146話C「命の残り火」
◆7vhi1CrLM6

 ◇

何が起こったのか皆目検討がつかなかった。
敵影が消えたと思う間もなかった。
油断しているつもりは微塵もなかった。一瞬でも気を抜けば落とされるという状況で神経を張り詰めていたのだ。
だが、気づいたときには既に機体は重い衝撃に揺れ、跳ね飛ばされていた。
世界が回っている。堕ちているのではない。
錐揉み回転をしながらヴァイサーガが中空を滑る。そう空気圧の上で滑るほどの勢いで吹き飛んだのだ。
程なくビルに叩きつけられ、ヴァイサーガの動きは止まった。
跳びそうになる意識を繋ぎとめ、呼び戻す。視界が開けた瞬間、白い影が直ぐ脇を掠めて落下した。
それは数棟のビルを巻き込み、突き破り、瓦解させて大地に突っ込んだ。
白いトンガリ帽子に右手のドリル。間違いなく先ほどまで交戦を続けていた敵機だった。
何が起こったのかは分からない。
だが、これはチャンスだった。この場から離脱するチャンスだ。
機体を起こす。逃げようと跳び上がり、背筋が凍りつくような悪寒に襲われた。
咄嗟にその場から飛び退く。
ほぼ同時に暗い何かが眼前を駆け抜け、前面の装甲が軋みを上げた。
巨大な重力波がその場を駆け抜けたのだ。
思わず振り返り、射撃地点を探す。
だが、その方角にそれを打ち込んだはずの者は映らなかった。変わりに視界を覆い潰したのは――

「……嘘だろ」

――幾百にも折り重なる火気の群。彼方から飛来し、暁の空を覆い尽くすミサイルの雨。
その狐につままれたような光景に一度思考が停止し、統夜は恐怖した。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!」

五大剣を鞘に収め、退く。
退きながら、烈火刃を取り出しては片っ端から投げ、撃ち落す。しかし、丸で足りない。
烈火刃の残されていたストックは五十本を越えている。だが、その全てを投げ終えてもなお百を下らない数。
気休めにもならなかった。そんな半端な数ではないのだ。
安全圏など何処にもなかった。遮蔽物を利用するとかそういうレベルでは既にないのだ。
この規模のミサイルを完全に避けようと思えばそれは、地下やシャルター以外に選択肢はない。
だが、ヴァイサーガがそれらに入れるはずもない。

「畜生! 畜生!! 畜生!!! そうやって寄ってたかって俺一人いじめて、楽しいのかよ!!
 お前らはそれで満足なのかよッッ!!!!」

こうなれば多少の被弾は覚悟の上でミサイルの雨の中、駆け抜ける他はない。
その場合、ミサイル一発一発の重みが問題だったが、もうどうにでもなれという心境だった。
どうせ悩んだってどうにもならないのだ。
そして、ヴァイサーガが鞘を払ったのとそこら一帯にミサイルが降り注ぎ始めたのは、ほぼ同時のことだった。

 ◇

ミサイル降り注ぐ爆撃地帯から少し離れた上空にシャギアは位置していた。
そこで戦況を見守りつつ通信機に声を吹き込む。

「ミサイル21基。目標座標X3.78-3.88 Y0.77-0.83」

それは通信圏ギリギリに位置する甲児とペガスの二機を経由して目視圏外に位置するナデシコへと伝わる。
一拍遅れて21基のミサイルが指示した地点を襲う。
遠距離攻撃の手段が尽きていることは確認済み。だから、初撃ほど大量の火器は必要ない。
そして、ガロードの退避も既に済んでいる。巻き込む心配は既になかった。

「やったのか?」
「いや、まだだな。チェックメイトにはまだ早い」

爆撃区域を切り抜けた敵機を確認して、甲児の質問に軽く答える。
そう、チェックメイト。すなわちチェスである。シャギアにとってもはや戦況はチェスに等しい。
あの高速戦闘を見たときからそこに割り込む気など皆無だったのだ。
例え勝てるとしても、相手の得意な土俵で戦うことほど愚かなことはない。だから自分の土俵に引きずり込んだ。
速度で勝る相手は手数で圧倒してやればいいのだ。
そして、それはナデシコという強襲戦艦があれば可能だった。
唯一の懸念はこちらの準備が整うまでに白い機体が落とされないかということだった。だが、それはギリギリで間に合ったといえる。
恐らく突撃の際、強烈なGに耐えかねて気絶でもしたのだろう。
バランスを崩し、黒い機体にぶつかって落下したが、その程度で乗り手が死んだとは思えない。
レーダーが敵機を確認する。優越感に浸ったシャギアは笑いが込み上げてくるのを感じた。

「誤差修正+0.082 −0.034」

降り注ぐミサイルの雨を切り払い、被弾しながらも敵は逃げ場を探して駆けている。
さすがにその動きは素早い。だが、予想外の速度ではない。

「X3.68 Y0.69。続けてX3.68 Y0.74。ミサイル各5基」

矢継ぎ早に指示を出していく。南北をミサイルに阻まれた敵機はもはや東に駆け抜けるしか道はない。
その尻を追うように後方に次々と着弾させていく。
自らの手の平の上で逃げ惑うその様は健気で、憐れで、滑稽だった。だが、それももう終わる。

「目標座標X3.88 Y0.71。グラビティーブラスト発射用意」

既にこれまでの流れで敵機の足は掴んだ。後はそれを考慮してそこに最大の一撃を打ち込めば――

「――詰みだ。グラビティーブラスト発射」

巨大な破壊の力を携え、重力の荒波が撃ち出される。それは阻むもの全てを呑み込み、目標地点も、その延長線上も全てを抉り飛ばして無に返した。
だが、そのとき黒い機体はそこにはいなかった。
誘導されつつあることを薄々感づいていたのだろう。
ナデシコがグラビティーブラストを放つ直前の溜め。ミサイルによる爆撃が止むその一瞬に、向きを変え離脱していたのだ。
だが、それすらもシャギアの読みの上である。黒い機体を二つのガン・スレイブが囲い込む。
そしてその真ん中、黒い機体が足を止めたその場所に――

「数価変換、ゲマトリア修正……残念だったな、少年。
 チェックメイト。さよならだ。ベリア・レディファー」

――赤黒い火球が打ち込まれ、呑み込み、内包した全てを消失させ、そして爆発。
だがしかし、その爆発後には何もなかった。あるのは一つの巨大な穴のみであり、その下にはまた別の空間が見て取れた。
覗き込む。道は幾筋かに分かれており、その太さはバラバラだった。小さいものは20mほどだが、大きいものは100m近くもある。
追いかけるのは少々骨が折れそうだった。それをする暇もない。

「まさか地下空間が存在するとは……してやられたな」

興醒めといった感じでシャギアは振り返る。そこには兜甲児とガロード=ラン、二人の姿。
補給は必須だろうが戦力を損耗することもなかった。まずまずの戦果と言っていい。
後はガロード=ラン。奴との交渉を穏便済ませればことはうまく進む。それが終わればこんどこそ首輪の解析に打ち込もう。
そう、シャギアは決めて、この空域に侵入してくる巨大な戦艦を見上げた。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、テニアを警戒
 機体状態:EN55%、各部に損傷
 現在位置:C-8市街地
 第一行動方針:ガロードと話をする
 第二行動方針:人気がなく見晴らしのいい場所へ移動
 第三行動方針:首輪の解析を試みる
 第四行動方針:比瑪と甲児を利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:オルバと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考1:ガドル・ヴァイクランに合体可能(かなりノリノリ)、自分たちの交信能力は隠している。
 備考2:首輪を所持】

【兜甲児 搭乗機体:旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:C-8市街地
 第一行動方針:ガロードと話をする
 第二行動方針:ヒメ・フロスト兄弟と同行
 第三行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
 最終行動方針:アインストたちを倒す 】

【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好、ナデシコの通信士
 機体状態:EN60%、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル90%消耗
 現在位置:C-8市街地北東(ナデシコブリッジ)
 第一行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行
 第二行動方針:依々子(クインシィ)を探す
 最終行動方針:主催者と話し合う
 備考:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容】

【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声不可、気絶中、顔に落書き(油性マジック)
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:C-8市街地(ナデシコ医務室)
 第一行動方針:新たなライブの開催地を探す
 最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことにまだ気付いていません】

【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労大、苛立ち、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN1/4、烈火刃残弾ゼロ
 現在位置:C-8地下通路(実は偶然落下しました)
 第一行動方針:この場からの離脱。
 最終行動方針:優勝と生還】

【ガロード・ラン 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)
 現在位置:C-8
 第一行動方針:シャギアと話をする
 第二行動方針:アムロと合流する
 第三行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:気絶中
 機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)、ジャガー号のコックピット破損※共に再生中
 現在位置:C-8
 第一行動方針:勇の捜索と撃破
 第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:死亡
 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)、ジャガー号のコックピット破損※共に再生中】

【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に帰還中
 現在位置:C-8市街地】

【残り23人】

【二日目7:15】


NEXT「leaving me blue」
BACK「朝ごはんは一日の活力です!!」
一覧へ