102話B「極めて近く、限りなく遠い世界の邂逅」
◆960Bruf/Mw
照準モニターの向こうで首のない機体と小さな小型機の目まぐるしく動き回っている。
「ちっ……こう動き回られちゃ当たりゃあしないぜ」
群がるビル群、ところ構わず立てられた広告塔、人目を惹くための派手な看板。そういったものに姿を紛れ込ましている赤い機体の中、クルツはぼやいていた。
目標は小型機。
離脱前に存在を確認した赤鬼には、前に直撃させた砲撃の損傷は見当たらなかった。ゆえに同程度の大きさを誇る今回の大型機にも効果は薄いと、かなりいいかげんに予測。
よって標的は小型機に絞っていた。もっとも当てるだけなら、大型機のほうが遙かに楽なのだが。
だが、少なくともあの大型機に致命的なダメージを与えるには――
視線を動かし、地に伏したままぴくりとも動かないフォルテギガスを見る。
――どうしてもエイジが必要であった。
「ったくあの馬鹿。肝心なときにお寝んねしやがって……だいたい生きてんのか? 生きてんなら返事くらいしやがれってんだ」
通信はすでに何度も試みていた。しかし、のびているだけなのか、はたまた死んでるのか、依然として応答はなかった。
そもそもだ。そもそも作戦目的がエイジの離脱なのだ。
奴らの勝敗が決してフォルテギガスにとどめを刺す前に、小型機を撃墜し大型機をひきつける。そのための行動だ。
仮にエイジがすでに死んでいるのだとしたら、やろうとしていることに大した意味はなかった。
強いてあげるならば敵機の撃墜だが、ほったらかしにしておいても勝手に潰し合ってくれる。となると後に残るのはリスクだけであった。
「ええい。あと3回……いや5回だ!後10回通信しても応答がなかったら離脱してやる!!」
そう言って無為に時間は過ぎて行っていた。
横一文字にはらわれた大鎌をくぐり抜け、YF-19が大雷凰に肉薄する。
ヒビの入った腹部を確認し、マイクロミサイルの発射管を開いた瞬間、急制動をかけて機体の勢いを殺す。
鼻先を膝がすり抜けていった。続けて振り下ろされるのは肘。
反射的にかわせないと判断した隼人はピンポイントバリアを機体上部に展開。バリアごと弾き飛ばされて一旦距離を置いた。
「勘は鈍ってないようだな、竜馬」
「ずいぶん苦しそうじゃねぇか、隼人」
息が荒く、呼吸が落ちつかない。古傷は確実に体を蝕んでいる。
だが、この男に泣き言を言うつもりは全くなかった。
「フ……気のせいだ。それよりもリョウ、落ち着いて聞け。 俺は神隼人だが、お前の知っている神隼人ではない。お前もおそらく俺の知っている流竜馬ではない」
わずかに竜馬に反応がでる。
「……どういうことだ? 隼人、俺にわかるように説明しろ! 」
食いついてきた――隼人の内心の思いであった。
「平行世界。おそらく俺とお前は極めて似通った世界からあの化け物に集められたのだろう」
「何を言い出すかと思えば」
竜馬が鼻で笑う。
「コロニー、MS、NT、オルファン、アンチボディー、グランチャー、どれも俺には聞き覚えのない言葉だ。お前にもないだろう。真ゲッターに乗っていた二人の世界の言葉だ」
反応を見つつ、言葉を紡ぐ。竜馬の説得をあきらめたわけではなかった。
「真ゲッター、それがあのゲッターの名前か? 」
「そうだ。そして、俺の知っている竜馬は真ゲッターを知っている。お前は知らない。それが理由だ。根拠としちゃ薄いがな……」
全てを語り終え、流れる静寂。これが最後の説得であった。その静寂を――
「クク……ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 」
――竜馬のどこか狂った笑い声が打ち消す。
「俺とてめえが違う世界の人間? それがどうした。だとしたら、俺はここでてめえに引導を渡し、他の集められた奴を全員ぶっ殺して、俺の世界のジジイとてめえに引導を渡す。
それだけだ。やることはかわらねぇ」
その言葉を受けて、隼人は――
「そうか。俺もここでお前に生き残る理由を譲ってやるわけにはいかん」
――竜馬の説得を諦めた。
おあつらえ向きに二機が動きを止めた。狙撃を行うなら今がチャンスだった。
だが、依然としてエイジと連絡は取れない。撃てば奴らは間違いなくこっちに気づく。
撃つべきか、撃たぬべきか、どうする? どうする?
思考が渦を巻き袋小路に追いやられる。
その時、耳元に雑音が届く。通信機の先で何かが身じろぐ気配を感じた。
「エイジ! エイジ、無事か? 」
はじけたように通信機に齧りつき叫んだ。
見上げた視界に、ぼんやりと天井がうつっていた。見慣れないコックピットに一瞬ここはどこなのかと考える。
「痛っ! 」
次の瞬間、体中に針の筵にくるまれているかのような痛みが奔って、意識は急速に覚醒していった。
「エイジ! エイジ、無事か? 」
通信機から聞き覚えのある声が流れてくる。体中に奔る痛みのせいか、こいつは今の今まで何をしていた――そういう感じの怒りが込み上げてきて。
「怒鳴らなくても聞こえている! 今まで何してたんだ? 遅い!! 」
怒鳴り散らした。
「ほぉ〜、お言葉だがな。今の今まで呑気に気絶してた奴に言われる筋合いはねぇ。大体てめえがなぁ、不用意に近寄っていくのがわり〜んだ! 」
そうして始まった口喧嘩は、暫くの周囲の状況をほったらかしに繰り広げられた後、『今はそれどころではない』ということで一応の和解が結ばれた。
「機体は動くか? 」
「接続部がやられたのか、フォルテギガスとしての運用は不可能。だが、分離すればたいして問題はない」
機体の各部の損傷チェックを行いながらエイジが返す。
「わかった。俺は小型機を狙う。そっちは大型機を頼む。隙は俺がつくるからうまくやってくれ」
「了解した」
「それと一撃当てたら成功・失敗に関わらず離脱しろ。援護は一回きりで俺も離脱する。誰かさんのせいで補給する暇もなかったんだ」
ラーズアングリフのFソリッドカノンの統弾数は8発。すでに今までに二度使用しているので残弾は6発。クルツからすればあまりここで消費はしたくなかった。
「十分だ。離脱後は僕はビルに紛れつつ西の壁目指す」
「俺は北の壁で目視を遮った後、C-8の市街地を目指す。お互い命があったらまた会おう。それじゃ、始めるぞ」
赤い機体がタイミングをはかりつつ折り畳み式の砲身を展開する。
強き巨人の中、息を潜めつつ分離の手順を簡略化できるように、エイジはコンソールに向かい合った。
冷静に状況を分析する。
敵は共に癖を知りつくした難敵が一機。
古傷の影響で自機のスペックはフルに引き出せず。体が機体の速度に耐えきれない以上、離脱も戦闘も現実的ではない。
その中で、足掻けることと言えば、体の状態を無視しての離脱。もしくは――ー撃に賭けた撃破。
共に現実的ではないながらその二つしか思い浮かばなかった。
神隼人はリアリストである。ゆえに他の相手なら逃げることを選んだであろう。相手が流竜馬であるからこそ隼人は――
――ー撃に賭けることを選んだ。
YF-19の右腕にピンポイントバリアが収束されていく。
狙うのは胸部装甲の凹み、コックピットの可能性の高いその一点。
そこに限界まで収束、圧縮させたピンポイントバリアパンチを叩きこむ。
普段と比べ段違いに小さく収束されていったピンポイントバリアはやがて通常のナックルカバーの形状から逸脱し、針の先ほどの点となる。
その様子をモニター越しに、クルツはタイミングをはかる。浮遊する小型機のブースターの燐光。大きく、小さく、不規則に瞬くその光に呼吸を合わせる。待っているのは突撃の瞬間。
先ほどまでの戦闘から予測される小型機の速力。それをもとに狙いを定める。
口の中は渇き、汗が頬を伝っていった。トリガーがやけに重い。外すわけにはいかなかった。
小型機のブースターが唸りをあげ燐光がひときわ大きく輝く。
――今だ。
そう思った時にはトリガーを引いていた。撃ったのは二発。
モニターに視線が釘付けになる。成功したのか、失敗したのか。
小型機は機体がゆらぎ――
――しかし、何事もなかったかのように突撃した。
眉間にしわがより、顔に苦渋の表情が浮かぶ。
――くそっ!失敗だ。
「エイジ、敵をひきつける。まだ動くな! 」
そう叫んだ時にはフォルテギガスがすでに分離を始めていた。
「あの馬鹿……ちくしょう! 」
苛立ちを隠しもせずにクルツは赤い機体の足を戦場へと向けた。
大雷凰とすれ違ったYF-19の周辺に細かく砕かれた金属片が散らばっている。
――ちっ、外した。
あの突然の砲撃、それはYF-19に抵触していた。その結果、狙いのずれたピンポイントバリアパンチは脇腹を抉るに留まった。
そして現在、コントロールを失い機体は地表へと流れていっている。
体が限界だった。せまいコックピットの中で丸くなってうずくまる。
――情けねぇ……。
地表が迫ってくる。
――泣き言を漏らしている暇もないか……。
体を起し、機体を立て直そうとしたその時、機体を反転させた竜馬のゲッターサイトが唸りを上げて迫っていた。
金属音が響き――
――いつの間にか迫っていたガナドゥールがファルシオンセイバーごと弾かれて瓦礫に叩きつけられた。
その外部の様子に気を取られる間もなく機体を立て直そうと抗う。
次の瞬間、風斬り音が耳元に響き、YF-19は爆発を起こした。
目の前の突然爆発を起こしたYF-19が黒煙をあげて流れていき、やがて地表に激突して粉微塵に吹き飛んだ。
「隼人おおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!! 」
その光景を目の前に竜馬はただ叫ぶ。何が起こったかわからなかった。
「へっ! てめえで殺そうとしておいて、何が悲しい!! 」
レーダーの有効範囲ギリギリの距離に一つの反応が浮かび、同時に通信が入る。
その瞬間、怒りの矛先はそこに向けられ――
「貴様かああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!! 」
――注意が全てそこに注がれた。
同時に響く重低音。大きな揺れがコックピットを支配し、大雷凰はエッジブラスターの直撃を受けて地に倒れる。
流れる視界のなか離脱していく青い機体が目に入った。
「邪魔をするなああぁぁぁぁあああああ!!! 」
瞬間、血走った目で体勢を立て直すと同時に突撃。瞬く間に大雷凰とガナドゥールの彼我距離が狭まる。
「をおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!! 」
背後からの蹴りが一閃。そのままの体勢でさらに一閃。そして、そこを足場に軌道を変えた大雷凰が空を駆けた。
前のめりに吹き飛ばされるガナドゥールの中、エイジもこのままでは逃げ切れないと悟る。
――やるしかない!
「V-MAX起動!! 」
前のめりの体制のまま、各部ブースターがフルブースト。機体そのものがさながら火の鳥の如く赤い炎に包まれた。
空を駆ける大雷凰と火の鳥が真っ向から迫る。そして――
「砕け散れえええええーーーっ!!! 」
「ヒートダイブッ! 」
――轟音が響き、一つの爆発が起きた。
立ち込める煙を裂いて当たり負けしたガナドゥールが大地に突き刺さる。
そして、それを追って大雷凰がなおも駆ける。上空から踏み砕くように繰り出された蹴りは、ガナドゥールの頭部を砕いた。
続けて足を持ち上げ、二撃目を繰り出そうとして、飛び退く。装甲を擦過して抜けていった砲弾が瓦礫を巻きあげた。
北に赤い機体が見える。うっとおしい。
心底そう思った竜馬は衝動に駆られるまま、それを目掛けて駆けていった。
クルツ=ウェーバーは機体を北東へと全速で走らせていった。背後に迫ってくるのは例の大型機。
そうとうに距離は開けてあったが徐々に詰めてきているのがわかった。
――くそっ! 野郎のケツを持つのなんて、ごめんだってのによ。
注意をこっちに引き付けたのだ。エイジが生きていれば助かるだろう。生きていればだが。
ともかく今は全速で光の壁を抜けて逃げることだった。あれを抜ければ一度相手はこちらを見失う。そうすればあとは物陰に身を隠しつつH-8の市街地へ紛れ込む。
――それで撒けるはずだ。
そう思いつつ機体を走らせること十数分後、クルツは無事に壁を越えてほっと一息をついた。
【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:憤慨、やや疲労
機体状態:ダメージ蓄積、
現在位置:B-3
第一行動方針:ガロードを問い詰める。場合によってはお仕置き
第二行動方針:勇の撃破(ユウはネリーブレンに乗っていると思っている)
第三行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】
【ガロード・ラン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
機体状態:ダメージ蓄積
現在位置:B-3
第一行動方針:お姉さんを宥める
第二行動方針:ゲッターのパイロットを探す
最終行動方針:ティファの元に生還】
【神 隼人 搭乗機体:YF-19(マクロスプラス)
パイロット状況:死亡
機体状況:大破(木端微塵)
現在位置:B-1】
【流 竜馬 搭乗機体:大雷鳳(バンプレストオリジナル)
パイロット状態:怒り、衰弱
機体状態:装甲表面に多数の微細な傷、頭部喪失、右肩外部装甲損壊 、腹部装甲にヒビ、胸部装甲に凹み
現在位置:C-1 北西部
第一行動方針:クルツを追う
第二行動方針:サーチアンドデストロイ
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考:ゲッターサイト(大鎌)を所持】
【アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ 搭乗機体:ガナドゥール(スーパーロボット大戦D)
パイロット状況:死亡
機体状況:中破(頭部全壊、全体に多大な損傷)
現在位置:B-1
備考:ストレーガは損傷軽微で放置】
【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A)
パイロット状況:冷静、脇腹がちょっと痛い
機体状況:Fソリッドカノン残り二発、ファランクスミサイル1/3消費
現在位置:C-8 市街地南部
第一行動方針:竜馬を撒く
第二行動方針:ラキの探索
第三行動方針:ゲームをぶち壊す
第四行動方針:駄目なら皆殺し
最終行動方針:ゲームから脱出】
【残り39人】
【初日 19:40】
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