなす危険人物、及び技術者を優先)
 最終行動方針:優勝
 備考1:現在統夜が自分を助けたと思っています。
 備考2:首輪を所持しています】

【残り19人】

【二日目12:20】


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