124話B「吼えろ拳/燃えよ剣」
◆C0vluWr0so
先手を取るべく動くのはブンドルだ。
勝利条件は一つの有効打。重要なのは速さではなく、早さ。
先の戦いで、接近戦の不利は承知している。打ち合いになれば、速度で劣るこちらに勝ち目はないと言えるだろう。
ギンガナムへの意趣返し――サイバスターは横薙ぎの一閃を放つ。
シャイニングガンダムから見て右方向からの斬撃だ。右腕を消失したシャイニングガンダムは、この攻撃を受け止めることも受け流すことも難しい。
残された選択肢は回避のみ。ギンガナムは後方へ大きく跳躍し、閃く白銀を避ける。
ブンドルの剣が目の前を過ぎるのを見ながら、ギンガナムは叫ぶ。
「バァァァルカンッ!!」
シャイニングガンダムの頭部から連射される銃弾。一発の威力こそ低いが、数を受ければダメージも小さくない。
追撃の姿勢を見せていたブンドルだったが、バルカンの軌跡を避けるように横方向への移動に切り替える。
が、サイバスターの回避を待ち受けていたかの如く、シャイニングガンダムは接近。
サイバスターから放たれたミサイルの合間を縫うように加速していく。
左手に握られているのはビームソードだ。ブンドルは刃を受け流すべくディスカッターを構えるが――
光剣に向かって振られたはずの剣は、ブンドルに何の手応えも返さない。
「刃が――無いだと!?」
ビームソードは展開していない。ギンガナムは、ただ柄のみを握り、振ったのだ。
ディスカッターが如何に名剣だろうとも、虚しく空を切るばかり。
サイバスターの直前で、ギンガナムは改めてビームソードを展開。
煌めく光剣がサイバスターを切り裂く――寸前に、カロリックミサイルが爆発し、周囲に砂塵を撒き散らす。
「何ぃ!? ビームソードが……!」
突如ビームソードに起きた異変に、ギンガナムは驚きの表情を見せる。
光剣は、その光を衰えさせている。わずかに――ほんのわずかにサイバスターに届かない!
「――君は、光学兵器の何たるかを知っているか? ビームやレーザーといったエネルギーをそのまま射出する兵器は確かに強力だ。
だが同時に、それらの兵器には弱点もあるのだよ。これもその一つ。
光はその性質上、物体に当たるときの屈折、吸収、反射を避けられない。それはつまりエネルギーの減少を意味する。
ここでポイントとなるのは、その物体は微少の体積でも十分に意味を成す、ということだ。
つまり光学兵器の天敵とは――この砂塵のように、微少な物質が広く散布された状況。
このような状況下では、本来の出力など期待出来ない。実に――実に美しい理論だ」
サイバスターは更にカロリックミサイルを発射。連続して巻き起こる爆発は目眩ましとなる。
ブンドルの狙いに気づいたギンガナムはビームソードを捨て、迎撃の構え。
「宣言しよう。私は次の一手で勝つとね」
「それは小生の言葉だ……! 先に言っておこうかブンドルよ。貴様との勝負――素晴らしかったぞ!」
「それは光栄だ。では――参る!」
砂塵と爆煙は未だ晴れず。
視界が利かない中で、ギンガナムは思う。ブンドルの技量は、黒歴史のエースパイロット達に並ぶものだと。
……だがそれでも、勝利を掴むのは小生のこの拳!
次の一撃で決着だ。……持てる力を注ぎ込む!
ギンガナムの精神に呼応するように、シャイニングガンダムの左手が熱を帯びる。
シャイニングフィンガーには及ばない――けれど、強い力だ。
全身の神経を総動員し、感覚を限界まで研ぎ澄ます。
――煙が揺れる。ブンドルだ、と直感した。
煙の向こうのサイバスターに向かって、左拳を突く。拳に込められた力は、サイバスターを破るのに十全。
だが――拳がその先にあるものを貫く寸前に、ギンガナムは自分の意志でその拳を止めることとなる。
「おのれ……謀ったかブンドル!」
煙の向こうにあったもの。それはブンドルの乗るサイバスターではなかった。
……ガンダムF91とガロード=ラン!
黒歴史のガンダムとそのパイロットをこんな形で屠ることはギンガナムの意にそぐわない。
咄嗟の判断で拳を止めた瞬間、ブンドルの狙いに気づく。しかし、今更気づいたところで遅すぎるのだ。
「敵の姿も見ずに戦えると思ったのか? そんな傲りを持ったまま私と渡り合えるものか。
生憎だが……さっきも言った通り、私は『悪役』だ。ならば悪役らしく、正々堂々と不意を打たせてもらおう!」
ギンガナムが、「上だ」と気づいた瞬間、シャイニングガンダムに衝撃が走る。
背面から地に倒れ、サイバスターに組み敷かれた。そしてギンガナムは自身の敗北を悟る。
「――決着か。さぁ、煮るなり焼くなり好きにしろ、ブンドル」
◆
アムロはストレーガの中、一人息を吐く。
ガナドゥールの攻撃で吹っ飛ばした分各部に損傷が見られるが、何時機能を停止してもおかしくないガナドゥールよりはマシだ。
そう考えての乗り換え。二機分の知識が頭の中に叩き込まれ、これらが合体機構を備えていることも理解した。
合体が可能だということは――と考え、部品の規格を確認した。思った通り、二機間でなら流用出来そうな部品も多い。
ひとまず簡単な作業で可能な範囲から交換し、ストレーガの状態を調整した。おそらく、戦闘も問題なくこなすことが出来るだろう。
そしてアムロは、ガナドゥールのコクピットを機体から引きずり出す。
その中にあったのは、頭部を損傷した死体。
――やらなければいけないことがある。躊躇は無かった。ストレーガのマニュピレーターで死体を弄る。
目的の品を手に入れることが出来たことを確認すると、アムロは青年の死体を再びガナドゥールのコクピットの中に押し込む。
本当なら墓を作ってやりたいところだが――市街地の中にポツンと墓を作るのも寂しいことだと思った。
なら、この機体のそばに置いてやれば未だ知り合いが見つけれるのではないかと――そんな理由を付ける。
けれど分かっている。そんなのは自分が安心するための、ただの詭弁だ。
この青年が放送で呼ばれた10人の中の一人なのか、それともその後に死んだのかは分からない。
どちらにしろ――アムロは、人が無意味に死んでいくのを止められなかったのだ。
死者を蔑ろにするつもりは無いが、今はそれ以上に時間が惜しい。
だからこその詭弁だった。
「……俺を笑うなよ、シャア。今は出来るか出来ないかじゃなく、やらなきゃいけないんだ」
ガナドゥールに背を向ける。ブンドルが行ってから数時間が過ぎていた。
機体の整備を一からやらなければいけなかったこと、首輪を確保しなければいけなかったことを差し引いても、この遅れは致命的だ。
スラスターを噴かし、ブンドルの元へ向かおうとしたその時。
ストレーガのレーダーが機影を捉えた。……ブンドルではない。
しかしギンガナムでもないだろう。あの子供のような無邪気な敵意は感じられない。
アムロが機影の主について思案していると、向こうの方から通信が入ってきた。
『あんたがアムロなのか? 俺はガロード=ラン。ブンドルのお兄さんに言われて、あんたと合流しに来たんだ』
「ブンドルに言われただって? ……何故君が一人で来る。ブンドルは一体……」
『お兄さんは無事だよ。ただちょっと理由があって……俺が一人で来た。
俺には今別行動してる仲間がいるんだ。アムロさんは俺らと一緒に行動するようにって言ってたぜ』
肥大化した集団は迅速さに欠ける。三四人の小集団を形成するつもりだとブンドルは言っていた。
アムロを中心に小集団を結成した後は一人で各所を回るつもりだとも。
少年の言い分とブンドルの目的は合致する。嘘をつけるような顔でもないな、とモニターに映る顔から判断。
「……分かった。君の言っていることは本当だろう。君に同行させてもらうことにするよ」
◆
ガロードが行ったのを見送り――ブンドルは後ろを振り返る。
其処にいたのはギンガナムの乗るシャイニングガンダムだ。
「ブンドル……何故小生の命を取らなかった? あのまま討つことは簡単だったはずだ」
「君が煮ても焼いても食えない奴だというのは知っていたからな。……おっと、怒るな。冗談だ。
率直に言おう。――私たちに協力したまえ、ギム=ギンガナム」
「何だと?」
「私たちと共に、あの異形の怪物を討てと――私はそう言っている。君の力はそのまま斬り捨てるには惜しいものだったからな。
それに……考えてみたまえ。君が私たちに協力するということはすなわちアムロ=レイとの共闘を意味する。
どうだ? 少しはやる気が出てきたのではないかね?
そもそも君の目的は黒歴史に残るほどの強者と戦うことだったはず――今この場で一番強いのは誰だ。
私たちの命を握っている主催者ではないか? アムロなど、事が終われば幾らでも手合わせする機会はあるだろう。
これでも君は――まだ無闇に闘い続けるのか?」
「アムロ=レイやガロード=ランとの共闘だと……! ブンドル――貴様、策士だな!?」
「フッ……まだまだ特典はあるぞ! 今なら各所に点在する殺戮者との交戦権も付けよう!
この争いで最後まで生き残ろうとする人間だ、実力もそれなりにあるだろう。そのような相手に対して遠慮することはない。
思う存分君の拳を叩き込んでやれ!」
「いいだろう、その話乗った!」
フフフ……未だ見ぬ兵どもよ、待っておけ! このギム=ギンガナムが正義の拳をお見舞いしてやる! ……などとギンガナムが吼えている横で、ブンドルはほくそ笑んでいた。
(上手く乗ってくれたな。純粋な分、敵意の方向を変えるのも容易いということか。
……だが、ギンガナムの真価はその戦闘力ではない。『黒歴史』……ギンガナムの持つ情報は、この戦場で大きな力になる)
このゲームの参加者の中には、アムロやガロードのように黒歴史にその名を残している者が未だいるはずだ。
同様にガンダムが支給された参加者もだ。彼らに対して情報という形でアドバンテージが取れるのは大きい。
ガロードとその仲間のおかげでアムロを中心とした小集団も作れた。
――反撃の準備は着々と整いつつある。
ブンドルは胸中で主催者である怪物へ語りかける。
(滅びの時間は近づいているぞ。余裕を持っていられるのも――今だけだ!)
【アムロ・レイ 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)
パイロット状況:疲労、喪失感
機体状況:各部にダメージ(戦闘に支障無し)
現在位置:B-1
第一行動方針:ガロードの仲間と合流
第二行動方針:アイビスの捜索
第三行動方針:協力者の探索
第四行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している
シャアの死亡を悟っています
首輪(エイジ)を一個所持】
【ガロード・ラン 搭乗機体:ガンダムF−91( 機動戦士ガンダムF−91)
パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
機体状態:微細な傷(戦闘に支障なし)
現在位置:B-1
第一行動方針:B-1にて神隼人との合流
第二行動方針:勇、及び勇の手がかり(エイジ)の捜索
最終行動方針:ティファの元に生還】
【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
パイロット状態:良好、主催者に対する怒り
機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊
現在位置:B-3
第一行動方針:協力者を捜索
第二行動方針:三四人の小集団を形成させる
第三行動方針:基地の確保のち首輪の解除
最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能】
【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状態:良好(気力125)
機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、各部に軽度の損傷
現在位置:B-3
第一行動方針:ブンドルについていく
第二行動方針:倒すに値する悪を探す
第三行動方針:アイビス=ブレンを探し出して再戦する
最終行動方針:最も強い存在である主催を討ち、アムロ達と心ゆくまで手合わせ
備考:ジョシュアの名前をアイビス=ブレンだと思い込んでいる】
【二日目3:00】
NEXT「心、千々に乱れて」
(ALL/分割版)
BACK「私は人ではない」
(ALL/分割版)
一覧へ