111話B「とある竜の恋の歌」
◆C0vluWr0so


「えっと……ガイさん、その……先ほどはあたしも少し取り乱していたというか……」

探索から戻ってきたアキトとの沈黙の時間……それに耐えられなくなったユリカの口から出たのは、先ほどの無礼に対する謝罪の言葉だった。

「……いや、気にすることはない。さっきは俺も少々感情的になりすぎた」

それに対するアキトの返答も、思いはユリカのそれと同じ。

「……はい! でも、やっぱりこういうのは言っておかなきゃいけませんよね。
 改めて……すいませんでした、ガイさん。あたしも……二人がいない間に、考えたんです。
 ああ、ガイさんの言う通りかもしれない……って。
 あたしが艦長をしてた艦……ナデシコって言うんですけど、――――って感じで」

だいぶ普段の調子を取り戻しつつあるユリカに安心し、アキトも会話を続ける。

「いつもの調子に戻ってきてるみたいだな。安心したよ」
「あ……」
「どうしたんだ?」
「いえ、その……ガイさんって、あたしの大切な人に……似てるんです。
 なんでかなー? 口調や雰囲気なんかは全然違うんですけど……。時折見せてくれる優しさ? みたいなのが」
「それは光栄だな。その彼について……少し話してくれないか?」
「えっ、いいんですか? えっとぉ……、彼、アキトっていうんです。
 小さいときからの運命の恋人っていうか……。アキトはかっこよくて優しくて……
 たまーに優柔不断なところもあるんですけど、それも彼の優しさだろうし……
 何より、あたしのこと……大切にしてくれるんです。それが……一番好きなとこかな?」

アキトはフ、と微笑むとユリカに対して問いかける。

「一つだけ聞こう。君は今……幸せかい?」

その問いに込められた思いに気づくことなくユリカは即答する。

「はい! あたしは……とっても幸せです!」

その返事を聞いてアキトはどこか悲しげに、しかしユリカの幸せを祝福し、軽く頷いた。

「そうか……きっと、そのアキトって奴も……幸せだと思うよ」
「はい、アキトもあたしも幸せです! だって二人は愛し合ってるんだから!
 ……って、なんだかあたしのおのろけ話になっちゃってるような……」
「フフ……確かにそうだな」

忘れていた幸せの瞬間――アキトは今まで失ってしまっていた感情と、それにすぐに順応してしまった自分に驚いていた。
あの頃の自分はこうして笑っていたなと、もう思い出の中にしか存在しない自分の姿を思い出す。
このままユリカとずっと二人で……ふとそんな考えが頭に浮かんだとき。
それは叶わない夢だということをアキトは知る。

「ガイさんにはいないんですか? 大切な……人」

たとえ今会話をしている相手があの頃のユリカだったとしても。
変わらぬ笑顔がこちらに向けられていたとしても。
自分は変わってしまった。
今の自分はユリカの愛したテンカワ・アキトではない。
過去を捨てた……復讐鬼なのだ。

「ああ、……いたよ」
「あっ、やっぱり! ガイさんって一見無愛想だけど実は優しいですもんね。女の子なら放っておきませんよぉ!」
「いた。だが……もういない」
「……! す、すいません……あたし……」
「君が謝ることはない。……少し周辺を見てこよう。ロジャーの話ではまだ近くにテッカマンと名乗る好戦的人物が潜伏しているらしい。
 君はその間に休んでおくといい。何かあったらすぐ連絡するように……分かったね?」
「……はい、分かりました。……ガイさん、最後に一つだけ……聞いてもいいですか?」
「……なんだ?」
「あなたは……」

あなたは……。そこから先の言葉が続かない。聞きたいことは、言いたいことは頭の中ではしっかりと文章を作っている。

『あなたは……アキトなの?』

たったそれだけの言葉が言えない。
たった五文字。でもそれを言うことは他の言葉を百述べることよりも、千紡ぐことよりも難しかった。
言葉が続かない。
ユリカの口唇は半端に開かれたまま何の音も発することは出来なかった。

「……いえ、何でもありません。気をつけて行って来てください」
「……ああ」

バルキリーは夜空を切り裂き羽ばたいていった。
ユリカは思う。
自分が聞けないのは……もしかしたら心の奥底でそれを認めているからではないかと。
今までアキトのことを誰よりも見てきた自分だからこそ分かる。
やっぱりガイさんは……アキトだ。
何であんな格好をしているのか分からない。ユリカの知るアキトとは雰囲気だって全く違う。
それでも自分の全感覚は彼がアキトなんだと言っていた。

「今度ガイさんが帰ってきたら……その時こそ絶対聞こう」

少女はそう決心するとずっと張りつめていた緊張の糸をほぐす。
思えば夕方戦闘になってからずっと緊張しっ放しだ。
んー、と背伸びをしてから、どっかりと椅子に座り込む。
深く椅子にもたれながらユリカはじわじわと迫ってくる睡魔の存在に気がついた。
あっ、ダメ……今寝ちゃったら……でも……ちょっとくらいなら……。
気づけば少女はすうすうと寝息をたてはじめていた。

「……ユリカ君? 聞こえているか?」

探索を終えたロジャーからの通信も、眠れる少女の耳には届かない。
ロジャーが行った探索の結果は、決して芳しいものではなかった。
生身での移動ということもあり、探索範囲が酷く狭かったことも原因の一つ。
例の機動兵器の移動跡についても、地下通路を通れるサイズの機体であることくらいしか分からなかった。
……いや、もう一つある。
地下通路の中には、人為的に押し広げられちょうど人が通れるようなサイズの亀裂があり、そこには金色の装甲片が付着していた。
おそらくはその機動兵器が亀裂を広げた時に剥がれた物だろうが……金色をパーソナルカラーとするパイロットなど存在するのだろうか?
その機体の持ち主はよっぽど派手好きだったのだろう。

「よほどのセンスの持ち主と見える。一度お会いしてみたいものだ」

と、黒で全身を覆うネゴシエイターは肩をすくめる。もしこの場にあの少女がいたならば、
『ロジャー、貴方のセンスもよっぽどだわ』などと言ってくれたろうに。

「しかしガイ君といいユリカ君といい、どうしてこう協調性に欠ける人間ばかり揃っているのか……まさかそれがこの場に呼ばれた理由ではあるまいが」

と、いまいち歩調の合わない仲間に対してロジャーは苦笑する。
思えばこの馬鹿げた殺し合いが始まってから既に半日が過ぎようとしている。
その間出会った者たちはどれもこれも一筋縄ではいかないくせ者ぞろい。
しかし不思議なのはその殆どが戦闘技術に長けた者であるということ。

(これはなぜだ? あの怪物はなぜ私たちを選んだ?)

相手の目的を知り、それに見合った行動をとることがネゴシエイトの鉄則である。
この首輪を解除し対等な立場に立ったとき、肝心のネゴシエイトに失敗しては元も子もない。
怪物の情報――それもまた必要だった。

「為すべきことは多い。まったく先が思いやられるね」

まぁ今は――何処かへ行った王子の代わりに眠り姫のお供というのも悪くはないな、と鳳牙はダイに寄り添うようにその身を座らせた。

 ◇

夜闇に紛れ、ダイの動向を見張る機体が一つ。黒と赤のカラーリングが施されたそれは、獲物を見つけ、喜びに奮えていた。

「そうか……。アレがお前を堕落させているモノかい?」

ククク、とガウルンは嗤う。その目は燦々と輝き、唇は醜く歪んでいる。
まるで子供が念願のおもちゃを買ってもらったかのような喜びの顔を見せ舌なめずりをする格好は、彼の愛する軍曹に言わせれば三流の為すこと。
確かにガウルンは兵士としては三流と評されるかもしれない。だが、それはあくまで"兵士"としてだ。
こと戦闘だけに限定して言えばガウルンは超がつくほどの一流なのは間違いない。
そして超一流の戦闘狂が駆るのは、超一流の武闘家、東方不敗マスターアジアの愛機であるマスターガンダム。
俊敏なその動きなら、鈍重なトカゲの一匹、即座に喰うことが出来るだろう。

「フフフ……さぁて、楽しいパーティの始まりはもうすぐだ。楽しみだねぇ……実に楽しみだ」

まだダイに手は出さない。アレを壊すのは――アイツが帰ってきてからだ。
自分と同類のあの男は、目の前でアレを壊された時どんな顔をするだろう?
決まっている。
この上なく上等な憎しみの目をこちらに向け、火がつくような憎悪を滾らせ――アイツはきっと、自分を殺しに来るだろう。
……と、いけないいけない。と、九竜は愛しいカシムの顔を思い浮かべ、逸る気持ちを抑える。

「焦るなよ、ガウルン。お楽しみはこれからだ。あの男を徹底的に壊すチャンス――それを待て。
 何、それはそう遠くない。腹を空かせてメシを待てば、いつもより美味しく頂ける理屈だぜ。
 ……まぁ、あれだけ旨そうな獲物だ。すぐに頂くのも悪くはねぇなぁ」

ククク……、と狂人は再度嗤う。



【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:体力消耗、肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
      側面モニターにヒビ、EN90%
 現在位置:D-7補給ポイント
 第一行動方針:アキトの帰還を待つ
 第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯
 備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】

【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
 パイロット状態:浅い眠り、精神的にはやや不安定なまま
 機体状態:大砲一門破損、左前足損傷、腹部装甲損壊
 現在位置:D-7補給施設
 第一行動方針:眠……あふ……
 第二行動方針:ガイに自分の疑問をぶつける
 第三行動方針:ガイの顔を見たい
 第四行動方針:首輪解除が出来る人間を探す
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考1:YF-21のパイロットがアキトだと知りませんが、ある程度確信を持っています
     アキトの名前はガイだと思っていますが若干の疑問もあります
 備考2:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)回収
 備考3:首輪(リリーナ)を所持】

【テンカワ・アキト 登場機体:YF-21(マクロスプラス)
 パイロット状態:やや衰弱
 機体状態:両手両足喪失、全身に損傷
 現在位置:D-7西部
 第一行動方針:市街地周辺の探索
 第二行動方針:ユリカを護る(そのためには自分が犠牲になってもかまわない)
 最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない)】


【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
 機体状況:全身に弾痕多数、胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-7
 第一行動方針:アキトの目の前でダイを壊す
 第二行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第三行動方針:アキトを殺す
 第四行動方針:皆殺し
 第五行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【初日 22:00】


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