177話B「かくして漢は叫び、咆哮す」
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 ◇

そのままではナデシコに収まらない真ゲッターは、三機のゲットマシンに分けられて格納庫に収まっていた。
その内の一機――ベアー号の脇をすり抜けて、ガロードはパイルダーに飛び乗った。
新たにナデシコのレーダーに引っ掛ったUNKNOWN。その動きが早い。
真っ直ぐ。迷いなく接近してくるその軌道は、もしかするとナデシコを捉えている可能性が高かった。
最低でも臨戦態勢を整えておく必要がある。
パイルダーを発進。マジンガーの頭部に収まり、マジンガーを起動。
こちらのレーダーにまだ反応はない。
そう思った瞬間、灯りが灯る。
暗緑色の画面に映し出された光点は、真っ直ぐにシャギアの戦場へと向かっていた。

「どうなってんだよ!!」

だが、肝心のシャギアに通信が繋がらない。
レーダー上でもシャギアのいる付近は霞がかかったように捉えられない。

――どうする?

東から一機が接近中。これは真っ直ぐにシャギアの戦場に向かっている。
接触まで時間もそうない。
そして、別方向から更に二機。こちらは一瞬だけナデシコのレーダーが感知した。
距離はまだ遠く。動きも不明。
両者共に敵味方は不明。出方がまるで読めない。
その状況下でどうすべきか。前者を警戒するならば、シャギアの加勢に出るべきだろう。
だが、後者を気にするのならば、ナデシコ周辺で警戒態勢に当るべきだ。
判断材料が少なすぎる。どちらも正しいようで、どちらも間違っているような気がする。
悩み迷った挙句、こういうときは直感に身を任せるのがベストだと結論付ける。そして、その選択は――

 ◆

呼吸の音が、やけに大きく聞こえていた。心臓の鼓動も耳のすぐ傍で聞こえる。
視線が常に周囲を覗っていたが、実のところ何も見ていないのと同じだった。
足元からすり鉢状に広がる抉れた大地も、その縁に聳え立つ廃墟も、空も、雲も、太陽も見てはない。
いや、視覚だけでなく、聴覚も同じことだ。
不要なモノは全て排除すれば、最後に残るのは唯二つ――自分と相手、ただそれだけである。
漆黒の体躯を持った人型兵器、それだけを五感の内に。
演算も、ゲマトリアの修正も終わり、ダークマターの精製は完了している。
後は、胸の前に灯るこの赤黒い豪火球を最高のタイミングでぶつけるだけ。時を待つ。
既に四度ぶつかり、一撃離脱していく奴を捉える事が出来なかった。
針の先程に尖らした神経の先。耳に届く呼吸音は自分のものか、それとも奴のものなのか。
それが息を継ぐ。一、二、三、そして気息を整え、今!
カルケリア・パルス・ティルゲムと呼ばれる念動力感知増幅装置によって、研ぎ澄まされた神経がガウルンを捉えた。
場は左後方。鋭敏過ぎるほど鋭敏な反応に対して、僅かに遅れる機体の動きがもどかしい。

――何故だ! 何故、こんなにもこの機体は遅い。とろい!!

旋回が間に合わない。射角を確保する。ただそれだけの動きが、追いつかない。
見えている。動きも読めている。外す事などありえない。
それでも、ただ機体の動きが追いつかない。ガン・スレイヴでさえも間に合わない。
研ぎ澄まされた意識の中で、ガウルンの駆る黒い機体の右腕に紫電の光が灯る。ゆっくりと時間は流れる。

「ひゃぁぁぁっはぁぁぁ!! ダァァアクネスッ!!」

意思に反して鈍行を辿る機体は、まだ射角を確保できない。既に眼前にまで迫った腕が伸びる。
そして、知覚の外から何かが突然撃ち込まれた。
ヴァイクランとマスターガンダムの間で爆発が起こる。その衝撃に迫るガウルンの勢いは削がれ、時間が埋まった。
照準は、黒い体躯のど真ん中。ベディア・レディファーが、今放たれる。
高速で撃ち出された火球が、阻むもの全てを呑み込み直進する。
一撃で片を付けるべく最大火力で撃ち出されたそれは、クレーター縁を抉り、瓦礫のビルを意にも介さず真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに突き進む。
そして、その終着で二つの亜空間を作り出し、消滅した。
おびただしい光量の白い閃光と、黒い閃光が入り混じり、爆ぜ、その衝撃に雲が吹き飛ぶ。
青い空の下、廃墟の街並みは瓦礫の街並みへと変貌を遂げ、その爪跡を立ち込める粉塵が僅かばかり覆い隠していた。

「ククク……まいったね。こうも思い通りにことが運ぶとは」

一人男の悦に入った声が響く。
割り込みの一撃はシャギアに時間を与えると同時に、ガウルンにも回避の時間を与えていた。
渾身の一撃は、かわされた。
だが、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも今、シャギアの胸の内を占めているのは――

「どうした? もっと良く見てみろよ。立派な戦果だぜ。お前の手柄だ」

ベディア・レディファーの一撃によって、視界を遮る廃墟が吹き飛ばされた。その開けた視界の先で、ナデシコが黒煙を上げている。
状況が理解できなかった。五秒。十秒、呆けたままの時間が過ぎる。
直進した最大出力のベディア・レディファーが、ナデシコを襲った。その程度のことを理解するのに、数分を要した。
理解して、また頭が真っ白になる。
虚脱した顔を見て、男が噴出した。
その笑い声は間もなく高笑いに変わる。どこまでも、どこまでも楽しそうな笑い声。

「そうだ。その顔さ。そいつを拝みたくて、いやぁ苦労したぜ」

一頻り笑い、そして男が問いかける。

「クク……ところで、あんたは何でそんな顔をしているんだろうな」

――?
何を聞きたがっているのか、問いの意味が読めない。まともに思考が働かない。
ただ、白痴となった頭に男の声はよく染み込んでくる。そこに納まるのが当然、とでも言うように、妙に体に馴染む。

「わからねぇか? よく考えてもみろ。あんたがしたいことは何だ? 何をしなければならない?」

――私のしたいこと……しなければならないこと。

「おいおい、忘れちまったのか? 最後の一人を狙って、オルバって奴を生き返らせる、だろ?」

――ああ、そうだ。そうだった。私は、私の半身を失ったままにしておきたくないのだ。

「そんなあんたが、何でそんな顔をする? そんな顔をしなければならない? 滑稽な話だ。
 違うだろ? そうじゃない。笑うんだよ。ここは笑うところだ」

――笑う? 笑えばいいのか? そうか、ここは笑うところなのか。

「ハハハ……いい顔だ。そう、笑えばいい。
 なんたってお前は、お前の心の邪魔するモノを打倒したんだからなぁ」

――ああ、だから笑えばいいのか。それなら確かにここは、気分良く笑うところだ。

「だがなぁ。何とも残念なことに、クク……まだお前の邪魔をする者がいる」
 酷い。全く酷い話だ。弟を生き返らせようとするお兄ちゃんの邪魔をするなんてな。酷い連中だよ。
 さて、そんな奴らのお迎えだ。どうするかはあんたの自由だが、精々頑張りな。
 何やら面白くなりそうな気配なんでな。俺はまた潜ませてもらうぜ」

そういい残して、その男は再び瓦礫の海に紛れていく。何をするでもなくただ呆然と見送った。
一拍置いて男の言葉に疑問を抱く。既に言葉の意味を、表層的にも捉えられなくなってきている。

――お迎え?

「シャギアアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!」

ガロードの叫び声。
ああ、お前か。お前が割り込みの一撃を放った者の正体か。
視線を落とす。とても顔など合わせられない。
そんな声で私を呼ぶな。私はもう、お前に名を呼んでもらうに値しない男だ。
口元が引き攣り、正体なく笑う。
私は本当に何なのだろうな。やることなすこと全てが裏目に出て。
いっそ私などという存在は、この世に存在しないほうがマシなのかもしれない。
マジンガーの足が、俯く視界の先に映る。空気を裂く鋭い音と黒い旋風が、目の端を掠める。
それが何かと思考する気力は、なかった。
ただ思ったのは、ガロードは怒っているのだろうな、ということ。比瑪も、甲児もだ。
もういい。終わりにしてくれ。お前に引導を渡されるのなら、それも悪くない。
マジンガーの足が動く。揺れ、重音を残して崩れる。そして、力なく倒れたその体には、首がない。

「なっ!!」

驚き、顔を上げたその先には、黒い一匹の悪鬼。
巨大な戦斧を左肩に担ぎ、だらんとぶら下げた右腕に掴んでいるは、マジンガーの生首。
瞬間、絶叫が辺りに響き渡った。

 ◇

その手に掴んだ生首を、腹立たしげに投げ捨てる。
音を立てて二三度弾んだそれは、転がってどこかに消えて行った。
邪魔をされた。
この戦場に駆けつけたアキトが最初に目にした光景は、何かを撃ち出す大型機とそれをかわすガウルンの姿であった。
だが次の瞬間、巻き起こった爆発とその膨大な光量に目が眩み、見失う。
気づけば、戦場に既にガウルンの姿はなく、残されていたのは沈み行くナデシコとその一撃を放った元凶のみ。
理性が飛んだのが、自分でもわかった。
理由は二つ。ナデシコに危害を加えられたことと、自分の獲物に手を出されたこと。
薬を飲み。戦斧を構えて、一陣の旋風のように飛び込んだ。
そこに割って入られた。
男の名を叫びながら割って入ったそれは、身を挺して大型機を庇った。
その結果が、あの生首である。それはもういい。気も今は少し落ち着いた。
これ以上邪魔をしないのであれば、目の前の大型機に何の興味もない。
それよりも自分には優先すべきことがある。何よりも優先すべきことがある。
レーダーを睨む。反応が悪い。
苛立ち。そして男は、声に臓腑の底でじっくりと熟成された憎悪を塗りこめ、咆哮した。

 ◇

ナデシコが徐々に高度を下げている。推進機能の一部が破損しバランスを崩したのか、傾き始めていた。
その右舷には、ベディア・レディファーの一撃を受けて大穴がぽっかりと空いている。
そこに、身を硬直させている者が一人いた。肩までの赤い髪を風に棚引かせて、その女性は呟く。

「……ガロード?」

ぽつりと漏らしたその声に、実感はない。揺れに目を覚ました直後、夢と現実の境目すらまだはっきりしていない。
ただ視界の遥か先に見えた光景――マジンガーの頭蓋を掴んだ黒いゲッターを見て、そう思っただけだった。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:憎悪 戸惑い
 機体状態:EN20%、各部に損傷、ガン・スレイヴ残り二基
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:ガロード
 第二行動方針:ガウルン、テニアの殺害
 第三行動方針:首輪の解析を試みる
 第四行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:???
 備考1:首輪を所持】

【ガロード・ラン 搭乗機体:マジンガーZ(マジンガーZ)
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:頭部切断(パイルダーは無事)
 現在位置:F-1
 第一行動方針:戦況を確認し、とにかく動く
 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】

【熱気バサラ 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状況:神経圧迫により発声に多大の影響あり。
      ナデシコの機能でナデシコ内でのみ会話可能。
 機体状態:下部に大きく裂傷が出来ていますが、機能に問題はありません。
      右舷に破損大(装甲に大穴)、推進部異常、EN100%、ミサイル90%消耗
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:俺の歌を聴けぇ!!
 最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる
 備考1:自分の声が出なくなったことに気付きました
 備考2:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガス、マジンガーZを収容
 備考3:ナデシコ甲板に旧ザク、真ゲッターを係留中】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:健康
 機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ内部)
 第一行動方針:勇の捜索と撃破
 第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている。現在起動中
 現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】

【旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好
 現在位置:F-1(ナデシコ甲板) 】

【プロトガーランド(メガゾーン23)
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:左腕消失、マント消失、自動修復中
      DG細胞感染、ヒートアックスを装備 、EN60%
 現在位置:F-1 市街地
 第一行動方針:存分に楽しむ。
 第二行動方針:統夜&テニアの今からに興味深々。テンションあがってきた。
 第三行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター
 パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭(回復傾向)、疲労状態
 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:ガウルンの首を取る
 第二行動方針:ナデシコの捜索とユーゼスとの合流
 第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す
 最終行動方針:ユリカを生き返らせる
 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
 備考2:謎の薬を2錠所持 (内1錠はユーゼス処方)
 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可
 備考4:ゲッタートマホークを所持
 備考5:謎の薬を一錠使用。残り28分】

【二日目14:40】


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