66話B「アンチボディー ―半機半生の機体―」
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四機の機体が入り乱れる様を遥か上空から目撃した神隼人その場で機体を一回だけ旋回させ、今しがた起こった出来事をフライトレコードの映像に収めていた。
その四機のうち一機は既に離脱し、一機は沈黙、そして残る二機は戦闘を繰り広げている。
しかし、既にその上空に隼人はいなかった。YF-19のモニターに拡大表示されているのは三機のコマンドマシン。
同系機とおぼしき外観を持つ三機のうち二機が残る一機に接近していっている。
三機という機数、赤・白・黄色という配色の二つがゲッターを隼人に思い起こさせていた。
ただしその形状は隼人のよく見慣れたものよりもより洗練されたシャープな線を描いている。
ゆえに隼人はそれをゲッターと断定することはできなかったが、確かめずにいることも当然できない。万が一ということも十分にありうる・・・。
どちらにしろコクピットを覗けばその答えは出るはずだ。ゲッターならば合体変形機構が必ず盛り込まれているはずである。機体の動力を見極める手もある。
それを見落とさないだけの自信が隼人にはあった。
眼下で襲われている参加者と地に横たわるベアー号らしき機体を隼人は天秤にかける。
「・・・悪く思うなよ」
ゲッターの巨大な力を知る彼は眼下の光景を後回しに機体を加速させていった。



「お姉さん、あれ!」
先に気づいたのはガロードだった。右前方に一つの機影。その向かう先にあるのはベアー号、あきらかに目的は一致している。
「確認した・・・」
通信を返しクインシィは思案を練る。ここで相手に先を越されるわけにはいかない。もし戦闘になった場合、二機のコマンドマシンでは心もとなかった。
マジンガーの存在もあったがあれはだいぶ東。ここからだとベアー号よりも遠方であった。
やはりベアー号を押さえて合体するしかない。
もう一度相手を確認する。タイミング的にギリギリと踏んだクインシィは「急ぐぞ」とガロードに声をかけようしたところに先にガロードから通信が入る。
「お姉さん、話し合いしなよ。ちゃんと忘れてない?」
「うるさい!覚えてる!!」
実際は忘れていた。
「とにかく今は急ぐぞ!」
というや否や機体を加速させた。その後姿を見ながらガロードは逃げ出したい思いに駆られたその瞬間
「逃げるんじゃないぞ!一段落したらそれと言いたいことは山ほどあるんだ・・・」
釘を刺された。そのぞんざいな物言いの中に優しさもみた気がしたが先延ばしになってる折檻の光景が頭に思い浮かんだ。
「うへぇ・・・でも、お姉さん、本当に話し合」
「くどい!」
首をすくませたガロードはおとなしくクインシィに続いて行った。



周囲に轟音が鳴り響きビルの残骸と共にグランチャーは砂漠に投げ出された。
「くそっ!なんて力だ!!」
すばやく体勢を立て直しながらジョシュアは一人愚痴る。
気絶したアイビスを乗せるブレンから相手を放そうと応戦しながら誘導し、最後のビルを迂回して砂漠に出ようとしたとき、動きを読まれギンガナムの拳を浴びた。
とっさにガードしたものの背後のビルを巻き込んで砂漠まで殴り飛ばされたのがここまでの経過だった。
思惑通りブレンからは引き離した。ひとまずここまでは上出来とグランを励ます。
小競り合いによって破壊されたビルの影にシャイニングの両目が浮かび上がり、次の瞬間
「ぬるい!まったくもってぬるいぞ!!貴様ああぁぁぁぁぁ!!!!!」
気迫と同時にブレンに肉薄するとその右拳が振り下ろされた。
それをジョシュアはグランチャーに必要最低限のバックステップでかわさせると攻撃直後の隙を狙って間髪要れずに踏み込む。
ソードエクステンションの斬撃が唸りをあげてシャイニングに差し迫る。
「甘いわ!!!」
ギンガナムは返す右手で捌き相手の体勢を崩すと左拳をまっすぐに突き出した。
次の瞬間、拳は空を切り、背後から衝撃がギンガナムを襲う。振り返ったギンガナムの視界は間近に迫った光線に埋め尽くされる。
それはシャイニングの胸部装甲を擦過して後方の砂漠に着弾。大量の砂を巻き上げた。
瞬時に反撃に出ようとしたギンガナムだが、牽制の弾幕を撒き一定の距離まで後退したグランチャーを確認してひとまずは追撃をあきらめる。

こちらの動きを読みきった熟練を思わせるパイロットの腕――
一瞬にしてこちらの死角に回り込んでみせた黒歴史にも載ってない未知の移動法――

確実に直撃させたはずの二撃目を皮一枚でかわした反応速度――
小型機に似つかわしくないにも程がある攻撃力と機械とは思えないほど柔軟な追従性――

―――なまじの敵ではない―――

距離を置いて対峙した二人のパイロットが互いに抱いた感想であった。
「ふ・・・ふははははは・・・・・・面白い。実に面白い」
前言を撤回したギンガナムは肉体が歓喜の声を上げ、武人の血が沸き立つのを感じた。
そして、それに答えるかのようにシャイニングガンダムはフェイスガードをオープンさせスーパーモードを発動させる。
その様子を眼前にジョシュアは簡単にはいかないことを覚悟せざる得なかった。



あともう少しでベアー号を回収できるというところでクインシィとガロードは神隼人と接触した。相手は眼前を悠々と旋回している。
「お姉さん、どうしたのさ?はやく通信しないと・・・あっ、しにくいのなら俺が・・・」
キッ!と通信機越しに睨みつけられてガロードは沈黙した。
が、いつまでもこうしててもしかたないと思い通信機に手を伸ばしたその瞬間
「こちらは神隼人。交戦の意思はない」
相手から先に通信が入ってきた。モニターのむこうでガロードが安心するのが見える。
「こちらはクインシィ・イッサーとガロード・ラン。こちらも交戦するつもりはない。できれば情報の交換を望む」
「了解した」
あっけないほどすんなりと交渉は成立し三機は情報交換を開始した。



そして、情報交換開始から十分弱のあいだに主催者や他の参加者・互いの世界観などについてなど知っていることについて情報が交換されていくが互いにたいした成果はなかった。
ネリー・ブレンについての情報も交換されたがやはり成果はなかった。
成果のない一因は隼人がゲッターについて黙っていたせいかもしれない。まだ二人を見極めてない隼人にとって、ゲッターの情報は一枚のカードとして伏せておく必要があった。
そしてそれはクインシィ側にとっても同じである。二人は万が一に備えマジンガーの情報を隠していた。
自分達の機体は最初から二機のコマンドマシン。そう思わせておいたほうが現状では二人にとって都合がいいのだ。
互いに札を伏せていようとも成果がなくとも貪欲に情報は交換されていく。
そして、話題はヴァイサーガとシャイニングガンダム・ギンガナムに及ぶ。その二機の特徴を聞いた隼人は先ほど上空から撮った映像データを二機に送信した。
「ついさっき撮ったものだが・・・この二機で間違いないか?」
「そうそう。この二機・・・」
ガロードが映像を確認して答えを返す。
その傍らでクインシィは無言で映像をみつめていた。
(これは私のグランチャーではないか・・・)
その赤いボディーを見間違えるはずもなく、自分のグランチャーだと気づく。そして、そのグランチャーが桃色のブレンパワードを守るように行動している。
(何故だ!何故・・・・・・)
「隼人、場所はどこだ?」
「南西方向、A-1・A-2・B-1・B-2の四つのブロックの境目あたりだ」
クインシィの目が据わり、次の瞬間真イーグル号は急発進で飛び去っていった。
「ちょっと待ってよ、お姉さん!」
とガロードがそれに続く。
残された隼人はその様子を不審に思いつつもあとを追おうとして近場に横たわるベアー号らしき機体が気になり足を止めた。
このままYF-19で二機を追うにしろ、ベアー号らしきこいつに乗り換えて追うにしろ、ひとまずこいつをどうにかする必要があった。
なぜならば隼人の知るかぎり敵にまわせばゲッターほど厄介な機体はないのだから…。


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