62話 「混乱」 ◆T6.9oUERyk
東の空に小さな点が見えた。
「あれは…」
呟きながらも素早く機体を操作し、その巨躯をビルの隙間へと隠す。
その間も点はぐんぐんと大きくなり、やがては一つの形を成す。
「悪魔?」
「おかしいな、この辺りで何か動いている様に見えたんだけど…」
ガロードはそう首をひねる。若いながらも数々の戦場を生き抜いてきたガロードである、
モニタ−越しであろうと動くものをそうそう見逃したりはしない。
簀巻きにされたままシートに括り付けられてさえいなければ…
『見られているのは確かだ。お前は左を監視しろ。』
彼をそんな目に会わせた犯人は機内通話機越しに鋭い声を飛ばしてくる。
また不機嫌になってるな、とガロードは内心溜息をつく。
数時間前に彼に襲い掛かったお姉さんは、彼を捕虜にするや縛り上げ一通り尋問をした後、
予備コクピット(真ジャガー号)へと彼を放り込み、そのまま出発してしまった。
ちなみに彼に支給されたマジンガーZはB-1のビルの一つにある大型ガレージに隠してある。
(万一ゲッターロボが大破した場合の保険だとか)
そんなこんなで、縛られっぱなしのガロードの命運はお姉さんことクインシィが握っていて、
短気でヒステリックなクインシィは今、姿を見せない相手に激しい苛立ちを募らせている。
このままお姉さんの機嫌が悪化し続けると色々な意味でガロードの身が危うい。
彼は何とかロープを振りほどこうと七苦八苦しつつ、ガロードは思う。
エニル・エルといいクインシィといい、年上の女性相手だと碌な目にあわない。
「ティファ、助けてくれ…」
「あれは?」
言われたとおり索敵を続けるガロードの視界に接近する影が映る。
探していた下からではなく、北方から。
「ガンダムか!?」
ビルからビルへと跳躍しながらギンガナムは哄笑する。
「ふははははっ!素晴らしいぞ!!実に素晴らしいではないか!!」
彼が目指すのは前方に見える悪魔のごとき姿の機動兵器。
遠目にもあの機体が恐るべき力を有していることは一目瞭然。
戦いを求める武人ギム・ギンガナムはさらに加速し目標へと突き進む。
「ガンダム…あれがお前の言うガンダムなのか?」
一目散に接近してくる機動兵器を睨み付けながらクインシィは問う。
『ああ、見たことも無い型だが間違いなくガンダムタイプだ。』
やや緊張した少年の返答を聞きクインシィは舌打ちした。
ガロードから聞いた話が正しければ、ガンダムタイプは彼の世界における最強の機動兵器らしい。
そして、実際に接近してくる相手の動きを見ればそれが嘘でないことは分かる。
パイロットの技量が侮れないであろうことも。
『お姉さん、ちゃんと話し合いに持ち込みなよ。いちいち戦っていたらきりが無いぜ。』
「うるさい、わかってる!!」
心配そうに忠告してくるガロードに怒鳴り返す。
簀巻きにしたままのガロードと今後の方針を話し合った際、生き残るために他の参加者との戦闘は避けて情報交換に徹し、
自分たち以外が互いに潰し合うのを待つべきだとガロードに口をすっぱくして言われている。
彼女の性格には向かないやり方だが、勇を探し出すにもそれが一番合理的だと理解している。
だがやはり性に合わないものは合わないのだ。
そして、ガンダムが通信可能距離に入り、
「そこの機体、聞こえるか?こちらはクインシィ・イッサーと言う、そちらはr」
『ふははははっ!自ら名乗りをあげるとはその意気や好し!!』
いきなり台詞を遮られた。
『小生はギム・ギンガナム!クインシィとやらよ、いざ尋常に勝負!!』
言うや否やさらに加速し、自機の3倍はあろうかという真ゲッターへと突貫して来る。
『ふ、ふざけるなー!!』
台詞をいきなり遮られ、あまつさえ問答無用の宣戦布告。
クインシィのただでさえ短い堪忍袋は一瞬でぶち切れた。
巨大な戦斧を掲げたゲッターはそれを間近に迫ったシャイニングガンダムへと一気に薙ぐ。
「あまい!」
薙ぎ下ろされる戦斧を掻い潜り、シャイニングガンダムは拳を悪魔へと叩き付ける。
恐るべき勢いで突き出された拳は自機よりもはるかに巨大なゲッターロボを文字通り“殴り飛ばした”。
「うわああああぁ!」
凄まじい衝撃でコンソロールに思い切り頭をぶつけた。
頭をぶつけた?
「しめた!!」
ガロードの顔に喜色が浮かぶ。今の衝撃でシートに縛り付けていたロープが解けたのだ。
体を動かしてみると、毛布越しにも自分を縛るロープが緩んでいることがわかる。
凄まじい戦闘機動に振り回され、あちこちに体をぶつけながらもガロードは必死でロープを解こうとする。
「ようし!解けた!!」
ついに自由を手に入れたガロードは歓喜の声を上げて…
そのままモニターを見て凍りつく。
モニターに映るのは、今まさにゲッターを両断せんとする騎士の姿が。
少し場面をさかのぼる。
紫雲統夜はヴァイサーガをビルの陰へと潜ませ、じっと好機を窺っていた。
彼の視線の先では2時間ほど前にやり過ごした小型機と先ほど接触しかけた大型機が死闘を演じている。
統夜は待っていた、2機が傷つき・疲弊し決定的な隙を作るのを。
そして赤い大型機が斧を振り投げる。
ブーメランのごとく激しく回転しながら飛来するそれを白い小型機は大きくサイドステップして回避し…
直後、大型機が一気に突っ込む、その腕から巨大なブレードを生やし跳躍の直後で一瞬動きの止まった小型機を両断せんとし。
『あまいわぁぁぁああ!!』
小型機は迫りくる巨腕を掴み取り、全長50mはあろう巨躯を豪快に投げ飛ばした。
ヴァイサーガの方へと。
統夜は反射的にスロットルを引き、ヴァイサーガを一気にダッシュさせる。
投げ飛ばされて動きの止まった大型機を両断するために。
しまった!
クインシィは己の失態を悟る。
目の前のガンダムとの戦いに集中しすぎて、先ほどから潜んでいた相手を完全に忘却していた。
自機を投げ飛ばしたガンダムはさすがに即座に追撃はしてこれないが、
このままでは不安定な姿勢のまま背後からの伏兵に攻撃を喰らう。
スロットルを前回まで引き機動を強引にずらそうとするも、
姿勢が安定しないために機動がぶれあっさりと追いつかれる。
敵機が剣を振り上げ、もはやこれまでかと思われたその時。
『だああああ!!』「な」『なんとぉぉぉ!』『うわっ!』
オープン・ゲット!!
ゲッターロボは突如として三機のコマンドマシンへと分離。
「うわ、わ、なんだ!?地面!」
突然の出来事にパニックになりつつも操縦桿を引きなんとか地面への激突を避ける。
そのまま一気に上昇し、敵機とある程度距離をとった所で通信が入る。
『お姉さん、無事!?』
「なんだ!いったい何でいきなり分離したんだ?」
『俺が聞きたいよ、ヤバイと思ってコンソロールを弄り回したらいきなり分解した。』
「お前が犯人か!!というか何でお前操縦しているんだ!抜け出したのか!」
うわ、と通信機越しに声が響き
『と、とにかく今は逃げようぜ。』
その一言で一気に思考を現実へと戻す。
下を見ると敵機たちはあまりの出来事に呆然とこちらを見上げている。
確かに逃げるなら今がチャンスだ。
「よし、離脱する。それと色々と言いたい事があるから逃げるんじゃないぞ!」
そのまま2機のコマンドマシンは北の空へと飛び去っていった。
「何だったんだアレ?」
『いきなり戦闘機に分離するとは、まさか合体可変機とは思わなんだな。』
「まったくだ。というか幾らなんでも無理が無いか?分離前後の形が全然違ったぞ…」
狸に化かされた様な表情であっけに取られたままコマンドマシンを見送る二人であった。
【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
パイロット状態:良好、唖然としている
機体状態:無傷
現在位置:B-1市街地
第一行動方針:戦いやすい相手・地形を探す
第二行動方針:敵を殺す
最終行動方針:ゲームに優勝】
【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真イーグル号(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:興奮、やや疲労
機体状態:ダメージ蓄積、
現在位置:B-1市街地上空
第一行動方針:この場から離脱
第二行動方針:ガロードを問い詰める。場合によってはお仕置き
第三行動方針:勇の撃破(ユウはネリーブレンに乗っていると思っている)】
【ガロード・ラン 搭乗機体:真ジャガー号(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
機体状態:ダメージ蓄積
現在位置:B-1市街地上空
第一行動方針:逃げる
第二行動方針:お姉さんに言い訳をする
最終行動方針:ティファの元に生還】
【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状態:絶好調である!が唖然としている(気力120)
機体状態:良好、ENをかなり消費
現在位置:B-1市街地
第一行動方針:倒すに値する武人を探す
最終行動方針:ゲームに優勝】
【初日16:40】
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