112話B「失われた刻を求めて」
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眼前の機体の織りなす剣技――あまりにも鮮やかな太刀筋と抜きの速度に、アムロは圧倒されていた。
一太刀舞えば獅子が転び、二太刀抜けば装甲が破れる。
先ほどまでアムロを圧倒していた剛力を華麗に受け流し、翻弄するその技量。
白銀の機体が近接戦闘に長けた機体だろうということを考慮しても、その搭乗者の才覚はただものではない。
そのままスターガオガイガーを圧倒するかと思えたその時――
白銀の機体は踵を返し、こちらに向かいながら通信を入れてきた。

「そちらの機体、状況は? 動けるのなら即座にこの場を離れることを提案しよう。
 出来ることならば、貴君の協力を願いたい」
「こちらアムロ・レイ。貴君の援護、心から感謝する。
 こちらの機体の状況は万全とは言い難いが、離脱程度なら問題ないはずだ」
「そうか。ならば行動は迅速に行おう。……急がなければ、あの機体が追いついてくるかもしれないからな……」

アムロが聞く男の声はいささか疲れたものだった……何故?
答えは簡単。
ここに来るまでに、サイバスターはある機体に追われ続けていたからである。
その機体とパイロットとは……

「な に ぃ っ 、 ア ム ロ ・ レ イ だ と ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ! !」

「なっ、何なんだあの機体は!? ガンダムなのか?」
「クッ、追いつかれたか……」

白き装甲に身を包んだ機体。その頭部にはガンダムタイプであることを示す二対の角が存在していた。
ガンダムファイト第13回大会ネオジャパン代表MF、シャイニングガンダム――
ガンダムファイトにて猛威を振るったその右腕は、肘から先を切断され無惨な断面を晒している。
だがその代わりに、ガンダムは全身にかつてないほどのエネルギーを纏わせていた。
搭乗者の感情の高ぶりをそのまま機体にフィードバックするシステムを備えたシャイニングガンダムは、そのポテンシャルを最大限に発揮し始める。

「黒歴史に名高いその戦技、しかとこの目に焼き付けさせてもらおうかぁ!」

気迫と共に放たれたギンガナムの咆吼がその場に響く。

「小生の名はギム・ギンガナム! アムロ・レイよ!
 名門の誉れ高いギンガナム家の名の下に、貴殿に決闘を申し込む!!」

――そして、しばしの沈黙。

「……は?」

ややあって間抜けな声が返ってくる。
それはあまりにも唐突な展開に呆然とするしかないアムロの呟きだった。

「アムロといったか。あの男を知っているのか?」
「いや、あのパイロットについては皆目見当もつかない。
 あの機体は俺の知るものに酷似しているが……君が危険視していたのはあれなのか?」
「そうだ。ここに来る途中で遭遇した。厄介な相手だったために振り切ってきた……つもりだったのだが」


「フフフ……アムロ、アムロ・レイか。
 黒歴史の中の無数の戦乱……その中でも最強の力を持った真の戦士とこのような出会いをするとは。
 あの異形もなかなか憎い演出をしてくれるではないか!」

握る拳に力がこもり、熱き血潮が滾っていくのを感じながら、ギンガナムは眼前の機体に目を向ける。
夢にまで見た相手との邂逅……2500年もの長きに渡り真の闘いを求めてきた武人は、燃えに燃えた。

「ふぅぅぅぅぅっ、ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!
 さぁシャイニングガンダムよっ! ガンダムの名を世に知らしめた勇者に、我らの力を見せつけてやろうではないかぁっ!!」

ギンガナムの叫びと共に、シャイニングガンダムはその身を黄金に染めていく。
怒りではなく、純粋な喜びと戦意によって高められた感情のうねりが、ガンダムに力を与えていく。
そしてギンガナムがアムロに飛びかかろうとした瞬間、

「お前ら……俺を馬鹿にするんじゃねぇっ!」

ゴステロの拳が、ガンダムを襲った。
突然の乱入者二人に完全にペースを乱されたゴステロは、怒りの拳を無造作に振るう。
しかし、ギンガナムはこれを察知。ぎりぎりのところでスターガオガイガーの拳を避ける。
シャイニングガンダムは身体を反転させ、スターガオガイガーと正対した。

「貴様、武人の闘いに横槍を入れるとはどういうことかと知っての行いかっ!」
「武人だぁ? けっ、そんなもの関係ねぇ! 俺は俺のやりたいようにやるんだよぉっ!」
「ならば……王者アムロ・レイと戦う前の前哨戦といくぞ!」

ギンガナムは左腕をぐっと手前に引き、右腕をスターガオガイガーに向けて、高々と突き出す。
対するゴステロは、構えなど無用とばかりに先ほどバルキリーに向けてしたように右腕に力を注ぎ込んでいく。
共に片腕を亡くした者同士、互いに狙うは一撃必殺。
両者は睨み合い、そして一瞬の後――激突した。
ギンガナムの憧れと情熱と正義の込められた左拳と、ゴステロの狂気と憎悪と悪意の込められた右拳が衝突。
激しい音を立てながら火花を散らす二人の間には、ある一つの思い以外は存在しない。

――ただ相手を倒す。

慢心など欠片もない。気を抜けば押し負けるということは、本能的に悟っている。
そして両者の力は完全に拮抗していた。
ぶつかり合ったまま、一歩も動かない。否、動けない。
そして同時に考える。
この状況を打破するには――

(( 更に大きな力でねじ伏せる! ))

「うおおおおおおおおおお!
 もっとだ! もっと輝けシャイニングぅぅぅぅ!!」
「クソやろおおおおおおお!
 力がたりねえんだよおおおおおおおおお!!」

ギンガナムとゴステロ、互いに力を求め、吼える。
シャイニングガンダムとスターガオガイガーは共に心の力を糧に更なる力を得る機体。
しかし、二つには大きな違いがあった。
シャイニングの求める感情の高ぶりはギンガナムに存在したが、スターガオガイガーの求める勇気はゴステロには存在しない!
ここにきて、力の均衡が崩れ始める。
スターガオガイガーは、じりじりと後退していた。
そして、互いの拳に込められた力の差異は更に大きくなっていく。
シャイニングの輝きがより一層激しくなった時、スターガオガイガーの右拳は砕けていた。

「なにぃっ!? おっ、俺がこんなところで……!
 エイジっ、エイジいいいいいいいい!!」

シャイニングガンダムの左拳はスターガオガイガーの右拳を打ち砕いた勢いそのままに胸部装甲に抉り込み。
溜め込まれたエネルギーはスターガオガイガーの内部で炸裂した。

そして――勇者王は崩れ落ちた。

「フフフ……ハハハハハハハ!
 この我が身に走る喜びは演習では得られない! 命を賭けた実戦でしか味わえない!
 小生は……勝ったぞおおおおおおお!!」

一人、ギンガナムの勝鬨のみがこだまする。
……そう、『一人』。

「さぁ次はアムロ・レイ、貴殿と……っと、いないだとおお!?」

ギンガナムとゴステロが一閃交えていた間に、サイバスターとバルキリーは戦場からの離脱を果たしていたのだった。
ギンガナムがいくら叫ぼうとも返事一つ返ってきやしない。

「だが……まぁ良いとしよう。この獅子の姿をした機体も、月での演習では手に入らない喜びを教えてくれた。
 アイビス=ブレンといいアムロ・レイといい、この場には小生の積年の夢を叶えてくれる者たちが数多揃っている。
 ……この調子ならば、シャア・アズナブルなどもいるやもしれんなぁ。
 ククク……楽しくなってしまうではないかぁ!」

ギンガナムは笑う。自分の夢、黒歴史との邂逅を果たし。
その男の表情は、これ以上ないというほどに満ち足りていた。

 ◆

場所は変わってA-1。
一際高くそびえ立つビルの影で、二つの機体がその身を休めている。
その内の一機VF-1Jバルキリーの中で、アムロは先の戦いから離脱する間際に見た、あってはならない光景を思い出す。

――あれはまさに夜中の夜明け。

間違いない。西南の方角に見えたあの光は核だ。

(シャア……やはりお前は……)

おそらく、シャア・アズナブルという存在はこの世から消えてしまった。
それはアムロに言い様のない喪失感をもたらす。
敵として、味方として、常にアムロにプレッシャーを与えてきた男シャア・アズナブルはもういない。

「……俺は、何をしているんだ……!」

シャアとアイビスだけにしたのがそもそもの間違いだったのか?
自分がもっと速くゴステロを倒し、二人の下に駆けつけられたなら二人を助けることが出来たのではないか?

「くそっ!」

苛立ちと共に拳を振り上げる。だが、その拳が振り下ろされることは無かった。

(ここで……終わるわけにはいかない。ブレンの力なら、あるいはアイビスだけでも核から逃れられた可能性がある。
 アイビスを見つけ出す。これ以上こんな憎しみの連鎖を続けさせてたまるか!)

と、その時、白銀の機体――サイバスターから通信が入った。

「アムロ・レイ。思うところもあるだろうが……ひとまず私の話を聞いて貰えないだろうか」
「……ああ。まずは助けてくれたことの礼を言わせてくれ。君の援護がなければ今頃俺の命は無かったかもしれない。
 しかし、君は何故俺を助けた? あの状況ならばあのライオンのようなロボを助けてもおかしくはなかったはずだが……」

アムロの問いに、何よりも美を愛する悪はさも当然と返答を返す。

「何、あのライオンの動きには美がない。対し、君の操縦には言い様もない美を感じた。
 まるで一級の美術品のような気品、賞賛に値するものだ。理由などそれだけだよ。
 そして覚えておきたまえ。
 レオナルド・メディチ・ブンドル。この下卑た殺し合いを終わらせる者の名だ」



【アムロ・レイ 搭乗機体:VF-1Jバルキリー(ミリア機) (マクロス7)
 パイロット状況:疲労、喪失感
 機体状況:左腕肘から先を消失、弾薬の殆どを消費、エンジン不調(簡単な整備で復調可能)
 現在位置:A-1
 第一行動方針:ブンドルとの情報交換
 第二行動方針:アイビスの捜索
 第三行動方針:首輪の確保
 第四行動方針:協力者の探索
 第五行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している
    シャアの死亡を悟っています】

【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:良好、主催者に対する怒り
 機体状態:サイバスター状態、ダメージ微少
 現在位置:A-1
 第一行動方針:アムロと情報交換をし、脱出への協力をしてもらう
 第二行動方針:A-1周辺の参加者を捜し、保護する(特に技術者を)
 第二行動方針:基地の確保のち首輪の解除
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能】

【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態:テンション最高潮(気力150)
 機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、全身に軽度の損傷
 現在位置:H-1
 第一行動方針:倒すに値する武人を探す
 第二行動方針:アムロ・レイ、アイビス=ブレンを探し出して再戦する
 最終行動方針:ゲームに優勝
 備考:ジョシュアの名前をアイビス=ブレンだと思い込んでいる】

【ゴステロ 搭乗機体:スターガオガイガー(勇者王ガオガイガー)
 パイロット状態:死亡
 機体状態:大破
 現在位置:H-1】

【残り33人】

【初日 21:20】


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