22話「憎悪」
◆u34lXU/BOY


「どうしよう、これから……」
機体に乗り込んだはいいが……これからどうしよう?
テニアは町の片隅に機体を移し、行動の指針を考えていた。
このゲームには、彼女の知り合いが3人いる。すなわち……統夜、カティア、メルアの三人。
統夜は確実にゲームに乗らないと思う。
最初の頃は、頼りなく、すぐ怒鳴ることもあった彼は、闘いを通して成長した。
アル=ヴァンにも認められるほどに。カティアと、メルアもとてもゲームに乗るとは思えない。
「やっぱり、統夜達を探すのが一番かな?」
しかし、どうしても嫌なイメージが頭の片隅に残る。
先程、首を吹き飛ばされた女性の姿が焼きついてはなれない。3人がゲームにのっていなくても、確実にゲームに乗る人は現れる。
その人たちが、統夜達を殺さないなんて保証はどこにもない。
カティアやメルアは、私と同じで、そこまでうまく機体を扱えない。死ぬかもしれない。
が、統夜は大丈夫だろう。
統夜の腕なら、絶対に負けない。負けないはずだ。それでも、なおあの女性の姿が統夜とダブる。
(そんなはずない!統夜なら絶対に大丈夫だ!)
目をつぶり、頭を振って幻想を振り払う。そうだ、彼の腕は一緒に乗りつづけた自分が一番知っている。
「はぁ……」
ため息をつき、違うことを考えることにする。じゃあ、仮にうまく合流できたとして……それからどうする?
このゲームから、脱出する?どうやって?首輪はどうする?脱出の方法なんて、思いつかない。
なら、結局一人になるまで戦うしかないのか?あの少女は「素敵なご褒美」と言っていた。
「素敵なご褒美」って……なんだろう。おそらく、あの怪物の力を使って何かをする、ということだろうか。
仮に、そうだとしたら、それは大変なものではないだろうか?
何しろ、あの怪物は凄い力を持っているのは間違いないのだ。それを使って何かを成すというなら……
ふと、くだらない仮定が頭をよぎる。統夜は負けない。負けないなら、勝つということだ。
もし、統夜が一人勝ち残ったとして……「ご褒美」が誰かを生き返らせるとかなら、誰を生き返らせるか?
どこまでもIfの仮定。実はまったく違うのかもしれない。でも……
体が縮こまるのがよく分かった。もしそうなったら間違いなく、自分ではない。生き返らせるなら、おそらくカティアだろう。
最後の戦いの前、彼女が統夜に告白して……それから2人は一緒に住んでいるのだ。
確かに、統夜は私たちを嫌ってはいない。でも、今彼が一番強く好意を寄せているのは間違いなく……
  カティア
胸が、締め付けられるように痛い。
あの時、ラフトクランズを統夜が拾ってきたとき、自分もすぐに統夜がどうしようとしているかわかった。
統夜と離れるのが、どうしても嫌だった。だから、私は格納庫に行って……統夜とカティアを見つけた。
そして、2人が話していることも……
ほんの、ワンテンポの差だった。もし、あと数分早く格納庫についていれば、全て逆転していたはずだ。
でも、現実は今目の目にある通り。カティアと、統夜はお似合いだと思う。それに、カティアは私の大切な友達だから……
自分も統夜が好きなのに、妥協して。
今になって、いや今まで感じていたけど、隠していたものが、こんな状況になって噴出した。
自分はとても惨めだ。
抱き上げた膝に顔を埋める。しばらくそうしていたかった。けど、それも許されない。
「あ、あの、誰か乗ってますか〜?返事をしていただけませんか?」
「その声……メルア!?」
「ええっ?テニアちゃんですか?」
自分の殻にこもっていたからだろう。気付かなかったが、何時の間にか目の前にメルアの乗った機動兵器があった。
「よかった〜、心細かったんですよ、こんなことになっちゃって……」
「いや、こっちも同じだよ。でも突然目の前にいるんだもん。驚いちゃったよ。」
さっきまでの自分を隠して、「いつもの自分」を貼り付ける。
殺し合いの場に似つかわしくない会話がそこにあった。
「いっしょに、統夜さんを探しましょう」
しばらく、くだらないことを話した後、メルアが言い出した。
「え……」
「どうしたんですか?」
つい、言葉に詰まってしまった。少しだけ、「いつもの自分」がはがれそうになる。
「いや、なんでもない。一緒に行こう!」
そう言って二人並んで移動しようとしたとき、
カラン、カラン……
「?」
空から、小石より少し大きい程度の石が降ってきて、機体にぶつかった。
見上げると、ビルの屋上に、ある巨大な影があった。

「テニアちゃん、あれ!」
「わかんない、どうする、話し掛ける!?」
私たちがうろたえる。その間に、赤いマフラーをなびかせ、空へと舞い上がり、
「避けて!テニアちゃん!」
足が突然紫電を走らせ、こちらに急降下してくる――!
私は左に、メルアは右に。咄嗟に機体を横っ飛びさせる。
さっきまで自分たちがいた場所に、稲妻の弾丸が落ちてクレーターを穿つ。
「逃げましょう!テニアちゃん!」
「でも!そっちにいけそうにないよ!?」
「別々です!逃げるほうが先決です!見てください!」
見ると、50mはあろうかという巨人は、ゆっくりとメルアのいる場所に方向転換していた。
迷っている暇はない。
「分かった!またあおうね!」
喋りながらも機体をフル稼働で移動させる。向こうもまた、同じだった。
「はい!必ず統夜……」
突然、メルアとの通信が途絶えた。砂嵐のような、不快な音を残して。
「メルア……?」
嫌な予感がする。とても、嫌な予感が。
油が切れた機械のように、ぎこちなく振り向く。
ラフトクランズ。
青いラフトクランズだった。
メルアを串刺しにしたのは。
「メルアッ!嘘でしょ!?返事して!!」
もう写らない通信機に叫ぶ。しかし、答えはない。代わりに聞こえてきたのは……
「我らがフューリー再興のためにィィィ!!我がラフトクランズの塵となれェェェ!!」
あの、グ=ランドンの声だった。
「そんな……」
グ=ランドンは確かに、あの時死んだはずだ。なのに何故!?
「貴様らまとめてェェェ、ヴォーダの闇に送ってくれるゥゥゥッ!!」
「訳分からないこと叫んでんじゃねぇ、ジジィ!」
マフラーをまいた巨人から声がした。
「我を阻むものに呪いあれかしィィ!!」
Fモードのソードに突き刺さったメルアの機体を振って、巨人にぶつけようとする。
しかし、巨人は回し蹴りを繰り出して、いとも簡単にそれを砕いた。
もう、間違いない。
メルアは死んだのだ。
「ああ……ああああ」
さっきまで考えていたことが、現実となった。
「あああああああああああああああッ!!」
そして私は、訳のわからない叫びを残し、逃げるように走り出した。

テニアが逃げ去る間、どちらもテニアにもう目を向けることもなく、お互いの敵を見据えていた。
「我が剣でェェェ!!消えろォォォ!!」
Fモードのソードを最大まで伸ばし、巨人…・…大雷凰に振り降ろした。
「そんな長物に当たるかよ!」
軌跡を完全に見切り、一気に竜馬が……大雷凰が駆ける。
しかし、地面に当たると同時、Fモードのクリスタルは砕け散り、刀身が消滅する。
一気にラフトクランズに高速で接近していた大雷凰に、通常モードに戻った刃を横薙ぎに切った。
「チィィィィィィッ!!」
ついた慣性でそのまま吸い込まれるようにラフトクランズが迫るが、ギリギリで両足で踏ん張ってブレーキをかけた。
残った前方へ流れる力を使い、前方宙返りの要領でラフトクランズの頭を超える。
「おりゃぁぁぁ!!」
「むぅぅぅん!!」
お互い振り向き様に、電撃の足を、水晶の剣を振るう。
ぶつかり合い、拮抗した力が周りに物理現象となって破壊していく。
だが、やはり10m近いサイズの差のため、上から押しつぶすように力をかけられ、ラフトクランズが膝を突く。
「まだだ!まだ負けぬゥゥゥ!!」
急にラフトクランズの輪郭がおぼろげになり、左右2対ずつ、計4体のラフトクランズが姿をあらわした。
「何ィ!?」
「我がフューリーの技術はァァァアアア世界一ィィィィイイ!!」
4体が、本体のラフトクランズを抑える大雷凰に特攻同然でぶつかっていく。
するとたちまち緑の結晶へと変化し、大雷凰を包み込んだ。
「絶望せよぉぉぉぉぉヲヲヲオオオオオォォォヲ!!」
拘束を逃れたラフトクランズは後ろに引くように飛び上がり、ソードモードからガンモードへと武器を切り替え腹へ接続した。
「オルゴンライフルゥゥファイナルモォォードーォオッ!!」
緑のエネルギーの濁流が大雷凰を消し飛ば……

されなかった。
「おおをををおおおお!?」
「このジジィィィ!!死にやがれぇぇぇ!!!」
驚くことに、大雷凰は僅かに露出した両足のブースターを全力で動かし、その状態のまま空へと舞い上がったのだ。
咄嗟に武器を捨て、シールドとオルゴンクラウドを展開する。
そこへ大雷凰がぶつかった。
オルゴンクラウドを難なく貫いた大雷凰によりシールドを弾き飛ばされ、ラフトクランズは姿勢を大きく崩した。
対して。
「これで終わりだァァ!ライジングメテオ・インフェルノォォォォ!!!」
ぶつかった衝撃で水晶を砕き、自由になった体が、勢いを更に上乗せして迫る!
胸のプラズマコンバーター展開し、足のブースターが唸りを上げた。
明度が3段階は上がるような稲妻がラフトクランズを焼く。
「うぉぉぉおおおおおおお!!!」
ラフトクランズの体が真っ二つになり、下半身が爆炎を撒き散らす。
そして、大雷凰は静かに大地に降り去った。

―― 一方
いったいどれほど走っただろうか?私には、丸一日走った気がする。
メルアが死んだ。もう、会うこともない。できない。涙で前がろくに見えなかった。
「あっ!?」
ベルゲルミルがすっ転んだ。自分が、前も見ずに動かしていたからだ。
こけて地面に突っ伏す形になると、色々混ぜ込んだわけの分からない思いがとめどなく沸いてくる。
私は友達一人、助けられない。統夜と一緒にいたい。統夜ならどうにかしてくれる。でも、統夜は本当の意味で私なんて見てない。
カティアもこんな風にいつ死ぬか分からない。カティアは死んでも生き返る。でもメルアはもう無理だ。私は……
突然、目の前に緑色の光が展開される。そして、姿をあらわしたのは、上半身だけとなったラフトクランズだった。
「っ……!」
機体を引き起こして距離を取る。
「おお……おおぉぉ……」
聞こえてくるのは、呻き声。
マシンナリーライフルを抜いて、ラフトクランズへ向ける。
さっきまで自分の中に溜まっていたドロドロをまとめて掻き出すように叫んだ。
「あんたが!何で生きてるのよ!しかも……なんでメルアを!」
しかし、テニアの激情に、グ=ランドン心底不思議そうに答えた。
「フューリー再興のため……我らが民のため……私さえ戻れば……フューリーはまた立て直せる……そのためなら、我ら以外の種族など……」
こいつは生きてるときと一緒だ。ほかの人たちのことをまるで考えてない。ゴミ程度にしか考えてない。
トリガーを抑える指に力が入る。
「なんで……そんな理由のために!?」
「ならば……お前にはないのか?」
「何が!?」
「胸をかきむしるほどに願い、腕を伸ばしても届かなかった願いが……」
「……!」
胸をかきむしるほどに願い、腕を伸ばしても届かなかった願い……変えたい過去……
ある。それは……
「本来なら、ヴォーダの闇へと消えるだけの私がまた生を得たのだ・……偶然拾ったこの命、私がやらねば誰がやる……?」
「そんな……何で他人のことを考えないのさ!あんただって、それさえ考えてれば、アル=ヴァンや統夜みたいになれたかもしれないのに……」
「ク……ククク、クハハハハハハ!!」
突然狂ったように笑い出すグ=ランドン。

「実験体ごときが、私を哀れようというのか!愚か!愚かなり!
集まったとき分かったぞ!あの場には他の実験体もいた!あの逆賊の子もいた!
あの神々しいまでの威圧感!お前も見ただろう!?この世界より逃げる術など無し!貴様らも仲間同士殺しあうがよい!ハハハハハハ!!
絶望せよォォオヲオオヲヲヲオオオオォォォォオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ッ!そのメルアを殺したアンタが言うなァァァァアア!!」
パシュ
軽い音を立てて、ラフトクランズのコクピットは消え失せた。
メルアを殺した相手だからだろうか。罪悪感はまるでなかった。
だが、グ=ランドンの言葉が深く圧し掛かる。
結局、1人になるまで殺しあうしかない。逃れる術など無い。
他人を殺すのは、確かに怖い。けど、自分だって、戦争で、散々統夜と機体を駆って戦っていたのだ。
殺してないはずが……ない。
殺すのは怖い。でも、死ぬのはもっと怖い。
でも……結局、帰るには統夜とカティアも殺さないといけないといけないのか?
「カティアと、統夜……」
あの、2人を殺す?無理だ。だって、2人とも、大切な友達だから……
「でも……」
さっきの、あくまで仮定だった話がまた首をもたげる。
もし、生き返る言うのなら、
カティアが死んだら、統夜が。
統夜が死んだら、カティアが。
捨て鉢な気持ちで心が荒む。どうせ、死んだらもう自分に次はないのだ。なら、やるべきことは一つしかないじゃないか。
弱った人なら殺す。強い人は取り入って隙を見て殺す。襲ってくるなら力を見て逃げるか、倒すか決めればいい。
幸い、このベルゲルミルは、とても強力なロボットなのだ。
「………こうなったら、やるしかないじゃないか」
コクピットの中で吐き捨てるようにテニアは言った。



【メルア=メルナ=メイア 搭乗機体:ジム・カスタム(機動戦士ガンダム0083 )
 パイロット状況:死亡
 機体状況:バラバラ】

【グ=ランドン・ゴーツ 搭乗機体:ラフトクランズ(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:下半身消滅、コクピットブロック破壊】

【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:ステルスマーダー化
 機体状況:良好
 現在位置:C−8
 第1行動方針:参加者の殺害
 最終行動方針:優勝】

【流 竜馬 搭乗機体:大雷凰(バンプレストオリジナル)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:C- 8
 第一行動方針:サーチアンドデストロイ
 最終行動方針:ゲームで勝つ】

【残り51人】

【初日 12:50】


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