105話「壁に耳あり、障子に目あり」
◆960Bruf/Mw


 ふわりと浮きあがるような感覚を感じて、奈落の底から意識がわずかに拾い上げられた。
 夢からうつつへと覚醒を始めた意識。それを再び深い眠りに引きずり込もうと、執念深い睡魔が手を伸ばし足を掴む。
 振り払うように重い瞼をうっすらと開けた。
 予想をしていた目を眩ますような明るさはなく、闇の中にぼんやりと計器類が浮かび上がる。

 コックピット……何のだ?

 混沌とした意識の中でそんな疑問が頭をもたげた。
 愛機ファイヤーバルキリーのものよりもずっと狭い見慣れぬコックピット。
 ここはどこだったのか、ぼやけた頭を働かそうとしてすぐにやめた。
 人の声が聞こえた気がしたのだ。
 

「オルバ、状態はどうだ?」
 わずか3mと少々、人型起動兵器としては型破りとも言えるほど小型な機体の観察を続けていた青年――オルバ=フロストは声を掛けられて振り返った。
 振り向いた視線の先に彼の敬愛する実の兄――シャギア=フロストの姿を見つけて微笑むと彼は答えを返す。
「上々だね。バルカンのようなものを受けた痕跡はあるけれど目立った損傷はなし、おそらくはまだ使えると思うよ。
 ナデシコの格納庫にも収まるサイズだから、さっき拾った緑のMSのように甲板に係留する必要もないしね。ただ――」
 ほんの小一時間ほど前に無傷で放置されているのを見つけ拾った無人の旧ザク。それを引き合いに出しながら話を進めていく。
「内部からロックされているのかコックピットハッチが開かないんだ。万が一に備えてぺガスに見張りをさせるくらいのことはしておいたほうがいい。兄さんのほうは?」
「こちらは駄目だな。コックピットを背後から撃ち抜かれている。パイロットは死亡、機体は使い物にならないと見て間違いないだろう」
「駒としては、だろ? 兄さん」
 悪戯っぽく笑い、視線を兄の指先へと落とす。
「人が死んだのだ、オルバ。滅多なことを言うものではない」
 そう答えたシャギアの右手には首輪が握られていた。


『シャギアさん、状態は?』
 ナデシコに通信を繋げるなり甲児の質問が飛んできた。
 70m程の大型機と3m少々の小型機、対照的な二体を見つけたときから飛び出したくてうずうずしていたのを押さえて2人で出てきたのだ。当然の反応であった。
「大型機のほうはコックピットを撃ち抜かれている。
 その衝撃で全壊したコックピットに押し潰されたのかパイロットの頭部は潰れていてひどい有様だ。
 彼を助けられなかったのは私としても非常に残念だよ、甲児君」
「僕のほうは機体そのものには損傷は少ないが、ハッチが開かないのでパイロットの生死は不明。
 だけど、ナデシコからの通信やこちらの起動兵器が近づいても何の反応も見られなかったことから既に死亡している可能性が高いね」
 さも残念そうに返した応答に2人が落胆した様子が通信機越しに伝わってきた。
 大型機のパイロットを埋葬した後に小型機をナデシコに持ち帰る旨を伝えて、ひとまず通信を切る。
「頭部が潰れていただって? フフ……兄さんも人が悪い」
「例え潰されたのが死後であっても潰れているのは事実。嘘ではないさ」
 芝居がかった笑みと共に答える兄につられて弟の口元にも笑みが生じた。
 あのアフロの頭は見つけたときには潰れていた。だから不幸中の幸いにも首輪を回収することができた。
 それが彼ら兄弟にとって都合のいい事実であり、実状を知りえない甲児達にとって唯一の真実である。
「では我らに首輪を提供してくれた者の墓をつくるとしようか」
「そうだね、兄さん。あのお人好し共が喜ぶような墓をつくるとしよう」


 わずかに誰かの話声が耳朶を打ってくる。

 そこに誰かいるのか?

 問いかけは言葉にならずに闇の中に消える。震えたはずの喉からは声が出てはいなかった。
 しかし、そのことに気づくよりも早く睡魔は再び奈落の底へと彼の意識を引きずり込む。
 抗い得ぬ誘惑が体を支配し、いっそう重みを増した瞼がゆっくりと下がってくる。

 なあ、そこに誰かい……る……。

 そうして彼は再び深い眠りの淵へと引き込まれていった。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、合体が破られてショックを受けている
 機体状態:EN25%消耗、損傷軽微
 現在位置:C-5
 第一行動方針:ヒメと甲児の信頼を万全のものに
 第二行動方針:ヒメと甲児を利用し、使える人材を集める
 第三行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 第四行動方針:首輪の解析
 最終行動方針:オルバと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考1:ガドル・ヴァイクランに合体可能(かなりノリノリ)、自分たちの交信能力は隠している。
 備考2:首輪を所持】

【オルバ・フロスト搭乗機体:ディバリウム(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好
 機体状態:EN25%消耗、損傷軽微
 現在位置:C-5
 第一行動指針:ヒメと甲児の信頼を万全のものに
 第二行動方針:ヒメと甲児を利用し、使える人材を集める
 第三行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 第四行動指針:首輪の解析
 最終行動指針:シャギアと共に 生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考:ガドルヴァイクランに合体可能(かなり恥ずかしい)、自分たちの交信能力は隠している。】

【兜甲児 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好
 機体状態:EN30%消耗、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル5%消耗
 現在位置:C-5
 第一行動方針:ヒメ・フロスト兄弟と同行
 第二行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
 最終行動方針:アインストたちを倒す
 備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容
 備考2:ナデシコ甲板に旧ザクを係留】

【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好、ナデシコの通信士
 機体状態:EN30%消耗、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル5%消耗
 現在位置:C-5
 第一行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行
 第二行動方針:依々子(クインシィ)を探す
 最終行動方針:主催者と話し合う。】

【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている
 現在位置:C-5】

【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声不可、気絶中
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 ナデシコの格納庫に収容中
 現在位置:C-5
 第一行動方針:新たなライブの開催地を探す
 最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことにまだ気付いていません】

【初日19:30】


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